第四話
~前回までのあらすじ~
新たな仲間、ユキとアコがフレンドになり、更にはパミルとシルクという職人二人共友誼を結ぶことができ、テツの周りは増々賑やかになった。
この間の激戦から早数日、俺は[ジャックオーランタン]上級試験に挑もうとしている。
それは昨日の事だ、お馴染みの巡回に参加して、いつもの様にアンデッドを浄化した時、遂に俺の十字架が赤く発光し、受験資格を満たしたのだ。
「おお‼やったな‼これでお前も上級、胸張って一人前って名乗れるな」
まだ試験すら受けていないのに盛り上がるおっさん達。
「ほれギル、先輩としてなんか突破のコツでも伝授してやれよ」
ガハハと酒も飲んでねえのにこのテンション。女三人集まれば姦しいと言うが、おっさん複数集まれば喧しいだな、マジでノリが居酒屋の管巻き親父と一緒だ。
「コホン…そうですね、気合です」
…ダメだこいつも同類だ。精神論根性論はコツとは言わねえだろが。
まあ冗談はさておき、偉大な先輩方から大体の内容は聞けたので、良いとするか。
試験内容はプロ試験と基本は一緒。その難易度だけが馬鹿みたいに跳ね上がってるだけだと言う。まあ心が折れなければ、その内打開できると言われた。
一応Lvを100に上げ、チェスト内にも換金用の素材をこれでもかと貯め込んだので、これで無理だったら転生してもっと強くなってから挑めば良いと、複数回挑む前提で準備も済ませ、試験に臨んだ。
結果から言えば楽勝だった。勝因はハッキリしている。使い魔の火力が以前より飛躍的…と言うか基礎の時点で倍近く、更に転生後のカンストなので、前回の四倍位には増加してるので、ランタン二刀流でガチムチ戦法を仕掛け、終始押し込み気味で試験を完了。実に呆気なく上級に上がる事が出来た。
これも転生時に[魔素]を切って[筋力]を採用したのが良かった。筋肉は裏切らない。
墓地組に報告すると、まあそうだわなといった感じで、祝福こそしてくれたが、通って当然と言われてる気がしてちょっと悲しい。
「あれだけの質を伴った使い魔を7体も従えて、ランタンのデメリットも物ともしない生命力。寧ろプロ試験で苦戦した方が何かの間違いに思えるぞ」
まああの時は今よりはビルドも洗練されてなかったし、ランタンも一つだけ、コストもカツカツと、内情を鑑みれば、当然なのだが、まあどうでも良いか。
何にせよ、これで晴れて上級に上がれたわけで、焦がれてやまなかった特典、ランタンのデメリットの帳消しが叶い、常時装備する事に抵抗が無くなったのが嬉しい。
他にも特級程ではないにしろ、多少はランタンを独自にカスタム出来たり、特殊な物を購入出来たりする様で、ギルのエネルギーブレードタイプも、特殊なタイプを購入したのだと言う。
まあ俺は、今持ってる頑丈なスチール製のランタン二個で満足してるので、今の所お金を掛ける心算は無い。
さて、試験にも受かった事だし、ステップアップする時だ。
必要な物をチェストに仕舞い、教会へ。今から二度目の転生を行う。
最早慣れたもので、サクサクと選択していき、転生完了。
今回も、更に[獣人]を選んで、パラーメータは基本の三種に、[体力][装甲][筋力][魔力][速度][幸運][信仰]とそのままだ。
公式からはその内、大型アップデートで、因子やパラーメータが追加されると明言されてるので、それまでは、因子は獣人を重ね、パラーメータはそのままで行く予定だ。
という事で早速Lv上げだ。ギルドに出向き、素材を次々に競売に掛けていく。
売れるまでの間に、二度目の転生…、分かりやすく三周目にしよう。三周目の特典とデメリットの話だが、お察しの通り、二周目に起きた事が、三周目の倍率が掛かるだけである。
Lvアップ時のパラメータの伸びが三倍、ポイントも三倍、Lvアップのコストも三倍、スキルLv、チェストの容量と、周回ごとに上がっていく。
さて、暫く待ってみて、そこそこ安くした甲斐あって、換金素材を売り切る事に成功し、2万5千円もの大金を獲得。
そのまま教会にとんぼ返りし、Lvを一気に41まで上げた。金は力なり。
祝福を付けると、この時点で既に[生命]が826もあった。
装備は初期装備のナイフに、デメリットの消えたランタン、これで残りコストは112.5になりポイントは123。
スキルを取得し、<生存本能>と<速度上昇>をLv30に、<守護霊>を20、各種使い魔をLv1にし、コストが26.5、ポイントが37になった。
ちなみに<守護霊>がLv20なのは、Lv20でも十分強かったし、コストとポイントとの兼ね合いで抑えている。他の使い魔は後で上げればいいので、取り敢えずLv1止めでOK。
<生存本能>と<速度上昇>はLvが高ければ高い程良いので、限界まで上げた。
特に因子の重複で、基礎効果が上がってる<生存本能>は、かなりの効果を発揮し、使いきったスタミナを僅か3秒弱で全快する程のスキルに成長した。
さあもっともっとLvを上げる為に稼ごうでは無いか。
そういえばアップデート告知がされてたが、自分にはそこまで恩恵は無いかと思う、
内容はシンプルに、車両が使える様になるということで、どうやら公式推奨依頼は無事完了したようで、それらの結果が次回のアップデートで反映されるらしい。
他にも追加要素がある様だが、まあのんびり待つのが吉だ。
まあそれは兎も角、今日は週末だ。目一杯遊ぶぞ。
ギルドに向かい、依頼を物色していると。
「テツ君、こんばんは」
ユキに声を掛けられ、そのままパーティーを組むことに。
「どうせならマサとアコも誘ってみるか」
ユキもそうしましょうと同意してくれたので、連絡を入れる。
「ばんわ~」
「こんばんわ」
二人共誘いに乗ってくれ、直ぐに合流し、パーティーを組む。
「俺のフレに、素材の持ち込み次第で、強力なアパレル歩値引きか譲渡してくれる子が居るんだ。西の樹海付近にいると思うから行ってみないか?」
皆これと言って目的も無いようで、俺の案が採用され樹海へ向かう。
「え~と、シルクは…居た居た」
「あ、テツさんこんばんはです」
シルクに皆を紹介して、少し談話。これから樹海に潜ると言ったら、シルクも付いて來ると言うので、快くパーティーに迎え、五人で樹海に挑む。
そういえば今更だが、パーティーは、基本人数制限が無い。
依頼の制限だったり、スキルや魔法に、パーティーメンバーの数で効果が上下するものがあったりと、都合に合わせて人数を調整する必要は有るが、特に何も無ければ、パーティーメンバーは幾らいても問題無いらしい。
