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第七話

~前回までのあらすじ~

新たにベッタラ、マッド、サーモンとフレンド登録を行い、

会社を設立した。

新たに[羊飼い]なる因子と[傀儡]というパラメータも取得し、

ビルドは一層色物感が強くなった。

 大量の使い魔を引き連れ墓地に到着。

「あ、テツさんこんにちは」

「こんにちは、ギル」

「なんか…随分と賑やかになりましたね」

 使い魔の数が大幅に増えてから、初めて会うギルの顔は引き攣っていた。

「だろ?それで、今日はどうするんだ?」

「ええ、班を四つに分けて、外周を二組、敷地内を二組で巡回するそうです」

「だからテツとギル、俺とミーチャの四人で外周を担当する」

 カイルがミーチャと一緒に俺達に合流し説明してくれた。

「この間の大量追放から少しずつ改善していってな、少数だが一端に動ける人材が増えてきてる。今回は危険な外周部を俺達と、ウィルとルーカスの班が担当し、それ以外の新人と中堅は内部を担当させて経験を積ませるのが目的だ」

 そんな説明を聞きながら待ってると、時間が来たのでそれぞれの出発地に移動し、巡回を開始。途中でウィルたちとすれ違う様になっているとのことだ。

 巡回を開始して数十秒、早速大量のレイスが襲って来た。

「早速御出ましか、行くぞ」

 皆一様に迎撃姿勢を取り接敵に備える。

「さあお前達、奴らを翻弄してやれ」

 羊は兎も角、大量の使い魔を嗾け、高みの見物を決め込もうと思ってたが…そんな俺を予想外の、そしてあまりの迂闊さ故の悲劇が襲う。

「え?ちょ!?待っタイムタイムタイム‼」

「え?」

 ギルもあまりの出来事に思わず声が出る。

 遡る事数秒前、<魔道人形>の魔法が先頭のレイスに直撃。此処までは良い、いつもの光景だ。そこへブリキ兵が殺到し、他の使い魔も後に続く…が。

 レイス達は、<魔道人形>と<錦鯉>以外の、使い魔をすり抜け俺に殺到。当然どうでもいい所で逃げ惑う羊は言わずもがな、<シープドッグ>をすり抜けられ、集中砲火を浴びる。

「ぬわーー‼」

「お前何やってんだ」

「真面目にやれ」

 すぐさま三人の援護で事なきを得たが、この事態は想定外だった。

([信仰]を切ったツケがこんな形で来るとは)

 レイスは物理オンリーの、攻撃手段しかないと、ダメージを与えられず、使い魔だとすり抜けられてしまう。そうなれば当然、一番生命力に溢れた俺に群がるわけで…、今更ながら<守護霊>の有難みを再認識する。


「いやはや…酷い目に遭った…」

「戦闘スタイルを変更して痛い目に遭う、よくある事だ」

「まあこれで学習したろ、レイスを舐めてると大変な目に遭うって」

 二人からチクチクと小言を頂きながら、巡回を続ける。

「……」

「ん?どうしたギル?」

 ギルが黙ったまま、ジーッと俺を見ているので声を掛ける。

「あ、いえ…なんでもないです。大丈夫です」

「そうか?まあいいか」

 程なくして、今度は魔狼の群れが襲って来た。

「さあお前達、奴らを翻弄してやれ」

 高みの見物のTAKE2を開始。幸い今度は全ての使い魔が機能し、目論見通り敵を翻弄し、魔狼共はその連携を活かせぬまま殲滅された。

「これがしたかったのね」

「確かに数の恩恵は計り知れんな」

 今度は、ブリキ兵も壁として機能し、羊はうまい具合に回り込もうとする魔狼を翻弄。それを<シープドッグ>が仕留めに行くという、理想が現実になった。

 レイスの様な特殊な相手でない限り、数で押し込めるので、自分のアイデンティティを保てた事で、一安心した。

 その後も襲撃を受け、その都度撃退しながら巡回を続け、途中ウィル達とすれ違い、開始地点を目指し移動し続ける。

「あ~終わった、早く呑みてえな~」

「良いな、後で一杯やろうぜ」

 おっさん二人が、飲みに行こうと盛り上がる中、全員帰還したので、完了のサインを受け取り解散となった。

 俺は新たな課題を胸に、足早にPAに戻った。


 参った、まさかレイスに対しての対抗手段が、貧弱もいいとこまで落ちてしまっていたとは、これは早急に確認しなければ。

「シルク、ちょっと良いか?」

 社内を見渡し、目的の人物を確認し、声を掛ける。

「なんですか?」

「シルクの使い魔に、二体の騎士が居たよな?アレについて聞きたいんだが」

「いいですよ、何を聞きたいです?」

 俺は、あの二体は因子のスキルなのか、レイスにも攻撃出来るのかを聞いた。

「あの二体は、因子[聖人]のスキルで使役出来るです。そしてレイスにも攻撃出来るです。ついでに素の能力ですが、<守護霊>よりも若干高いです」

 それは良い事を聞いた。<守護霊>より素の能力が高い、レイスに攻撃出来る使い魔を二体も使役出来るなら、[聖人]は是非とも取得しておきたい。

「ありがとう、参考になったよ」

 シルクに礼を言って、その場を離れ、自分のチェストを覗く。

(うーん…希少素材を大量放出したから心許ないか…)

 現在Lvを1上げるのにも、3千円強掛かり、現在所持してる素材を全て現金化しても、カンストまでには到底足りえないだろう。

「ハ~…、しゃーない地道に稼ぐしかないか」

 次は[蛇使い]を取得して、更に愉快な軍団にしようと思ったが、先ずは地に足着いた因子を経由しなければ、今後の巡回で苦戦は必至だろう。

「ま、今考えこんでもしょうがない、少し休憩するか」


 休憩を終え、ゲームを再開する。

「ちょっと湿地帯に行って来るわ」

「「いってら~」」

 メンバーに行き先を伝え、ダッシュで現地に向かう。

 現在の俺の移動速度はデフォルトのおよそ二倍、更にダッシュする事で、その速度は三倍になり、そこそこ遠い筈の湿地帯へ、僅か三分ほどで辿り着く事が出来た。

「さて、一気に通り抜けるぞ」

 沼地、湿地草原を見向きもせず素通りし、干潟を目指し爆走。

 目的地に到達し、砂金の採取を開始する。

「良し‼、暫く来てなかったから、全てのシンボルが復活してるな」

 最近増々資源の復活が遅くなり、毎日大量の素材を回収しようとなると、ローテーションに遠出を組み込む必要がでてきて、面倒なのだ。

 それでいて、中途半端な間隔で再訪しても、資源が復活してない場合もチョコチョコと有るので、希少素材が採れる場所は、なるべく温存しておきたいのだ。

 今回は、その甲斐あって、発見済みの全てのシンボルが復活済みなので、目一杯採取して、一つでも多くの砂金を持ち帰る心算だ。

「お、先ずは一つ目」

 幸先が良く、二つ目のシンボルで砂金を採取出来、気分も良くなる。

 時折ちょっかいを掛けて来る、巨大な蟹や、蝦蛄を使い魔が追い払い、採取に専念する。

 此処でも何気に羊が良い仕事をし、他の使い魔の各個撃破を後押しする。

 そんな光景を横目に見ていて気付いた。羊が攻撃を受けると、矢鱈とノックバックするのを。最初は逃げてるから、そう見えてるだけかと思ったが、明らかに他の使い魔と違い、攻撃を受けた際の後退距離が長いのだ。

