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僕らのTS冒険記  作者: 灰塵
第三章
82/88

80話 馴染みの店

 引っ越し作業が終わったのはお昼頃。

 そのままみんなで昼食へとなだれ込み、以降は自由時間となった。


 シロさんはこの後、【フェザーストライド】の講義を受けに行くらしい。

 カナさんも、それに付き合うそうだ。


 昨日の攻略中、物は試しにと一度【フェザーストライド】を解除してもらったんだけど……。

 その瞬間、(くるぶし)まで埋まる程度だったボクの脚は、一気に膝まで泥の中へと沈み込んでしまったのだ。


 実際に体験してみてハッキリ分かった。

 あれは湿地踏破に必須のスキルだ。


 一方、ボクの方の予定はというと、ハルちゃんと一緒に修練場へ行く事になっている。彼の装備の事で、彼の師匠に助言を貰おうと思ったんだ。


 大ガマ戦でハルちゃんの盾が破損してしまったからね。

 それを何とかしないことには、ダンジョンへ入る事も出来ない。

 その事をハルちゃんと話し合っていると、ボクの服が遠慮がちに引っ張られた。


 もちろん、そんな事をするのはベティさんしかいない。

 不安そうにボクを見つめる彼女の瞳は、溢れそうなほどに潤んでいた。


「私も一緒に行きますわっ」


 彼女が危惧するような予定なんて、何もないのに……。

 冒険(しごと)の話をしに行くだけだよ? って言っても、ベティさんはイヤイヤと顔を振り続けるばかり。


 ホントにこの子ったらもう……。

 ヤキモチを焼く姿が、可愛いったらありゃしない。


 結局、根負けしたのはボクの方。

 午後は三人で行動を共にする事になり、お腹がこなれた頃を見計らって、サクヤの【転移】で修練場へ乗り付けることにした。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「むぅぅぅ…………」


 ひげ面のドワーフが、ボロボロになった盾を手に取り、低く唸っている。

 修練場の指導官であり、今ではハルちゃんの師匠でもあるガンドルフさんだ。


「たかだか二六層でコレか……」


 苛烈な攻撃に晒され続けた所為で、ハルちゃんの盾は大きく変形し、薄らと亀裂まで入っていた。まさに、辛うじて原型を留めているといったレベルだ。

 あと数秒戦いが長引いていたら、完全に破壊されていただろう。


 ボクらは最初、同じものを買い直そうかって話していたんだ。

 だけど、いくら相手が七〇層クラスのイレギュラーだったとはいえ、ここまで破壊された姿を見せられてはね…………。

 話し込んでいくウチに、同じ装備では心許なくなってしまったのだ。


 それで、彼の師匠に相談に来たというわけ。

 他にも、修練場責任者(エルさん)無乳エルフ(ハーシャさん)が一緒になって相談に乗ってくれたのだけど、満場一致で防具のランクを上げるべきと言う結論に至った。


 相手は突発的なイレギュラーだ。

 もう一度同じ目に遭う可能性は低いだろう。


 でも、そんな敵を相手に立ち回れるのなら、初級装備では既に力不足だと、みんなが言うのだ。遠くない内に、装備の性能が足を引っ張って、力を発揮しきれなくなるだろうって。