散策を開始して数分。相変わらず物騒な場所だが以前に比べ、遥かに楽に散策出来ている。そりゃそうだ、単純に人数が五倍になってるんだから。
それに、シルクのビルドが俺と非常に相性が良かったのも楽になった要因で、彼女も使い魔を多数従えるスタイルで、その数はなんと9体、7体は俺の使い魔と一緒で、残り2体の五体満足のレイスの騎士は初見だ。
どうやら、因子のスキルの様で、中々に強い、只ビルドの関係上、俺みたいに戦闘系因子やパラメータで固めてはいないらしく、個々の強さは俺の使い魔に比べ、劣る。
しかし、数の力は偉大だ。俺達はパーティーで見たら五人だが、ユニット数なら21と小隊規模の数を有していて、常に敵の背後を強引に取れて、取られないのは戦術的にも非常に強力だ。
つまり、数の力がより数を補う事で、強力になったのだ。
以前樹海に来たときは、一人故に樹上からの奇襲を常に警戒していた。だが今は、仕掛けられたとこで、その瞬間相手は袋の鼠、詰みだ。
尤も一撃受けるだけでも危険なメンバーは、しゃがむなりして備える必要は有るが、俺は奇襲を喰らっても問題無いので、前を征く。
俺達は、樹海を制覇したいだとか、そう言った目的で来たわけでは無いから、素材を求めてアッチへフラフラコッチヘフラフラと、彷徨いながらの採取だが。
どうも樹海を超えると海岸に出る様で、その先には此処とは別の陸地が見える様だ。何れは海路で別の大陸に行けるじゃないか?と言われている。
車両の実装も各地にそうした港等の、拠点開発の為と聞く。まあその内アプデで分かるだろうから俺はゆっくりで良いが、そうじゃない層も一定数居る。
後の新拠点候補を一目見ようと、樹海内で一直線に移動するパーティーを割と見かけるのだ。中には奇襲で半壊するようなパーティーも居て、近くに居る俺達にこれ幸いと擦り付けを行う輩も居たが、しっかり証拠付きで報告しときました。
そんな感じで、楽しみは人それぞれだなと思う一幕であった。
暫く彷徨い、コストもキツイので、樹海を脱出した。
シルクの露店に戻り、素材の評価をお願いする。
「テツさんの素材なら占めて3500円ですね」
まあ五人で潜ってこれなら十分だな。
「じゃあ買取お願い」
他の皆はアパレルを見て交渉したりしており、最後に皆とフレンド登録をしたようだ。
「じゃあ頑張って素材を持ち込むからキープよろしくね」
「ハイ、待ってるです」
どうもユキとアコは、素材を全譲渡し、分割でアパレルを譲って貰う様だ。
「テツ君アリガトね、いい職人紹介して貰ったわ」
「そうね、値段は張るけどローコストで色々と盛れるアパレルは是非とも欲しいもの、切っ掛けを作ってくれて感謝するわ」
それぞれに感謝され。俺も共通のフレが出来て嬉しい限りだ。
「マサは興味を惹かれなかったのか?」
「いや、欲しいがそこに回せる金が無い、お前と一緒だよ」
「そうだな、まあ俺は[幸運]でその内希少素材が手に入って、一発交換…なんて事態に期待して、気長に待ってるよ」
それも有りだな、とマサが言い、ホームに着いた時点でパーティーを解散し、お開きとなった。俺は眠いので即お寝んねしました。
そして一週間後、ゲームサービス開始後初の大型アプデを行った。
「どれどれ、何がかわったかな~?」
ログインし、インフォーメーションに目を通す。
『DIYオンラインver1.10の更新内容』
という文言で始まったパッチノートに目を通す。
『車両が配備されました:皆様の献身と努力のお陰で、十分なインフラが整い、又環境汚染への対策も同時に行い、アースの環境を著しく乱す事も無く、車両の力を持って住みやすい惑星へと開拓していきましょう』
噂の通り、車両の配備がフィールド拡張のトリガーだったようだ。けどこの場合はアプデで解放されたって方がしっくりくるな。
『魔物、怪物が発生するようになりました:残念な事に、幾ら環境に気を付けたところで、汚染は少なからず発生してしまいます。しかし心配はいりません。発生した魔物怪物は、大気の汚染を急激に摂取した事により変異した生物、その身には核が宿り、この核を回収すれば、汚染度を下げる事が出来ます』
成程、魔物が発生したら討伐して核を処理しろってか。まあ自分たちで汚すんだからケツは己で拭かなきゃな。…ゲームなのに妙に皮肉が効いてらっしゃる。
『汚染度を実装:環境汚染が懸念されるアースにおいて、常に気を配らなければならないのが汚染度です。この汚染度が高い区画(一定座標ごとに区切られたエリア)では、魔物が発生しやすく、稀に怪物が出現します。更に極限まで汚染度が高まった区画(ホーム内など一部エリアを除いて)で、条件を満たすと[ゲートキーパー]と呼ばれる超凶悪な怪物が出現し、一定時間暴れ出します。もし[ゲートキーパー]が出現した場合、誰でも戦闘に参加出来るので、ハイエナ行為等気になさらずに振るってご参加ください。また[ゲートキーパー]が一定時間で逃走又は討伐された場合、その区画の汚染度は0にリセットされ、その区画でのシンボルやドロップでの素材の希少性が上がるので、是非頑張って条件を探して下さい』
これは面白そうだな、区画がそれぞれどの位の広さなのか分からないが、どんなに緩い地域でも、汚染度が高く、条件さえ満たせばレイドボスが出るってのは、色んなエリアに人をバラけさすにも有効だな。
ざっと見た感じ、こんな所かな。細かい箇所は端折って問題無し。
「じゃあ始めるか」
意気揚々とゲームをスタートし、ホームにスポーンした瞬間、そこは修羅場と化していた。
「おい早く人集めて北門に集まれ‼」「誰でも良い‼回復が出来る奴は西門に来てくれ」「片っ端から知り合いに声を掛けろ‼何処も人手不足だ‼」
訳が分からないので、ひとます物陰に移動し、掲示板を見ると大体の事情は分かった。要は[ゲートキーパー]が各地で出現し、とんでも無い事になっているようだ。
(流れは分かったが、汚染って車両を実装した今回から徐々に高まるもんだとばかり思ってたが違うんだな。これはどんな行動が汚染度を高めるかも、しっかりと覚える必要が有るな)
まあ今は事態の収拾に努めよう。そう思いギルドに移動する。
現在俺のLvは66で、<守護霊>以外の使い魔のLvを10に上げた。これで残りコストは47.5、ポイントは58となっている。
ギルドに到着し、現状を確認、既に各所大慌てで、掲示板はお祭り状態だ。
何処にそんなに居たんだ?と思うくらい次から次へと、部屋から出ていくギルドの戦闘要員達。いや明らかに部屋の規模を超越した人数出てきているよね!?これ。まあゲームだから良いか。そう思う事にした。
