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僕らのTS冒険記  作者: 灰塵
第三章
87/88

85話 募集告知

「乾杯ぁ~い!」


 唱和も高らかに、ボクらはグラスを打ち鳴らす。

 ランクアップを記念した祝いの杯だ。


「くぅ――――ッ、美味ぇ――――ッ」

「ホント、美味しい……」


 気分が高揚している時って、こんなにも味覚が変わるものなのか。

 シャンパンを(あお)る度、シュワシュワと弾ける炭酸が喉に心地良い。

 程よい充足感に包まれながら、ボクらはささやかな祝宴に酔いしれていた。


 だけど、気兼ねなく羽を伸ばすには、少しばかり場所が悪かったらしい。

 ギルドの酒場は今日も大盛況。密集するパーソナルスペースは過度に重なり合い、ボクらの宴にも容易く第三者の介入を許してしまった。


 取り囲んできたのは赤ら顔の飲んべえ達。

 まさか……、絡み酒っ!?


「お前ら、この間登録したばかりだろ? かぁ~ッ、もう黄色かよ!」

「若けぇヤツは、トントン拍子に進みやがるな」

「んなつまんねぇ物じゃなく、エールいっとけ、エール! オイ、マスター! コイツらにエールの奢りだ!」

「うぃ~、乾杯~ッ!」


 突然の事で警戒してしまったけれど、悪意有っての事ではなさそうだ。

 ランクアップに沸くボクらが琴線に触れたのか、彼らは酒と祝いの言葉を差し入れてくれた。


 でも……、ボクらにお酒を勧めるって、大人としてどうなの?

 そう思わなくもないけれど、実はこの街、お酒に年齢制限は無いのです。


 徹頭徹尾、自己責任が幅を利かせる風土だからね。

 他者に害を加えるような事でもないかぎり、色々とゆるゆるなのだ。


 だけど、どうしても元の世界の社会通念が頭にチラついてしまう。

 異世界に来てまで律儀に守る必要なんてないのにね。

 旅の恥はかき捨てっていうし、ここは流れに乗ってみるべきだろうか……。


 ボクは意を決してエールを口に含むと、コクリと飲み下した。


「苦っがぁ~~~ッ!?」


 それに、キューッって頭に血が上ってフワフワしてくるし、大人って何でこんな物を美味しそうに飲めるんだろう。


 ボクの初々しい反応がお気に召したのか、酔っぱらい達は大声で笑っている。

 赤く火照った顔で丁重にお礼を言い、彼らにジョッキを返すと、何故かそのジョッキの取り合いが始まってしまった。


 よっぽどお酒が好きなんだなぁ……。

 どうやら、お酒の良さを知るには、ボクはまだまだ早過ぎたらしい。


「ランクアップつってもさ、貢献ポイントのおかげだからなぁ……。あんまし自慢にならねぇんじゃね?」

「んなもん関係ねぇさ。成っちまやぁコッチのもんよ!」

「上のランクの方が、うまいクエストも増えるしな」

「へぇー、お勧めのクエストとか有る?」

「お前ら今何層だ?」


 シロ・カナの二人は、突然の闖入者に気後れすることもなく、まるで旧知の仲のように場に溶け込んでいった。そして、いい感じに話題を広げては、さりげなくダンジョンの情報を仕入れていく。


 流石というか抜け目ないというか……。

 彼女達のコミュ力には舌を巻いてしまうよ。


 ボク? ボクはもっぱら聞き専です。

 何事にも向き不向きって物が有るからねっ。

 ほら、相槌を打つのだって立派なコミュニケーションでしょっ!? ねっ!?


