7 店長、あなたは一体何者ですか!
新人アルバイト。後藤さんの名前を琴音から、小春に変更させてもらいました。
こっちの方が、後藤のおとなしい性格とマッチしているような気がしたからです。
急な変更で申し訳ございません。
バイト終了後。
スタッフルームにて
「先輩、私疲れました……」
「そうだね……」
今日は本当に忙しい一日だった。
だから、後藤さんが机に突っ伏したくなる気持ちもわかる。
すると天野店長がやってきた。
「皆、ご苦労様だった。これ、ちょっとしたまかないだ。よかったら受け取れ」
そう言って天野店長に渡されたのは、ハンバーガーセット。
普通、バイト先でこんな太っ腹なまかないはそうそうない。
しかも、天野店長が渡したハンバーガーセットは、ただのハンバーガーセットではない。
「店長、これってもしかして……」
「そうだ。これは、最近できた新作。勿論、まだ一般には公開されていない商品だ。門外不出で頼むぞ」
「て、店長……私たちがこんなの貰っても大丈夫でしょか……?!」
「あぁ、大丈夫だ」
新人である後藤さんの手は、まるで「貰ってはいけないものを貰ってしまった……」と言わんばかりに震えている。
まぁ、店長のまかないを初めて貰う人なら当然の反応かもしれない。
けれど、店長がこう言うまかないを出すのは初めてではない。
だから、そのうち慣れるだろう。
「一つ言っておくが、今回も、この商品の感想も教えてくれ。今後の改善などに役立てる」
そう言い、店長は休憩を後にした。
「先輩、本当にいいのでしょうか?」
「別に大丈夫だよ。ただ、この商品の感想だけは、忖度なく天野店長に伝えてね」
これがあるお陰なのだろうか?このハンバーグショップは、新商品を出すたびに、好評の声を聞く。
これも天野店長が俺達の意見をしっかり聞き入れて、本部の方に伝えてくれているからだろう。
それよりも、俺や他の皆は店長の素性を知りたい。
俺が働くバイト先は、全国にも姉妹店が存在するほど、大きいところ。
それなのに、一部の人にしか入手出来なそうな新商品を、毎回、手に入れてくることから、天野店長はただ者ではないことは明白だ。
けれど、それを探ることは出来ない。
それに それだけは、やってはいけないこと だ。
ここからは、俺が新人の時に、先輩に聞いた話である。
以前、天野店長の素性を知ろうとしていた先輩がいたらしい。
その先輩は、毎日のように「店長、あなたは何者なんですか?」と尋ね続けた。
けれど店長は「お前に教える必要はない」と言い素性を明かすことはなかった。
まぁ、個人情報だから当然と言えば当然だが・・・・・・
そこで、その先輩は天野店長の素性を知るため、天野店長が仕事を終えたところから、尾行を始めたらしい。
そして、その先輩は、天野店長の素性を知ろうとしたが、天野店長に尾行しているところがバレてしまった。
――その後――
天野店長にバレた先輩は、顔を真っ青にしてバイト先に顔を出したらしい。
そしてこうみんなに伝えたらしい。
「絶対、あの人の素性を知ろうとしないほうがいい……」と
それ以降、誰も天野店長の素性を知ろうとする者はいなくなったらしい……
と言うことで、天野店長の素性は謎のままだ。
バイト終わりにてーー
「皆、今日もご苦労だった。そして、白金。今日も絶好調だったな」
天野店長が微笑んでいる。
なんだか、嫌な予感が……
「な、何の事でしょうか?……」
「自分でもわかっているだろ。今日も女性客をメロメロにしていたことに」
「えっ、いや……」
また、天野店長に言われた……
俺は真面目に接客をしているいて、女性客をメロメロにはさせていない。
だから店長の根拠のない発言は困る。
それに店長の発言がこうなるから……
「おい!結城いい加減にしろよ!いいか、バイトと言うのはナンパところじゃあない!仕事ををしてお金を稼ぐところだからな!」
バイトの先輩である、神崎先輩に胸ぐらを掴まれ、厳しく注意を受けた。
全く、天野店長のせいで、いつもこうだ。
毎回、店長に、そう言われては男性陣の先輩に注意を受ける。
だから、天野店長の発言には困る。
「店長。あまり変なことは言わないでくれます?俺、とても困ります……」
「そうか、それはすまない」
と言うが、店長がやめることはない。
「白金君。天野店長は変なことはいってないよ!。ねぇ、小春ちゃん!」
「は、はい!」
ここには店長の発言を援護する女性陣がいる。
そして、後藤さんもついに、女性陣の仲間入りをしてしまった……
「さすが、朝比奈だ。良く後輩の事も見れている」
「勿論ですよ~!」
店長の発言を援護したのは、朝比奈 葵 先輩。
朝比奈さんは、俺がアルバイトを初めた時に、指導してもらった先輩だ。
だから、朝比奈先輩には口答えは出来ない。
多分、この人がいる限り、店長の変な発言は止まらないだろう。
こうして俺のアルバイトが終わった。
そして、妹、夏木が待つ、マイホームに帰る。
――マイホーム――
「ただいま……」
「お帰り!おにー!」
妹の夏木が飛びついてきた。
全く、もう夜だと言うのに元気な奴だ。
「おにぃそれは……?」
「これは、お前がいい子に留守番していたご褒美だぞ」
俺は、帰り道で買ったちょっとしたものを妹にあげた。
「おにぃありがとう!」
俺達の両親は、貿易関係の仕事をしている。
そのため、家にいないことがほとんど……
だから、夏木には一人で留守番をしてもらっている。
なので、これは夏木の兄として当然の行いだ。
「ほらおにぃも一緒に食べよう!」
夏木が俺の腕を引っ張る。
妹は不思議だ。
妹といると、疲れていた体が少しだけ吹き飛ぶような気がする。
きっと、妹の底知れない元気の良さと……
「おにぃおいしいね!」
この可愛すぎる笑顔が疲れた体を癒してくれる。
まさに癒しの時間だ。
どうせなら、一生この時間が続いてほしいと俺は願う。
けれど、この時間は流れ明日は来てしまう。
そして、地獄の一週間が始まる。
読んでくれてありがとうございました!
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