第六話
~前回までのあらすじ~
湿地帯の調査を無事に終え、活動拠点をホームに戻したテツ。
新たなフレンドのサチを加え、テツの周囲には奇人が増えていく。
夕飯を済ませ、休憩後、DIYを再開。
早速サチと連絡を取り合流、そこへマサが参戦し、アコも合流した。
「悪いね、俺の連ればっかで」
「良いのよ、なんなら私のフレンドも呼ぼうかしら」
そう言いサチもフレンドを呼んで、お互いに自己紹介する事にした。
「初めまして、ベッタラです。よろしく」
ベッタラは、サチのフレにしては普通で、二刀流の剣士だ。
今回は東のベースに行って、囮を引き受ける事にし、現地へ向かう。
「テツ君と会うのもなんだか久しぶりね」
「ああ、これで全員分回収したな」
「ふふ、なによそれ」
「会う奴会う奴皆言うからさ」
道中、アコに俺の近況と、皆のビルドの情報交換などを行いながら移動した。
現地に到着し、例の装置を受け取りフィールドに繰り出す、
「あ~、今回も割と参加者が多いな」
「今回は最初から安全圏をウロチョロすればよくね?」
「でもそれだと報酬が不味いだろ」
結局、最初から五人も居れば、前よりは楽だろって事で、北東に向かった。
そして案の定、大群に襲われたので、徐々に徐々に後退しているのが今。
「やっぱこうなるか」
「でも確かに前回より楽だな」
俺とマサは前回よりは楽だと達観してるが、他の三人は違い。
「いやこれ相当厳しいわよ!?」
「うわぁ…凄いHIT音…」
「切っても切ってもキリがないぜ」
アコはその足と射程を活かして、回り込もうとする兎や犬を、更に外側から射掛け牽制。
サチは本人じゃないから分からんが、きっと<まきびし>のダメージ音とヒットエフェクトで、画面と耳が凄い事になってるのだろう。
ベッタラは、流石サチのフレンドだけあり、若干捻りのあるビルドで、彼の持ち味は、兎に角速い攻撃速度だ。
ただ攻撃速度と言っても、手数の勝負では無く、どれだけ短い間に、二刀流の一撃?を浴びせるかに全てが込められていて、攻撃に拘束される時間を極限まで短縮したビルドの様だ。
要は、重量武器の一撃必殺を、軽量武器二刀流の超高速攻撃で再現したのが、ベッタラのビルドで、その火力は曲剣とは思えない程高く、兎や犬の攻撃に余裕で割り込める程その攻撃速度は速かった。
そんな感じで小動物タイムを凌ぐと、今度は猛獣タイムに入る。
「良し、少し下がろう」
前回の経験を活かし、早々に撤退準備を整える。
「流石にちょっと早くないかしら?」
「そう思うだろう?まあすぐに分かるさ」
アコの疑問にマサが端的に答える。
そしてその答えは、マサが言う通り直ぐにアコに伝わったようだ。
「え!?ナニコレ!?兎が意味不明な堅さなんだけど!?」
五人も居て、それなりに実力が有るメンツが揃っている今回は、猛獣タイムも割と安定して凌ぎ、程なくして超強化小動物タイムに移行した。
「成程これから生き延びる為の、用心なわけだ」
ベッタラも含め、既に三人共現在の脅威を肌で感じており、当初と打って変わって、消極的戦法に諸手を上げて賛成している状態だ。
さて、後は何処まで粘ろうかと、周囲を見渡すと。
「ぎゃあ」「もうダメだ!」「囲まれた!?」
恐らく調子に乗っていたのだろう。六人組のパーティーが、こちらを目指して敗走していたが、道半ばで力尽き全滅した。
「ああいうのも居るから、退路の確保だけは怠らない様に」
最初からずっと、俺らの左前方で戦っていたパーティーが居た。
そいつらは常に、俺達とベースとが、直線になるように動いていた。
これに擦り付けの気配を感じた俺は、そいつらが囲まれた瞬間をついて、安全圏まで退避、程なくして行動に移そうとした時には、俺達は遥か後方に居り、慌てて向かって来たようだが、目論見潰えた様だ。
「テツが気づいてなかったらヤバかったな」
「そうね。にしても良く気づけたわね」
「ああ、何度かソロの時に喰らってるからな、なんとなく動きで分かるんだ」
証拠もバッチリだし、これで絡んで来ても、美味しくしゃぶるだけだ。
「さ、奴らの尻拭いなんて御免だ。ずらかるぞ」
こうして、ベースの援護圏内に退避し、敵を殲滅して帰還した。
ホームに戻り、皆と先程の出来事で盛り上がる。
「にしても、見事な逆恨みだったな」
「ホント恥知らずな連中だ」
マサは愉快そうに、ベッタラ心底不快気に、吐き捨てる。
遡る事十数分前。
「おい、お前ら何擦り付けして逃げてんだよ‼」
(はいキター。皆一切口を開かないでくれ)
俺のチャットでの指示に皆が従ってくれた。
それから、お約束の罵詈雑言の嵐を全て記録し、GMコール。
その後は実にスムーズで、こちらは全ての状況を動画付きで報告、一方彼方は主張のみで、証拠も出さず終い。当然相手にされず、10:0でこちらが圧勝。
晴れて無実が証明され、向こうは笑える程重いペナルティを科せられた。
「しかし常習犯とはな、罰金とペナルティの嵐に耐えてまでするほど、悪質行為に旨味が有るとも思えんがな」
「ホントよね、絶対に理解し合えないわね」
「そうね、同じ言語でも絶対に話が通じないもの」
そんなこんなで、決着も付き、一人頭6200円頂いて、ギルド裏に送られた。のがついさっき起こった出来事の顛末だ。
「さあ、次は何処に行く?」
寝るには早いし、皆もまだ続けると言うので、パーティーを継続する。
「なら俺は湿地帯に行ってみたいんだが」
マサが俺のランタンが蛭除けになるのを期待して、湿地帯を推す。
「良いわね、足場の悪さと水性生物の奇襲が怖くて、行った事ないのよね」
アコも折角だし行きたいと賛成する。
「それならもう一人私たちのフレンドを呼んでも良いかしら?」
サチが聞いてくるので、了承する。
「こうなったら湿地帯で決まりだな。どうせならこっちも人を呼ぶか」
てなわけで、サチとベッタラのフレが一人、ユキとベルが合流した。
「ヒヒ…マッドだ…宜しく…ヒヒ」
「宜しく」
お互いに自己紹介を済ませ、湿地帯に向かう。
「マッドは薬品のクラフトマンなのか」
「ああ…、ポーションから毒薬まで…色々あるぞ…ヒヒ」
チョット癖が有るが、いい奴そうで、安心だ。流石サチのフレンド。
ちなみに、シルクとパミルにも、声を掛けたが、クラフトに掛かりっきりで、手が離せないそうで、断念した。
