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「あれ?蓮花?」


とぼとぼと来た道を帰る私に、男の人が声を掛ける。

ふと顔を上げると、そこにはいっくんの親友の#片岡正臣__かたおかまさおみ__#こと、臣くんが驚いた表情でこちらに駆け寄って来るところだった。


「何でここに?…あぁ、今日バレンタインだもんな。斎に会いに来たのか?斎は?」


立て続けに聞いてくる臣くんに、じわじわと瞳に水の膜が張っていくのを感じる。

それを臣くんは、ぎょっとした顔で見るとあたふたと周りを見回した。


「勘弁してくれよ。俺が泣かしてるみたいじゃんか。こんなとこ斎に見られたら、殺される…!」


焦ったように呟く臣くんに、私の水の膜は決壊した。


「いっくんは、そんなことじゃ怒らないよ。

だって、だって…、彼女いるし。」

「…………は?」


臣くんは、キョトンとした顔で私を見つめる。


「彼女?斎に…?」


コクリと頷く私に、しばらく唸るように考え事をしていた臣くんは、その後ポンポンと私の頭を優しく叩く。

子どもをあやすような仕草が面白くて、少し涙が引っ込んだ。


「それにしても、斎に彼女がいるってことにお前が泣くなんて思いもしなかったなぁ。」


感慨深げに呟く臣くんを、軽くバシバシ叩きながら、それもそうだと思う。

私もこんなに胸の中がぽっかり空いたような、そこからドロッとした醜いものがあふれでてくるような、そんな気持ちになるなんて思ってもみなかった。

今まで私は、いっくんはずっと私の隣にいて、私を守ってくれるって、それが当たり前に続くって思ってた。

私の特別がいっくんなように、いっくんの特別も私なんだって思い上がっていたんだ、きっと。


「まぁ、こんなとこでメソメソしてるより、直接本人に聞いた方が早いし、楽だぞ。」


それは私に当たって砕けろということか。

恨めしく見上げる私に、臣くんは苦笑いを浮かべると、送っていってやるから、と私の背中を押した。


ーーーーーーー


「…?蓮花?」


駅のホームに上がる階段を、あと一段残すところで止まった私に、臣くんが訝しげに声を掛ける。


しまった、いっくんの彼女ショックですっかり忘れていた。

#彼女__・・__#の存在を。


ーーーーアナタモワタシトオナジダモノネ。


そう囁いた彼女の声が脳内を駆け巡る。

これはとてもヤバいんじゃなかろうか。

だって今の私は、彼女の念に同調し過ぎている。

このまま行けば引き摺り込まれてしまうんじゃないか。

そう逡巡していた私に、ホームに駆け上がっていく人の肩が当たる。


あっと、思った時には私はぶつかられた衝撃でたたらを踏みながら、ホームの真ん中まで来ていた。

カツン、とお守りの石を結びつけていた紐がちぎれ、音を立てて石がホームに転がる。


「蓮花!?大丈夫か?」


隣にいるはずの臣くんの声が、何故か遠い。

私の視線の先には、彼女の奈落の底に繋がっていそうな程のほの暗い目ーーー。


「蓮花…?」


臣くんの戸惑う声が聞こえる。


ーーーーカワイソウニ。アナタハワタシトオナジ。

ーーーーーカレニハアナタハヒツヨウナイノ。


ーーーーーーサァ、コチラヘイラッシャイ。


ぼんやりとする私の頭の中に彼女の声が木霊する。


私の腕を掴んで引き留めようとする臣くんの腕を、いつもの私なら出せないほどの力で振り解く。


「っ、蓮花!?」


臣くんが驚いたように私の名を呼ぶ。

あともう少しで、黄色いブロックを超える。

流石に今回はもう無理かも。

こんな時に思い出されるのは、やっぱりいっくんの顔で。


今頃、あの美女とデートでもしてるのかなぁ?


そう思うと、またどろっとした醜い感情が胸を満たす。

あぁ、こうして私も恋しい人を呪いながら死んでいくのか。

そしたら私の魂もここに留まって、彼女のように地縛霊になるんだろうか。

そうなったら、いっくんが気付いて調伏してくれるかな。

それはそれでいいかもなぁなんて思いながら、迫り来る彼女を見つめると、彼女の唇がニヤリと不気味につり上がる。


「いっくんの、バカ。」


そう私が呟くのと、誰かの腕が私の体を引き留めるように抱き締めるのは同時だった。


「六根清浄、急急如律令!怨敵退散!」


パンっと何かが弾ける感覚とともに、私の意識は遠退いていった。

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