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――夏休み中旬――
ついにこの時がきた。
夏木と朝食を取っている時、俺は話を切り出した。
「夏木、一緒にお祭りに行こう」
夏休み、俺はある目標を胸に日々アルバイトを頑張ってきた。
俺の目標
それは、絶対に忘れさせない夏休みの思い出を夏木にあげる!
決行日は、夏休み中旬に行われる大きな祭り。
そして、今日がその日である。
「どうかな?」
「うん、いいよ!」
ついに俺の努力が報われる時がきた。
ほぼ毎日朝から晩まで働き続けた日々がついに報われる。
夏祭りにて
夏木は俺との祭りを快く承諾してくれた。
そして、夏木は浴衣に着替えいざ、祭りへ!
「夏木なんでもしていいから!」
「そ、それなら……」
夏木は恥ずかしそうに手を俺の方に出す。
そして、俺の手を握る夏木はこう言った。
「おにぃ、今日だけ甘えてもいいかな?」
と見る夏木に俺は、胸がキュンキュンする。
なんだ、この可愛さ!
反則級の可愛さだ!
仮にも兄弟と言う関係。
それ以上は踏み込んではいけないと分かっているそのつもりなのに、このドキドキが止めらない。
「夏木。今日だけは俺に沢山甘えていいからな!」
「うん、分かった!じゃあ、沢山甘えちゃうね!」
俺と夏木は手を繋ぎながら、屋台通りを進む。
いつもの夏木も可愛いが浴衣姿の夏木はとても新鮮でいつもより格段に可愛い。
「おにぃ、私を離さないでね」
「うん」
俺達は人混みをかき分けながら進む。
「おにぃ、金魚すくいやろう」
「いいよ」
と俺達は金魚すくいを始める。
「お嬢ちゃん凄いね……」
と店主が言うほど夏木は金魚を沢山とる。
まるで、名人のように取って取りまくる。
その姿にギャラリが集まる上に、店主も言葉を失う。
そして、俺もなんも言えなかった。
まさか、こんな特技があるとは……
「なんだか、凄く注目されちゃったね」
金魚すくいを終えた夏木は、面白げにそう言った。
夏木の笑顔。
こう言う夏木を見ると、本当に頑張ってきて良かったと心の底から思う。
「おにぃ、今度は射的やろうよ!」
「ちょ、ちょっと夏木!」
と俺の手を引っ張り人混みをかき分ける夏木。
まるで、無邪気な子供のように楽しそうだ。
射的を終えて
「夏木、凄いな……」
「たまたまだよ」
と言う夏木だが、良く、沢山の景品を取れたもんだ。
小さなお菓子から、ちょっと大き目なぬいぐるみまで、凄いもんだ。
俺なんか、一つも取れなかったと言うのに……
と俺が落ち込む俺をリードして色んな場所へ連れまわす夏木。
「おにぃ!あれ食べよう!」
「おにぃ!あれやろう!」
「おにぃ!」
一日に何度も夏木の笑顔を見たのはいつだろう?
そう思うほど、夏木の笑顔が絶えることなかった。
そして、時間は圧倒間に過ぎた。
そろそろあれが始まる時間が近づいてくる。
「おにぃ、ちょっとお手洗い行ってくるね」
「うん」
と夏木が持っていた景品を預かり、俺は夏木を待つ。
だが、夏木が一向に現れない。
おかしい……
なんだか、嫌な予感がした俺は、夏木を探しに行ってみた。
そして、すぐに夏木を見つけることは出来た。
だか……
「ねぇねぇ、お姉さん。一緒に俺達と周らない?」
「だ、大丈夫です……」
「そんなこと言わないで、俺達と遊ぼうよ~」
「いえ、連れが待っているので」
と夏木はナンパしてくるチャラい二人組から逃げようとする。
だが、チャラい二人組は夏木の腕を掴む。
「逃がさないよお姉さん」
「嫌!離してください!」
夏木は必死に抵抗するが、チャラい二人組から逃げれない。
そんな夏木の姿を目のあたりにした俺は勝手に足が動く。
「な、夏木!こんなところにいたのか!ほら、行くぞ!」
足は震え、心臓もばくばくしている。
だけど、夏木を救わないと……
どさくさに紛れて俺は夏木を連れ出そうとした。
けれど、そう簡単にはいかなかった。
「そう簡単に逃がすと思うか!」
と一人のチャラい男が俺の腹にパンチを入れる。
「おにぃ!」
「お姉さん。俺達の言うこと聞かないと、もっと痛めつけようかな……」
「や、やめてください……」
「なら、お姉さんが言う事を聞けばいいんだよ」
「わ、分かりました……」
「よしよし、いい子だ」
と夏木の頭を撫でるチャラい男性。
その姿に俺は思う。
あまり調子に乗らないほうが身のためだと……
だが、もう手遅れだ
「二人とも調子に乗り過ぎですね」
そう言った夏木はもう一人のチャラい男性の腹にパンチを食らわせる。
そしめ、一人は倒れこむ。
それほど、夏木の拳が重いということだ。
「てめぇ!何しているんだ!」
「あなたこそ、大事なおにぃに何をしているのですか?……」
夏木は不気味に笑いながら、そのチャラい男性の拳を回避し、襲い掛かる。
「や、やめろ!」
夏木はチャラい男性を押し倒し、殴る。
「死ね」
「死ね」
「死ね!」
何度も殴り続ける夏木。
もう、相手の顔は腫れていると言うのに殴り続ける。
「ご、ごめんなさい……」
「うるさい!死ね!」
夏木の手は止まらない。
これはやばいと、思った俺は夏木を止めにかかる。
「夏木、もうやめてくれ!」
と言うと夏木の手が止まった。
そして、
「おにぃがそう言うならやめる」
と言った夏木はやっと手が止まった。
二人は夏木に怯えるかのように逃げていった。
これで一件落着だけど、夏木のあの行動は良くない。俺は、夏木に注意する。
「夏木、あまり暴力を振るうのは良くないぞ」
すると、うるうるした瞳で夏木は俺を見た。
「だって、おにぃが……」
その姿に俺は夏木を叱ることが出来なかった。
兄としてここは、きっちり言うべきだろうが、ここまでされたらもう無理だ。
その後、俺達は花火会場に向かった。
だが、来るのが少々遅かったため、あまりいい位置は取れなかった。
だけど、花火があがる時間までは間に合った。
「綺麗だね、おにぃ」
「そうだな」
夏木と花火を見る中俺は、夏木に質問した。
「夏木、夏祭りは楽しかったか?」
そう聞くと夏木は笑った。
そして
「うん!とても楽しかったよ!」
と満面な笑みを浮かべながら言った。
これは成功したと言ってもいいだろう。
毎日のアルバイト、きついことも沢山あった。
だけど、この顔を見るため、俺は頑張ってこられた。
そして、その夢も見れた。
こうして、俺の夏最大のイベントは幕を閉じたのだった。
だが、なんか忘れているような……
もう一つ、大事なイベントが……
読んでくれてありがとうございます!
次回も宜しくお願いします!