(なんだろう?単純に防御力不足って線は無いよな…)

 見る限り、羊は堅さだけならそれなりで、[幸運]や[傀儡]の使い魔並みに攻撃に耐えている。防御力不足で、ノックバックを喰らってるわけではなさそうだ。

(でも考えてみると、逃げるしか能の無い羊には合ってる能力だよな)

 追い込まれても、ノックバックで大きく距離を離し、再び逃走を図る。

(これが羊の特性なら、スキルLvで強化されるか試してみるか)

 その場でスキル<羊の群れ>を、Lv10に上げ、様子を見る。

 採取をしながら敵の襲来を待ち、その時が訪れる。

(さあ、どうなる?)

 見た目に反して、動きの速い巨大蟹が羊を追い込…まない?

「あれ?ああ、移動速度が上がってるのか…」

 どうも攻撃能力が無い分、スキルLvを上げた際の攻撃上昇分が、移動速度に変換されているようだ。誤算だが、これはこれで嬉しい。

 そんな想定外な事態を迎えつつ、漸くその瞬間が訪れる。

「メエ~‼」

 俺から一定以上離れられない制約に縛られた結果、追い詰められた羊が被弾。先程とは比較にならない程のノックバックで吹っ飛んでいた。

「やっばい!これは楽しすぎる‼」

 ホント気持ちい位ポーンって吹っ飛んだ羊。これスキルLvを上げまくって、敵に囲まれたらピンボールみたいになるんじゃないか?。

 そんな想像をして、更に笑みが零れてしまう。羊がちょっと気の毒だが。

 こんな感じで、新たな楽しみの発見と、砂金採取に時間を費やす。

「ふう、これ以上はソロじゃ危険だな」

 干潟と汽水域で粗方採取を終え、素材を確実に持ち帰る為に足早に帰還した。


 PAに戻り、羊毛等の使える素材は倉庫に、砂金等の換金率の高い素材はチェストに、それ以外の今の所用途の少ない素材を売りに出す。

「さて、あと直近で採取を行ってないのは…」

 西の山とジャングル、南山の先の砂漠、渓谷の先とその下流と上流、樹海の先。この辺りが候補だろうか?それとも森の踏破のついでに[ゴブリンの核]でも狙ってみるか?、そう思いメンバーに声を掛ける。

「森のマッピングを完了したいから、誰か手が空いて無いか?」

「行こう‼」

 サーモンが即名乗りを上げる。

 結局、もしゴブリンの群れに遭遇した場合、対処できる程人が集まらなかったので、この案は没になった。

「そう気を落とすなよ」

「ええ…」

 どうしても、ゴブリンの二の矢三の矢が欲しいサーモンは、残念がった。

 仕方ないので、再びソロで素材集めに出掛ける。行き先は渓谷の上流だ。

「それじゃあ行くか」

 現地に到着し、スロープを降り渓流に足を踏み入れる。

 暫く上流に向かって移動し、漸く採取可能なシンボルが見え始めた。

「この辺から、未踏破区域か。マッピングも兼ねて蛇行するか」

 何度も川に入ったり出たりを繰り返し、漏れなくマップの空白を埋める。

 当然採取も並行しながらで、少しずつ遡上する。それに伴い水嵩は浅くなったが、道中はどんどん険しくなっていく。

 途中熊が、ベアクローで仕留めた鮭が、俺に直撃し、俺の所持品になった事で熊が激怒し、突っ込んでくる。完全にとばっちりだった。

 そんな熊も毛皮にしてやり、鮭共々お持ち帰りする。

 進むごとに増々険しくなる道中、激しくなる襲撃、だが恩恵も有る。

 上流に行くにしたがって、砂金の入手頻度が若干上がり、他にも砂鉄や銀も取れ、かなり美味しい場所に来ているようだ。

「それでも無理は禁物だな」

 ただでさえ強敵の熊が、上流に行くにつれ、その強さを増していき、頻度も増え、何時足元を掬われてもおかしくない程、際どい状況に成ったので、引き返す事を選択した。

(ソロは身軽だが、こういう時に今一歩踏み込めないのが歯痒い)

 明らかに、ついさっきまでの熊とビジュアルが違う、ヒグマっぽい熊三頭に追いかけられながら、来た道を必死に引き返す。

 どうにかヒグマを振り切り、人の大勢居る安全圏に到達した。

 PAに戻り、戦利品の分別を行い、ログアウトした。


 夕飯を済ませ、再度ログインした。

 メンバーと挨拶を交わし、何をしようか思案する。

 これといって思いつかないので、ギルドに足を運んでみる。

(へ~、東のベースが完成したんだ)

 今まであった、東のベース関連の依頼が無くなり、新たに南のベース関連の依頼が募集されていた。

(仕方ない…薬草集めの緊急依頼を受けるか)

 近場の資源は粗方取り尽くしてるので、緊急依頼等の、例外的に資源が回復する依頼で金を稼ぐ事にした。

「それでは護衛の方は周囲の警戒を、採取の方はいっぱい集めて下さい」

 職員の指示の元、採取を開始する。ちなみに俺は採取係を選んだ。

 俺はその持ち前の移動速度と、[幸運]の高さを活かし、次々と薬草を集め、回収係に渡していく。

 初期の頃は、大体一つのシンボルで、薬草が1~2枚、良くて3枚程だったが、今は4~7位は採れるので、、速度が二倍程になっていることを考えれば、その効率の高さが分かるというものだ。

 使い魔の存在も相まって、当然目立ちまくりだが、今更気にしない。取り付く島も無い程忙しなく動き回り、今の所絡まれずに済んでいる。

 あっという間に周囲の資源を取り尽くしたんで、職員に聞き、自己責任で奥地に入る許可を頂き、単身中層に侵入した。

「多分そろそろ襲撃が起こるから、俺が真っ先に狙われるな」

 多分今の俺なら、多少囲まれた程度なら、平気だろうという打算も有るが、少しでも無理をしないと、自己強化に掛かる費用に対して、収入が圧倒的に足りないので、こういう時に無理をさせてもらう。