 聞こえてくる話に耳を傾けてみると、ハゲ山は鳥系のモンスターが多いらしい。

 またしても近接泣かせのステージと知って、カナさんが肩を落としていた。


 でも、彼には虎の子のエンチャントがある。

 それだけでも十分に貢献出来ているのだけど、彼はガンガン攻めたいタイプだからなぁ……。地上の敵は何が居るのかって、しつこく聞いていた。


 結局、その場に居てもあまり役に立てそうになかったので、ボクは途中で席を立つことに。話術の方は得意な人達に任せてしまおう。


 それに…………。

 今日はなんだか視線が気になって落ち着かなかったんだ。

 ボクの中の何かが揺らいでしまうっていうか……。

 上手く説明出来ないんだけど、無性に不安がこみ上げてくるんだ。

 だから、こうしてクエストボードを眺めている方が、気持ちが穏やかになる。


「やっぱり、黄色のクエストは五〇層以上しか無いか……」


 昇格こそしたものの、適正なクエストを受けるには到達階層が低すぎる。

 どの依頼書も、赤色の頃よりずっと報酬が良いのに……。


 まぁ、無い物ねだりをしても仕方がないか。

 とりあえず、今受けられそうなクエストを一通りメモしておこう。


 次に挑む三一層はハゲ山ステージ。

 植物なんて全然生えていないし、採集系のクエストは無だろうって思っていたけれど、その分、硫黄とか黒曜石とか、採掘系のクエストが出てくるみたい。

 報酬も悪くないし、ツルハシを担いで掘りに出かけるのもありかも。


 狩猟の方では、サクヤが欲しがっていた食材(モンスター)の名前を見つけた。

 あの子は美味しいって言っていたけれど、トカゲ肉っていうのがちょっとね。

 元の世界の食文化的には、馴染みのない食材だったから……。


 そうやってクエストボードを独り占めにしていると、何やら言い争うように二人組が近づいてきた。

 一人は黒髪の女剣士、もう一人は全身鎧のドワーフという組み合わせだ。

 面倒事に巻き込まれても嫌だし、場所を譲って素知らぬ顔をしておこう。


「バカッ、それじゃ他の依頼書に被るじゃないかっ! 私に寄越せっ!」

「チッ、しち面倒くさいヤツめ。だから、ロイドかルベールに任せろと言ったのだ。何で始まる前からカリカリしとるんだお前は……」

「そっ……、そういう所がガサツだと言うんだッ! アレはそんなにハッキリと切り替わるような物じゃ――――……、ってオイ! どこへ行くッ!」

「酒だ、終わったら呼びに来い」

「この……唐変木めッ!」


 クエストボードは本来、ギルド職員の管理下にある。

 依頼書の張り出しも撤去も、彼らの手で行われるのが普通なのだけど、それを冒険者自らが張り出すって、一体どんな内容なのだろう。

 気になって後ろから覗き込んでみると、少ししわの寄った依頼書にはこんな内容が書かれていた。



  表題:五〇層フロアボス討伐

  クエストランク:赤

  依頼者:イベリス

  報酬:無し

  日時:五月第二週予定

  内容:四人以上のパーティ、三個分隊によるレイド攻略。

     参加条件は五〇層未踏破であること。

     但し、ヒーラーのみ、踏破済みの傭兵を可とする。




 ――――これって、依頼じゃなくて、攻略メンバーの募集?

