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僕らのTS冒険記  作者: 灰塵
第三章
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86話 ハゲ山攻略

 翌日から、五〇層を目指して攻略が始まった。


「落石くるぞ――っ、岩陰に入れっ!」

「ままま、待ってぇ――――っ!」


 大小様々な黒岩が斜面を転げて迫ってくる。

 それが途中の岩々にぶつかっては軌道を変え、更なる落石を誘発していった。

 こうも波のように広く押し寄せられては、一つや二つ躱したところで意味が無い。あんなのに巻き込まれたら良くて重傷だ。


 だから必死に脚を動かしているっていうのに……。

 フィジカル面で劣るボクとベティさんは、みんなから少し遅れてしまっていた。


「二人とも、歯を食いしばって!」


 このままでは間に合わないと判断したのか、ハルちゃんはボクらを両脇に抱えると、爆発的な力で脚を踏み出した。


 体がズレる様な急加速。

 走るというよりも滑空に近い挙動で、ボクらは安全地帯へと滑り込んでいった。

 その直後、背にした大岩からゴツ、ゴツ、っと鈍い音が響いてくる。

 ボクらは彼にしがみついたまま、ホゥと安堵の吐息を漏らした。


「間一髪だったね……」

「ありがと、ハルちゃん」

「助かりましたわ」


 雨音のように鳴り続く岩の音。

 落石が落ち着くまでの間、ボクは転がり落ちてゆく岩を眺め続けていた。


 おそらくは火山弾のなれの果てなのだろう。

 地面の上に乗っかるだけの岩では、ちょっとした弾みでバランスが崩れてしまう。モンスターにばかり気をとられていたけれど、ダンジョンにはこういう脅威もあるのだと、改めて気づかされる事になった。


「お前らもファイター系の修業した方が良いかもな」

「そうだね……」


 先程のハルちゃんの急加速も、ファイター系のスキルなのだそうだ。

 この先も冒険者を続けていくのなら、回復が出来るだけのヒーラーでは遠からず限界を迎えてしまうだろう。

 まだまだ回復魔法の練度を上げる必要はあるけれど、自衛スキルの習得も急いだ方が良いのかもしれない。


「よし、この辺りのマップは大体埋まったな」


 シロさんが表示した画面を覗き込むと、昨日は真っ黒だったマップが、歯抜け状態ながらも踏破に必要な範囲が埋まっていた。

 それだけではなく、フロアボスの生息域や、注意すべきモンスターの情報まで手書きで添えられている。

 昨日の詫びとして受け取ったデータが、マップに反映された結果だ。


女剣士(イベリス)さんて、あんなに勝ち気だったのに字は可愛いんだね」

「見えない所じゃ、意外と乙女してたりしてな」


 多少不快な想いはしたけれど、四九層までの情報が手に入った事を考えれば、ボクらの方がかなり得をしているだろう。


 新しいフィールドへ移る度に、情報収集で時間を取られていたからね。

 その時間を丸っと攻略に充てられるのは正直有難い。

 特にこの階層からはマップが自作になるし、フロアボスの位置も不明ときた。

 それを手探りで探っていたら、どんなに時間を食っていたことか。


 で、こんな風にデータをやり取り出来るって事は、そこに商品価値が生まれるって事なんだけど……。騒動の後に酔っぱらい達を捕まえて聞いてみたところ、低層の虫食いマップといえど、一九層分ともなれば二万フランは下らないらしい。