「さて着いたぞ、説明した通り、俺から離れすぎると悲惨な目に合うから気を付ける様に、それと動きも遅くなるから、早めの行動を心掛けてくれ」
八人パーティーという、中々の規模で湿地エリアに踏み込む。
「早速出たぜ、テツ、あれはなんだ?」
「なんだ?悪いが俺も初見だ」
のそのそとこちらに向かって来たのは、なんと巨大なナメクジだった。
「うーん…ヌルヌル…」
ぬらぬらてかてかと、光沢を放ちクネクネと迫るナメクジ…中々くる。
「<ファイアーオーブ>‼」
ユキが、こっちくんなとばかりに、魔法を放つ。
「フシュルル…」
魔法の直撃に、体液をまき散らしながら悶えるナメクジ。
「効いているがかなりタフだな…」
体液で体の延焼を止め、再びナメクジが迫ってくる。
「ならこれはどうかな…」
マッドが何かの入った瓶を放り、ナメクジ直撃した。
その結果、ナメクジはカチカチの氷像と化していた。
「あれは、液体窒素?なんにせよチャンスだ!」
ナメクジが凍ってる内に、一斉に攻撃を叩き込み、ナメクジを無事撃破する事に成功し、その戦利品から、奴の正体が、[ジャイアントスラグ]という名の魔物と判明した。
「ナメクジの魔物化…道理でタフなわけだ」
ちなみに手に入れた素材がコレだ。
[ジャイアントスラグの粘液]:ヌルヌルした保湿性に優れた粘液、殺菌処理を施せば用途は幅広い。コスト1。
「しかしナメクジの魔物か、そんなのが沸く位汚染が広まってるのか」
以前も魔物は居たには居たが、ナメクジなんて一度も見てないからなぁ。
「皆、予定変更だ。ちょっとヤバそうだから引き返そう」
幸い俺の提案に反対は出ず、すんなりと引き返す事が出来た。
「ちょっと、アレ…」
沼地を抜けたところで、ユキが沼地を指さし声を出す。
「ちょ!?なんじゃアレ!?」
俺達が見たのは沼地に聳え立つ巨大なナメクジだった。
「…おかしいな…そんなに汚染度が高かったようには思えんが…」
「あれはゲートキーパーじゃないんじゃ?」
「普通にボスキャラって事か?」
なんにせよ不意打ち喰らわずに済んだし、ボスの存在も知れて良かった。
「どのみち今回はパスだ、色々準備不足だしな」
「賛成、素材の持ち帰りを優先しようぜ」
巨大ナメクジも俺達が一向に近寄らないと見るや、ズズズ…と沼に沈んでいった。
「成程、あくまで沼地からは出てこないわけか」
皆で、その内戦いを挑もうと約束し、その場を辞した。
余った時間で、普段はあまり来ない、森の西側から入り、最深部を避けて、採取しながらホームに戻り、素材を清算し、山分けして解散した。
俺も眠かったので、そのままログアウトして、寝た。
十日後。大型アプデの告知が来た。
『DIYオンラインVer1.20のお知らせ』
ざっと読んだ感じ、因子やパラメータ、スキルなどが大幅に追加される様だ。
但し、今回追加される全てのモノは、何かしらの派生、若しくは条件を満たさないと選択出来ない様だ。
言わばスキルツリーの概念の実装と、隠しスキルの概念の追加で、因子やパラメータは、実質転生後でないと見る事は出来ないだろう。
「これで更にビルドが細分化されるわけか」
そして、もう一つの目玉が、カンパニーの実装だ。
これはプレイヤーが金を出し合い、自分たちの会社を立ち上げるといったもので、とことこん営利を突き詰めるも良し、ゲームをより楽しむために、カンパニーの特典を利用するのも良しと、更にプレイヤーのゲーム体験を、後押ししてくれる要素になるようだ。
「因子とパラーメータの追加は楽しみだな、会社は…特典次第だな」
一応個人で、ワンマン経営も無理なく出来るとの触れ込みなので、追々。
これらを追加する大型アプデが、今から三十日後に行われるようだ。
そして告知から三十日後。
アップデートを済ませ、ログインする。
さて、アプデの話の前に先ずはこの四十日間を振り返ろう。
なにから話そうか…そうだな、先ずはLvだが、あれから二回転生し、更にLv100状態でアプデを迎える事が出来た。
ああ、勿論因子は[獣人]を重ね取りした。どうせ選び直す事も出来るからね。
次にライセンス関係で、こちらは進展が無かった。正確には未だに特級の受験には至らないだが、確実に前進している筈だ。
そして地味に忘れてはいけないのが治験だ。過酷な薬物投与に俺の身体は徐々に適応していき、遂に重すぎるペナルティを克服する事が出来たのだ。
俺は歓喜に震えた。マッドな科学者もその時ばかりは一緒に喜んでくれた。
そしてこう言った。
「おめでとう御座います。では第二段階に移行します」
「え?」
これが数日前、その後容赦なく投与された薬品は、あの地獄の様な副作用を伴う薬にも耐えた、俺の身体に、同じ規模の副作用を起こすほど強力な物だった。
現在、絶賛第二ラウンド継続中ですハイ。
他には、東のベースが完成したとか、巨大ナメクジに挑んでフルボッコに遭ったとか、資源の回復が遅くなったのが気のせいではないと分かった等、色々あったが、まあこんなもんだろう。
次は今回のアプデ内容だが、以前の公式の告知と変わりは無かったので、割愛、色々追加されますよ~って事だ。
「さて、どんな変化があったのかな?」
俺は早速教会に向かい、転生する。
「因子はどんな物が増えたかな~?」
ふむふむ…うん?お!おお‼。
「思ってたよりは増えてなかったが…これは良い…」
どうも俺のビルドや、これまでの行動では、それほど多くの因子は解放されなかったようだ。だが俺の興味を強烈に引き付けるモノが二つ有ったので、紹介しよう。
[蛇使い]:毒防御力が5上昇。
[羊飼い]:1時間毎に羊毛を入手。
先ずは[蛇使い]だが、もう因子の効果の時点で強い。
このゲーム、毒防御力を上げる要素が極端に少ない癖に、矢鱈と毒が痛いのだ。
あらゆる耐性を抜いて、LPを蝕んでくる毒だが、毒防御力だけは例外で、これが少しでもあれば、毒の脅威は相当抑えられるだろう。
でも俺が注目したのはスキルだ。なんと[蛇使い]専用スキルは、二つとも使い魔系スキルで、それぞれ毒蛇を二匹ずつ使役出来るという、とんでも仕様だ。
まあ、恐らくは毒蛇のスペックは相当に低いのだろう。因子の効果自体も強力だから尚更だ。だが毒蛇という事は、使い魔でありながら、毒攻撃を使えるというわけだ、これはデカい。