 ただ、装備のランクを上げるとなると、やはり金銭的な問題が出てきてしまう。

 今のボクらは、完全に自転車操業状態なのだ。


 装備の更新なんて、まだまだ先だと思っていたから、ボクらは先行投資と思って、スキルの習得を最優先にしていた。


 だから、お金が入ってきても、直ぐに講義代に消えてしまっていたのだ。

 そんなボクらに、貯金なんて物は有るはずがない。

 その辺の事情も包み隠さず曝け出し、みんなの知恵を拝借させてもらっているのだけど…………。


「本来ならば、お前達の判断は正しい。一般的な水準で言えば、装備の更新が必要になるまで、早くとも半年はかかるだろうからな」

「ガンドルフ、使わなくなった盾が余っていないのかい?」

「悪いが、流石に無いぞ。そもそも、使える内は修理しながら使うからな。倉庫で埃を被っている物は、何処かしらにガタがきた物ばかりだ」


 装備をランクアップするべきと結論づけた面々だったが、やはりもう一度初級装備を購入して、しばらくお茶を濁すしかないという妥協案に立ち戻ってしまった。

 エルさんは「代金を立て替えようか?」って言ってくれたんだけど、そういう部分で甘えだしたら際限が無くなりそうで、それもちょっと怖い……。


 結局、初級装備の再購入を決め、次に装備をランクアップする際の注意点などを、エルさんに助言してもらった。

 そんな折、しばらく難しそうに唸っていたガンドルフさんが、ボソリと呟いた。


「アイツなら……、融通を利かせてくれるやもしれん……」


 誰に向けた発言というわけでもなかったが、その一言でみんなの視線が彼に集まった。


「アイツ? あぁ、ライラさんですか?」

「んむ……。しかし、ハルノを連れて行くのは、すこし気が退けるがな……」

「そうですねぇ……、色々と噂を聞く御仁ですし」


 初めて聞く名前だ。

 その人物なら、この状況を打開出来る秘策を持っているらしい。

 でも何故か、彼らはボクを見ながら渋面になって唸っている。


「気難しい方なんですの?」

「良い意味でも、悪い意味でも職人という奴だ。気に入った奴には気前が良いし、逆の場合はテコでも動かん。ただ、時々客を食っちまう悪い癖がな……」

「客を食うッ!?」


 ちょっ!? 悪い癖とかそんなレベルじゃないじゃん!