そんな感じで、ギルドクローン兵のお陰で、慌ただしくは有るが、絶望的な状況と言う訳でもないらしく、受付なんかは割と平常運転なのがシュールな笑いを誘う。
最初は空気に押されたが、今回のアプデ後は、こんな感じがデフォになるようなので、直になれるだろう、折角のお祭り騒ぎだ、俺も参加しちゃる。
周囲に聞き耳を立てると、西門付近で[ゲートキーパー]が暴れていると聞き、即現地に向かい、そこで見た光景に絶句する。
「[ゲートキーパー]って複数同時に相手すんのかよ」
そこには、神々しく黄金に輝く兎に、羽の生えた赤い兎、明らかに系統が違うだろと言いたいジャイアントロップイヤー系の超巨大な兎が、プレイヤーとクローン兵を薙ぎ倒す光景が広がっていた。
どうやらあの三匹は、別々の場所で出現して、一ヶ所の集まって来ただけで、同時に出現したわけでは無い様だ。それがどうしたって言われればそれまでだが、今後の為に一応覚えておくに越した事は無いだろう。
意を決して戦場に飛び込むと、三体とも同時に走り去って消えてしまった。
ああ、これが一定時間で逃走ってやつか、興醒めだがまあ良いか。
そのまま周囲の話に耳を傾け、[ゲートキーパー]は30分で撤収する事が判り、ホームなどの街には直接的な侵攻はしない様だ。
手持無沙汰でどうしようと思っていたら、マサからお誘いが来たのでギルドで待ち合わせをし、向かった。
「お待たせ」
既にマサが待っていたので挨拶をし合流。
「おう、しかしアプデでフィールド全体が、いつ修羅場化するか分からんから、緊張感が半端ないな、それと俺の連れが一人いるから宜しく」
「どうもベルです。よろしくお願いします」
「テツです。こちらこそ」
ベルはヒーラー職で、ビルドはかなり防御重視で組んでるので、攻撃力は期待しないでと言った。
「さて、何処に行くか?汚染度が高いとこは避けたいし、[ゲートキーパー]が出たばっかの所が良いかな?」
「そうだな…メンテ終了直後に比べれば落ち着いて来てるし、森で良いんじゃないか?今なら汚染度も大分低いだろうしな」
「森周辺は、この数時間で十体近く出現したようですし、気を付けながら移動すれば大丈夫でしょう。そんな簡単に条件を満たすとも限らないですし」
フラグヤメテ!?一級建築士なの?。
「じゃあ森に行こう。テツもそれで良いか?」
「ああ、行こうか」
十数分後。
「やっぱりフラグだったか」
俺はジト目でベルを見る。
「僕のせいですか!?」
「いや~…どぼっこだったな…」
数分前、森に着いた俺達はごく普通に森を探索。いつの間にか汚染度の高い区画に入ってしまったので、同じ軌跡を辿って引き返そうと動いたら、馬鹿小さい烏が現れ襲われた。
イカレた速度で飛び回り、嘴で突いてくるだけの烏だが、その攻撃力は異様に高く、少なくともライオンクラスの火力を有していて、あまりの小ささに攻撃がまるで当たらず使い魔の包囲も意味を成さない。結局ベルの回復が間に合わずマサが沈没、続いてベルが撃沈、最後に俺が目玉を突かれ轟沈した。怖かった。
幸い何も持ってなかったから、ノーダメージだがとんだ地雷を踏んでしまったぜ。
「しかし、条件は何だったんだろうな?」
「直前まで居た座標に戻るとかか?なんちゃって」
「「……」」
「……」
「「それだ‼」」
いや‼ねーだろ。ド〇アーガじゃねえんだから。普通怪しいオブジェクトを攻撃するとか、そういうのだろ。
「流石にねーだろ…」
「いや、そういう簡単なのじゃなきゃこんな一斉に各地で出現なんてしないだろ」
「そうですね、誰もが何気ない行動で満たせてしまえるような条件でなければ、此処まで一斉には発生しないでしょうから」
なんか適当に口から出まかせだったが、二人は妙に納得してしまった。
「あんま真に受けるなよ?適当言っただけだからな?」
「今掲示板を見てみたんですが、出現直前にとっていた行動に、スタミナを使い切る、とか飲み食いした、とか岩に座る、昔のRPGのノリでジグザグに動く等、知らなければ思いがけずやってしまう行動が多く見れます。多分殆どが気のせいでしょうけど、幾つかは当たりだと僕は思います」
ベルが掲示板の書き込みを踏まえ、語った内容は根拠こそ薄いが、全ての区画で個別に条件が設定されているなら、そういった簡単な行動で出現してもおかしくは無いのか?、とも思ってしまう。
「まあその内誰かが検証するだろうし、汚染度が高い区画は避ければ、遭遇すらしないんだから、深く考える必要も無いだろう」
「そうだな、検証しようにも汚染度はリセットされる様だし、同じ場所で同じ行動ってのは難しいだろうからな、取り敢えず頭の片隅にでも記憶しておく位で良いな」
幾ら考えても所詮は憶測。知らない事を情報無しで答えに至るなんて土台無理な話だ。そう悟りこの話題は終了した。
「さ、出鼻を挫かれたが次はどうするか、何かあるか?」
「そうだな…少なくとも今の段階で偶発的に[ゲートキーパー]に遭遇しても絶対に勝てないしな、せめて安全度を上げる為に人が多いとこでも行くか?」
「それで良いと思います」
ベルも同意したので、今一番人が多い、ホームとベースを繋ぐ輸送路周辺をうろつくことに。採取でもしながら、レイドに乱入も有りだな。
北門を潜りフィールドへ、皆何時ボスが出るか警戒しながら動いており、奇抜な行動をとって、[ゲートキーパー]を出現させようと頑張っている人も結構見かける。
「それにしても汚染されすぎだよな」
「アプデで表面化しただけで元からそれなりに汚染が進んでてんだろ」
「汚染の条件は何でしょうね、時間の経過…は違うか、浄化塔の意味が無くなるから。となると…さっぱりわかりませんね」
想像は出来ても、確証が無いからな。はい、この話題も終~了~。
結局適当に戦闘をしながら、素材を集めたけど、[ゲートキーパー]が倒されないと、希少素材が採取やドロップで手に入らないのか、出現したエリアが対象で、[ゲートキーパー]が区画を跨ぐせいで、元の出現場所が分からないってだけなのか。
どっちも有りそうだが、恐らく前者だろうな。出現だけさせて30分逃げるなり、隠れるなりすればレア素材取り放題は、汚染の条件、出現条件が解明されたら、お手軽稼ぎになるだろうし多分無いな。
なんにせよ採取やドロップで手に入れた素材は、何の変哲の無い素材ばかりで、[ゲートキーパー]がもたらす恩恵には一切与る事が出来なかった。
「ダメだったね、やっぱ討伐されてないと素材の変化は無しかな」
「こんだけのプレイ人口があっても、掲示板に討伐報告と、レア素材の報告が一切無いのは、やっぱそういう事なんだろうよ」