次は[羊飼い]だが、これもヤバい、なんせ因子の紹介文が『これで貴方も羊飼いになれる‼』だもんな、こんなん喰いつくに決まっとるがな。
まあ冗談はさておき、因子自体の効果はどんなもんか想像つかないから兎も角。スキルがマジでぶっ飛んでる。しかも二つとも使い魔系だ。
片方は、シープドッグを使役するという、因子にちなんだほっこりするスキルだが、もう1つの方が凄くて、なんと羊を四頭も使役出来るというのだ。
つまり、Lv1でスキルを取るだけで、使い魔が4体も増える超お得仕様。
尤も、毒蛇以上に弱いとか、何かとんでもないデメリットが有りそうだが。
そんな2つの因子を見比べ、俺が選んだのは、[羊飼い]だ。
[蛇使い]も次取れば良いから、順序の問題でしかないが、今俺の心を揺れ動かしたのは、[羊飼い]だった。それだけの話だ。
「良し、因子は[羊飼い]で決まりだ」
今度はパラーメータの選択だな、テツはパラメータの一覧に目を通し、こちらもそれほど解放されて無いな、そう思った時、あるパラメータに釘付けになった。
「[傀儡]…?これは‼」
俺の心を鷲掴みにしたパラメータは[傀儡]だ。効果は使い魔のLPを上昇とあり、俺みたいに使い魔を沢山使役するビルドには、持ってこいのパラメータだ。
しかし、このパラーメータのの真価はなんと言ってもスキルだ。
<ブリキ兵1号>というスキルが、1~4号までのナンバリング違いで四つ存在し、共通効果で、ブリキ人形の兵士を使役する。というものになっている。
そう、[幸運]と同じで、一つのパラーメータで、使い魔スキルを四つも持っているパラメータだったのだ。
「こんなん選ぶに決まってる」
他にも気になるパラメータは有ったが、あまりビルドを大きく変えた場合の反動が怖かったので、[傀儡]のみの採用となった。
「さて…、何をリストラしようか…」
まず、[幸運]と[魔力]は除外だ。[幸運]は金策と枚数確保に多大な貢献をしてくれてるし、[魔力]は使い魔スキルを二つ持ってる上に、攻撃系パラーメータに分類され、使い魔の攻撃力を上げるのにも役立つので、この二つは外せない。
[速度]も、今となってはとてもじゃないが外せないな。
となると、候補は[体力][装甲][筋力][信仰]の四つか。
[体力]は、まあ便利だが、[生命]に特化した分、無理に採用する程でもないか、ってのが最近の評価となっている。
[装甲]も同じで、便利だが、LPが高くなってくると、最下級のポーションでも、回復が十分間に合ってしまうので、態々[体力]と併用してまで、と思っている。
ただこの二つは、防御系のパラーメータなので、どちらか一つを切るだけで、今まで耐えれた攻撃が耐えれずに、使い魔の無駄死にが増えそうなのは、懸念材料ではある。
[筋力]は、うーん…やっぱ火力って大事だなって、気づかされたパラーメータで、使い魔は勿論、いざって時に、自身の攻撃が、敵に有効かどうかの差は、いざって時ほど大きく、今更火力が落ちると、使い魔の戦線維持力にも影響が出そうでちょっと怖い。
そうなると、[信仰]だが、こいつは攻撃でも防御でもない、その他のパラーメータで、使い魔のスキルも一つしかないから、真っ先に切るならこれだろう。<守護霊>は、長い事俺のビルドを支えた屋台骨だが、[傀儡]と比較した場合、俺のビルドには[傀儡]の方が有っている。
結局、使い魔の能力を大きく落とすのが怖かったので、使い魔の能力に影響の少ない[信仰]を切る事にした。これで、単騎で強い使い魔が居なくなってしまった。
パラメータは、[体力][装甲][筋力][魔力][速度][幸運][傀儡]となった。
転生を済ませた俺は、ギルドに戻り、換金用素材を適当に売り捌いた。
再び協会に向かい、Lvを20まで上げた。これで[生命]は740、それ以外は140まで上がり、ポイントも140となった。
そして、<生存本能>をLv20、<速度上昇>をLv20、<魔道人形>と<ゴーレム使い>をLv10、[幸運]の各種使い魔スキルをLv1、[傀儡]の各種使い魔スキルをLv1、[羊飼い]の<シープドッグ>と<羊の群れ>をLv1で取得した。
これでランタンを一つとナイフを装備し、残コストが59.5となった。
「うわぁ…金とコストを温存したとはいえ、これは遅い…」
転生直前には、[速度]が600、<移動上昇>がLv60も有ったので、移動速度が初期状態の、およそ2.2倍もり、かなり快適だった。
それに比べ、転生直後の現在、移動速度は通常の1.3倍程度。あまりの落差に悶えるのも無理ないだろう。
「ま、ボヤいてても仕方ない、それより新たな使い魔を見るか」
西門からフィールドに出ると、ポンポンと、使い魔達がスポーンし、俺の周囲には計15体もの使い魔が出現した。
その直後、子供たちが「わーい」と楽し気な声を上げ、野原に駆け出すような感じで、使い魔の羊が一斉に駆け出し、それをシープドッグが追いかけていった。
「え?こいつ等俺の傍に居るわけではないのか」
一応俺から離れすぎるという事はないが、まあ壁にならない事は分かった。
そして、あまりにシュールな光景だったのか、周囲の視線が痛い。
「おい、あいつ連れてる使い魔が多過ぎないか?」
「そもそも見た事ないのが居るんだが…」
「羊カワイイ‼」
など、様々な声が聞こえて来る。
(なんか悪目立ちしてるな、とっとこ森に向かうか)
その場を逃げる様に、森に向かうが、羊と犬は一定距離を保ち、残り10体の使い魔は俺に追従するので、兎に角目立つ。
「うーん、やっぱ資源の回復はまだか…」
浅層で最後に採取を行ったのがおよそ二日前、以前は24時間位で素材がリスポーンしていたのだが、緩やかに時間が伸びてきている。
「うーん、一応色々回っているから、常にどこかしらで採取採掘は出来るから良いが、せめて原因は知っておきたいな」
結局考えても答えは出ないので、思考を切り替え、深層に向かった。
「ここら辺なら十分検証になるだろう」
…そう思っていいたが…。
「え?こいつ等逃げるだけで一切戦わないのか…?、あ、犬は戦ってくれるのか」
やはりと言うか、たった一つのスキルで、4体もの使い魔を使役出来るスキル。そんな美味しい話はんて有る筈も無く、<羊の群れ>で使役出来る4頭の羊は、一切の戦闘行為は行わず、敵から逃げ惑うだけだった。<シープドッグ>の方は、羊に近づいた敵とは戦う様で、その戦闘能力は、当たり判定の小ささを考慮すれば、<守護霊>とまではいかなくとも、その穴を埋めるには、十分な強さだった。
