107.「都合」(三作)
「都合」
あなたが愛しているのは彼女だと、はっきり彼から聞いたからには、あなたの側にいたところで心が私に向くことはない。
どのみち上辺だけの関係なら彼のところへ行くほうが気持ちが楽になると告げると、あなたは強く肩を掴み、彼は私を物のように扱うから行っては駄目だと、目をそらさずに警告した。
彼だけは駄目だと、念を押した。
じゃあ彼以外の誰ならいいと言えるの?
世の中には彼より冷たい男などいくらでもいることぐらい知っている。
答えると、あなたは私を愛していないのに抱き寄せる。
長い葛藤の末、他の誰かに恋するまで側にいていいと声を絞り出した。
そんな都合の良い言葉をあなたから聞くとは思っていなかった。
あなたは少しは私を愛している。
その時が来るまで、側にいていい。
私にとって都合が良すぎる言葉に涙が溢れた。
ー
彼女を側に置いていることで、あの人は安堵するのだろうか。
少しは失望してほしい。
少しは傷ついてほしい。
裏切られたと感じる自分を勝手だと腹立たしく思ってもらえたのなら、彼女を側に置いた甲斐もある。
自分は汚い。
それでも、あの人のことしか考えられない。
ー
本当のことが知りたいというから教えてやったのに、元の鞘に納まるやつらの気がしれない。
自分自身、ずっと物として扱われて来た。
そこから他者を物として愛でることができるようになったのは進化だと思わないか?
愛ほど無残な結末はないのだから。