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どエルフさん  作者: kattern@GCN文庫さまより5/20新刊発売
第二部第二章 嫁探しのオーク
114/814

第114話 どエルフさんと値踏み

「お金なら、それなりの額を払うべ。ほれ、この通り」


 そう言ってオーク男が出したのは小切手である。

 まぁ、冒険者ギルドに持って来られる依頼いらいの中では、そう悪くないランクの報酬ほうしゅうであった。


 嫁探しという、冒険要素の少ない内容ではないが――旨みのない話ではない。

 さらに、嫁探しでかかった費用については、全額これとは別に負担するという。


 これにはさすがに反対をしていたエルフ娘も、ふむ、と考え込んだ。


「どうだろうか。報酬ほうしゅうも悪くないし、引き受けてみてもいいんじゃないかな」

「私も女修道士シスターとして、人の恋路――いえ、オークの恋路を応援してあげたいですし、ティトさんの意見に賛成です」

「僕は反対だぞ。ダンジョン潜るほうがおもしろいんだぞ」

「私も反対。だいたい、オークのお嫁さんなんて、いったいどうやって探すっていうのよ。そういうのが不明瞭ふめいりょうなのに、依頼を受けるのは間違ってる気がするわ」


 二対二。真っ向から意見がぶつかった。

 こういう時どうするかと言えば――ばくち打ちみたいな冒険者たちである、決め方は単純。コインを投げて裏表で判断を決める。


 銀貨ぎんかを腰にわえた財布さいふから取り出して親指の上に置いた男戦士。


「裏」


 と、女エルフが言うと、ぴんと男戦士がそれをはじく。

 空中を回転してったそれがことりと板張りのギルドの床へと落ちる。ふらりふらりと揺れたそれが制止すると、そこにはこの国で信奉しんぽうされている女神の顔があった。


 表面である。

 はぁ、と、女エルフの口からため息がれた。


「という訳だ。俺達でよければ、君の嫁探しを手伝おうじゃないか」

「本当だべか!! ありがとう、ありがとう!! あんたら、ええ人だなぁ!!」


 ええ人だったなら、尻に――いや、何も言うまい。

 男戦士たちが少し複雑な顔をする中で、で、具体的に嫁探しってなにするのよ、と、女エルフが冷めた感じでオークにたずねた。


「んだなぁ。基本的には、オークの集落にお邪魔して、ええ子がおらんか聞いて回るとかだっぺ」

「オークの集落って――それ、危険なんじゃないの?」

「んだからこうして冒険者ギルドさ来たんでねえか」


 人間社会に適合したインテリジェンスオークたちではあるが、彼ら全員が都会で生活している訳ではない。

 本来の彼らが生息していた地域――森や山などに集落をつくって、そこで集団生活を送り、必要に応じて人間たちと交流している、というパターンが多い。


 一方で、それは通常のモンスターとしてのオークたちが棲んでいる森や山の近くでもあったりする訳で――人間側から接触を持とうとすると、どうしても危険がつきまとうのだ。

 もっともそれはオークにしてもそうなのだが。


「大丈夫だべ、野生のオークの棲んでない地域から周る予定だから」

「しかし、そういう平和なところのオークは、既に貰い手がいるんじゃないか」

「そんなの行ってみないとわかんないべよ」


 彼ら特有のおおらかな考え方に、誰にはばかることもなくため息を吐く女エルフ。だからオークは嫌なのよ、と、ばかりに、彼女はじろりとオークをにらんだ。


 相手は筋骨隆々《きんこつりゅうりゅう》のオークである。

 普通ならば、なんだと、と、拳でも振り上げようものだが――。


「おわ、おっかないエルフっだべ。そんな怖い顔せんでも」

「モーラさんダメじゃないか、彼、怖がってるじゃないか」


 図体はでかいが気が弱い、というより根が優しいオークはこの通りである。生存権がかかっている訳でもないのに、敵意てきい悪意あくいを向けるということが、まず、彼らには考えられないのだ。

 必然、女ににらまれただけで尻が浮く。

 こういうところもまた、世の女性がインテリジェンスオークに好意的なところなのだが――。


「オラぁ、女の人にあんなふうににらまれたの久しぶりだぁ」

「いやいや違うよ。あれはそういう意味じゃない」

「そうなんだべか?」


「なんといってもどエルフだからねぇ、彼女は。君のそのたくましい体を、ついつい値踏ねぶみみするような目で見てしまった――というだけさ」

「違いますぅ!! 単純にあきれただけですぅ!! というか、なんの値踏みよ!!」

「それはもちろん――こう全体の体格から想像する、見えない部分というか」

「誰がするか!!」


 べしり、と、女エルフが男戦士の頭を叩く。

 どちらかといえば男らしい方が好きな女エルフは、どうにも、そういうなよなよとしたところのあるオークを、好ましく思っていないのであった。


 そうどちらかといえば、逞しくて頼りになる男が好き。

 多少頭がお馬鹿でお花畑であっても。


「そんな!! モーラさんほどのどエルフなら、人の体格を見ただけで、見えない部分なんて簡単に推測すいそくすることができるだろう!!」

「できません!! しません!! というか分かんないわよ、そんなの、見たことないから!!」

「嘘だ!! 前に風呂場でおそわれたとき、指の合間から俺のそれを見てたじゃないか!! 戦士の察知能力を舐めてもらってはこまります、えぇ、こまりますよ、モーラさん!!」

「どうしてあんたはそういう、どうでもいいことだけ――この馬鹿ァ!!」

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