「犬は普通に強いし、羊もまあ…、囮と考えれば枚数、打たれ強さ共に及第点、といったところか」
羊は意外と堅く、今のパラメータ値でも、熊の一撃に耐えれる程度には堅く、移動速度も中々早いので、囮としては、十分に優秀だ。
「[ブリキ人形]は…」
此方は、予想通りで、個々の強さは[幸運]の4体と大差なく、Lv1だと、まあ棒立ち具合が目立ってしょうがない、そんな感じだ。
「うん、<守護霊>が抜けた穴を、素早い<シープドッグ>が埋めてくれたから、総合的にはグッと強くなったな」
その後も検証をこなし、ホームに戻り、ログアウトし、就寝した。
翌日。
「お、マサからメールだ」
昨日はお互いに、新要素の検証で時間を使ったし、今日は一緒にどうだ?、って感じの内容だったので、了承し、マサと合流した。
「ばんわ、そっちはなんかいいもん解放されてたか?」
「まあボチボチだな…それより羊を連れた、矢鱈と大所帯なプレイヤーが居たってのは、もしかしてテツの事か?」
「俺かどうかは知らんが、確かに羊は連れてるな」
「やっぱり‼なんか噂になってたぞ?」
「そうか…いや、なんか目立ってたとは思ったが」
「気を付けた方が良いな、目立つと変なのに目を付けられる可能性も有るしな、まあもし絡まれたらその時はその時だな、その内検証組が条件の解明でもしてくれるだろうし、それまでは条件を聞かれても、分からないって素直に言っておけば良いさ」
「そうするよ、でも昨日検証した限りじゃ、俺には最高に面白い効果だったが、人を選ぶモノだから、解放出来ても取る人間は少ないだろうな」
なんせ羊は非戦闘員だからな、マジでビルドを選ぶ。
「それで、マサのビルドはなんか変わったか?」
「あんまり?一応打たれ強さを意識して、ビルドを組むようにはしたけどな」
「近接なら堅い方が何かと良いだろうしな」
「ああ、さて、テツの羊を見たいし、どっか行こうぜ」
「そうだな…マサは今Lv幾つだ?」
「俺か?転生四回の57だ」
「そうか、俺は今Lv20だからな、ちょっとLvを上げて来るから待っててくれ」
俺は急いで金を工面し、Lvを30まで上げ、<速度上昇>をLv40に、<野生の力>をLv20に、<シープドッグ>をLv20にした。これで装備を入れて総コストは139.5で、残コストは70.5になった。
「悪い待たせたな…って、なんか増えてる!?」
一同「こんばんは」
どうやらマサが待っている間に、共通のフレンドに連絡を取ったようだ。
「テツ君のビルドが更に変態化したと聞いて」
サチが目をキラキラさせながら、早く見せろと訴えかけて来る。
「サチは兎も角、俺は情報交換がしたかったから渡りに船だったぜ」
というベッタラ、そうだよな、普通はそういう理由で集まるよな。
「私は羊が見たいわ」
「あたしはわんこが見たい」
ユキは羊を、アコは犬を見てみたいそうだ。
「私は羊毛に興味が有るです」
ああ、そういえばさっきマサに、羊毛を手に入れたって言ったな。
「それなら、多分もう少しで…来た!これが羊毛だ」
シルクに採れたてホヤホヤな羊毛を渡す。
少しの間、皆と情報交換をし、ビルド議論をした。
結果分かった事は、解放された因子やスキルは、基本現在のビルドに則したもので、それを採用したとこで、ビルドが大きく変わる事も無いので、殆どの人は先鋭化するか、器用になるか、そのままって感じになりそうだ。あくまで、ビルドに不満が無ければだが。
「そろそろ良いか?じゃあ行くか」
平日夜で、時間も限られるから、近場の森に向かう、但し今回は最深部へ向かう。
「ギャギャ‼」
「ギャイーーーッ‼」
最深部へ到達した俺らを迎えたのは、ゴブリンの群れだった。
「クッ、流石武族のゴブリン、大した強さだ」
彼らは、その小さい体に見合わない程、膂力に優れ、小さい故に回避も優れる。
それでいて知能も高く、狡猾で、連携も高水準、毒を使ってきて厄介だ。
そんな中、大活躍しているのが、[羊飼い]の使い魔達だ。
羊は俺と一定の距離を保つことを、厳守しながら逃げ回るので、必然的に敵の薄い箇所に逃げ込もうとする。するとそれを追った犬が、こちらの側面や背後に回り込もうとするゴブリンと接敵、上手い事奇襲を妨害し続けている。<シープドッグ>のLvを20に上げたのも大きい。
ブリキ人形達も、枚数差を埋めるのに一役買っており、良い感じだ。
「どうするテツ?このまま戦うか、それとも引き返すか?」
戦闘中にマサが聞いてくる。
「ゴブリンの数はおよそ30、こちらは使い魔込みで34か、ベルはどう思う?」
俺達がこうして戦えるのは、ヒーラーのベルのお陰だ。彼の意見は重要だ。
「数で負けてないなら押し切りましょう、僕はまだまだイケますよ」
「分かった、このまま押し切ろう‼」
そうと決まれば、先ずは敵の火力を奪おう。
「アコ、射線が通れば、ゴブリンプリーストを排除できるか?」
「ええ、射線さえ通ればイケるわ」
「オッケー、俺が奴らの側面まで護衛する。プリーストを仕留めるぞ」
「分かったわ!」
ベルにありったけのバフを掛けて貰い、俺が陣形から右に抜け、壁を作る。
「今行くわ」
テツが作り上げた僅かな安全地帯を駆け抜け、敵の側面を捉える。
「おっとさせねえよ‼」
アコの移動に合わせ、俺も移動し、アコに殺到するゴブリンを抑える。
ゴブリンソルジャーの猛攻に晒され、使い魔が次々と沈むが、その都度テツのスタミナを糧に復活し、ゴブリンをその場に食い止める。
「グッ!?流石にキツイ…アコ‼一旦下がるぞ‼」
「待たせたわね、大丈夫、プリーストは全て片付けたわ」
アコの援護を貰いつつ、陣地に戻り、殲滅戦を開始する。
「ヒーラーが居なけりゃこっちのもんよ」
マサの横薙ぎが、複数のゴブリンを弾き飛ばす。
「魔法は撃たせない」
アコの放つ弓がゴブリンメイジの眉間に突き刺さる。
「弾幕は如何?[アイススピア]!」
それぞれの活躍で、最初30体も居たゴブリンは順調にその数を減らしていき、今では半数の15にも満たない程、その数を減らしている。
「そろそろお開きってか?オラァ‼」
ベッタラの超高速の二刀が叩き込まれ、更に数を減らす。