 内容からすると、初見パーティで攻略しようぜって事らしい。

 ヒーラーだけ踏破済みを認めているのは、このレベル帯では希少だからだろう。


 しかし、三パーティでの攻略って……。

 五〇層のフロアボスは、そんなにも手強い相手なのだろうか。

 決行日までは、まだ一〇日以上も猶予があるし。

 これならボクらの攻略も間に合うかもしれない。


「ん? 参加希望かい?」


 視線に気がついたのか、女剣士が振り返って声を掛けてくる。

 だけど、ボクの冒険証を目にすると、彼女の喜色は直ぐに色あせてしまった。


「黄色……か。済まない、五〇層なんてとっくに終わっているよね」


 彼女の冒険証は赤色。

 つまりは、今のボクらより一つ下の階級だ。

 勘違いで格上の相手を誘ってしまったと恥じ入るように、彼女は頭を掻きながらその場を立ち去ろうとした。


「いいえ、まだです。よかったらお話を聞かせもらえませんか?」


 先の階層の情報となれば、ボクらにとっては貴重な物だ。

 五〇層のボスが強敵というのなら、是非とも話を聞いておきたい。

 でも、ボクが引き留めると、彼女は心底意外そうな顔で聞き返してきたんだ。


「黄色で未踏破って……、アンタ今何層なの?」

「今日三〇層を突破した所です」

「三〇……?」


 ――――あれ? 何かマズかったのだろうか。

 彼女の表情がみるみる怪訝な物へと変わっていく。


 まぁ、黄色ランクの冒険者といえば、五〇層以上が当たり前。

 それはクエストボードの依頼書を見れば一目瞭然だ。


 自分よりも低層で燻っている冒険者が、自分より上位の階級というのが納得いかなかったのかもしれない。

 彼女はしばし思案にふけると、酷く胡乱な目を向けてきた。


「あ~……、採集専門の?」


 ――――なるほど。

 言われてみれば、低層で安全にポイントを稼ぐなら、そういう手段もあるか。


 ポーションの素材など、冒険者に必要な物資が不足してくると、ギルドから採集依頼が出されることがある。

 ギルド発行のクエストは貢献ポイントが多めに貰えるし、それを繰り返していれば、戦闘をしなくともランクアップが可能って事だろう。


 戦闘経験の少ない冒険者では戦力として期待できないと、暗に言っているのだ。

 それに、体を張って冒険をしている人から見れば、そういうランクの上げ方は邪道に映るのかもしれない。


 同じクエストを何度も周回して場を荒らす冒険者がいるって、悪し様な噂を聞いた事もある。そんな冒険者とパーティを組んだら、自分達にまで悪評が立ちかねないと、警戒したのだろう。

 ま、ボクらには関係のない話だけど。


「違いますよ? ボクらは普通に――――……」


 ――――と否定したら、彼女の表情は更に酷い物へと豹変してしまった。


 それは酷く汚らしい物を見るような顔つき。

 彼女の目にはあからさまな侮蔑が込められていた。

 そして、ボクを舐め回すように視線を這わせてくる。


「チッ……、男ウケしそうな顔……」

「男……ウケ?」

「『枕』なんざ、お呼びじゃないって事だよっ!」


 その単語が何を意味するのか、ボクにだって分かるさ。

 だから、彼女の無遠慮な視線を真っ向から睨み返していた。


 使い込まれ、あちこち傷ついた初級用の鎧。

 それを見ただけでも、彼女の戦歴をうかがい知るには十分だった。

 剣士として研鑽を積んできたという自負があるのだろう。


 対するボクはといえば、武装を解いた普段着の状態だった。

 それも、どちらかと言えば女を意識させるような服装……。

 彼女に比べれば、体も遙かに小柄で華奢だし、肌だって色白だ。

 一見しただけでは、冒険者に見えなくとも不思議じゃない。


 踏破情況や、それらの視覚的情報から推察した結果、ボクが下劣な手段に手を染めたと判断したのだろう。


 でも、それは完全に冤罪だった。

 もちろん、それ自体が酷く腹立たしい事ではあったけれど、元が男だった故か、ボクは別の方面からも彼女に腹を立てていた。


 その言葉はボクだけではなく、ギルドの男性職員全てを侮辱しているって事に、彼女はおそらく気がついてない。オルシバさんを始め、お世話になった人達の顔が浮かんできて、無性に腹が立ってしまった。


「悪いけど、そんな奴に上ってきて欲しくないんだよね。低層で遊んでな」

「ボク、そんな事したことも、要求された事も無いですっ!」

「じゃぁ『姫ちゃん』の方? 女の冒険者って少ないし、アンタみたいなお可愛い子がちょっと股を開いてやれば、さぞ入れ食いだったでしょうね。それにしちゃ、まだ三〇層って……。アンタどんだけ小物食ってんのよ。笑えるわ」


 自分達は真面目に頑張っているのに、『女』を利用して成り上がっていくヤツが気に入らない。それは女性冒険者全てを貶める行為だ。

 そんな風に、彼女の傍迷惑な正義感がボクを断罪してくる。


 人の話も聞かないで、勝手な妄想を膨らませてっ!

 なんなんだコイツ! ふざけるなっ!



  「 ボ ク は 童 貞(しょじょ) だ ッ ! 」



 激情に流されるまま大声を出した所為で、ギルドが静まりかえってしまった。

 それに、男性冒険者の視線が少し痛い。

 でも、そんなことよりも、目の前に居る女への怒りが抑えられなかった。


 そんな勘違いをさせてしまう程、低層の黄色ランクっていうのは珍しいのだろう。ランクアップするタイミングを早まったかと、ボクは少し後悔してしまった。


「貢献ポイントのおかげって事は否定しないよ。だけど、ボク達は恥じるような行為なんてしていないっ! ずっと命がけで戦ってきたんだっ!」


 オルシバさんに聞いてくれッ!

