63 形として残る思い出
ある日のこと
「おにぃ、お願いがあるんだけど」
「どうしたの夏木?」
夏木のお願いならなんでも叶えてやる!
さぁ、何でもいいたまえ!
「今度この家で、柊さんのパーティーをしたいんだけど、駄目かな?」
「別に構わないぞ」
「本当!?ありがとうおにぃ!」
夏木がここでやりたいと言うのなら別に断る理由はない。
ただ、あの人苦手なんだよなー……
こうして、柊さんの誕生日パーティーを開くことになった。
――柊さんの誕生日当日――
どうしてこうなった……
「ひ、柊さんお誕生日おめでとうございます……」
「ありがとうございます」
柊さんは俺を睨む。
せっかくお祝いの言葉を言ってあげているから、少しくらいは笑って欲しい。
顔が、怖い……
いかにもど「どうして、コイツがここに居るのかしら?」と言わんばかりの不機嫌な表情だ。
だが、柊さんが言いたいことも分かる。
確かにどうして俺がここにいるか、自分でも不思議だ。
だが、仕方がないんだ!夏木に誘われた以上、出るしかなかったのだ!
おまけに夏木から柊さんの事情を聞かされたら……もう、それは同情するしかない。
「さぁ、柊さんここに座って」
主役の柊さんが真ん中に座り、俺達はその周りを取り囲む。
「さて!改めてお誕生日おめでとう!これ、私達からのプレゼント!」
夏木は柊さんにプレゼントを渡す。
「これは……」
「私と夏木ちゃんで選んだ万年筆。ほら、紗月ちゃん将来は弁護士になりたいて言っていたじゃん。だから、将来に役立つものかなと思って選んだけど……」
すると柊さんが笑った。
「二人ともありがとうございます。これ一生大事にします」
万年筆を気に入った柊さん。
初めて見る笑顔。
いつもは不愛想だが、笑うととても美しい女性だ。
いつも愛想よくしていれば、自然と友達が出来、彼氏とかも出来るだろうに……全く勿体ない……
「なにか?私に言いたいことでも」
「いいえ、なんでもないです……」
こうして、柊さんのパーティーは順調に進んでいく。
柊さんと双葉さん、そして夏木の3人はとても楽しそうに盛り上がっている。
折角だ。一枚写真でも
すると、柊さんが俺の方を睨んできた。
「人が楽しんでいる中、盗撮ですか?」
「いや、そうじゃなくて、ほらみんな楽しそうだから、思い出に写真を」
柊さんは怒っている。
どうしよう俺のせいでパーティーが台無しになったら!
「おにぃ!それナイス!沢山私達を撮ってよ!」
「いいですね。一生の思い出が残って是非とも私からも写真をお願いします!」
「では、早速一枚!」
3人の写真を一枚。
みんな素敵な表情をしている。
一人を除いて……
ならもう一度だ。
「柊さんも笑って下さい」
「えっ、でも……」
「ほらほら、紗月ちゃん」
双葉さんは柊さんをくすぐり始める。
柊さんはたまらず、口元が緩み始めた。
「ちょ、双葉さん!分かったからやめて!」
「じぁ、改めて!ハイポーズ!」
と夏木の掛け声で、俺はシャッターを押した。
今度の写真はみんないい顔をしている。
「あとで、この写真を皆さんに送りますね」
「頼んだよ!おにぃ!」
「写真楽しみにしています」
「一体、どんなのが出来上がるのか楽しみだね」
と双葉さんと夏木は「どんな写真が出来上がるのか」と言う話題で楽しそうに話している。
これは、それなりに期待に応えなければならないようだ。
「よし、頑張るぞ」
「あの、お兄さん……ちょっといいですか?」
「どうしたの?」
「ちょっとここでは……」
柊さんの連れられ、リビングの外へ
俺は何かやらかしたのか?
「あ、あのさっきはすみませんでした……その、私達のためにしてくれたことなのに……盗撮なんて言ってしまって」
「ううん、別に大丈夫だよ。むしろ俺こそごめんね。しっかり許可を取ればよかったよね」
すると、柊さんがクスッと笑った。
「お兄さんも夏木さんと一緒で優しいですね」
「えっ?そうかな?」
「そうですよ……全く羨ましいです……」
うん?最後、何て言ったのだ。
「えっ?今なんて」
「な、何でもありません!」
柊さんはどこか、慌てたそぶりを見せたが、まぁ気のせいとしてこれ以上の深堀はやめておこう。
その背後で密かに俺達を見ていた二人はこう言った。
「なんだか、柊さんも大人になったね」
「そうだね。立派に成長したよ紗月ちゃんは」
二人は密かに笑うのであった。
その後、パーティを改めて再開した。
俺は、カメラマンとして3人の思い出を撮った。
ケーキを美味しそうに食べ、頬っぺたにクリームをつけるちょっとおちょっこちょいな柊さん。
「ちょっとやめてくださいよ!」
3人で仲良く喋る姿。
双葉さんと柊さんと仲良くケーキを食べさせあう姿。
プレゼントで貰った万年筆を使い、自分の名前を書く柊さん。
「柊さん、その紙を持ってください」
「こうですか?」
綺麗な字の紙を持たて一枚写真を撮った。
美少女に美文字はとても映えていた。
「よし……」
色んな写真を撮れて良かった。
「ちょっとおにぃ!」
「お兄さん!
「どうしたの夏木と双葉さん」
色んな写真を撮ってさぞご機嫌かと思われていたが、夏木と双葉さんはなんだか、不機嫌だ。
「さっきから、紗月ちゃんばかり撮っていますよね。もしかして紗月ちゃんのこと好きなんですか?」
「いやいや、そんな事はないよ。ただ柊さんは今回の主役だから、たくさん撮っただけで……」
「だとしても!もっと私達のことも写真で撮って!」
夏木は顔を膨らませる。
可愛い、せっかくだ一枚写真をパシャリ。
「おにぃの馬鹿!」
と夏木にビンタされた。
一体、何が駄目だったのだろうか?
その後、夏木たちも柊さん同様にたくさんの写真を撮った。
お陰様で、沢山の写真が撮れた。
しかし、ここからプリントアウトして、みんなに渡すのはかなりの時間がかかりそうだ。
俺は写真のプリントアウトをする時間に割いた。
ふと一枚写真を見る。
みんないい笑顔をしている。
「おにぃ、ちょっといいかな?」
「うん、いいよ」
夏木が入ってきた。
俺は夏木に今日の写真を見せた。
「みんな、良い顔しているよ」
「ほんとだね」
「きっと柊さんも喜んだことだよ」
「そうだといいね」
すると、夏木は背後から優しく抱きしめた。
「おにぃ、今日はありがとう。お陰でいい思い出が出来た」
「別に俺のお陰では……」
「そんな事はないよ……本当にありがとう」
「そうだ!記念に一緒に写真撮ろうよ!」
夏木はカメラを取り上げ、カメラをタイマーモードに
「ほらほら!おにぃ!早く」
こうして、俺達は一枚の写真を撮るのであった。
これも一緒の思い出として残るだろう。
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