他にもサチのなんか矢鱈とえげつなくなったまきびしに、シルクの使い魔、パミルのつるはし、マッドの不気味な毒薬も炸裂し、ゴブリンの総数が二桁を割った時点で、敵が敗走し勝利を収める事が出来た。
「ふう…何とかなったな」
「やっぱタンクが居ないと、キツイな」
「使い魔はヘイトコントロールが出来ないからな」
タンク不在の前衛不足を乗り越え、ゴブリンの群れに勝利した事で、皆疲労困憊で、直ぐにホームに戻る事にした。
「お疲れ様、分配を始めよう」
ホームに帰還し、戦利品の分配を行う。
「さて、こいつをどうするか」
俺は皆の前であるものを取り出す。
「え?これって…」
ユキはこれが何か気づいたようだ。
「もしかして…[ゴブリンの核ですか]?」
「「「「!?」」」」
「ああ、[ゴブリンの核]だ」
以前も言ったと思うが、ゴブリンはレアだ。今の所森の最深部でしか本格的に遭遇出来ず、運よく遭遇できても、恐ろしい数の群れで襲われ、更に斃せてもドロップ率が非常に渋いのがこの[ゴブリンの核]だ。
「更にもう一個ある」
「「「「ええ!?」」」」
此処で、ちょっとした小話、このゲームは開始直後は召喚士は不遇、と言うか成立し難いビルドとして有名だった。
このゲームのサモナーは、魔物の核を使って呼び出した魔物を従魔にして、要所要所で召喚して戦うビルドだ。
魔物の核を使って。そう、思い出して欲しい、このゲームの初期は魔物の種類は極端に少なく、核を入手する手段が非常に少なかったのだ。
一応NPCから買う事も出来た様だが、テイマーが、動物やら虫やらをどんどん仲間にする傍ら、サモナーはそもそも核を得る手段すら限られていたのだ。
そんな状況も、アプデで魔物が増え、流通にも乗るようになった事で、サモナーの艱難辛苦には終止符が打たれた。
さて、そんなサモナーにとって、この[ゴブリンの核]、どう映るだろうか。
「[ゴブリンの核]は、市場価格で軽く10万は超えるレアアイテムですよ!?」
「それが二個…欲しい人なら二個セットで50万出してもおかしくないですね」
こんな感じらしい。ゴブリンは召喚持続時間が長く、賢くコストもそこまで重く無く、サモナーにとって、主力になりうるポテンシャルを秘めている。
「50万か、どうする?伝手が有るなら売っぱらって山分けにするか?」
皆は暫く沈黙し、マサが口を開く。
「いや、流石にレア素材は入手した本人、テツが持っておけ。それにテツがコストに余裕を持たせてるからこそ、俺達も分配で普通のパーティー以上に高い配当にありつけてるんだ。それで十分だ」
他の皆もそうだと言わんばかりに頷いている。
「そうか?なら有難く俺のものにするよ」
それから滞りなく分配を終え、解散。ログアウトして就寝した。
次の日の夜。ログインすると、パミルからメールが来ていた。
『突然ですが、相談が有ります。テツさんが昨晩手に入れた[ゴブリンの核]、アレを譲って欲しいという方が居まして、一度お話を伺って頂いても宜しいですか?』
ふむ、話を聞く位なら良いか。パミルの紹介なら安全だろう。
「こんばんはパミル。メールの件だけど今良いかな?」
『テツさんですか?ええ、今行きます』
「え?」
「お待たせしました」
「うわ!?近くに居たのね」
パミルと合流し、事情を聞く。
「[ゴブリンの核]が欲しいんだって?」
「ええ、私の知り合いがどうしても欲しいそうで」
「ふーん、相手は幾らまで出せるって?」
「1個30万まで出せるそうです」
「い゛!?そんなにか…、理由は?」
「知り合いがサモナーでして、普段使いの従魔に、ゴブリンがどうしても欲しいらしく、お金だけは貯めてるものの、なかなか市場に出回らないといっています」
「一つ疑問なんだが、それだけの資産を持ち合わしてるなら、他にも核を買えるだろうし、相当やり込んでるだろう、自力で獲りにいけないのか?」
「そうですね…テツさん、パラメータの[幸運]をどう思いますか?」
「使い魔ビルドには必須だな」
「……ええと、戦闘職で[幸運]を取得する人がどれ程居ると思いますか?」
「え?、そりゃ素材が多く手に入るんだから…あ‼そうかコストか」
「そうです、普通はコストのせいで、戦利品を持ち帰れる量に限りがある以上、収穫量目当てに[幸運]を取るプレイヤーは、今となっては極少数です」
「そうだな…、他のパラメータで、ステータスを補強した方が、強敵と楽に戦える分、[幸運]より却って効率が良いとも言えるのか」
どれだけ、ドロップ率を上げようと、ただでさえ戦闘職はコストに余裕が無く、恩恵が薄い上に、敵から獲れる素材目当てなら、そもそも倒せないと意味が無いという。
「で?、つまりどういう事だ?」
「それだけ[ゴブリンの核]のドロップ率が低いという事ですよ」
昨夜俺達が倒したゴブリンは20体以上、十人いてドロップしたのが俺だけ、か。
「パミルは[幸運]は?」
パミルは首を横に振る。
「そんなに渋いのか、それどころか最低条件に[幸運]が絡む可能性すらあるのか」
「ええ、現時点で、最深部でゴブリンの群れ相手に戦えるスペックを持った、[幸運]持ち、ある意味テツさんだからこそ二個も入手できたと言えますね」
はえ~そんなに貴重だったのか~、と驚くテツ。
一応シルクも[幸運]を入れてるが、数値が俺程高くなく、止めをさせる機会も少ないから、ドロップはしなかったようだ。
「それじゃあ確かに実力者でも、簡単には入手できないわけだ」
「そういう事です。それでテツさん、希望者に会って貰えますか?」
「良いよ、どうせ持て余してたしな、必要な人に渡った方がいいさ」
という事で、早速パミルが面会をセッティングし、合流する事に。
「どうもこんばんは、俺はサーモン言います」
パミルの引き合わせで会った人物は、サーモンと名乗る男だった。
「初めましてこんばんは。テツです」
俺達はギルドの裏手にあるベンチに腰掛けている。
「なんでも[ゴブリンの核]が欲しいそうで?」
「そうです。一応何度かパーティーを募ってゴブリン狩りに行ったんですが…ダメですね。出会わない、強い、渋い、の三重苦でもう地堀は諦めました…」
「…単刀直入に聞きましょう。いくら出せます?」
「パミルから聞いたんですが、テツさんは二個持っているそうですが?」
「その通り」
「なら二つセットで70万出せます、それ以上は厳しいです」