「ですね。となるといよいよ今回のアプデは、プレイヤーにとって大きな枷になりますね。せめて何かしらの救済処置でもあれば良いのですが」
「まあ、それが討伐後のレア素材なんだろう。直接倒したグループ以外でもシンボルやドロップの素材は取れるみたいだし、じきに慣れてくだろ」
正直[ゲートキーパー]に勝てるビジョンが見えないが、その内トッププレイヤーが倒せるようになるだろうし、そうなればデメリットよりメリットの方が、取沙汰され始めるだろう。
そんな感じで雑談をして、最後にベルとフレ登録を行いログアウトした。
さて、アプデから一週間。難易度が激増した事で、大炎上していたDIYの世界も大分落ち着き、チラホラと[ゲートキーパー]の討伐報告も上がり、それに伴う希少素材はゲーム内の流通のみならず、掲示板を大いに沸かせ、プレイヤー側も一度味を占めたが最後、あっさりと掌を返しアプデの評価もV字回復を遂げた様だ。
そんな中俺はと言うと。
「兎に角俺と使い魔を盾に奴のヘイトを逸らせ、ベル‼回復は任せた‼」
「おっとさせねぇよ、良し、当たるぞ‼そしてダメージも通る‼」
俺達はパーティーを組み、以前どぼっこにされた超小型烏に戦いを挑んでいる。
奴の出現条件は、正確には分からないが、その区画に入ってから通った座標を、同じ座標で引き返すと出現するってのが有力で、以前と同じ様に行動したら今回も無事出せる事が出来たというわけだ。
「ちょこまかと鬱陶しいわね、[ファイアーオーブ]‼」
「動きが鈍ったわね、そこ‼」
「回復しますね、[ライトヒール]」
マサとユキとアコにベルとパーティーを組み、烏に挑んだが、以前と違い順調に奴の防御を突破し、ダメージを蓄積。こちらもダメージと共に疲労も溜まり、精彩さを欠き、ミスも増えてきたが、そこには絶望感などなく、イケイケムードが漂っていた。
「イケるぞ‼奴が弱ってる‼」
「うおおおおおお‼」
ダメージが一定値に達し、烏が錐もみしながら墜落、漸くの千載一遇のチャンスに各々が最大の攻撃を、ここぞとばかりに繰り出す。
俺の使い魔達が袋に、マサの剛斧が空気を割き、ユキの魔法が炸裂し、アコの矢が突き刺さり、ベルの支援が俺達の能力を底上げし、奴のLPを一気に削る。
激戦だった。だがそんな激戦も何とか決着が付き、俺達はホームにいる。
「「「「「……」」」」」
「……結局はどぼっこだったな」
俺達は頑張った。未だ討伐報告が少ない[ゲートキーパー]を間違いなく追い詰めたのだ。ただ…その少々詰めが甘く、発狂した烏の更なる加速と、某STGのふぐ刺し宜しく、凄まじい羽根の弾幕に成す術も無く全滅した。
一応は反撃も試みた、なんせ奴のLPは残すところ一割を切っていた。何かしらの大技が掠りでもすれば倒せる。そう信じ弾幕に晒されながらも身を挺し仲間を守り、少ないチャンスを攻撃に変換し可能性に掛けた。しかし現実は無情だ。
先ず、そもそも攻撃が当たらない。規則性も無く超高速三次元機動をかます奴は、こちらに的を絞らせずに弾幕で応戦。そして何とか攻撃を当てたと思ったらキィンと音がし、攻撃が無効化された。
実際は無効化されたわけではない。発狂した奴は、ARMと同系統の防御能力、SHIとBARの3種を発動し、更にHPまで追加され、実質振出しに戻されたのだ。
凶悪な弾幕と三種の防護を打ち破れずに敗北を喫したのだ。
「と言うわけで、まだまだ[ゲートキーパー]の壁は厚かったって事で」
もうね、小手先の工夫では如何にもならん差を感じたね。能力も装備も人数も何もかもが不足していた。結局は土俵にすら立てていなかったのだ。
さて、ボコボコにされた今の俺のLvは86。、<野生の力>という[獣人]の専用スキルをLv30まで上げた。
<野生の力>はLv毎に[生命]を3上昇させる効果で、因子を三重取りしてる今は、1Lvで[生命]を9も上げれるので、相当にタフになっている。
「検証も済んだし次はどうする?」
「どうするか…」
ボコボコにされた直後ということもあり、皆テンションだだ下がりだ。
結局疲れたのでそのまま解散となった。
翌朝早朝。
「昨日は早く寝たからな、今日は早起きでどっぷり浸かろうか」
ログインし、取り敢えず食事を取り、体調を万全にした。
ギルドに入り、依頼を吟味すると。
「お!?」
なんと消えていた治験の依頼が復活していた。
(内容が少し変化している?まあいいや、兎に角行ってみるか)
なんせ、治験の依頼から[ジャックオーランタン]に繋がったからな。今度も受け続ければ面白い事になりそうだと、俺の直感が囁いている。
そうと決まれば研究所に向かい門を叩いた。
「おお、君か。久しぶりだね」
マッドな科学者と話をし、内容次第で受ける事を伝え、説明を受ける事に。
「今度の実験は前回のより、更に踏み込んだものになる。ゆえに被験者の負担は以前とは比較にならない程キツイものとなるので、君の適性を調べさせて貰う」
説明の後、健康診断の様な事を行い、幾つかの質問に答え、別室で待機した。
「お待たせしました」
冷たい目をした美人助手に呼ばれ、結果を聞く。
「検査の結果、あなたには当研究に対する非常に高い適性が有ると判断します。最初に申した通り、非常にキツイですが。お受けになりますか?」
疑問形で聞いて来てるが。研究者の目は是非受けてくれ、寧ろ逃がさないと言った気迫に満ちていた。おそらくは以前より報酬は良いだろうからと、俺は依頼を受ける事にした。
「ではこのポッドに入って下さい」
促されるままポッドに入り横になる。
「では始めます。遺伝情報解析開始」
ポッド内が謎の液体で満たされ、体が凄まじい倦怠感に襲われる。
(ぐっ!?なんだコレ、体が重い‼)
身体が碌に動かない中、どんどん衰弱していく身体。急いでメニューからステータスを見ると、パラメータが全体的に低下していて、[生命]だけは1000も下がっていた。
急激なパラメータの低下で怠かった身体が、慣れたのか多少は楽になった頃、ポッドが開き解放された。
「お気づきかもしれませんが、今回の実験は、現時点では何のメリットもございません、先ずは先のステップに進むための準備とお思い下さい。ただもし途中で辛くなったのなら何時でもお止めになって頂いて結構です。この実験はそれ程人を選びますので」
…マジでしんどかった。これを続けるのは、幾らゲームだからって厳しいぞ、なんであそこまで倦怠感を再現したんだと運営に抗議したくなる程だった。
しかし、辛いなら止めて良いんだぞ?ん?、なんて態度を取られちゃ俺も意地になるってもんだ。たとえ相手の掌でも、モルモットにはモルモットなりの意地が有るんだぜ?