 ただ、欲しいと思う人がいても、情報料にそれだけのお金を支払える駆け出しなんて滅多に居ない。


 だから当然、自分達の脚でマップを埋めるケースがほとんどなのだそうだ。

 そうやって苦労して集めた情報だけに、需給のバランスが悪くとも、相場が崩れることは少ないんだって。


 そりゃ、はした金で売ろうなんて気にはならないもんね。

 安価で売るくらいなら、お前達も同じ苦労をしろって思ってしまうのも、人として自然な感情だろう。


 そんなわけだから、『迷惑料』や『レイド参加者への支援』という名目をさっ引いたとしても、損得の天秤がどれ程ボクらに傾いていたかは明白だろう。

 細かい事なんて気にしないシロさんが、「ぼり過ぎたかな?」なんて苦笑していたくらいだからね。


 だから少しでもバランスを取ろうと、虫食い部分を補完してデータを返すという方針で攻略を進めているのだ。


 彼らに教えて貰った情報によると、この層の転移ゲートは山頂にあるらしい。

 そこで、ボクらは麓の方から順にフロアボスを討伐して回っていた。




 ギャァ……、ギャァ……。


「もうっ! 鬱陶しいなぁ」


 獲物を見つけたと仲間に伝えているのか、頭上を旋回する禿鷲が騒々しい。

 カーニバルチャーなんて名前のタカ科のモンスターだけど、外見は禿鷲その物って感じだった。


 ボクらの常識では腐肉食動物のイメージが強いけれど、ここの禿鷲は自ら狩りをして食料を調達しているんだとか。それでも積極的に襲ってくる事はないらしく、今も虎視眈々とボクらの隙を窺っている。


 そうやってボクらが頭上を警戒していると、今度は岩陰からひょっこりと地上の敵が顔を覗かせるのだ。別種のモンスター同士で示し合わせている訳でもないだろうが、結果的に地上と空との連携が出来上がっていた。


 さしものシロさんも、上空への打ち上げとあっては矢に威力が乗らず、コレまでに打ち落とせた数は僅かに二羽のみ。

 それはボクらの魔法も同様で、何一つ成果を上げる事は出来なかった。


 結局、禿鷲への攻撃は早々に諦め、今は警戒だけに留めている。

 話しに聞く限り、禿鷲で厄介なのは急降下攻撃だけだ。

 それならハルちゃんが守りやすいように、密集陣形さえとっていれば何とかなるだろう。


 あとは地上の方の敵だけど……。


「ヒャッハ――――ッ!」


 世紀末チックな掛け声と共に、カナさんが文字通りに飛び掛かって行く。

 脇腹を蹴り上げられたロックリザードは、血反吐を吐き散らしながら、斜面を転がり落ちていった。


「あぁ――ッ!? ちょっ……魔石の回収っ!」

「ゴメーン♪」


 彼の喜々とした表情を見ていれば一目で分かる。

 あの謝罪は絶対に口だけだ。

 だからほら、舌の根も乾かぬうちに、二匹目のロックリザードが宙を舞っている。


 きっと、湿地で溜まったストレスをぶつけているのだろう。

 ホントにもう……。

 ボクが男だった頃よりずっと悪ガキだよ、この人!


「ハル! 後ろから禿鷲っ!」

「わかった!」


 地上の獲物と交戦する最中、漁夫の利を狙った禿鷲が静かに急降下を始めていた。

 シロさんはいち早くそれを察知し、皆に警戒を促す。


 禿鷲は重力を味方に付けてグングンと地上へ迫ってくる。

 ボクらに肉迫する頃には、時速二〇〇キロの弾丸と化しているだろう。

 だけど、注意深くコースを探っていれば狙いも読めてくる。

 黒光りするかぎ爪が狙っているのは、一番小柄なボクで間違いない。


 互いの距離は、既に二〇メートルを切っている。

 秒速にして五五メートルの世界では、既に瞬きほどの時間しか残されていない。


 そんな刹那に、ボクは蹲って的を小さく絞り、ハルちゃんは衝撃に備えて盾を構えた。いよいよ交錯する……。そう思ったその瞬間。

 禿鷲は錐揉みするように、地面へと墜落していた。


「「は?」」


 え……? 自滅?