 程なくして、犬…じゃないな、魔犬の群れが襲って来た。

「いきなり魔犬かよ、タフな展開になりそうだ」

 これには羊と犬以外の、10体の使い魔が応戦し、問題無く撃破に成功した。

 多少はペースが落ちたものの、採取を継続し、順調に素材を集める。

 次第に頻度も数も質も増した襲撃に、羊と犬も巻き込まれ、総力戦に発展した。

「うん、まだ余裕が有るな、でも討伐の素材も考えると、そろそろ戻る方が良いか」

 魔犬が、魔狼、猪、熊、と強くなっているので、ある程度間引きつつ、後退する。

「お、やってるやってる」

 浅層に戻ると、既に防御陣地を構築済みで、籠城戦を展開していた。

 取り敢えず挟み撃ちを避ける為、一旦距離を取り、防御陣地の側面に着く。

「おお君か、無事だったんだな」

「どうします?素材をタンマリ持ってるんで、ホームに戻った方が良いですか?」

「うーん…そうだな、薬草の確保が目的だ、何とか確保した分を届けて欲しい」

「了解」

 俺が中層で粘ったからか、思いの外防御陣地には、敵が群がっていなかった。

 ギルドに向かった俺は、薬草を納品し、計400枚分の報酬と大量納品ボーナスで、1万円の報酬を受け取り、ギルドを後にした。


「ただいま~」

 PAに戻り、整理分別をし、教会に行きLvを48に上げた。

 そのまま道具屋に向かい、安物の斧を購入。いよいよ採れる資源が乏しくなったので、伐採に手を出すべく、斧を購入したのだ。

 森に向かい、周囲を見ると、今までただの木に見えていた何本かが、シンボルとして光り輝いて見えるようになった。

 フンッ!と斧を振り、伐採を開始、安物故か切るのにそこそこ時間が掛かった。

 一本の木から採れた木材は十個で、一個のコストは1だった。

 その後も夢中で木を切り倒し、150コスト分の木材を持って一旦帰還した。

 さて、この木材を金に換えるには、どうすれば良いか…。

「パミル、シルク、マッド。ちょっと良いか?」

 職人三人を呼び、木材での金策を相談する。

「うーん、木工は門外漢なのでなんとも」

「私もです…」

「ヒヒ…、俺も」

 三人集まれば文殊の知恵とも言うが、専門でなければ致し方あるまい。

「一応そのまま売るよりは、加工した方が良いんだよな?」

「そうですね…製材機があれば、板材に出来るので、価値は上がると思います」

「板材を更に加工するのも手です」

「ヒヒ、俺の薬剤を使えば、更に価値を付けれる…」

「成程…マッドの調合で付加価値を付けれるとして、やっぱ加工は専門の職人がやった方が、より品質は上がるんだよな?」

 三人共それは間違いないと言うので、木工職人の勧誘も視野に考える。

「誰か木工を兼任する予定は?」

「僕は無いですね、アクセで既に枠が苦しいです」

「私もです」

「俺も…」

「分かった、じゃあ木工と、染色や塗装の専門家を探してみるか」

 会社を出て、ソロで内に入ってくれそうな人を探す。


 翌朝。

 ログインしながら、昨夜の事を思い出す。

(うーん…やっぱ探したからって、直ぐに見つかるもんじゃないな)

 こういうのは出会いであって、そうそう望んでどうこうって話じゃないしな。

 それとなく露店を覗きながら、目当ての人材を探したが、結局は不発に終わった。

 日課の治験を受け、水汲みを済ませ、半分の25コスト分を売りに出し、残り半分は社員の自由枠として確保する。

 数日販売してみた感想が、安値で売る位なら、自分らでクラフトに使った方がよっぽど金になるし、有意義だ。

 その後、売上金を確認すると、ギリギリ5万に届いていたので、製材機を増設した。

 これで誰かが、木材の乾燥から製材までやってくれるだろう。

 薬が抜けるまで、まだ時間が掛かるので、昨日に引き続きホームを散策する。

 改めて、今うちのクラフト関係で、全く手が出せない分野を考える。

 真っ先に浮かぶのは農業だ。農業はPAの様な空間に畑を持つか、ビルディング同様フィールドに時間制限付きの畑を作り、作物を育てるのだが、誰でも無条件に取得できる、一般スキルだけでは補正が低すぎて、頑張ったとこで下手の横好き程度にしか、成果が出せない。

 もし本格的に稼ごうと思うなら、最低でも[農家]の因子を一つは取得したい。

 他にも[百姓]の因子があれば、短時間で開墾する事が可能だ。

 フィールドを時間制限付きとはいえ、開墾出来るなら、PAで態々農業をやる意味は?と思うかも知れないが、フィールドを開墾する場合、開墾する場所で田畑の質やタイプが変わって来るが、会社なら、畑も水田も思いのままだ。それに、一度収穫した田畑は、再度開墾しなおす必要がある為、会社で農業用の畑を増設しても、都度開墾する必要があり、取得した因子は無駄にはならない。

 まあ、農業は魅力的だが、安定して稼ぐには、前提条件が多いので、拡張方針にも入れてないし、今後も直ぐにとはいかないだろう。

 そして次は鍛冶で、これも専門的な因子の力が無いと、厳しい分野だ。

 パミルも多少金属を扱うが、それはあくまで細工の範疇であり、研磨や彫刻に分類され、本格的な鍛造は門外漢である。

 もし鍛冶が出来れば、鉄鉱石を鍛造する事で、高品質なインゴットを量産出来るが、これも該当する人材が居ない為、現在は封印中。

 後は漁業もそうか。これは川沼海等で、水産物を獲るものだが、ちょっとした採取なら、[幸運]持ちの俺なら、それなりに稼げるが、漁となると話は違ってくる。

 水辺や水中に罠を仕掛けたり、網を使い魚介類を捕獲するには、[漁師]や[マタギ]などの因子が重要になって来るので、これも封印中だ。

 現在欲しい人材は、木工、染色、塗装の専門家だが、出会いがあれば、農業、鍛冶、漁業の専門家も是非迎えたいところだ。

 暫く露店を見て回ってると、着物を着た女性プレイヤーが目に付く。

「いらっしゃいませ、気になるしながおありですか?」

「いや、ちょっとこの布の出所が気になってしまって」

 いかにも老舗の女将さん的な、しゃべり方をする店主。

「私は染めるのは得意ですが、布を織る事は出来ません、なので布は既製品の中から、自分の目に適うものを選び染め上げております」

 女将の店は、染められた布を扱っていて、丁寧に染められた布には、様々なOPが付いていた。これで防具を作ればさぞ強力な布製防具が出来るだろう。

(なんか幾つかの布に見覚えが有るんだよな…)

