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特になにもなく、一週間が過ぎてしまった。

今日は土曜日。午前中はバイトで午後は暇だ。

 今日は店の一部改装工事があるらしく、この店舗は、午後は休みになる。

 本当は、改装中でも営業も出来るが、「みんな、いつも頑張ってくれているし、たまにはこう言うのもいいだろう」と言う、天野店長のいきな計らいで、午後は無くなったという経緯がある。



俺は、午前中のバイトを頑張る。

折角、天野店長の計らいで、午後がないんだ。天野店長の計らいに応えられるような仕事っぷりをしよう。今日は休日の土曜日。家族連れを中心に混雑する。けれど、今日は、神崎先輩や葵先輩と言った、俺よりも経験がある先輩が多く、とても心強い日だ。今日は休日で11時半辺りから混雑してきたけれど、さすが、長年いるだけ、動きが早い。お陰様で。目立った混雑はそれほどなく、お客様も、みんな満足そうに帰ってくれた。


さて、午後からは何をしようか?


折角、外に出たから、たまにはゲーセンでもいき、メダルゲームでもしながら、残りの半日でも過ごそうか……それともいつも通り、家に帰ってぐうたらするか?


「白金君!」


そう考えながら、更衣室に向かう最中、声を掛けられた。俺は後ろを振り返った。


「葵先輩、お疲れ様です」 


「お疲れ!ねぇねぇ、白金君。午後予定空いているかな?」


「まぁ、特に予定は無いですけど」


と言うと、葵先輩は俺の手を握る。


「じゃあ、お姉さん達と一緒に遊びに行こうよ!」


と手を握りながら俺をじっと見てくる葵先輩。

こんな姿を神崎先輩に見られたら、絶対に殺される案件だ。


「もしかして、嫌だった?」

「いえいえ、是非とも行かせてください!」


本当は一人で過ごすつもりでいたけど、葵先輩のせっかくの誘いだ。是非とも行かせて貰いましょう。


「それで、お前も来たと言うことか……」


「駄目でしたか?」


「私は先輩が来てくれて嬉しいです!」


「ありがとう原田さん。それで神崎先輩は……」


「葵さんがそう言ったなら、別にいい。ただし!葵さんと俺の邪魔だけはするなよ!」


神崎先輩と葵先輩は、付き合ってはいないが、いい雰囲気である。そんな関係を壊すような事をするわけがない。て言うか、原田さんと神崎先輩もいたのか……てっきり、葵先輩と2人っきりだと思っていた。なんか期待した俺が、恥ずかしい……


「では、みんな集まったところで、行きましょう!」


「おー!」


と張り切る葵先輩と神崎先輩、原田さん。

一体、どこに行くつもりなのだろうか?

何も、葵先輩から聞かされてないんだが……


「優奈には申し訳ないけど、一緒に楽しもうね!」


原田さんは嬉しそうに俺の手を握る。

島崎さん達がいる時は、こんな事あまりしてこないが、もしかして、この機をチャンスにしているではないだろうか?


「とりあえず。どこ行く?」


「はい!僕はカラオケに行きたいです!」


「いいですねー私も賛成です!」


「白金君は何かある?」


「いや、特にありません」


 なんて言ったが、俺は、カラオケは嫌いだ。

なにせ、俺みたいなオタクは、万人受けする曲のレパートリーが少ない。

アニソンはたくさん歌えるが、この場合はほぼ、無駄だろう。俺は、盛り上げ役に集中しよう。


「じゃあ、誰から歌う?」


「はい!俺から行かせてください!」 


「おー神崎君やる気満々だね!」


「俺、歌には自信あるんで」


と葵先輩にアピールし、自信満々にマイクを持つ神崎先輩。聞いてください。陽キャの曲


神崎君は歌う。

流石、自称歌が上手いだけあって、音程を外さずに歌えている。そして、得点は96点。カラオケの上手い人が出す平均が、90点以上と聞いたことがあるから、神崎先輩は相当うまい部類に入る。ここまで上手ければ、カラオケは常に無敵状態だろう。


