#5(最終話) 最終的に消えたトイレットペーパーはどこへ?
「最初はトイレットペーパーを買ってきて事務所に戻ってきた。そのあとはすぐに備品倉庫に置いた……」
何度も思い出そうとしても同じところでなかなか進まず悶絶しているリイサ。
自分でトイレットペーパーを置いたのは間違いないが、その後どうなった分からない。
「何か足りないなぁ……トイレットペーパーを置いたあとの目撃情報があればいいんだけどな……ってあれ?」
彼女自身は気がつかなかった「目撃情報」という言葉。
今まで何も意識していなかったその言葉をリイサは思い出したのだ。
「みんなが帰ってきたあと、訊いてみようかな? 訊くタイミングが難しいかもしれないけど……」
直帰する者がいたり、戻ってくる時間がまちまち、依頼人と一緒に戻ってきて聴き込み調査……人の出入りが激しい少人数の探偵事務所で目撃情報を得るのは絶望的。
リイサも事務作業をしている傍ら備品の管理しているため、常に倉庫を見ているわけではない。
彼女は目撃情報以前に今回の事件で一番怪しい人物がいることに気がついている。
今日の隼人の様子がおかしかったことに――。
「確か、今日の隼人くんは白衣着てたし、話している時に汗が垂れてタオルを取りに行った……ってことはっ!」
リイサが呟きながら右往左往している時、消えたトイレットペーパー事件の犯人が分かった。
彼は様々な伏線を落としていき、彼女に伏線を回収させようと考えたのではないかと――。
同時に探偵事務所の扉が開き、その従業員がワイワイと会話しながら戻ってきた。
幸いなことに全員揃って。
「みなさん、戻ってきて早々ですが……」
「どうしたんですか?」
「リイサちゃん、なんか怖い顔してるけど……」
「さっき、トイレットペーパーがないって騒いでいたじゃないですか……」
「うん」
「確かに言ってたね」
「その犯人がこの中にいるんです!」
「「えっ!?」」
リイサが早速、本題に入ると探偵事務所内は緊迫した空気に包まれる。
互いの顔を見合わせている中、隼人がゆっくり手をあげた。
「ごめん、リイサ。実はそれ……俺の仕業なんだ……」
彼は申し訳なさそうに謝罪する。
他の従業員は疑いの目を隼人に向けられていた。
「隼人くん。トイレットペーパーは何に使ったの?」
「俺の家のトイレに置いた」
「いつ?」
「昨日の夕方だからみんなが帰ったあとだな……あとは公園や駅の公衆トイレにいくつか……」
実際には彼は嘘をついていた。
隼人は別件で急な手術の依頼があり、止血用として使用している医療用ガーゼの在庫を切らせてしまい、その代用としてトイレットペーパーを使用。
他は自宅のトイレに設置したのだ。
「……荻野のやつめ……」
「職場の経費で購入したものを勝手に私用で使うのはよくないですよね」
「そうだな」
彼らの冷たい視線を浴びながら「……すみません……」と頭を下げてまた謝罪する。
リイサが「隼人くん」と肩をポンと叩いた。
「今回はもういいから。あたしが買ってきたのと同じトイレットペーパーを買ってきて。もちろん経費はなしで」
「俺の現金で!?」
「そうだよ! 勝手に持ち出して使ったんだから! それは窃盗罪だからね!」
「わかった! わかったから!」
隼人とリイサが口論になっている中、他の従業員は呆れつつも各々の業務に取りかかる。
無事に消えたトイレットペーパー事件が解決され、今日も探偵事務所は愉快に営業中――。
2025/09/20 本投稿