「あの、これって羊毛で出来てます?」

「ええ、よくお分かりになられましたね。最近少量ですが、高品質な羊毛の布が売りに出されることが有るので、運よく手に入ったら、染めて販売しているんですよ」

 もしかしなくても、多分俺が提供した羊毛で、シルクが織った布だろうな。

「それって、この布の事ですか?」

 俺はSS(スクリーンショット)で撮っておいた、羊毛で織った布の画像を女将に見せる。

「‼そうで御座います。もしやあなたがコレを?」

「いや、素材は自分の提供ですが、仕立てたのはメンバーの一人です」

「そうでしたか、いつも貴社の製品にはお世話になっております」

 なんか妙に堅苦しい会話になってしまっているぞ。

「いやいや、そんなに畏まらないでください、ところでものは相談ですが」

 俺は女将さん…おりょうさんに、うちに来ないか打診してみた。

 結果はOKだったので、さっそくおりょうさんを連れて、PAに戻る。


「ただいま~、新しい仲間を紹介します」

「新入りの、おりょうといいます。よろしくお願いいたします」

 取り敢えず今いるメンバーに紹介し、そのほかにはメールを送っておく。

「さて、おりょさん、足りない設備は有りますか?」

「そうですね…染色機は…ありますね、乾燥機もある…大丈夫ですね」

 綺麗な水は井戸で汲めるし、染色に使う染料は、マッドに調合して貰えば、今以上に高品質な染め物を作れるそうなので、嬉しそうにしていた。

 それに、染めた布は、アクセサリにも使えるので、パミルも恩恵を受けれるので、いい具合に職人間のシナジーが強まったのも嬉しい結果だ。

 四人は早速ああでもないこうでもないと、議論を開始したので、おりょうさんの事は彼らに任せ、俺は通常業務に戻るとするか。


 薬の効果も抜けたので、採取の為に森に出掛ける。

 少しだけ間を空けた事で、資源も復活していたので、次々と採取する。

 気合を入れて、森の外周を一周しホームに戻り、浅層を一周して戻る。

 同じように中層を一周したとこで、昼になったので、中断し飯を食う。

 外周浅層中層と回り、納品した数はおよそ1500枚、3万円の稼ぎになった。

 やっぱ[幸運]と[速度]のお陰で、採取出来る資源さえあれば、稼ぎ効率はダントツだ。資源さえあれば…だが。

 なんにせよ金が入ったので、Lvを57に上げる。

「採取場を分かりやすく、日替わりにする為に、このまま森で採取するか」

 荷物を整理し、斧をチェストから出し、森に向かう。

「木材は伐採したばっかりだから、浅い箇所には無いか」

 まあ分かってたことなので、深層で、薬草と一緒に木材も集める事に。

 木を伐り、薬草を摘み、動物を狩る。ソロだから、勿論慎重に。

 初期に比べ、強くなったとはいえ、魔物の出現数が大幅増えてるので、寧ろ今の方が以前より相対難度は上がっている。

 死亡すれば、所持金、消耗品はや素材は全ロストだから、兎に角奇襲には気を配る。そういう意味では羊は優秀だ。勝手に散らばるから囮には持ってこいだ。

 大量の使い魔のお陰で、奇襲で俺が真っ先に死ぬことはまず無いので(決してフラグではない)、安全マージンは十分とれているだろう。

 時折現れる、熊の魔物[マッドベア]に冷や汗を掻かされながら、作業は進む。

 深層の資源も粗方回収したので、最深部に向かうと。

「メエ~~~!」

 突然羊が吹っ飛んできて、何事か振り返ると。

「え?、オークか?」

 初めて見る野生のオークが、使い魔に阻まれながら、必死に羊を追いかける。

 理由は不明だが、執拗に羊を追おうとするオーク。単体の強さは、相当なもので、群がる使い魔を投げては千切り千切っては投げ、蹂躙するがたったの二体な為、底を着かない物量に呑み込まれ、昇天した。

「羊が好物だったんだろうな~」

 オークのドロップ品を回収し、大量の素材を持って帰還した。


「じゃーん‼[オークの核]ゲットだぜ!」

「おおお!?」

 戻ったらログインしていたサーモンに、[オークの核]を見せびらかす。

「二体倒したら運よく一個ドロップしたんだ。

「いいな~、ところでオークは強かったか?」

「単体で熊三体分位?」

「化け物じゃん…」

 実際は羊にまっしぐらで、使い魔に呑まれたが…、言わぬが花か。

「コレ、レートは[ゴブリンの核]と同じ位で良いのかな?」

「いや、もっと上だろう、あ、いや、コストや時間にも依るか…」

「それもそうか、じゃあこれサーモンにあげるよ」

「…良いのか?」

「データが無いと仮に売り出しても買い叩かれるかもだし」

「分かった。それならこれを」

 代金代わりに、砂金や金鉱石などの素材を受け取る。

「では早速契約するぞ」

 サーモンは核を使い、オークを従魔にした。

「折角だしオークの検証をしよう」

 てことで、再度森の深層に向かった。

「フゴーー!」

 召喚したオークは、未強化という事も有り、棍棒に木の盾に腰蓑という、みすぼらしい装備だが、熊と真正面から殴り合い、あっさりと勝ってしまった。

「強いな」

「ああ、召喚時間は短く、コストもかなり重いが、その分クールタイムが矢鱈と短いのが良いね。これなら充分一線級で使っていけるよ」

 色々と検証した結果。[オークの核]の価値は、[ゴブリンの核]と同等レベルだろう、という結論に達した。

「常時召喚のゴブリン、戦闘時に()べれば取り敢えず()ぶオークって感じだな」

「だな、人型ってのもあって、両方汎用従魔だし、暫くはゴブ2オーク1で良いかも」

 素材を回収し、懸念事項の好物を追い回す挙動を確認する為に、中層浅層で、鹿や兎にぶつけてみたが、普通に戦ってくれたので、あれは野生限定の特性と断定した。

 一通り知りたい事も知れたので、PAに戻り、飯落ちした。


 昼飯休憩後、再ログイン。

「さて、森は暫くは放置として、次は何処にするか」

 資源の回復具合を見極め、効率よく金を稼ぐのも骨が折れる。

 ふと皆はどうやって稼いでるのか気になったので、聞いてみた。

「普通に討伐依頼で」「依頼で」「お使い依頼で」「クラフト品の販売納品で」と、様々な回答がか言って来た。

 皆自分のビルドに合った稼ぎを実行してる様だ。

「自分に合ったか…」

 そう考え、果たして今の根こそぎ回収作戦が良いのか疑問に思う。考える時間があるなら動け。って思わなくも無いが、考えるのも立派な攻略だ。

(俺には、大量に荷物を持てるコスト的余裕、周回に向いた足の速さ、そして敵を塞き止めてくれる大量の使い魔…)

