訪問恵理の高校
――土曜日――
今日は、恵理の高校の文化祭の日だ。今日は快晴日和。白いカーテンからすけて、日差しが当たる。
日中は暑い時間帯が多くなったが、朝方はじっとしていれば、心地よい風が入り、とても快適に睡眠ができる。
「おにぃ。準備……」
夏木が俺の部屋に入ってきただろう。今、夏木の声が聞こえた……だけど、起こしに来るには、まだ、時間にはまだ余裕があると思う。あと少しだけねるとしよう。
「おにぃ、いい気加減、起きてよー恵理ちゃん達が待っているよー」
「あと少しだけ……寝かせてくれ」
「あっそ。そんなに寝ていたの?なら、私が一生、寝ていられるようにしよっか?」
その言葉を聞き、俺はすぐに飛び起きた。夏木を見る。夏木の目が死んでいる。そして、後ろに隠している何かが、夏木の殺意をより一層感じる。
「お、おはよう。夏木!」
「おはよう。それで、準備は?」
「い、いまから頑張るから!」
「もうじき、柊さん達も来ちゃうと思うから、早くしてね……」
「はい」
夏木はそっと俺の部屋から出ていく。やばい、早く身支度を済ませよう。俺は、急いで身支度をする。一方、夏木はソファに座り朝のテレビを見ている。
「早くね。おにぃ」
「大丈夫です。必ず間に合わせます!」
これで、間に合わなければ俺は死ぬだろう。まぁ、でも時計を見る限り、まだ待ち合わせには20分以上はある。
こんなにも早く来ることはないだろう。大丈夫だ!そう思った俺は、ゆっくりと焦らずに身支度をする事にした。最初は、夏木が怖くてせかせかと動いたが、夏木も何も言ってこないから、数分後経った今は、無駄に顔を洗う回数を増やしたり、いつも以上に念入りに歯を磨いたりした。よし、あとは髪の毛を整えて、着替えて出発だ。
「おにぃ、柊さん達が向こうで待っているからそろそろ出発するよ」
「えっ?ここじゃないの?」
「うん。柊さん達には恵理ちゃんの高校の前で集合して貰ったの。柊さん達も家から高校に向かって貰った方が近いし」
「へーそうなんだ」
てっきり、俺の家に来てくれると思っていた。完全に油断していた。
それで、夏木は、急いでと言っていたのか……
「それよりも、いい加減準備出来たよね?……」
「あ、あと少しだけ……髪の毛を整えさせて欲しいのと着替えを……」
「いい加減にして……」
夏木は、手を握りしめ、震えている。これは完全に噴火する寸前だ。安全のため少し下がろう。すると、夏木は一歩前にやってくる。ならもう少し下がろう。
「あと、ほんの少しだから、落ち着いてくれ!なぁ、夏木様!」
夏木は無言のまま俺に近づいてき………
――恵理の学校門の前にて――
「みんな~ごめんね!だいぶ待ったよね?」
「ううん!全然待ってないよ!」
「私達も今、ついたところですから気にしないでください。それよりも、お兄さんはどうしたのですか?」
「すごい、ひっかき傷。もしかして、猫に引っかかれたんですか?」
「まぁ、そんなところ」
心配してくれる柊さんと双葉さんに言えない。本当は夏木に引っかかれたなんて……絶対言えない。引っ掻いた張本人の夏木は、俺の隣でニコニコしていた……
「おーいー!結城達!」
恵理が手を振り、こちらにやってきた。柊さんは、腕を組み堂々としている中、人見知りな双葉さんは、柊さんの後ろに隠れる。一方、夏木はずっとニコニコしていた。
「おはよう!恵理ちゃん!」
「おはよう!夏木ちゃん!なんだか、今日は上機嫌だね!」
「そうかな?私はいつも通りだけど。そんな事より紹介するね。私の友達の」
「本日は、お誘いありがとうございます。柊 奏と、ふ、双葉 璃子です……」
