#1 事件は備品倉庫で起きた
ここはとある探偵事務所。
そこには数人の男性が眠たい目を擦りながら事件関連の書類を見たり、事件現場に行く準備をしていたりしていた。
彼らの外見で推測すると二十代後半から三十代か四十代くらい。
入口付近で慌ただしく、けたましい自転車のブレーキ音が彼らの耳に入ってくる。
「おはようございまーす!」
扉が開くと同時に挨拶してきたのは女性だった。
「おはよう。リイサちゃん!」
「おはようございます。ギリギリでしたね?」
「仕方ないじゃん! 寝癖が酷かったんだもん!」
「そうですか。では、僕は取材へ行ってきます」
「俺も外回りに行ってくるわ」
「二人とも行ってらっしゃい。気をつけてね」
彼らはその女性と会話を交わし、外回りに出かける者達を見送る。
それと同時になぜか白衣を着ている男性が書類から目を離し、苦笑を浮かべていた。
「ははっ。リイサったら……朝から笑わせてくれるな……」
「ちょっと、隼人くん!」
「笑ってしまってすまない。おかげで目が覚めた」
「今も顔がニヤけているよ!」
「ごめんごめん」
隼人と呼ばれた男性がリイサと呼ばれた女性に笑いを堪えながら話しかける。
しかし、彼女には彼は反省していないと思い、少し拗ねていた。
「目が覚めたって……ところで、隼人くんが白衣だなんて珍しくない?」
「た、たまに着ていることがあるけど……」
「なーんだ。私が気がつかないだけか……」
「俺の白衣の件は終わりか?」
「もう隼人の白衣の話はこれ以上は続かないから! さて、掃除したりしなきゃね!」
リイサはそそくさとロッカーに荷物を入れ、備品倉庫からほうきとちり取りを取りに行った時――。
彼女はあるものがないことに気がついてしまった。
「あれ? トイレットペーパーがない」
リイサは昨日、備品倉庫に入った時はトイレットペーパーはそこの所定の位置に置いてあったことは確認済み。
しかし、今朝になってなぜかそれが一袋まるまるなくなっていたのだ。
彼女は誰かがどこかにトイレットペーパーを落としてしまったと思い、周囲を見回している。
備品倉庫はもちろん、探偵事務所内すべてを探してみたが、トイレットペーパーが入った袋はどこにも見当たらなかった。
「リイサ、どうした?」
「ねえ、隼人くん」
「ん?」
「ないの」
彼女の不審そうな行動に何事かと思った隼人は声をかけたが、リイサは放心状態に近い声色で答えている。
「何が?」
「昨日まで備品倉庫に置いてあったトイレットペーパーが一袋まるごとなくなってしまったの!」
「なんだって!? この探偵事務所の大事件ではないか!?」
これが消えたトイレットペーパー事件の始まりであった。
2019/01/28 本投稿
2019/01/31 改稿