 ある程度のリスクを呑むならば、危険地帯に単身乗り込み、使い魔を捨て駒に素材を掠め取って来るってのが、俺のビルド的には良いかもしれんな。

(うん、資源の回復が今以上に遅くなって、ローテ出来なくなったらやってみるか)

 という事で、南山に向かい、採掘する事にした。


 山に着くなり、兎に角採掘をする。

 このゲームには素材間に価値の優劣こそあれど、需要の無い捨てる素材は一切無い。

 ただの砂や砂利ですら建材になり、場合によっては砥石をクラフト出来たりと、薬草同様幾らあっても足りない資源だ。この世界に砂掛け婆が居れば、大富豪間違いなしだな。

 山の麓や、標高の低い位置での資源を根こそぎ掻き集め、帰還。

 それを繰り返し、ソロで何とかなる範囲の素材を取り尽くす事が出来た。

 更に、同じことを樹海と渓谷でも行い、就寝の為ログアウトした。


 翌日夜。昨日の素材の売り上げを確認する。

 諸々の売上金として、10万円入ってたので、思い切って設備を二つ増設する。

 増設したのは二種類のミキサー。工業ミキサーと食品ミキサーだ。

 これらが有れば、セメント類が大量かつ高品質で量産出来、卵やクリームのホイップ、ポーションの撹拌などが短時間で済むようになる。

 一応建材はパミルが、食品はマッドが少しだけ適性があるので、二人に昨日の余った素材の加工をお願いしておいた。

 大分設備が充実してきたが、まだまだだな。Lvを遅々として上がらないが、この投資はこの先絶対に役に立つと信じ、今は加工用の設備の増設に注力する。


 それから一週間後。

 Lvは74に上がり、設備も更に充実した。

 料理関係でミンサー、井戸水を真水に変える濾過機、この二つを増設し、メンバーが各々使う設備をLvアップした。

 そういえば会社の名前なんだけど、なんと未定状態でも受理されたので、現在もそのまま社名未定の状態で、運営している。

 なんか会社を指名する、指名依頼を受けれないデメリットが有る様だが、その他の機能に支障は無いし、却って煩わしさが無く快適なので、このままにしている。

 ああ、そうだ、井戸の水汲みだけど、井戸に自動汲み上げ機を取り付けたので、毎日の水汲みから解放され、汲み忘れによる損失も無くなったのも地味に嬉しい。

 後は会社にペットが追加された。今の所猫一匹と兎一羽だが、アコがせっせと可愛がり、Lv上げを頑張っている様だ。

 目立った変化はこんな所かな。

「それじゃ採取にいってくるわ」

「「「いってら~~」」」

 最近じゃ、移動速度とコストに大分余裕が出来たので、近場の資源は復活した傍から、根こそぎ採取して即枯渇なので、遠出する事も当たり前になって来た。

 やっぱ転生六回目ともなると、Lv1違うだけで、相当能力に開きが出る。

 この一週間で上がったLvは17、これは一周目のキャラのカンスト分に相当するので、以前とどれだけ強さが変わったか分かるだろう。

「よ~し、採取しまくるぞ!」

 今いるのは湿地草原の先、汽水域干潟エリアだ。

 蟹や蝦蛄を使い魔に任せ、採取に専念、しゃしゃって来る敵の素材と共に、どんどん集めていく。

 コストに余裕が有るので、これでもかと詰め込み、全てとは言わないが、たったの一回で、相当の資源を採取する事が出来、満足し帰還した。

 日課の治験を受け、ホーム内の配達依頼を受け、時間を潰した。

 最近は治験の第二段階にも適応してきたみたいで、負担も減った。

 そのぶんホーム内のお使い依頼で、少しでも稼げるようになった事も、モチベーションを維持できる地味な要因でもあるだろう。

 さ、時間も時間なので、ログアウトして寝るか。


 この日も採取目当てで、遠出をした。

「今日は沢登でもするか」

 今日はなんと全員付いて来る事になり、とんでもない大所帯になった。

 なんでこんな事になったかと言うと、今日の昼に、公式から超大型アップデートのお知らせがあったからだ。しかも配信日は二週間後と直ぐで、皆戦力を底上げしようとやる気なのだ。

 さて、肝心なアプデ内容はだが、遂に別の惑星が実装される様だ。

 しかも驚く事に同時に二つもだ。

 実装される惑星の名前、1つは[バグスター]、もう1つは[フォレスト]だ。

 [バグスター]は、超巨大な昆虫や毒虫が支配する惑星。

 [フォレスト]は尋常じゃない生命力と攻撃性を持った植物が覇権を握った惑星だ。

 プレイヤーは、この二つの惑星に降り立ち、人類の生存圏を広げる役目を負う。

 そしてこちらが惑星に乗り込むように、また、バグスターもフォレストも黙ってはいない様で、向こうからアースに侵攻してくるようになる様だ。それもかなり頻繁に。

 双方がどういった手段で乗り込んでくるかは分からないが、[ゲートキーパー]の刺激になれてきたプレイヤーには、いいカンフル剤になるだろう。

 更にゲームのルールとして、それぞれの惑星に外来種が降りったった場合、在来種と外来種は必ず敵対する様にされる為、アースが侵攻された場合を考えて、ある程度生態系を考慮する必要がありそうだ。

 というのも最近、生物や魔物は、討伐状況で、生息数に変化が出るのが検証で分かり、繁殖力が低く、旨味が強い生物は、めっきり数が減ってるそうだ。

 敵の侵攻が想像を上回るなら、狩るより保護する必要すら出てきそうだ。

 そんな事を考えてる内に、渓谷に到着した。


「良し、じゃあひたすら上流に向かって採取するぞ!」

「「「おおー! 」」」

 こうして採取は始まった。

 今回の告知では方々に衝撃を与えたようで、いつも以上に人が多い。

 俺達は砂金目当てに上流へ無向かう。相変わらず需要の高い砂金を金に換え、ここ等で一気にLv上げを行うのが目的だ。

 ちなみに砂金が出る確率はそうだな…、あくまで自分の体感だが、砂や砂利200個に1個は出る感じかな。大体一つのシンボルで、素材が10~12だから、まあそこそこの確立で出る。[幸運]様様だ。