「生憎と、それなりに忍耐はある方だ。イケるとこまでは行ってやるぜ」
「素晴らしい。是非我々にも次のステップを見せて下さいな。なに、その様子なら心配いりません、あの薬は理論上接種している内に耐性が付いて、その内倦怠感を感じなくなる筈。そうなれば次のステップに移れますので、今後ともよろしくお願いします」
その後、薬の効果はゲーム内で、約四半日、現実時間の1時間半と結構長く、弱体化具合も洒落にならないから、近場で採取をする事にした。
ゲームの仕様上、低ランクの素材は相変わらず人気だが、最近はプレイヤーのLvが上がり、より良いポーションや、医療キットの需要が増えた事で、ランクが高い素材の需要も増え、お陰で俺の収入も微増した。
さて、近場で一番美味しい場所と言えば森だ。西門からフィールドに出て森に向かう。
最近はフィールドにも変化が頻繁に起こり、最初は踏み固められた街道って感じだった道が、今は良く分からない発光する素材で、舗装された道路に車線が引かれ、表示や標識も充実。
更に今後増えるであろう、魔物対策に一定距離毎に頑丈そうな派出所が設置されてたりし、相対的には以前と変わらない位の危険度を維持しているようだ。
歩きやすくなった道を行き、森に到着。
「それじゃあ採取を始めるか」
このゲームは、必ずしも難しいエリアや、強い敵と戦うばかりが、金儲けの手段ではなく、こうした地味な作業を、効率良く行う事でも、それなりに稼げてしまうのだ。
勿論希少価値の高い素材は、人が少ない地域で採れるから、前線組の方が稼ぎは良い。だが新規やのんびりプレイでも、露骨に差が出ないのは、焦る必要が無く非常に有難い。
寧ろ上級プレイヤー程、新規や生産職のお陰でガンガン先に進めていると言っても過言では無い、そんなボトムプレイヤーの稼ぎ場所でもある森は今日も大盛況。
たまに[ゲートキーパー]にしゃぶられて酷い目に遭ったりするが、稼ぎの感覚は前と変わった感じはしないので、アプデで人が減る事は無かったようだ。
最近は、近場に限りマッピングは終えてる関係上、採取のローテーションにも余裕が有り、森の浅層で採取をしてから数日は経っている。
「うん、十分間があったからバッチリ回復してるな」
そこらじゅうで光るシンボルを片っ端から採取していく。
暫くし、手持ちがいっぱいになったので一時帰還。チェストの中身と相談しながら不要な物を売却し、換金用の素材を購入し保管する。
最近は、闇雲に全てを売っ払うのではなく、需要のある素材は為るべくランクを揃えて競売に掛ける、若しくはプレイヤーとの取引に使うようになった。
この方がより高く売れるし、間接的な貯金にもなるので、手間が増える以上にやり繰りが楽になり、売却の際に出た小銭は、自身の手持ちの素材のランクに合わせて、安い物を購入して、後々買った時以上の値で売り捌く。実に無駄が無くて良い。
再び森に向かい、別の場所で素材を集めていると、兎が襲って来た。
「なんだ兎か、お前達やっておしまい」
一斉に兎に群がる使い魔達。何れかの一撃でも貰えばくたばる筈の兎が、なんと耐えてみせ俺に突っ込んできた。
「おおお!?」
咄嗟にナイフで迎撃し、お互い痛み分けで睨み合う。
(今の一撃でARMが消し飛んだだと!?)
俺が驚愕している間に、使い魔が兎をフルボッコにし退治した。
そしてここで漸く気づく。あれが魔物化した生物か、と。
「そうか、場合によっては浅層でも遭遇してしまうのか」
倒した際に手に入った素材は、初見の物が多く、良い物に思える。
初心者は兎に角、区画の汚染度には常に気を配る必要が有るな。でも不意に汚染度が高い区画に入ってしまう事なんて、日常茶飯事だから、それに対する救済措置は欲しい所だ。
「どれどれ…取れた素材は、と」
今回初めて見る素材は、[魔兎の皮][魔兎の肉][魔兎の核]で、それぞれの共通項は、『兎が汚染によって変異した存在。魔兎の○○』と言った感じで。それぞれに使い道がある様だが、今の俺には手に余るので、売り出す心算だ。
[ゲートキーパー]やアンデッドを除き、初めて野生動物の魔物と戦ったが、非常に強力な存在だ。最弱の兎でしかも、一番下であろう魔兎であの強さだ。
上位固体や元となる個体が、こないだベース建築の支援で戦った、ライオンより強い兎だったらとんでもない事になるな。滅多にある事では無いだろうが、そんな外見は同じでも桁外れに強い個体は、確実に存在するので、そんな特殊な高レベル型の生物の魔物Verとは、遭遇したら逃げるしかなさそうだ。
折角初見の素材も含め、沢山集めたので欲をかかず帰還した。
時間も時間で、薬も抜けたのでログアウトして休憩する。
一息ついて、再開する為ログイン。
「どれ、何かする事は~っと」
メニューを開き、依頼関係を見ると、丁度墓地で巡回の人手を募集している。
「良し、見回りに参加しようか」
〆切まで時間もそうないので、急いで準備を済ませ現地へ向かう。
「おう、テツか、来てくれて助かるぜ」
現地に到着すると知った顔が揃っており、代表でウィルに声を掛けられる。
「どうも、今日は何です?やたらと人が多いようですが」
「ああ、テツは最近変異した魔物と遭遇しなかったか?」
「タイムリーですね。ついさっき兎の魔物と戦ったばっかです」
それに関係してるんだが、とウィルが語り出したのは、最近の墓地事情と、此処に一時安置される遺体の真実だった。
「前に此処は開拓で死んでいった者を、浄化してると言ったな」
「そんな感じの事をいってましたね」
「あれは間違いではないんだが、真実とは言えないんだ」
「と言いますと?」
「おかしいと思は無いか?日々原生生物や開拓中の事故で死者が出て、最近なんか強力な魔物や怪物が大量発生して、討伐に当たった兵士が多く散ったのに、ホームの人口は大して減っていない事に」
いや、どうと言われてもゲームの都合と思ってたが。
「結論から言うと、此処の遺体は大半がクローンだ」
成程、このゲームは個々のNPCにしっかりと人格が設定されていて、そんな存在が割とあっさりと大量に死んでたりして、どうなんだと思ったこともあったが、クローンならゲーム的にも都合が良い設定だな。
「それでクローンは何て言うかな…、仏作って魂入れずというか、そのままだと力が宿らないのか非常に弱いんだ。それを克服する為に、オリジナルの意識だけをクローンに移して、魂の疑似再現をして、因子やパラメータの恩恵を再現しているんだ」
ほー、力は魂に由来してるって事なのか。それで転生で強くなってくのか。
「これによってクローンでも相応の戦力を確保できるから、様々な分野で死者は減ったが、クローンが破棄され、肉体だけになった後が面倒で、どうにもクローンは汚染に抵抗が低いらしくて、魔物と戦っての破棄や汚染区画での活動後に破棄すると、高確率でアンデッドに変異してしまうんだ」
