第11話 どエルフさんと聖職者
「――聞こえる。ティト、こっちから、人の声が聞こえるわ」
「なに、本当か?」
洞窟をさ迷い歩くこと数刻。
オークに連れさらわれたシスターを探す、男戦士と女エルフは、ついに洞窟の突き当たりにある、小さな空間へと辿りついた。
「流石は耳が長いだけあって、よく聞こえるんだな。よ、この耳年増!!」
「それ誉め言葉じゃないから!!」
激昂するエルフ娘。
そんな彼女を笑って宥めると男戦士は前に出た。
彼に続こうとしたエルフ娘。しかし、その前にそっと戦士が手を突き出す。
「ここからは女性にはなかなかショッキングな光景だ。モーラさん、いくら君がどエルフさんだとしても、ここから先に進ませるわけにはいかない」
「――ティト」
らしくない、男戦士の女性扱いに、不覚にもときめいたエルフ娘。
言われるまま、分かった、と、頷いた彼女をその場に残すと、男戦士はゆっくりと、洞窟の中を奥へと向かって歩き出す。
洞窟の中にさらにぽっかりとあいた穴。
そこから漏れ出てくる、嬌声に、彼は心を痛めた。
待っていろ、今、助けてやるからな。そんな覚悟と共に、穴をくぐる、すると、そこには――。
「ブモォッ!! ブヒィイイッ!! ブヒヒーンッ!!」
「おぉ、神の御心を知らぬ哀れなる獣の民よ!! せめて我が杖により、神の慈悲、そして神の愛を感じて逝くがよい!!」
「フゴッ!! ブモッ、ブモモーーン!!」
そこに立っていたのは、黒い髪の女修道士。
そして、その女修道士に、人の拳ほどあるロッドを突きつけられて、四つんばいになってうずくまる、緑色をした巨体のバケモノであった。
一際、大きい叫び声と共に、緑のバケモノがその場に倒れる。
漂ってくる栗の花のにおい。
そして、ひっ、と、息を詰まらせたような、緑のバケモノの断末魔。
やりきった顔をして、オークからロッドを抜いた女修道士は、ぬめりとした何かをなれた手つきで布で拭うと、男戦士の方を向いた。
その瞳は、綺麗なしいたけであった。
「あら、次に神の愛を教えていただきたいのは貴方ですか」
「いえ、結構です!!」
「遠慮は要りませんのよ。人間も亜人も、モンスターでさえも、等しく神の愛を賜る権利を持っているのですから」
「いえ、そんな、僕には、神様の愛は、なんというか太――重いといいますか」
「まぁ、そうおっしゃらず」
ずいと一瞬にして間合いをつめてきた女修道士。
ヤラれる、と、男戦士が思ったその時である。
「ティト? なんだか静かになったけれども、どうしたの?」
待っていろと言ったはずのエルフ娘が、ひょっこりと穴から顔を出した。
まずい。
当初想定していた配役とは逆だが、これを見られてはと、男戦士が振り返る。
するとどうだろう。
「どう? なにがあったのティト? 無事なの? 貴方も、女修道士さんも――」
掌で視界を隠して、おそるおそると、こちらに寄ってくる娘エルフ。
なるほど、確かにそれならこの光景は見えない。
が、対して役にも立たない。
まずい状況に変わりなし。
このままでは、このエルフ娘も、オークを手玉に取る女修道士に、神の愛を教えられてしまう。
ダメだ、逃げろ、と、男戦士が叫ぼうとした、そのときだ。
シイタケ女修道士の顔つきが、戦士のそれに変わっているのに、彼は気がついた。
「まさかそれは!! 自分の目をあえて覆い、視覚情報を断つことにより精神を研ぎ澄まし、人神一体の神性の力を得んとする奥義、明鏡止水《顔出しNG》!!」
このエルフ――ただものではありませんね。
ごくり、息を呑む女修道士。
その前で、ほっと男戦士が息をついたのはいうまでもなかった。
「性豪女修道士を前に怯むどころか、逆に怯ませるだなんて!! しかも、そんな奥義まで会得していたとは――流石だなどエルフさん、さすがだ!!」
「えっ、えっ、ちょっと、やめてよそれ、人の前で言うの。恥ずかしいんだからさ」