「奏ちゃんと璃子ちゃんね!柊さんはすごくしっかりしているね?本当に中学生?」
「ちゃんと中学生です」
「そして、璃子ちゃんはマスコットみたいで、かわいいー。ねぇ、頭撫でていいかな?」
「こ、困ります……」
「まぁ、そんな恥ずかしがらずにさぁ!」
恵理は双葉さんを抱きしめる。双葉さんは顔を真っ赤にする。その隣で、柊さんは、恵理を睨んでいる。「なんなのこの人。初対面のくせに、私の莉子に馴れ馴れしすぎない!」と言わんばかりに睨んでいる。
「私になにかついてますか?」
「いえ……」
柊さんは俺を睨みつけてきた。
俺は、目をそらし、柊さんを見るのをやめた。これ以上、見ていてもいいことは絶対にないだろう。
「さて、みんな今日は来てくれてありがとう!今から、学校を案内したかったけど、ちょっとこっちも忙しいから、これ、渡しておくよ!結城!待っているから!絶対に来る事!」
俺と夏木に渡してきたのは、色んな屋台の情報が書かれているパンフレットを貰った。そして、恵理は、持ち場に行ってしまった。恵理も忙しいんだな……
夏木は恵理から貰ったパンパレットを見る。
「へぇーいろんな屋台があるんだー。ねぇねぇ、璃子ちゃんと柊さんはどこか行きたいところある?」
「私は、焼きそばとか、たこ焼き屋さんに行きたいです!」
「柊さんは?」
「私は、1年Aクラスのモザイクアートや、3年Dクラスの皆様が作った、作品展示館も見に行って見たいです。あとは、この2年A組が作ったお化け屋敷も興味深いです」
「じぁ、みんなの希望が通るように私達は先に行こう!」
「夏木ちゃん、お兄さんはいいの?」
「あー放っておいても大丈夫だよ……ねぇ、おにぃ……」
「うん行っておいで……」
夏木は機嫌が直ってない。このままついて行っても、何も良いことはないだろう。
夏木達とお別れし、恵理がやっているカフェに向かう。恵理の学校は女子校。そのため、周りを見ても、女子が多い。可愛い子も多くて、みんないい匂いがする。ここはまさに天国だ。そうこうしていると、目の前に大行列が出来ている。確か、このクラスが恵理のクラスだったような……パンフレットを確認すると、やはり恵理のクラスだ。行列の最後尾に並んでいた二人組の男性が一緒にいた男性一人に話しかける。
「なんか、ここのカフェに恵理とか紗夜とか、すげぇー可愛い女の子がたくさんいるらしいぜー!」
「まじか!一体どんな子たちかな?あわよくば、連絡先とか交換してくるないかな?」
「無理無理、お前なんかに振り向くなんて事ないから」
「わかんないだろ!」
なるほど、そう言う理由か……恵理はともかく、他に可愛い子がいるのか……ちょっと楽しみだな……
――数十分後――
「お帰りなさいませご主人様〜」
ここは、天国だろうか?色んな女子生徒が、メイド服を来て、接客している。案内された席に座り、あたりを見渡す。するとふと、女子生徒に目があった。すると、ニコと笑ってくれた。その瞬間、心臓を撃たれたような感覚が……こんな陰キャでも、優しくしてくれるなんて、嬉しすぎる……
「お客様?ご注文はお決まりでしょうか?」
ニコッと笑う恵理が来た。どうせなら、他の子が良かったなぁーとか思いながら、メニューを見て、注文する。
「えっと……ミルクコーヒーを一つ」
「はい!ブラックコーヒーですね!」
「だから、ミルクコーヒー……」
「かしこまりました!ブラックコーヒーですね!少々お待ちくださいませ!」
恵理は、上機嫌にブラックコーヒーを取りに行ってしまった。これは完全に嫌がらせだ。一体、どう言うつもりだ!