そうなんだ、なんだろ?あくまで魂はオリジナルの物だから、意識が本体に戻ったら、そういった汚染には抵抗出来ないって事なのかな?。
「まあ、稀にオリジナルとは別の自我が芽生えて魂と成る場合もあるそうだが、そうなると今度は魂の方が変異を起こしてレイスになるんだ。それが普段俺達が相手にしているアンデッドの真実だ」
「ん?って事はギルもその体はクローンなのか?」
「そういう時も有るが、今は本物の身体だ、と言っても何度も再生医療を施してるから、ある意味この体もクローンと言えるな。話が逸れたが、この惑星でも本格的な開拓、入植が始まって汚染もクローンの破棄も増えた。だから大量発生するアンデッドに対処する為に、人を沢山集めてるんだ」
「そういう事情だったんだ、じゃあこれからも忙しそうだな」
「他人事の様に言ってるがテツ。お前は上級の[ジャックオーランタン]だ、強制とまではいかなくとも出来る限り参加する義務がある、気張ってけよ」
二人で話し込んでいる間にも続々と人が集まり、総勢五十名程になった。
しかし、相変わらずランタンを持て余す者や、新人も増えていて、誰もが一線級とはいかない様で、それでいて広範囲をカバーする為にグループを細かく分ける。
俺はウィルの息子のギルと2人で、危険な外回りを担当する事となった。
「今日は宜しく、二人だけでっていうのは初めてだな」
相変わらず男とは思えない程綺麗な顔してるなあ。声も高く綺麗なギルは、さぞモテるに違いない、ぼんやりとそんな事を考える。
「こちらこそ。そうですね、お互い油断しないよう頑張りましょう」
他のベテラン勢は半人前や新人を分担引率する様だ。
皆それぞれの担当へ出発し、俺達は一旦敷地から出て外周を回る。
「うわぁ…マジで大量じゃん」
「最近はずっとこんな感じですね。それでも今日は楽できそうです」
ギルが横目に、頼りにしてるぞと視線を送ってくる。
期待に応えるべく、大量のアンデッドと対峙し、使い魔と一緒に押し込む。
その隙にギルが集団のサイドを取り、疑似タイマンに持ち込んだアンデッドを切り伏せ、順調に数を減らしていく。
それにしても、相変わらず惚れ惚れする剣技だ。ランタンの剣で切り付け、十字架の剣で止めを刺す。やっていることを言葉で表すとシンプルだが、その光景を目の当たりにすれば、それが単純な行為では無い事は一目瞭然だ。
見事な間合い管理、常に先手を取り、反撃は攻撃と同時に間合いを外す事で、回避らしい回避すらせずに躱す。
それでいて、多彩な流派なのか、敵の攻撃とタイミングが被ってしまっても、瞬時に相手の攻撃に自身の攻撃を合わせ相殺に持ち込む守りの型。敢えて先手を取らせて後の先を取り、相手の防御を掻い潜る受けの型。どれも素晴らしい。
そんなギルの剣技が冴え渡り、初戦は難なく突破できた。
「お疲れ、相変わらず見事な技だ」
「お疲れ様、それもテツさんが大群を完璧に抑え込んでくれるからですよ」
お互いの健闘を称え合い、小休止を終え再び歩み始める。
「む、今度は魔犬に魔狼ですか。テツさん前を頼みます」
「オウ!」
と安請け合いしてみたものの不安だ。魔兎ですら200近いARMを一撃で消し飛ばすんだから、魔犬と魔狼はそれ以上な筈だ。
それでも一度は肉薄してみない事には、実力が測れないし、使い魔を壁にしつつ端っこの魔犬にちょっかいを掛ける。
「ギャイン‼」
お!?この間と違って万全の状態だからか、無強化のナイフとランタンのデバフで、思いの外ダメージが出て、魔犬のLPを3割程削る事が出来た。
「グルルル…ワウ‼」
肝心な魔犬の反撃だが、うんARMが7割は削れたが、純粋な攻撃力自体は魔兎と同じ位の様だ。ARMは防御力の恩恵を受けれない代わりに、パラメータの[穿孔]等の、物理防御貫通の効果も受けないので、このような結果になったかもしれない。もしかしたら、貫通能力が高く、防御力重視の人には強敵の可能性があるかもしれない。
噛み付いて来た魔犬の頭部にナイフを突き刺し、直ぐに引き抜き再度突き刺す事で、魔犬を屠る事に成功。ナイフの取り回しの良さと、Lvによるゴリ押しで、タイマンで魔物を倒せてしまった。
使い魔の方も、十分な堅さに攻撃力、非常に高いLPのお陰で、一歩も引かずに(そもそもそんな行動を採らない)群れを抑える。
そこへ、ギルが闇討ちを仕掛け、数を減らしていき、余裕が有るタイミングで魔狼とも対峙し、攻撃を仕掛け、攻撃を受けてみた。
此方の攻撃はその豊富な毛量と、毛の強靭さに阻まれイマイチ通りが悪く、1割ほど削る結果になり、魔狼の噛み付きはARMを一撃で消し飛ばし、HPも僅かばかり削れていたので、大体犬の1.5倍程攻撃力が高く、打たれ強さは三倍強といったところの様だ。
実際に交戦して、おおよその強さを把握出来き用済みになったので、片を付けた。
こいつ等も魔兎同様、名前にちなんだ皮や肉、核を落として逝った。
その後も魔物の特盛をお替りしながら、巡回を続ける。
「ふぅ…一旦休憩しましょう」
俺達は、見回りの際に支給される物資を使い、一時的な安全地帯を構築。その中で軽食を取りながら、お互いの近況などを話し合った。
「ギルはかなり頻繁に見回りをしてるよな?特級の受験資格は得たのか?」
「まだまだだと思います。何せ特級は上級に比べて恩恵も出来る事も大幅に増えますからね。今の自分だと…良くて道半ばといったとこでしょうか」
「そんなか…じゃあ俺が特級を受けようと思ったら相当先の事になりそうだな」
何しろ現状やる事が多すぎて如何にも半端になってきている。
次に何が起こるか楽しみで仕方ない新薬の治験依頼。
パミルとシルク相手に、トレードする為の素材集め。
今やってる、墓地の見回りと、受験への点数稼ぎ。
それでいて、Lvをしっかり上げていきたいし、資産の確保もしておきたい。全て実行するとそれぞれが半端になってしまうのも致し方ないだろう。
休憩を終え巡回を再開する。
相変わらず大量のアンデッドが襲い掛かって来るが、難なく浄化出来ている。
用途不明な骨や、ランタンに吸われる魂等謎が謎のままなのが歯がゆい。両方共集めれば何かあるのは間違いないんだがなぁ…。
そんなこんなで、何度か戦闘をこなし、一周してスタート地点に戻った。
「お疲れ、今日はありがとう」
「いえいえ此方こそ。またよろしくお願いします」
それから程なくして、最後のグループが帰還して解散となった。
その後はベテラン勢による、愚痴と言う名の飲み会が開催。
俺は少しだけ参加し、目一杯飲み食いしてその場を辞させて貰った。
ホームに戻り、報酬を受け取り素材の整理整頓を済ませる。