良いね~、それだけの大金が有れば色々捗るぞ~。だがもう一押しだ。
「それは予算が、という事ですか?それとも[ゴブリンの核]に出せる限度額って意味での70万という額ですか?」
「?どういう意味ですか?」
「色々抱き合わせで、100万円分買いませんか?俺も金が欲しいんで」
「ひゃくっ!?それは流石に…ちなみにどんな物がおありで?」
サーモンに俺のストックしてある希少素材のリストを見せる。
「これは…」
一緒に見ていたパミルが喰いつく。
「魅力的ではあるんですが…100万は厳しいです…」
まあそりゃそうだよな、本人が70万出すって言うし、70万で譲るかと思ったら。
「なら私にも40万出させて下さい。それで核はサーモンさんが、素材は私が頂くというのはどうですか?」
「え?それは構いませんが…テツさんは良いんですか?」
「良いよ、じゃあパミルは欲しい素材を選んでくれ」
こうして、あっさりと商談は成立し、サーモンに核を二つ渡し、60万を。
パミルが選んだ40万円分の素材を渡し、40万円を受け取る事になった。
「では、急いで現金を用意するので、待っててください」
そう言って二人共ギルドに駆け込み、約10分後。
「「お待たせしました」」
それぞれから、支払額を受け取る。
「良し、これで取引完了だな、お疲れ様」
「お疲れ様です、そしてありがとうございます」
「お疲れ様です。私も良い商談が出来ました」
満足のいく取引に3人共ホクホク顔だ。
「ところでテツさんは100万もの大金、何に使うんですか?」
「フフフ、会社を作るんだよ」
そう、一昨日のアプデで追加されたコミュニティ要素、カンパニー。
元々あった、プレイヤー同士で結成する、クランというシステムが有るが、こちらはあくまでプレイヤー同士が同じ派閥に属し、連絡網の補助などがメインのシステムだ。
一方カンパニーは、そういった要素も備えた上で、様々な恩恵が有る。
先ずはプライベートエリアの追加だ。ギルド裏に出来た庭付きの一戸建て住宅を自由に使え、中に入ると許可した関係者しか入れない仕様となっている。
次に住宅の改造だ。これはもう完全に創立者の目的次第で、食事処に改装して、関係者以外を客として招いたり、ホテルにしてもてなす等も出来る。
ちなみにインターホンで、一般開放されているカンパニーを検索して、ヒットした中から好きな会社を訪れるたり、商品を販売している会社から、物を買う事が出来る様だ。
他にも工房にしたり、農園、工場など様々な業態を取れる様だ。
「それで100万ですか」
会社を設立する条件は、100万円所持した状態で、教会に10万払うのが条件だ。
「どうんな感じか気になるんで御一緒しても?」
「俺も良いですか?」
パミルとサーモンが様子を見学したいと言うので了承。
「ああ、構わんよ。いっそのこと入るか?どうせ俺一人じゃ拡張もままならないだろうし、皆で協力して拡張すれば、色々と便利になるだろう」
「テツさんはどういった構想をお持ちで?」
「取り敢えず工房だな、解放エリアにはする心算は無い」
それに拡張にも限界がある様だしな、だったらリソースは俺にとって役に立つ部分に割きたい。これならパミルやシルクが入ってくれれば、良い装備を手に入れるチャンスにもなるしな。
「工房ですか、良いですね、是非入れて下さい」
「俺は入りたいけど、何で貢献すれば?」
「そこは少しだけお金を入れてくれるとか、倉庫に素材を入れてくれるとかで良いよ。それにパーティーも強制するつもりも無いし、気の合った仲間内の緩い会社にしたいんだ」
こんな感じで俺の展望を伝え、二人とも入社を快諾してくれた。
「良し、手続きを始めるか」
教会の総合窓口へ向かい。
「こんにちは、会社を設立したいのですが」
「起業ですね?ではコチラへどうぞ」
受付嬢が、代わりの人を手配し、俺達を案内する。
「では担当の者が間もなく来るので、こちらでお待ちください」
個室に通され、待つこと十数秒。
「どうも、こんにちは、今日は起業の申請で起こしだとか」
現れたスーツ姿のおっさんエルフと話をし、何事も無く手続きが済んだ。
「では、ギルド裏の住宅を好きに使って下さい、では失礼」
こうして会社を設立する事が出来た。
「折角だし、皆にも報告と勧誘をしとくか」
フレンド全員にメールを送信し、物件に到着。
「どれどれ、中はこんな感じか」
「ほ~見事に何も無いですね」
「ホントに箱だけなのね」
「まあここから、好きにカスタムしろって事でしょ」
三人で中を物色してると、続々と返信メールが来た。
「フムフム…良いね、全員入ってくれるってさ」
全員に入社申請を出し、暫く待機。全員揃ったので、サーモンの紹介と会社の基本理念を伝え、拡張会議を始める。
一応理念として、挨拶は絶対、パーティーの強制は無し、こんな感じだ。
「一応工房を目指して拡張するけど、希望は?」
「他にどういった拡張が出来るんだ?」
なんだか副社長的な感じがあるマサが尋ねる。
「色々だな、庭で牛を飼って乳を生産する、農園を作る、井戸を掘って水を生産、更に浄水器を取り付けたり、ミネラルウォーターを作ったり、養蜂も出来るみたいだ」
もう、色々あって困る位、多方面に拡張できるようだ。
「成程、俺としては、不公平は極力なくした方が良いと思うから、工房以外に機能を追加するなら、全員が恩恵を感じる設備が望ましいと思うが、どうか?」
「ああ、基本その考えで良いと思う。ってなると…まあそれは追々で良いか」
とはいえ、何れは工房以外の拡張も始まるだろうから、今の内に候補の設備を、リストアップしておく必要がある。
「万人受けする設備の希望は?」
「万人受けって意味なら飲食よね、ログインする度に、何かしらの食べ物飲み物があれば便利だし、バフ付きをクラフト出来ればそれだけで戦力アップよ」
ユキは、飲食関係か、確かに常に満腹で、喉が潤っていれば、一々小銭を切る事もないし、バフ付きを安定供給出来れば、攻略も捗るな。
「ペット関係も良いんじゃないかしら?本来ならコストを使って連れ歩けるペットを、ペットルームを増設すれば、その分のコストを肩代わりしてくれるのよね」
アコはペット関係か、ペットルームを増設すると、そのLvに応じてコストが設定され、その分のペットを会社で飼う事が出来、好きに連れ歩けるというものだ。