 そう言おうとして、ボクは慌てて口をつぐんだ。

 ここで権力のある男性の名前を口にしたら、絶対に拗れる。

 この女はきっと、烈火のごとく反発してくるだろう。


「大体、人の話も聞かないで、よくそんな勝手な妄想が出来るよねっ! 自慢げに見せつけてるアンタの鎧だって、自分で傷を偽装したんじゃないの? それとも中古の鎧でも買った!? 女なのに苦境に身を晒す自分がカッコいいとか思ってるんでしょッ! それで男の同情を惹こうとしたんじゃないの!?」

「この……、よくも言ったねッ! アンタに何が分かるってんだ!」

「そっちこそ! ボクらがどんな冒険をしてきたか、知りもしないくせにっ、勝手に決めつけるなッ!」


 この冒険証は死線をくぐり抜けて勝ち取った物だ。

 それを疑われて、ボクは悔しくて仕方がなかった。

 悔しくて……、腹立たしくて……、涙まで溢れてくる。


 ボクは既に冷静さを欠いていたらしい。

 お互いがお互いの『勲章』を貶し合い、掴みかからんばかりに前のめりになっている。だけど、そんなボクを力強く抱き留める腕が、背後から伸びてきた。


「ねぇ……。それって、男でも需要ある? 女性職員の相手をしたらポイントが貰えたりするのかな?」


 ボクが険悪な状況に巻き込まれたのを察して、ハルちゃんが間に入ってきた。

 女同士のいざこざに男が出てくるなんて、普通なら火に油だろう。

 だけど、今回のケースに限ってはいい手だったのかもしれない。


 ハルちゃんは左腕でボクを抱きしめ、さりげなく黄色に染まった冒険証をアピールしていた。

 同じパーティの自分も、同じ手段でのし上がったと思うのか、と。


「ユウ君に惚れた一人って所は否定しないよ。でもね、貴方が言ったような事をこの子にさせるくらいなら、私が命がけで引っ張っていくよ」


 ハルちゃんは口元の笑みを絶やさなかったけれど、その目は鋭く光っていた。

 仮にも死線を潜ってきた男の怒気だ。

 その迫力に圧されて、女剣士は酷くたじろいでいた。


 ハルちゃんの力を借りてしまったのは少し悔しい。

 それでも、この場でだけは絶対に負けたくなかったんだ。


 その後、騒ぎを聞きつけた職員や、両パーティの仲間が駆けつけて、事態は収束へと向かっていった。





「――――というわけで、彼らに貢献ポイントが進呈されたわけです。その際、彼女は治療により二名の命を救っています。また、別件でも彼らは功績を残されていますが、そちらもご説明いたしますか?」

