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どエルフさん  作者: kattern@GCN文庫さまより5/20新刊発売
第二部第四章 騒乱の森と男戦士の謎
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第129話 ど起動戦士さん

 キイロマダラヘビ――もとい、一部の蛇毒は傷口から、その対象の体内に侵入することにより効果を発揮する。

 いわゆるこちらの世界で言われるところの出血毒だ。


 体内に蓄積ちくせきすることで中毒症状を起こす神経毒や食虫毒と違い、出血毒は傷口の細胞を破壊して出血を止めなくする効果がある。

 このため免疫機能めんえききのう代謝たいしゃを高めて毒を治す、浄化魔法での回復が難しい。


 森で暮らすエルフの端くれである女エルフである。

 蛇の毒についてはそのあたり、よくよく熟知していた。


 助からない、と、女オークは言った。

 だが、それは広く言われている人間世界での知識の話。

 過去に何度か、ヘビに噛まれた同胞が、早急に傷口からそれを吸い出すことで、命を取り留めたのを彼女は知っていた。


「お願いよ、ティト。死なないで――」


 懸命に、何度も、何度も。

 女エルフは、男戦士の頬についた傷口から、その毒を吸い出す。


 しかし、吸えども吸えども、出血は止まらない。

 キイロマダラヘビの毒がそれだけ強烈だということだろうか。


「無駄よ。そんなことをしても、焼け石に水って奴だわ」


「――うるさい!! ティトを、ティトをこんなことで、死なせない!!」


「ははっ、流石はカップル冒険者。泣かせてくれるねぇ」


「こいつはね、どんな時だって、馬鹿で、おっちょこちょいで、スケベで、どうしようもない奴だけど――それでも私の大切なパートナーなの!!」


 毒を吐き捨てて、女エルフが女オークをにらみ付けた。


 再び、見上げる格好となったその二人。

 女オークの背中の後ろには、多くのオークたちの群れ。


 コーネリアの目つぶしを喰らって、怒っている彼らは、熱い鼻息を鳴らして女エルフへとその視線を向ける。


 この後、どうなるのかは、流石にどエルフと呼ばれる女エルフだ。

 杖なしに魔法を使うこともできるが、この数を相手に立ち回るのは難しいだろう。


 恐怖に身体が震える。

 思わず、男戦士の手を彼女は握りしめた。


(――ティト。お願い、私に力を貸して)


 心の中で女エルフがそう願った時だ。

 誰にも聞こえない小さな声で、眼の前の女オークがぽつりと声をらした。


「半分は同胞のよしみだ。楽には殺してやる」


「えっ?」


 予想外のその台詞に、女エルフが瞳を開く。

 そこに向かって女オークは手に持ったナイフを振り下ろした。


 その刃先は正確にエルフの胸元を狙っている。

 即死――そんな言葉がエルフの脳裏をかすめたその時だ。


「――なんだと?」


 女オークの手が、寸前でぴたりと止まった。

 その表情は青ざめており、信じられない、という感情を口に出すまでもなく発している。かちりかちりと歯を鳴らして、彼女はバックステップで、後ろへと下がった。


 のそり、と、女エルフが背後に物が動く気配を感じた。


「馬鹿な、ありえない、そんな、たつことができるだなんて――!!」


「――まさか!! ティト!!」


 喜色を顔色と声色に現して、女エルフが後ろを振り返る。

 はたして、そこには――男戦士がたっていた。


「――どうして!! どうしてこの状況で!! つことができるんだ!!」


 その股間をもっこりとさせ、しなびた顔をしながら、男戦士は女エルフの顔をまっすぐに見ていた。


「――さすがだ、モーラさん。その舌技ぜつぎまさしく昇天ものであった」


「この状況で、あんた、アンタって奴は、本当に」


「流石だなどエルフさん、さすがだ。オラ、ちょっと元気が出てきたぞ」


「そんな元気を出さなくていいのよ!! この、バカァっ!!」


 いつものツッコミと共に、男戦士が飛び上がる。

 果たして今度は本当に、彼は二つの足でその場に立ち上がったのだった。


「――やれやれ。モーラさんが毒の扱いに長けていて命拾いしたぜ」


「ちっ、この死にぞこないが!!」


「死にぞこなっていても、お前らごときに後れはとらん!! いくぞ、モーラさん!!」


 そう言いながら、女エルフを振り返る男戦士。


 まったくもう、と、涙をぬぐいながら、女エルフは立ち上がった。


「それより、早く、そっちのたってるのをなんとかしなさいよ」


「すまない、大切な仲間を傷つけられるのを、おぼろげながらに見せられたのでな、今は、どうしても、いろんなものがたってしまってしかたがないんだ」


 とりあえず、こいつらを倒してから、これはどうにかするよ。

 そう言うや男戦士は剣を鞘から抜き放ち、オークの群れに突っ込んだのだった。

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