ただ見た限り、相当費用が高く、増設してちょっとLvを上げた程度じゃ、犬や兎数匹が関の山で、テイマーみたいに、専門職が連れない限り、能力的に戦力に成るかも微妙なラインだ。
「我々職人としては、高品質な水が安定供給されれば嬉しいですが」
パミルが、シルク、マッドの意見をまとめ提言。
確かに水は大事だ、クラフトもそうだし、飲み水として常に備蓄があれば、渇きからも解放されるし、生産量次第では売りに出せるな。
色々意見を出し合った結果、厨房の拡張、井戸の拡張、少しだけペットルームの増設が、方針として決まった。
ペットルームに関しては、それはもうアコが粘る粘る。以下回想。
「アコ…気持ちは分かるけどペットはちょっと費用対効果が…」
「なんでよ!?カワイイペットで癒されたいと思わないの!?」
「…うーん」
「想像してよ、沢山のモフモフなうさちゃん達に、揉みくちゃにされる事を」
まあ確かに、VRなら汚れも気にならないし、良いかもしれんが。
「それに、猫が発見されたらぬっこぬこになれるのよ!?」
なんだよぬっこぬこって。
「「「「「ぬっこぬこ!?」」」」」
「なんでそこに喰いつくんだよ!?」
「猫の為なら、全力を尽くさざるを得ない‼」
マサまで食い付いたー!?。
「僕はなんと言っても犬が良いですね」
出ましたね聞いてもいない情報が。ベルまで犬押しで参戦し、戦火は拡大。
それから暫くは、犬だ兎だ猫だと、激しい論争が繰り広げられた。
以上回想終わり。
「じゃあこの90万で、一通り揃えるか」
パミル、シルク、マッドがそれぞれ使う、細工台、研磨機、紡績機、織り機、蒸留器、竈を増設し、これで30万が飛ぶ。
更に皮を鞣す鞣し台。皮や植物性素材、金属を繊維に加工する解し台。素材を乾燥させる乾燥機。鉄鉱石等をインゴットに出来る鋳造機。糸や布を革を染める染色機。木材や金属を塗装する、塗装台等を増設して、30万消える。
「凄いです。これだけ揃ってれば色々出来るです」
シルクが嬉しそうに感想を言う。
「ここまでの設備を用意して貰った以上、必ず売り上げに貢献しますよ」
パミルも決意を新たにする。
「ヒヒ…最高のポーション…毒薬を作るよ」
マッドも意欲的だ。
一応初期費用は俺が全部持つので、皆には、それぞれ得意分野で、少しづつ俺に貢献して貰う事になっている。
「次は少しでも早く回収したいから、井戸と冷蔵庫だな」
先ず残りの30万の内、10万を投資して、冷蔵庫を増設。これは食品や飲料を、100コスト分収納出来、長持ちさせる事が出来る。
最後は井戸で、取り敢えず20万突っ込んで、可能な限り深い井戸にした。
井戸は深く掘る程汲める水の量を底上げ出来るので、先ずはこれで償却を目指す。
「こんなもんだな、じゃあ設備を好きに使ってくれ」
そう言うと、皆それぞれの行動を開始する。
「テツ君、お金は自分で出すからペットルームの増設良いかしら?」
「一応リソースに限りはある様だから、程々にな」
「ヤッタ‼ありがとう!」
そう言うとアコは会社のコントロールパネルを弄り出す。
「やれやれ…、さて、俺は水くみでもするか」
庭に出て井戸を確認、なんも変哲の無い井戸だ。
「釣瓶式か、まあ初期状態じゃ仕方ないか」
それからせっせと水を汲み、40コスト分の水を汲み上げたとこで、水が無くなった。
「今日はこれが限界か」
今の所、1日で採れる水は40コスト分が限界の様だ。
[井戸水]:なんの変哲の無い井戸の水。水質には問題なくそのまま飲める。コスト0.5。ランク12~34。
これが、[幸運]のお陰か、様々なランクで採取出来た。流石に汲める量には影響しない様だが、ランクにバラつきがあるのなら、一人に売れる量は下がるかもしれないが、客の幅は広くなるので、悪くない結果と言える。
汲んだ水を冷蔵庫に仕舞い、売りに出す。冷蔵庫に仕舞ったまま販売出来るので、コンディションを気にせず売買出来るのも嬉しい。
売値は皆と相談し、1つ50円にした。
俺は高くない?と思ったが、パミル曰く、用途が広いから、飲み水と考えると高いが、工業用水と考えればこれでも大分安いとの事だ。
「今日はもう上がるは、お休み」
「「「お休み」」」
こうして、無事会社を設立し、ログアウトした。
「こんばんは」
「こんばんはテツさん」
会社に居たのはパミルだけか。
「どうだ?ここは使いやすいか?」
「それはもう、一ヶ所にこれだけ設備が揃ってるなんて感激ですよ」
「それは良かった。さて水は売れてるかな~?」
パミルとの会話を打ち切り、冷蔵庫をチェック。
(お、全部売れてる。しかも昨晩の内には売り切れてたのか)
物を売りに出す場合、販売履歴が残るので、それで色々と分かるのだ。ちなみに販売形式はギルドの競売と一緒で、違いはギルドの競売に出品された物を買うにはギルドで検索。会社の商品を買うには、住宅前のインターホンで検索するかの違いしかない。
ギルドに出品しても、手数料とかを取られることも無いが、冷蔵庫も有るし、今後は会社を通して販売する事になるだろう。
「先ずは水汲みを済ますか」
庭に出て水汲みを済ませ、冷蔵庫に入れ出品。
教会に行きLvを32に上げ、治験を受けに行き、森で薬草を取りに行く。
森とホームを何度か往復し、素材をギルドに納品し、報酬を受け取る。
その報酬でLvを33に上げ、PAに戻った。
「ただいま」
何人か居て、挨拶を交わす。
「これから金策で、渓谷に砂金取りに行くんだが、誰か一緒に行くか?」
「私が行きましょう砂金は幾らあっても足りませんし」
「私も行くわ」
パミルとユキが同行してくれるようだ。
「それじゃあ始めようか」
渓谷に着き、スロープを降り、採取を開始。
相変わらずの使い魔の大群に、周囲の注目を浴びるが気にしない。
「昨日はかつてないレベルで散財したからな、ちょっと金策に本気を出さねば」
「苦労を掛けるわねテッツァン」
「それは言わない約束でしょ?」
即興の茶番を演じつつ、目に付くシンボルを片っ端からシャベルで穿る。
「お、先ずは一つ目」
幸先良い事に、早速一つ目の砂金を入手。
金属や宝石は、パミルがスキルの効果でコストを大幅に軽減出来るので、パミルに持ってもらい、ひたすら採取に勤しむ。