 現在俺の残コストは350弱、砂のコストが0.5、砂利のコストが1なので、コストいっぱいまで採取すれば、1~2個砂金が手に入る計算だ。

 更に上流に向かう程、レア素材が出る確率が上がっていく。

 そして、皆考える事は一緒で、いつもは人が疎らな上流も、今日は凄い賑やかだ。

 生物や魔物は、早い者勝ちだが、シンボルは個別に判定が有るので、俺達はマイペースに採取をしながら先に進む。

「敵が居ないから楽だな、俺ここまで来たの初めてだよ」

「皆アプデでLv上げに躍起だからな」

 そんな中、パミルがこんな提案をしてきた。

「テツさん、粉砕機とプレス機を増設しましょう」

「?それで何が作れるんだ?」

「沢山の砂や粘土、砂利が有るので、ミキサーや乾燥機と組み合わせれば、砥石を大量生産出来ます。今後間違いなく需要が上がるでしょうから、素材を消化するのにもうってつけです」

 それは良いな、ということで、帰ったら増設するか。

 それから暫く上流に進むと、左手にジャングルと連動した山が、右手に薄っすらと雪化粧をした山が見えてきた。

「な、なんだか冷えてきたわ」

 ユキが身体を抱きながら震える。

「渓谷の先は山脈があって、その先は豪雪地帯の様だな」

 マサが分析する。

「前線組の情報ですと、マンモスやサーベルタイガーなど、超危険な()()が徘徊する危険地帯みたいですね」

 と、ベルの補足が入る。

「まあ、何れにせよ、俺達の実力じゃここ等が潮時だろう」

 さっきからグリズリーの襲撃に晒され。消耗が激しいのだ。

 追い込まれてからじゃ手遅れになりそうなので、余力がある今の内に撤退する。

「無事に戻れて良かったな」

 その場で解散し、俺は設備の増設をする。

「えーと…粉砕機とプレス機だったな」

 粉砕機は、石や鉱石、砂利などをパウダーに加工出来る設備で、鉄鉱石なんかは、鋳造前に粉砕機に掛ける事で、より純度の高いインゴットを作れるようになるので、砥石やブロック以外のクラフトにも役立つ。

 プレス機は、方に詰め込んだ素材を、圧縮成形したり、金属板を成型する設備で、今まで不良在庫になっていた建材を、砥石やブロックに成型する事で、金も稼げて倉庫も空くという一石二鳥な設備だ。

 売上金から資金を捻出し、二つとも増設。更に細工台のLvを5に上げた。

 その後、パミルに俺の持ってる砂金と使えそうな素材を全部渡し、出来た物を売りに出す様に頼み、就寝の為にログアウトした。


 夕飯を食べ、ログイン。

 早速売上金を確認すると。パミルが分かりやすく分けてくれたようで、俺の取り分として、30万円の売上金が入っていた。

 その金でLvをカンストさせ、転生、更にLvを60まで上げた。

 今回の転生で、因子が幾つか解放されてたが、今回は涙を呑んでスルー。

 当初の予定通り、[聖人]を取得した。

 パラメータは、お試しに、[体力]を[防護]に入れ替えてみた。

 [防護]は、[装甲]の互換パラメータで、素のままなら[装甲]と何一つ違いが無いが、スキルを取ると、性格がガラッと変わる。

 とはいえ、スキルを取る予定は無いので、ざっくり説明すると、SHI(シールド)([防護]を取ると追加されるステータス)の最大値を減らし、回復速度や、回復量を増やせるパラメータで、特化すれば、少量のダメージならば、永遠と受け続けれるようになる。

 まあそうするには代償も必要だし、今回は、何時かは減らすかもしれない防御パラメータの厳選という事で、お試しで選んだだけだ。

 なんせ、[傀儡]で使い魔のLPが大幅に上がっているから、無理に複数の防御パラメータを採用する必要が無くなったから、来るべくその時までに、一つだけ採用する防御系パラメータの吟味をしている状況だ。

 スキルは、<生存本能>Lv20 <ゴーレム使い>Lv10 <魔道人形>Lv10 [幸運]と[傀儡]の使い魔を各Lv1 <シープドッグ>Lv40 <羊の群れ>Lv20 <野生の力>Lv40 <速度上昇>Lv80に。

 新しく[聖人]の<代行の剣>と<代行の盾>をLv20で取得した。

 これでスキルの総コストは、268となり、残コストは212となった。


 さて、今日もフルメンバーで出かける事になったので、干潟に来た。

「こうしてみると只の潮干狩りだな」

「確かに、皆しゃがんで砂掘ってらあ」

 干潟は砂金が採れるから、一攫千金を狙うには良いロケーションだ。

 更に俺達には、ミキサーにプレス機まで有る。干潟で採れる泥や砂利は、様々な建材やセラミック板等、需要の高い素材に加工出来る。

 これまでLv上げだけに金を注ぎ込んできた分、Lvだけなら最前線組にも劣らない。

 そんな中、カンパニーの実装で金の使い道が増えた事で、エンジョイ勢は中々会社の設立が出来ず、その後の設備投資に躓いているのが現状だ。

 そこで、Lvに余裕があって、未だ金を注ぎ込みたい装備に出会わない俺は、変哲の無い素材を効率よく金に変換できるクラフト設備に投資し、金稼ぎの手段において、エンジョイ勢の中ではかなり有利な筈だ。

 今の所、売りに出す商品は、直ぐに完売するので、品質には自信がある。

 そんな俺達は、採れる素材なら何でも採る。自前で設備を抱える強みを活かして。

 全員の手持ちがいっぱいになったら、俺、アコ、パミルが荷物を受け取り、PAに戻る。

 三人の中で、群を抜いて足の速いアコが、PAに荷物を届け、一番足の遅いパミルと合流。

 アコが持てる分だけ渡し、俺を抜いて会社に荷物を届け、俺が会社に着く頃には、再びパミルと合流。

 受け渡しを済ませ、パミルは干潟に引き返し、俺も干潟に向かう。

 遅れてアコも干潟に向かうと、俺達三人はほぼ同じタイミングで、干潟に戻って来る事が出来た。

 効率のいい輸送手段を確立した俺達は、同じ方法で、干潟の資源を片っ端らから集めていき、開始から四時間で、干潟のみならず汽水の素材も全て回収し、この日は解散となった。