「いえ……。済みませんでした……」


 一層で大熊と戦った新人の話は、冒険者の間で意外と知られている。

 あの一件以来、面識のない冒険者に声を掛けられることも増えたからね。

 彼女たちも噂自体は知っていたらしい。

 ただ、その噂の主が誰かという事までは、知らなかったという話だ。


 職員さんはボクらの正当性を証明すると、一礼して帰って行った。


 女剣士はといえば、連れのドワーフに拳骨を食らって、ただ今床で正座中です。

 アレは完璧にたんこぶが出来ているな……。

 怒を感じながらも、治療したいと思ってしまうのは、職業病なんだろうか。


「ゴメン……。私、思い込みで酷い事を……」

「だから、宿で待っていろとあれ程……。お前のトラブルは、周りにいる俺達が一番知っているんだからな」

「そんな事言ったって、アンタ達じゃ話題的に困るでしょ? そもそも、アンタが苛つかせるから悪いんじゃない! 私を置いて酒飲みに行ったのは誰よっ!」


 この期に及んで突っかかる女剣士に、ドワーフが青筋を立てて拳を握り締めていた。放っておいたら、今度はあちらで喧嘩が始まってしまいそうだ。


 それを何とかなだめすかし、双方合わせて七人でテーブルを囲むことになった。

 っていうか、何でボクらの方が気を遣わなくちゃいけないんだよ。


 そうこうしている内に、山盛りの料理がじゃんじゃん運ばれてくる。

 ボクらへの詫びを兼ねての事らしい。当然支払いは彼ら持ちだ。

 しかしこれは……、夕食は要らないって、サクヤに連絡しておかなくちゃ。


「ウチのが迷惑を掛けて済まない……」


 そう言って、ドワーフの男が深々と頭を下げる。

 女剣士も今は静かになって、テーブルに額をこすりつけていた。


「まっ、気にすんなって。こっちもムキになってた所があるしな」


 そう言って、シロさんはむくれるボクの頭をポンポンと叩いてくる。

 揉めた二人が直接会話に参加すると、話が進まなそうだということで、双方が代理を立てた格好だ。

 ちなみに女剣士はイベリス、ドワーフの方がギングリーという名前らしい。


「で、そっちはいつ頃五〇層へ挑戦するつもりだ?」

「さすがに、未踏層の予想は立たねぇな……。事前の情報次第だけどよ、コレまでと同じペースでいけるんなら、急げば一週間って所だな」

「そいつは凄いな……。分かった、四九層までの地図データと、モンスターの情報は提供しよう」

「良いのか? 地図は金になるだろ?」

「かまわんさ、これも詫び代わりだ。それに、早々にメンバーが集まるなら俺達としても手間がなくていい」


 彼らの話題は、(いさか)いの発端となった五〇層レイドの件へと移っていた。

 元々、ボクも聞きたかった話題だし、随分と遠回りになってしまったけれど、当初の目的がようやく果たせて良かった。


 ギングリーさんの話によると、五〇層のフロアボス『マウントブル』は場違いな強さらしい。実質八〇層クラスのモンスターなんだとか。


 一瞬イレギュラーを疑ってしまったけれど、コイツに限っては正当なフロアボスとして存在しているらしい。

 だからか、冒険者の間では、中層へ至る為の門番として扱われているそうだ。


 そこで(ふるい)に掛けられ、別の道へと転向していく者も多いと彼は言う。

 ギルドの方でも、五〇層についてはレイドや傭兵の雇用を推奨しているらしい。


「しっかし、決行予定日まで随分と余裕を持たせてるんだな。そんなに人が集まらないもんなのか?」

「ん……まぁ、な……」


 ギングリーさんの返答が何だか歯切れが悪い。

 それに、助けを求めるように、相方の女剣士に目配せしている。


 女剣士はほれ見ろと言わんばかりにジト目を返すと、こちらの女性陣を手招きしてきた。彼女はボクらをテーブルから連れ出すと、声を潜めて話し始める。


「私、そろそろ始まる(・・・)頃なんだよ。だから、体調が整ってから五〇層に挑戦しようって事になってね。その間に、メンバーだけでも集めておこうって話になったのさ……」

「始まるって、何が?」


 ボクのオウム返しに、彼女は豆鉄砲をくらったような表情を見せた。


「何って……、生理よ生理! そっちはパーティに三人も居て、スケジュール調整大変じゃないの?」


 今度はボクらの方が豆鉄砲を喰らう番だった。

 キョトンとするボクとシロさんを、ベティさんが呆れて見つめてくる。


 だって仕方がないじゃないかっ!

 ボクらにはそんな経験なんて無いんだもん。

 生理なんて存在、完全に頭から抜けていたよ。


「で、どう? そっちの予定日は大丈夫そう?」


 ボクとシロさんは、どう答えて良いか分からず、顔を見合わせる事しか出来なかった。


 ハルちゃん達が男性の機能を完璧に備えている以上、ボクらの方にもいずれは女性特有の現象が訪れるのだろう。

 でも、それがいつかと聞かれても、正直答えようがない……。

 困り果てていると、ベティさんが助け船を出してくれた。


「私は来週の初め頃かと。決行日が再来週の間で融通が利くようでしたら、多少ズレてしまっても大丈夫ですわ。こちらのお二人はストレスの所為か、今は少し不安定で……。ですので、ハッキリとは予定が分からないんですの」


 ボクらはベティさんの答えに乗っかって、コクコクと頷いた。


「まぁ、私もよくズレるからね……。タイミングが悪ければいつでも言ってくれ。調整はするよ」

「ご配慮、感謝致しますわ」

「それから、今日は悪かったね……。始まる少し前から、抑えが利かないことがあってさ。喧嘩になることも多くて、自分でも嫌になるよ……」


 女剣士は顔を押さえ、ままならぬ自分自身に歯がみしていた。

 女性の身で冒険者をする大変さ……か。

 筋力とか体格とか、そういう面しかボクには見えていなかったらしい。


 コソコソ話を終えて席に戻ると、男性陣の話も大方まとまったっていた。

 その後は会食を楽しみ、お開きとなる。


 五〇層ボスレイドか。

 思いも掛けず、新しい目標ができてしまった。

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