 首や翼が折れ、地べたで痙攣する禿鷲。

 不可解な結末に困惑しながらも、ハルちゃんはそいつに歩み寄り、ひと思いに首を刎ね飛ばした。


「上手く行った様ですわね」

「ベティさん、何かしたの?」

「ええ、こんな風に」


 彼女がこちらへ手を伸ばすと、四方八方から強力な扇風機を浴びせられたようにボクの髪が乱れた。


「わっ……ぷッ、何コレ?」

「直接攻撃を当てられないのなら、罠に嵌めれば良いんですわ」


 禿鷲の攻撃は、こちらから見れば高速で迫り来る点でしかない。

 ボクらの放つ矢や魔法も、同様に点の攻撃となる。

 相手が回避行動をとる中で、正確に点同士をぶつけるのは非常に困難だ。


 そこでベティさんが執ったのは面の戦術。

 形状を考えれば球と言った方が適切か。


 狙いを定めて遠くへ飛ばすというリソースを、全て範囲や風速に注ぎ込み、強烈な乱気流を発生させてやったのだ。

 それを禿鷲のコース上に設置してやれば、結果はご覧の通り。


 向こうにとっては、獲物に食らい付こうと視野が狭まるタイミング。

 そんな時に姿勢を崩されては、対応出来るはずもない。


「蚊取り線香ベティ」

「なんだか、褒められている気がしませんわね……」


 確かに、寄ってくる鳥がポトリと落ちる様は、夏の必須商品を連想させるものがあるけれど。

 カナさんの贈った二つ名に、ベティさんは不服そうに口を尖らせていた。


 しかし、精霊魔法の凄さには改めて感心させられてしまった。

 魔道士の魔法は、世界に自分のイメージをねじ込む形で発現している。

 同じ『風』の魔法でも、ボクらの場合は『風』という現象を、一時的に空気ごと生み出して発生させているようなものだ。


 だけど彼女の場合は、この世界の現象その物に直接干渉している。

 そこに空気さえ有れば、まるで手足を動かすように風を起こせてしまうのだ。

 それに、現象の主体が自分ではないからか、魔法の起点も自分自身に制限する必要がないし。だから離れた場所に乱気流なんて物が起こせるのだ。

 これって、とんでもなくチート級の魔法なんじゃないだろうか。


 コスパを度外視するならば、魔道士にも似たような事は可能かもしれない。

 でも、確実に下位互換の魔法にしかならないだろう……。


 その後も、禿鷲達は面白いように自滅を繰り返していった。

 念のためハルちゃんも身構えてはいるけれど、撃墜数が一〇羽を超えてもなお、彼の出番が訪れる事はなかった。

 ここの鳥達にとって、ベティさんは天敵だったらしい。



 結局、蓋を開けてみれば三一層はボクらにとって相性が良すぎた。

 シロさんの探知能力で敵の攻撃には余裕を持って対処出来るし、鳥形モンスターはベティさんが完封してしまう。

 地上の敵にはカナさんがヒャッハーして終了。

 ホント、沼地に比べたらここは天国だ。


 この日、ボクらは七匹のフロアボスと、各種採集クエストをこなして帰還を果たした。コレなら明日の昼には、ハゲ山を踏破出来ているだろう。




 お土産に持って帰ったロックリザードは、例のごとくマーロウが捌いてくれました。文化的な違いから、忌避感が拭いきれなかったけれど、解体さえしてしまえばパッと見は普通の肉とそんなに変わらない。


 ソレを包丁で叩いて筋を切り、一口大に切り分けてフォークで突きまくる。

 酒・生姜・醤油で下味をつけたら、油で素揚げして出来上がり。

 調味料の配分はサクヤに指導してもらったけれど、これぐらいの調理ならボクでも問題なく仕上げることが出来た。


 元の素材を知っている所為で、最初はみんな恐る恐る箸を伸ばしていたけれど、ちょっと淡泊な鶏肉って感じで普通に美味しかった。

 みんなの顔も満足げで、それを見ていると、ボクの方まで嬉しくなってくる。


 お世辞にも出来映えが良いとは言えないボクの料理……。

 大きさなんて不揃いで、幾つかは火が通りきっていない物まで有った。

 そんなだから、まだ料理に楽しさを見出すまでには至れていない。


 だけど、料理を食べてもらう喜びってヤツは、よく分かったような気がする。

 こんなにもやり甲斐を感じられるのなら、是非ともまた味わってみたい。


 ちなみに……。

 大量に余った唐揚げは、今日もマーロウがごっそりテイクアウトしていきました。


 食いしん坊めっ!

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