 翌日。

 昨晩の成果を金に換えるべく、職人衆には頑張ってもらう。

 流石に二日続けて採取は飽きたのか、皆各々動いているようだ。

「俺はどうしようかな」

 取り敢えず、数日分の治験を消化する為に、研究所に向かう。

 そこで、いつもの様に、医療ポッドに入ると思いきや。

「今日は検査をしますので、指示に従い行動してください」

 言われた通り、複数の検査を済ませ、マッド博士の話を聞く。

「おめでとう、実験の第二段階をクリアした。これより最終段階に入る」

「おお!?」

「とはいえ、する事は何も変わらない、体に異物を取り込むという事自体は、だが」

 すると博士は点滴の管の様な物と、太い注射器を用意し。

「今から君に、ナノマシンと制御チップを注入する。覚悟は良いか?」

「それは、苦しいのか?」

「本来であれば、否だ。しかしこれから注入する物は、最先端の特殊な装置だ。ステップを踏まずに、体内に入れれば、直ちに廃人まっしぐらだ」

「成程、その為の薬物投与か」

「その通り、あれはこの装置をそれぞれ注入した場合の、苦痛を再現したものだ。その二段階の工程に耐え、乗り切った君なら、これらの装置の同時注入にも耐えれるだろう」

 この実験も、徐々に体に慣らす為に、一時間半経過したら、研究所に戻り、装置を取り除くそうだ。

「この実験の終着点は、装置を体内に入れたまま、普段の行動を支障なく出来る様に成る事だ。その時を持って、実験は修了し、君には新たな力が顕現するだろう」

 どうやらこのチェーンクエストは、巷で噂になっている、アビリティの取得イベント出た様だ。

 アビリティとは、様々な条件を満たしたキャラに付く固有技能で、同じ内容のクエストを受けても、違う効果のアビリティを取得したりと、効果はプレイヤーのこれまでの行動で決まる様だ。

 俺にはどんな効果が付くのやら、楽しみだ。

「分かった、やってくれ」

 博士に承諾の意を伝え、俺の身体にナノマシンと制御チップが注入された。

「う゛っ!?ううう、う…がああーー」

 凄まじい苦痛が襲って来たことで、苦悶の声が漏れる。

「はあ、はあ…ふーー」

 どうにか明鏡止水の心持で、落ち着きを取り戻し平静を保つ。

「ふむ、導入は乗り切れたか」

 博士の言葉を聞きながら、ステータスを確認する。不思議な事に能力は一切下がっておらず、倦怠感もこれといって感じない。

「完全に適応出来た様だな。だが性急は事故の元だ。最終段階も時間を掛けて行う」

「分かった」

 一時間半後に戻るまで、解放された。


「さて、能力の低下が無かったから、遠出も出来るな」

 一時間半という、時間制限も有るし、昨日はじっくり見れなかった、[聖人]の使い魔の強さも確かめたいので、敵が押し寄せて来るベースの応援に向かった。

 紫の水晶を受け取り、南西に向かう。

「ふむふむ、強さとしては、<守護霊>より若干強い位か?」

 スキルLvを20にしてるので、行動頻度は十分高く、Lv20の<守護霊>と比べ遜色ない。

 <シープドッグ>は、Lv30で一皮剥けた感じで、かつての<守護霊>と同等の活躍をしてくれる。いや、素早く、被弾面積の小ささを考慮すれば、レイスに攻撃できない事を差し引いても、それ以上の活躍をしてると言えるだろう。

 <羊の群れ>もLv20にした事で、吹っ飛び具合が更に愉快な事になって、敵のヘイトを無茶苦茶にかき乱すのが、最高に楽しい。

 [幸運][傀儡]の使い魔は、Lv1運用なので、強くは無いが、数の暴力で貢献度は高い。

 一人で参加した事と、過去最高のステータス、ユニット数で、かなり余裕を持って、一時間半凌げたので、ベースに戻って終了した。


 研究所に戻り、溜まったデイリー消化の為、本日二度目の治験を受ける。

「時間的に就寝ギリギリだな」

 次はどうしようかと考え、そういえばと思い出したのが。

「マッドが、ナメクジの粘液が欲しいとか言ってたな」

 [ジャイアントスラグの粘液]は用途が広く、ポーションにも使えるし、建材にも使える。粘液を混ぜたブロックやセラミックは、強度が増したり魔法耐性が付いたりと、ビルダ―ガチ勢にはいくらあっても足りないので、需要は底なしだ。

 早速沼地に向かうと、パーティーなのか、八人ほどのプレイヤーが、ナメクジのボス[キングスラグ]と戦闘を行っていた。

「おお、やってるやってる。邪魔しない様に端っこで狩りをするか」

 沼の端で、ナメクジと戯れる事約十分。ボスが発狂モードに入った様だ。

「お、キタキタ。さて、ご相伴に預からせて貰おうか」

 [キングスラグ]が発狂すると、配下のナメクジを大量に呼び寄せ、それらを吸収してLPを回復する。そのうえ攻撃も激しくなるので、対策を取っていないとまず倒せないボスだ。