ある程度手持ちが増えたので、Lvを88に上げ、換金素材も蓄える。
相場は日々変動するので、今のチェスト内の相価値は分からんが、少なく見積もっても2万円は下らないと思っている。
要も済んだし次は北の渓流に向かう。
やはり自然豊かな光景に、谷底は幅が広く、川の流れも穏やかな渓谷は人で賑わっていて、釣りや罠猟をしてる人も多く、谷底に降りる為のスロープの周辺には露店が幾つも構えられていた。
今回は砂金を少しでも多く取るって目標が有るから、スルーして降りる。
それからは只管砂利攫いを繰り返して、上流下流としらみつぶしに採取して、どうにか砂金を三つ手に入れる事が出来た。
これで俺の持ってる砂金は八つになり、もう少しでパミルの10万相当のアクセサリとトレード出来る。だが相手の気が変わっている可能性も考えて過度な期待はしないでおこう。
戦利品を引っ提げバザーに繰り出し、交換や売買を行いコストを空ける。
今度は南の山岳に向かい、パミルを訪ねる。
「やあ、調子はどうだい?」
「やあテツさん、残念なお知らせが有ります。実はテツさんの目当ての品が売れてしまって、在庫が無いんですよ。トレード用に素材を集めてたようですが、すみません」
oh…まあこういう事もあるわな。
「それは残念だが気にすんな、どうせもう少し時間が掛かっただろうし、今必要な人が正規の手段で手に入れたなら、文句を言う筋合いも無いしな」
[鉄の指輪]と言う何も効果を持たないコスト1の指輪が、[生命]10%上昇と[生命]5%上昇のOPが付いた事で、装備するだけで、[生命]が15%も上昇する、非常にコスパの良い装備だったのだが…、そうか売れてしまったか。
「まあ代わりと言っては何ですが、これなんてどうです?」
そう言ってパミルが見せてくれたアクセサリがコレだ。
[銀のネックレス]アンデッドからのダメージを5%軽減する。OP:[生命上昇15%][積載上昇10%]、コスト5。
「これはまた強力なネックレスだな」
「そうなんですよ、最近はこのクラスのアクセサリが主流になって来ていて、以前の主力商品は型落ちで値引きしたんですよ、そうしたら売れてしまったんですけど…これなら以前提示した砂金10個と交換出来ますよ」
「そうか、もし揃った時に売れ残ってたらお願いしようかな」
商談は不発に終わったが、今の売れ筋や、お互いの近況などで盛り上がり、時間も時間なので、夕飯を食う為一旦落ちる事にした。
夜。再びログインし、ギルドへ向かう。
「何か面白そうなのは~っと」
張り出された依頼に目を通し、幾つか目に留まった依頼が。
ベースの建築(東)の応援、西南の湿地帯の調査、北の渓谷の橋掛け補助。
この三つが目に留まり、一番興味を惹かれたのが、湿地帯の調査だ。
そもそも森を超えた先に行った事が無いので、湿地帯が有った事すら知らず、ギルドからも人を送る様なので、便乗してマッピングするのも有りだな、と思い依頼を受け現地に向かった。
現地に到着すると、そこは湿地帯にふさわしく、ボウボウに生えたブッシュに広大な沼、と足場が悪く調査も一筋縄ではいかなそうだ。
これといって守るべき規律も無く、どんな素材が取れる、どんな生物が居るか、魔物怪物化はしてるか等、どんな些細な情報でも構わないので提供して欲しいとの事だ。その代わりに自由に行動できるというわけだ。
取り敢えず周囲を見ると、既に何人か調査員が棒でガサゴソとそこらを突きながら、移動しているので、彼らの死角をカバーする形で沼に足を踏み入れた。
沼は思っていたよりは深さが無かったが、足首が埋まる程度の深さでも移動速度が激減、確実に半減はしているだろう。
それでも[速度]が200後半、<速度上昇>Lv30を持ってる俺は、初期状態より1.6倍程の速度で動けるので、半減したとしても、初期状態の八割の移動速度が出せるので、十分立ち回れるだろう。
何かないかと探り探り沼を歩く。近くに敵が居た様で、使い魔が反応した。
緑色の巨体が泥飛沫を上げ、使い魔に襲い掛かる。
「こいつは…鰐か!」
すぐさま群がる使い魔を、その強靭で巨大な顎で襲い、その堅牢な鱗に覆われた大きな尾で打ち据え、中々に迫力に満ちた光景が繰り広げられた。
それでもうちの使い魔達は、ライオンやサイを相手取れる程堅いのだ。今更鰐如きが一匹ノコノコと出てきた所で…。
「ん?うわっ!?アブね!」
水中を音も無く移動する鰐の群れに気づかず、囲まれてしまった。
何か予感がして、振り返った時に見たのは今にも俺をかみ砕こうとする、鋭い歯がびっしりと生えた巨大な口で、何とかすんでのとこで交わす事が出来た。
奇襲を躱された事への怒りなのか、苛立ちを露わにする鰐。
「全部で五匹か」
そのタイミングで、使い魔が最初に襲って来た鰐を仕留めたので、仕切り直しで第二ラウンドが開始された。
俺はこのタイミングで<守護霊>のLvを30に上げてみた。それからどうせポイントもコストも余裕が有るからと、<魔道人形>と<ゴーレム使い>もLv30に上げた。
目的は、この窮地を乗り切る為と、検証だ。
Lv20の時点で強かった<守護霊>が、更に劇的な強化遂げるのか、能力が延びるだけで、動きはこれで完成なのか、人形とゴーレムも、どのLvまで上げるのが効率が良いかを測る為だ。少なくともLv20<守護霊>と並ぶには、Lv30~40程度は必要だろうが、それも含めLv30でどの程度になるかの検証だ。
さて観察を始めて直ぐに分かった事が有る。<守護霊>の行動パターンはLv20の時点で打ち止めの様だ(あくまで現時点での所見だが)。能力が上がった分一対一なら鰐を圧倒している分、Lvを上げた甲斐は有ったが、プレイヤーのパラメータを参照にしているなら、態々Lv21以上上げる必要性は薄いかもしれない。
次に<魔道人形>と<ゴーレム使い>だが、こっちは目に見えて効果が有り、Lv20の<守護霊>には及ばないが、行動頻度は確実に上がっていて、敵を前にしての空白時間が大幅に改善された。
結果としては、ある程度想定の通りで、やはり<守護霊>は優秀な使い魔だと思う、一方で、[幸運]の使い魔4種が、<守護霊>と同等の動きになるにはスキルLvを幾つに上げる必要が有るのか…、仮にLv50は要るとして、その時点で消費ポイント、コスト共に200という相当な経費が必要で、果たしてその価値が有るのかは、現時点では判断が付かないな。
まあ流石にLv1止めで、デコイと割り切ったとしても、十秒ぼっ立ちは能力的にも壁としても、論外なので、こちらも最適解を地道に探るとしようか。
そんな感じで、考察する間に戦闘も佳境に入っており、たった今人形の魔法が、最後の一匹に炸裂し、戦闘に終止符が打たれた。
「終わってみれば楽勝だったな」
なんせ見てただけだからな、使い魔とLvゴリ押しに乾杯。