恵理に怒りを覚えながらも、コーヒーを待っていると、ふと金髪の二人組が気になった。
「ねぇねぇ、お姉ちゃん。連絡先交換してよー」
「後で、俺達と一緒に遊ぼうぜ!」
「あの、そう言うのは困ります……」
「なに、お客様の言うかと聞けないの?」
「いえ!そう言うわけでは……」
「なら、いいよね?」
金髪の二人組は、ニヤリと笑った。
そんな二人組に俺はイラッときて、二人組の方へ
「あの、そう言うのやめた方がいいですよ。周りのお客さんにも迷惑だし、この子達にも迷惑ですよ」
「はぁ?なんだお前。俺に喧嘩売っているの?」
「別に、喧嘩なんか売ってないです」
なんか、こんな事一度あったなぁ……
て言うか、この二人怖すぎ……
「おい、見ろよ。こいつの足震えているぞ」
「ふん、貧弱者が。お前は下がっているや!」
俺は、一人の金髪の男性が俺を押し倒してきた。その反動で、俺は尻餅をついた。そして、眼鏡が飛び、視界がぼやけてしまった。やばい、このままでは……そんな時、男性の一人から悲鳴が聞こえた。そして、コーヒーの匂いが漂う。
「お客様。周囲のご迷惑になるので、辞めて貰いませんか?」
視界がぼやけて、確実とは言えないが、この声は恵理の声だ。
「お前!こんな事して、許されると思っているのか?」
「チッ。ふざけた真似を……一度、体に教えてあげなければならないようだな……」
男性たちは恵理に殴りかかろうとしているようだ。良く見えないが、恵理は今、二対一になっている状態だ。
「弱すぎるわよ……ゴミ」
「大丈夫。結城」
「うん、大丈夫」
「ほら、眼鏡」
恵理が落ちてしまった眼鏡を拾ってくれた。
やっと、視界が元通りだ。
「あの!ありがとうございました!」
さっき助けた女子生徒が頭を下げた。
「そんなに頭を下げなくてもいいよ。それよりも怪我無い?」
「お陰様で!大丈夫です!」
「そっか、それならよかった」
「あの!、後でなにか、お礼させてくれませんか!だから」
「さぁー紗夜ちゃん!そろそろ持ち場に戻ろうか~」
「ちょっと、恵理さん!」
恵理は紗夜さんの背中を押し、持ち場に強制的に連れて行った。
なんか、周りがざわざわしている。そして、みんな俺を見ている。
女子生徒同士がこそこそと話して盛り上がっていたりしている。
すると、お客さんの男性が拍手をした。そして、それにつられて色んな人が俺に向けて拍手をする。
「かっこよかったぞ!」
「よく頑張った!」
「素敵でしたよ!」
「かっこよかったです!」
とか称賛を貰えた。なんか、変な注目を浴びて恥ずかしいが、ちょっと勇気をもって良かったと思った。
俺は、席に着き、コーヒーを待つ。最初はトラブルがあったが、すぐにいつも通りになった。みんなからは笑顔が見える。
「はい、ご褒美のミルクコーヒー」
「えっ?ブラックコーヒーじゃないの?」
「最初、コーヒーミルクを頼んだでしょ?」
「ありがとう。恵理」
ミルクコーヒーを一口飲む。甘くて心が落ち着く。
そんな俺を不機嫌に見る恵理。どうして、不機嫌なのだ……
「それでどうなの?」
「えっ?何が?」
「えっ?じゃないのよ!私の姿を見てなんとも思わないの!?」
「あっ、うん。とてもすてきだと思うよさすが恵理だね」
「あ、ありがとう……」
恵理は、腕を組み、なんだか上から目線だが、顔真っ赤にして嬉しそうだった。
こうして、恵理のカフェの訪問を終えた。
「さてと、ここから一人で何をしよう……」
目的はもう果たした。俺がここにいる今はないのだが……
読んでくれてありがとうございました!
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