 そんな配下のナメクジだが、ボスから離れた周囲360度の位置からスポーンし、輪を狭める様にボスに接近する。

 俺はボスとは関係ないナメクジを狩りつつ、不可抗力でこちらに向かって来たナメクジのみを狩る、という体で、狩りと採取を平行しその場に止まる。

 あくまでボスに挑戦しているのは俺じゃないからね、露骨な寄生は自重する。

 そんな感じで、暫く戦いを見守りつつ、野良のナメクジを狩り尽くしたとこで、ボス戦も佳境に入ったようなので、帰還した。

 マッドに大量の粘液を渡し、荷物を整理し、ログアウトした。


 一週間後。

 アプデを数日後に控え、プレイヤーの準備も佳境に入る。

 新たな情報としては、成長限界の解放が告知された。

 現在の成長限界は、転生九回までのLv100が限界だったが、アプデ後は、転生の上限回数が引き上げられ、今まで以上に強くなれる様だ。

 逆に言えば、それだけ強くならないと、新たな惑星開拓は厳しいということだろう。

 俺もLvを85まで上げ、何時でも転生出来る様に、数十万円分の素材を貯め込んでいる。

 設備の方も大分強化され、加工品の売り上げも順調に伸びている。

 おりょうさんもうちに大分慣れたようで、日夜職人達と生産に勤しんでいる。

 あとうちに欲しい人材は、調理師、鍛冶師、塗装屋だな。

 これらを専門にする人材が確保できれば、大量に手に入る素材の全てを金に換える事が出来る為、うちの空気にあった人が居れば是非勧誘したい。

 まあこればっかりは出会いなので、気長にって感じだな。

 さて、今日はメンバー総出で、樹海に向かった。

 俺が、未だに樹海の先を見たことが無いと言うと、アプデ後に機会があるか分からないから、今の内に見ておけ、と言われたので皆で行く事にした。

「確か港を作ってるって話だっけ?」

「ああ、まだまだの様だが、ギルドの出張所も有って、結構しっかりしてるぞ」

 何度か港予定地に行った事があるマサにガイドを頼む。

 道中はこれといって、苦戦も無く進み、樹海を抜けた。

「お~!リゾート地の砂浜って感じだな」

 そこには、海の家の様な店が乱立し、真夏の海水浴場の様な賑わいを見せていた。

「こうしてみると、まったりライフを楽しんでる人もかなり居るんだな」

「そりゃそういう触れ込みのゲームだからな」

「いや、なんだかんだ、金が肝のゲームだから、ちょっと意外で」

「まあな、でも採取や戦闘以外でも稼げるなら、こういう楽しみ方も有りだな」

 俺達はグルっと一周観光を楽しみ、樹海に戻った。


「この樹海を、南に突っ切ると、砂漠に出るのか」

「ああ、砂漠は超危険地帯だからな、今の俺達には丁度良い鍛錬場だな」

 マサ曰く、巨大蟻地獄、ハゲワシの魔物、巨大ワーム、砂漠平目等、異常に強い生物から魔物まで、選り取り見取りな環境だそうだ。

 俺達は樹海を抜け、砂漠地帯にでた。

「早速なんか来たぞ」

「いきなりツインテールか、あれは大蠍が魔物化したやつだ」

 尾が二股に別れた[ツインテールスコーピオン]、魔物化したことで、底上げされた能力に、二本になった毒針が危険な奴だ。

 幸い一体だけの登場で、ユキの[アイススピア]であっさりと沈んだ。

「あ、あれ?」

「どうやら氷が弱点だったようだな」

 砂漠の生き物は水は好きそうだが、寒さには弱いのかな?。

 検証すると、やはり冷気に弱い様で、マッドの冷却ポーションが猛威を振るった。

「ヒヒ…荒稼ぎの予感」

 実際、俺とシルクの使い魔に群がる敵を、[アイススピア]とポーションを切り札に、狩ってるだけで、そこそこの素材が集まってしまった。

「毒針に毒腺、サソリの肉か、使い道は多そうだ」

 他にも様々な素材を得る事が出来、加工が楽しみだ。

 その後も戦闘を続け、俺達のLvと転生回数的に、砂漠でも十分動ける事が判り、素材も大量ゲット出来、有意義な冒険が出来た。

 PAに帰還し、自由行動にした後、マッドを呼ぶ。

「この毒針とか毒腺を使って、毒を抽出する事は出来るんだよな?」

「ああ…問題ない…ヒヒ」

「それで考えたんだが、その毒薬を砂や砂利に混ぜて、毒ブロックとか作れないかな?」

「ほう、…それならおりょうさんが適任かもしれない…ヒヒ」

 ということで、おりょうさんを呼んでみた。

「私の力が必要と聞いて」

「ええ、建材と、毒薬を使って、毒入りのブロック等が出来ないかと、マッドと話してたら、おりょうさんに頼ろうとなりまして」

「成程…砂を毒で染める訳ですね?」

「ヒヒ…出来ますか?」

「どうでしょう?考えた事も無いですが、面白そうですね一丁やってみましょう」

 という事で、マッドが毒薬を作る間に、在庫であった砂と泥を、水で洗浄し、染め上げる前段階を済ませる。

「ところで、砂を染める事って…」

「勿論出来ますよ。このゲームでは初めてですが、イケる筈です」

 そうして砂と泥を乾燥させてると。

「こっちは完了した、後は任せた…」

 マッドが毒薬を完成させたので、二人でおりょうさんの作業を見守る。

「では、いきます」

 おりょうさんは、袋に詰めた砂と泥を、染色機へ投入し、毒薬も入れる。

 そうした作業を暫く見守り、暫く待っていると。

「出来ました。こんな感じになりました」

 [毒染めの砂]毒がコーティングされた砂、扱いに注意。コスト1.

 [毒染めの泥]毒がコーティングされた泥、扱いに注意。コスト1.

「良し、これをブロックにしてみよう」

「ならこれも入れてみよう…」

 マッドがナメクジの粘液を取り出し、提案する。

「じゃあ使ってみるか、ランクが若干離れてるな、マッドのアビリティでどうにかなるか?」

「ああ、ランクのズレが10以内ならば問題ない…」

 マッドが最近獲得したアビリティ、[エマルション]は、本来ランクを揃えないと出来ないクラフトを、ランクのズレが10以内なら、無視して出来る様になる、超便利なアビリティだ。

 但し、使用すると、腹が減り、喉が渇くので、乱用は禁物だ。

 ということで、ミキサーに水砂泥粘液と投入し、混ぜたものをプレスして、乾燥機に掛けて出来た物がコレだ。

 [耐魔の強化毒ブロック]魔法に強く毒を含んだ強化ブロック、扱いに注意。コスト2。

「これは良いんじゃないか?」

「ああ、堅くて魔法に強くて毒入り、バリケードに最適だ、ヒヒ」

「これまた、エグイ物を…もっと作りましょう!」

 その後は、落ちるまで、意見を出し合い、終いには皆で盛り上がって、色々な毒入り建材を作り上げてしまった。

 これは翌日の売り上げが楽しみだ。そう思いログアウトした。


 翌日。治験を受け、売り上げを確認する。

「おお!完売だ」

 昨日売りに出した毒ブロックは300個、毒セメントは100個。

 毒ブロックは1個100円、毒セメントは1袋1200円にしたが、結果は完売だ。

 普通に売り捌くと、これの三割も届かないので、かなりの荒稼ぎだ。

 この資金を元手に、設備を強化し、今後に備える。

 更に自分の取り分として、5万程着服し、Lvを92に上げる。

 粘液の在庫が心許ないと、マッドが訴えて来るので、採りに行く。

 沼地に着くと、今日は矢鱈と人が居て、何故かボスが複数沸いていた。

「なんじゃこりゃ?初めて見る光景だ」

 今まで、[ゲートキーパー]が複数集まるのは見たことあるが、エリアボスが複数沸くのなんて初めて見た。

 まあなんにせよ、これだけナメクジが居るなら少し位摘まみ食いしても良いだろう。

 という事で、端っこで、ナメクジをしゃぶる事にした。

 しかし凄い激戦だ。見た感じプレイヤーの数は40人を超えてるだろうか?。

 [キングスラグ]も四体居て、全てが発狂中。増援のナメクジがえらい事に。

 嬉しい事に、そこそこの数のナメクジが、俺の方に向かって来て実に美味しい。

 これは決して寄生では無く、不可抗力なのだ、そこんところ宜しく。

 一人で黙々と狩り続け、一時間半経過したので、帰還する事に、丁度ボス戦も決着が付く頃なので、良い頃合いだろう。

 研究所に寄ってから、PAに戻り、仕分けをしてログアウトした。

 アプデまで、あと少し、何とか限界まで転生したかったが、仕方ない。

 エンジョイ勢らしく、初心に帰って、のんびりいくとしよう。

次は2週間位で。

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