湿地帯での初戦闘も終え、調査を再開する。
とは言えスキルのLvを大幅上げてしまったので、現在の残コストは装備と消耗品も入れて、30程しかなく、戦利品はあまり持ち帰れないだろう。
そう思ってたら、ふと視界に、ギルド出張買取所の登りを見つけた。
「成程、ギルドとしても、協力者が一々拠点に帰還するのは無駄と判断したか」
出張買取所には、嬉しい事にチェストも備え付けており、その場で売却、素材の預け入れ、消耗品の出し入れが出来、効率よく調査する事が出来た。
この日はログアウトまで調査を行い、就寝した。
翌日も引き続き調査を継続。順調にマッピングは進み、資産も増えた。
調査をし、現在分かった事は、このエリアからは、更に別のエリア二ヶ所に行ける事が判り、今後は未踏破区域を調査する心算だ。
さて、その未踏破エリアだが、片方は沼地を更に西に進むと行ける湿地草原で、NPCの噂を小耳にはさんだ程度だが、危険生物が跋扈する超危険エリアの様だ。
そしてもう片方は、沼地から北西に広がるマングローブ風のぬかるんだジャングルで、こちらも危険生物だらけのエリアで、踏み込むなら相応の覚悟と準備が必要だと言われた。
それなら是非とも攻略したいとこだが、他にもやりたい事だらけだ。雰囲気を味わう為に、触りだけ探索してみて、これと言った旨味が無ければ後回しにしよう。
それから準備を整え、湿地草原に大規模な調査隊が派遣されると言うので、それに便乗はせずに、ジャングルに向かう事にした。
え?なんで調査隊についていかないかって?、そりゃフラグがビンビンに立っているからですよ。見えてる地雷を踏みに行くほど物好きではないんでね。
そんな感じでやって来たジャングルだが、本当に超危険区域だった。
これで魔物じゃないとか信じられん。そう思う程凶悪なガザミにヤシガニ。樹上や茂みからこちらを食い殺そうと迫って来る豹やジャガー。他にも色々とヤバいのが居て、正直使い魔のLvを上げてなければ不意打ちで総崩れになっていた可能性が高い。
そんなジャングルだが、旨味は中々で、ヤシガニやガザミは捨てるとこの無い程素材が優秀で、猫科も取れる素材は上等で、テイマーなら仲間に出来る様なので、そう遠くない内に人気エリアになるだろう。
まあ、俺にとってはそこそこ止まりな狩場と言った感じで、今本腰を入れて探索する場所ではないと言うのが正直な感想だ。
一旦休憩を挟み、今度は湿地草原に向かう…その前に。
「すみません、調査隊の方はどうなりましたか?」
時間と共に充実していくギルド出張所。俺はさっき完成し、解放されたばかりの、出張ギルド兼酒場で情報を集めた。
「調査隊?ああ、なまじ規模の大きい部隊だったのが悪かったのか、夥しい数の生物に襲われ、半壊しながら戻って来たよ」
やっぱりフラグだったか。
「気になるんだったらホレ、そこにレポートが有るから見ると良い」
受付のおっさんが指さした方に、誰でも閲覧できる情報端末とスクリーンが有ったので、早速拝見させて頂いた。
そこには襲って来た生物の特徴などが大まかに記載されていた。
中でも要注意なのが、大カワウソ、蛭、電気鯰に電気鰻、カバだ。
大カワウソは縄張りに入った敵を、執拗に攻撃する性質を持ち、群れでの狩りに優れ、数の優位を巧みに利用し狩りを行うらしい。
蛭は想像しただけでもぞっとするな、いつの間にか体に吸着し、血を啜り続けるとかあ~やだやだ。おまけに放置しておくと、状態異常の[出血][貧血]を発生させて来る、非常に嫌らしい存在だ。
鯰と鰻は、レポートを見る限りでは、うっかり身体が接触してしまった場合に危険ってだけで、注意してれば大丈夫そうだが、電気攻撃はかなり危ないらしいので、覚えておこう。
カバはまあ説明不要だろう。デカい、重い、堅いと来れば弱い訳が無い。
そんな湿地草原の危険を頭に叩き込んで、準備をし出発した。
「おお~、見晴らしも良いし、水中に凶悪な生物が居なければ、水遊びしたりするのに良い場所なんだがな~」
思っていたよりも、草も短く障害物らしい物も、流木が少しある程度で、ぱっと見の視界は非常に良好だ。
取り敢えず、一番近い倒木を目指し進んでみる事にした。
湿地草原も沼地と同様に速度ペナルティが課され、動き辛い。
それでもまだマシな速度は出てるので、えっちらおっちら歩いてたら、唐突にLPが減り出し、直ぐに原因に思い当たり、足を見ると。
「うわぁ…ビッシリ…」
かなり大きめな蛭が、腿や脛にしゃぶり付いているアレな光景に寒気を感じつつ、こういう時の為に購入しておいたアイテムを取り出す。
「バグクリーナー」
某アニメの秘密道具を取り出す時の声音を真似て出した。このバグクリーナーと言う道具は、スタンガンのような形状をしている。
使い方は簡単。パルスの発生する先端を自分に突き付けて使うだけだ。
「では…、痛!」
ライターの着火装置のような、電気ショックが発生し、ポトポトと蛭が身体から剥がれ落ち、LPの減少が止まり一安心。
「うん、そこそこ高かったが、何度も使えるから買って良かったな」
5000円での購入で、コストも10とやたら重いが、何度でも使える事を考えれば、そう時間も掛からずに元は取れる筈なので、損はしていないだろう。
それにしても、こういう時こそランタンの効果で、害虫を除けてくれればとも思ったが、レポートで見た情報より、LPの減りが格段に低かったのは、ランタンのお陰なのか?、これは急いで検証するべきだな。
思い立ったが吉日。直ぐに引き返し、二つ目のランタンを装備。先程蛭に血を吸われた辺りを探索してみたが、蛭が寄って来る事は無かった。
「Yeah‼思った通り、ランタンは効いてたんだな」
期待通りの結果に思わずニンマリしてしまう。
「ってなると、ランタンを強化するか、効果の高い別種に変えれば、ランタン一個で済んだり、二個持てばもっと厄介な害虫害獣を寄付けない事も出来そうだな」
今後、魔物化した蛭、蚊に蝙蝠とか、纏わり付かれるだけでもしんどい敵は、幾らでも出てきそうなので、そういった展開を想定して、今の内から対策を講じておくのも重要な攻略要素だろう。
当初は乗り気でなかった、湿地草原の探索も、思いもしなかった有益な体験に繋がり、今後の自分の立ち回りの洗練に一役買ってくれた。
その後は、蛭の脅威からは解放され、ランタン二刀流の二重デバフで、使い魔の数の暴力もより加速。これと言った出来事も無く調査を終えたので、帰還した。
ギルドで、[ジャックオーランタン]のランタンが有効だという事を伝え、もしこの情報が証明されたら、後程情報量を支払うと約束して貰った。
なんだかんだ言って、夜も遅いので、今日は寝よう。
おやすみなさい。
次話は10日程を予定してます。