「じゃあ、私歌います!」


 葵先輩は、今流行中の曲を入れた。

葵先輩は、ノリノリに歌い、神崎先輩と原田さんは、葵先輩も盛り上げる。一方、俺はただ3人の姿を手拍子を加えながら見ているだけ。明らかにこの空気から浮いていた。


「じゃあ次、私が歌います!」


 今度は原田さんが曲を入れた。原田さんは今どきの曲を入れ、葵先輩をデュエットに誘うそして、

葵先輩と原田さんは仲良く歌う。


「葵さん!原田さん可愛いでーす」


と手を葵さんと原田さん達に手を振る神崎先輩。

まるで、地下アイドルを見に来たファンのようだ。

そんな神崎先輩に苦笑いし、手を振る二人だった。


「さて、最後は白金だぞ!」


と言われたため、俺は皆が知っている無難な曲を選択した。

本当は、アニソンを入れて、熱唱したいところだが、こんなところで知らないアニソンを入れたら、この空気は、凍り付くだろう。こういう所は空気を読まなくては……

俺は歌い始める。みんなマスカラや、手拍子で盛り上げてくれる。そして、最後まで歌い切り、得点へ。得点は至って普通の80点台だ。


「先輩、普通にうまいんですねー」


「白金だから音痴だと思っていたが、意外とやるな!」


「私も負けてられてないね!」


と称賛されているようだが、あえてもう一度言う。

俺は至って普通の得点をたたき出している。みんなが思う俺への評価が低かっただけだ。

 こうして一周が終わり、2週目、3週目、そして、気づけば5週目くらいまで回っていた。


「よし!白金君!次よろしくね!」


 正直、アニソンを歌いたい欲求が止まらない!けれど、この空気は絶対に壊してはならない。

俺の中で激しい葛藤が続く。


「どうしたの?具合でも悪いの?」


「いいえ、大丈夫です」


とにかく、一度でもいいからアニソンが歌いたい!


「そういえば、先輩。アニメ好きなのに、一回もアニソン歌ってないですね?」


俺の心でも読み取ったかのような、質問をぶつけてきた原田さん。そんな原田さんの質問に葵先輩が心配そうに俺を見るとこう言った。


「もしかして、私達に合わせようとしている?」


「いいえ、そんな事は!」


ここで、せっかく盛り上がっていた空気を壊したら、俺の努力はすべて無駄になる。何としてでも、気づかれないようにしなければ。

 そう思っていると、神崎先輩が肩を叩く。


「なぁ、白金。無理しなくてもいいんだぜ。歌いたい曲歌えよ!」


「そうですよ!せっかくのカラオケなんですから気を使わなくていいですよ!」


「そうそう!みんなが言う通り、白金君は歌いたい曲を歌えば良いと思うよ!」


 みんながそういうなら、お言葉に甘えよう。俺は自分が良く歌うアニソンを入れた。自分が歌うアニソンはアニメ界では有名だけと、アニメを知らない人からすれば、何?この曲と思われるだろう。

 俺は、アニソンを歌い淡々と歌い始めた。約5分間、皆からすれば、退屈な時間かも知れないのに、みんな俺のために手拍子などしてくれる。こんな事初めだ。一度、中学の時、数少ない友達とカラオケに行き、そこで知らないアニソンを歌ったときは、みんなスマホとかばっかり触っていて、歌なんか聞いてくれなかったうえに、盛り上がっていた空気も一瞬にして、お葬式ムードになってしまった。そんな経験があるから、こうして、アニソンを避けていたが……


俺は初めて、心の底から歌い切ったような気がした。そして、得点は95点。神崎先輩並みの得点叩きだしていた。


「白金君、凄い……」


「ここまで上手いとは……やるな白金」


 と二人は驚いていた。だが、一番驚いているのはこの俺だ。まさか、こんな良い得点を取れるは思っていなかった。


「すごい!白金君!超高得点じゃん!ねぇねぇ、さっきの曲教えてよ!なんか聞いてて凄いいい曲だなと思って、もう一度、聞きたいからさぁ!」


 こんな事言われたのは始めてだ。なんか、嬉しい。

自分が作った曲ではないけど、自分が好きな曲を共感されると


「お前、葵さんといい雰囲気じゃないか……」


「いや、ただ曲を教えていただけですよ!」


「えーい言い訳は結構!白金!アニソン曲縛りで勝負だ!」


「おー面白いねー私達も混ぜてよ!」


「お願いします!」


「よっしゃー!こうなったら誰が一番、上手いか勝負だ!」


という感じで、アニソン大会が始まった。

こんな楽しいカラオケは始めただ。(2回目だけど)みんなた楽しそうだし、俺も気兼ねアニソンを歌えた。みんなありがとう……そして、俺は心の底から思えた。

こんな良いバイトの先輩、後輩を持てて良かったと……




「いや~楽しかったな~」


「神崎先輩、なんか声枯れてませんか?」


「えっ?そうかな」


「良かったらのど食べる?」


「いいですか!」


「別に構わないよ。良かったら美玖ちゃんと白金君も食べる?」


と言われ、俺達ものど飴を貰った。のど飴はすっとしたみかん味。疲れた喉に効く。それにしても、今日のカラオケは楽しかった。またこのメンバーでカラオケに行きたいもんだ。


「先輩、今日は楽しかったですね」


「そうだね。ものすごく、楽しかった」


「お、白金君が笑った!これは誘った甲斐があったなーねぇ、神崎君もそう思うでしょ?」


「そうですね。白金を良かったと思いますよ。ただ、葵さんとイチャイチャしていたところは許せませんけど……」


「俺は、イチャイチャなんてしてませんよ!」


「嘘をつくな!」


「嘘なんてついてないですよー」


 こうして、楽しい人生で一番楽しかったカラオケは終わった。これは、今まで生きた中でも、いい思い出になる出来事だった。もし、叶うならまた、もう一度、このメンバーとカラオケに行きたいもんだ……



読んでくれてありがとうございました!

次回もよろしくお願いします!

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