途中、下流でゲートキーパーが出現するトラブルがあったようだが、かなり距離があったので、被害を受ける事は無かった。ちなみに未討伐で、レア素材はお預けのようだ。
「良し、こんなもんか、戻ろう」
会社に戻り、貴重品だけ各々受け取り、それ以外を会社の倉庫に突っ込む。
これらは会社の資材として、職人組が暇を見つけて加工し、販売する事で会社の財源に充てるのだ。
「次は南山に行こう」
荷物を整理し、ベルが合流し、現地に向かう。
道中や山道を突っ切り、坑道に到着。早速採掘を始める。
護衛は俺の使い魔だけで十分なので、全員つるはしを装備してザクザクと掘る。
なんせ広いとはいえ坑道だ、使い魔が15体も居ればぎゅうぎゅうだ。お陰で敵が来てもまず最初に使い魔を倒さなければ、俺達に辿り着くことも出来ないから、安心して採掘に専念できる。
「やっぱ数は偉大だ。敵が完全にブロックされてる」
「あんまり狭すぎるとアレだけど、この位の狭さなら良い感じに蓋になるわね」
チョット先で、使い魔と猪がじゃれ合い、騒がしくなる。
その後も場所を変えつつザクザクと掘り続け、手持ちがいっぱいになったとこで、PAに帰還。分配を終え、パーティーを解散した。
今日はもう良い時間なので、倉庫に羊毛と要らない素材を突っ込んで寝た。
今日は土曜日、午前中に雑事を全て片し、一服。お昼からはクリーンな気持ちでDIYの世界にログインする事が出来た。
その場にいた者と適当に挨拶をし、水汲みと売り上げ確認を行う。
(三人が頑張ってくれたのか)
売り上げを確認すると、水の売り上げとは別に、6千円程の売り上げがあった。
パミル達が加工した商品が売れてる様だ。
ちなみに売上金は、引き出さない限りは、会社の財源としてカウントされるので、疑似銀行としても扱える。これも会社を持つメリットの一つだろう。
日課の治験を受け、その間一時間半を、ホーム周辺の採取に充てる。
普段は採取をしない場所だから、資源も十分有りそうだ。
設備を揃えた今なら、砂や土、雑草や枯れ木でも、何かしら価値のある物を作れそうだから、片っ端から集めまくる。
ホーム周辺が、真っ新になるんじゃないかという勢いで採取し、何度も往復して会社の倉庫に素材を突っ込んでゆく。
会社の倉庫は初期状態でも、1000コスト分の収納になってるから安心だ。
薬の効果も切れたとこで、報酬を受け取りPAに戻る。
樹海に行こうと準備してると、サチとサーモンが一緒に来てくれる様だ。
「サーモンとはこれが初共闘だな」
「そうだな、テッチャンのお陰でゴブリンが2体も呼べるし、期待してよ」
自信ありげなサーモンと三人で樹海に入り、サーモンがゴブリンを召喚。
「武装はシンプルに盾剣か」
「普段使いの主力だからね、バランスの良さが大事だ」
「ギャギャ‼」
ゴブリンが突然声を上げ、頭上を指さす。
「豹が居たのか、よく看破したな」
「流石レア従魔ね、いきなりお手柄よ」
「良くやった」
「ンギャギャ~」
それほどでも~と身体をくねらせ照れるゴブリン、表現豊かだな。
使い魔は、索敵が壊滅的にダメで、奇襲には滅法弱いが、その弱点をゴブリンが補う事で、奇襲を受ける確率はグッと減った。
時間切れで、ゴブリンが送還されると、直ぐに次のゴブリンを召喚する。
「これは、ローテーションしてるのか?」
「そう、2体居れば、1体目のクールタイムを2体目で凌げるから、常にゴブリンを召喚しておけるんだ」
「成程、そしてゴブリン一本で行きたい場合は、複数召喚を維持する為に、核が複数欲しいのか」
「ああ、一発ドカンってタイプじゃないが、ゴブリンの数を揃えられれば、安定感は抜群だ。だからこそ[ゴブリンの核]の需要は下がるどころか日に日に高まってるのさ」
「へ~、それじゃ金策でまたゴブリン狩りに行くのも良さそうね」
俺とサーモンの会話聞いて、サチがそんな感想を言う。
でもエンカウント自体が稀なんだから、狙って何度も最深部に行くのは骨が折れる。他に狩場が無い時しか行きたくないな。
「俺もまだまだ欲しいから、気が向いたら取ってきてくれ」
「無茶を言う…、そういえばファンタジーでゴブリンと双璧をなす、定番のオークってどこで会えるんだ?ホームで見かけるから居る事は居るんだよな?」
「何処だろうな?ゴブリンが居る以上、間違いなくオークも居そうだけどな」
「ゴブリンの居る森ってもう探索され尽くしたのかしら?」
「さあ?でも結構時間も経ったし、踏破されてても不思議じゃないが」
「なんとなくゴブリンと同じ環境に居るイメージだから、森に居そうだが」
まあ考えても答えは出ないので、採取に専念する。
「さて、これ以上は持てないから帰ろう」
沢山の素材と共に会社に戻り、金目の物は保管し、不要な物は倉庫へポイッ。
それから商品の売れ行きを確認すると、高額な商品が結構売れている様で、8万円程資産が増えていた。
「これは…羊毛で作ったアパレルが売れてるのか」
因子[羊飼い]の効果で、一時間に一度、荷物に羊毛がねじ込まれるんだが、そうもこれにも[幸運]が適応されるらしく、一度に結構な量の羊毛が手に入り、それを会社の倉庫に突っ込んでいた。
そして、シルクがそれをせっせと加工してアパレルにして売りに出してくれた様で、短時間でこれだけの収入になった様だ。
「これで何か増設するか…」
料理は量産するにはまだ準備が万全では無いし、井戸を拡張するか。
5万投資して、井戸を更に掘り下げた。これで一日の生産量が50コスト分に増えた。
早速10コスト分、汲んできて、冷蔵庫に仕舞い、皆が好きに飲めるように設定。
これで社員の喉の渇きは大分改善されるだろう。
そして残りの3万は、俺のLv上げ費用にし、Lvを44に上げた。
チョットずるいかもしれないが、俺は100万も投資してるので、これ位問題ない、それに商品の素材も、そこそこの割合俺が倉庫に突っ込んだ物だし問題ない。寧ろLvを上げた事で、素材の供給効率が上がるから、俺のLv上げは推奨されてる状況だ。
兎に角、これでコストに大分余裕が生まれたので、<速度上昇>をLv70まで上げ、残コストは128.5となり、かなり効率よく採取マラソンが出来る筈だ。
さあ、次は何処に行こうかと思案していると、巡回のアラームが起動した。
「お、巡回の募集か、ちょっくら行って来るか」
残ってるメンバーに出掛けると伝え、墓地に向かうのであった。
次は2週間程で。