 ボクはリザードマンみたいな人物が、ハルちゃんを丸呑みにする光景を思い浮かべてしまった。


「まぁ、お目付役が二人もいる事だ、大丈夫だろうて」

「ホ、ホントに大丈夫なの!? 何かあったら守って下さいよ!?」

「あぁ、安心しろ」


 不穏な言葉に不安を感じながらも、ボクらはガンドルフさんの馴染みの店へと、連れて行ってもらう事になった。

 人を食う武器屋なんていう、街に潜む脅威の元へと。




 エルさん達に別れを告げてから、およそ五分ほど。

 そのお店は、修練場にほど近い職人町の一角に在った。


「ここ……ですか?」


 一応屋号は掲げているけど、一見するとお店とは分かりづらい。

 商店街に在るお店とは、趣が違いすぎるのだ……。

 ボクは思わず、ガンドルフさんとその建物を、交互に見比べてしまった。


 ガラスの引き戸を開ければ、カウンターは有るし、品物も有る。

 有るのだけど……、無骨な木棚にごちゃっと積まれている有様は、とても展示とは呼べない状態だった。

 壁や床も煤けた感じで、掃除が行き届いているとは言い難い。


 本当に客商売をしているのかと、疑ってしまう店内だった。

 一言で言ってしまうと、華が無い。


 そもそもこの音――――。

 カーン、カーンと、店の裏手から鉄を打つ音が響いてくるのだ。

 おそらく、鍛冶場の一角に接客スペースを構えただけで、お店にするつもりなんて無かったんじゃないかな。


 ガンドルフさんが言うには、商店街の武具店に商品を卸しているそうだが、オーダーメイドで注文したい人は、こちらまで足を運んでくるらしい。


「よう、婆さん。悪いがライラのヤツを呼んでくれるか?」

「おや、ガン坊じゃないか。ちょいと待っとくれよ」


 カウンターの陰で置物のように座っていた老婆は、ドッコイショという掛け声と共に立ち上がると、ノソノソと裏手に回っていった。


 だけど、鉄を打つ手を途中で止めるわけにもいかないらしく、ボクらは店内で雑談しながら待たせてもらう事になった。



「しかし……、それ程の戦いを味わったのなら、大人しいお前でもさすがに(たぎ)っただろう?」


 ガンドルフさんは、立派な顎髭を揉みながらニカッと笑い、ハルちゃんの戦果を我がごとのように喜んでいた。

 でも、言われた側のハルちゃんは、『滾る』という感覚がいまいち実感できなかったらしい。


「戦ってる時、なんだか楽しくなりましたけど……、アレが滾るって事ですか?」

「なんじゃぁ? そのしょっぼい答えは……」


 ガンドルフさんは、酷く肩すかしを喰らっていた。


「血湧き肉躍るっ! そんな言葉を聞いた事があるだろうっ? 腹の奥底からこう……、カッカと熱くこみ上げる感覚というかだな、得も言われぬ高揚感というかだな……」


 彼は必死に筆舌を尽くすものの、いまいちハルちゃんには響かない。

 それに業を煮やしたのか、彼はあろう事か、ハルちゃんの股間をワシッと掴み上げてしまった。


「ひっ!?」

「激戦の後なんぞ、興奮が収まらずおっ勃つだろうが! 連れ合いのおらんヤツなんぞ、そのまま娼館にしけ込むぞ? それ位、戦いで身も心も奮い立つ、それが男ってもんだろうがっ! ここにぶら下げとる物は飾りか!?」


 それは彼なりの愛情であり、激励であり、叱咤であったのだろう。

 行為や言動の是非は置いておくとして、少なくとも熱く語るだけの想いが、ハルちゃんに向けられていた。


「もっと自信を持て! 胸を張れ! お前ほどの男はそうはおらん! これだけ大層なモノをぶら下げておきながら、何故そんなに弱気になる!? お前はもっと雄のなんたるかを知るれっ! なんなら今から花街に――――――」


 最後に聞き捨てならないワードがあった気がしたけど、そんな事よりもボクは、ヤバイ(・・・)って直感に突き動かされていた。


「ダメ――――ッ!」


 ボクは、ガンドルフさんの腕を払い除けるように、二人の間に割り込むと、ハルちゃんに正面から抱きついた。


 危ない……、間一髪だった。

 ボクがムッとして睨むと、ガンドルフさんがちょっぴりたじろぐ。


「済まん、済まん。別にお前さんを蔑ろにしようって訳じゃないんだ。つい勢いというかだな……。言っておくが、ハルノをそういう店に連れ込んだ事は、一度も無いからな!?」


 ガンドルフさんは、ハルちゃんを娼館へ連れ込もうとした事に、ボクが腹を立てたと勘違いしたらしい。

 いや、もちろんハルちゃんが他の女を抱くなんて、考えたくもないけどさ。


 ボクが怒ったのは、今現在ボクとハルちゃんとの間で、ムクムクと存在感を増している『ハルちゃんの尊厳』を守る為だったんだ。


 ハルちゃんは、男の子になってまだ二週間しか経っていない。

 性に目覚めたばかりの男の子が、どれ程過敏か……、ボクにも経験がある。

 机の角にコツンと当たっただけでも、体が勝手に反応してしまうのだ。


 だから、お腹に当たる彼の分身が落ち着きを取り戻すまで、ボクが抱きついて隠そうと思ったんだ。

 でも……逆効果だったみたいです。


「ね……ねぇ、ハルちゃん……。コレ、まだ収まらない?」

「そんな風にくっつかれたら、無理にきまってるじゃない!」


 コソコソと内緒話をする間にも、ボクのお腹に触れるリトルハルちゃんは、より一層存在感を増してきて……。

 おかげで、ボクの方まで顔が赤くなってしまう。

 それが、別の誰かさんに、別の誤解を与えたみたいで、事態は悪化の一途を辿ってしまった。


「いい加減にっ、離れなさいなっ!」

「あっ、ダメッ! ベティさん待って――――!」


 ベティさんは、無理矢理ボクらの間に腕を差し込むと、強引にボクを引っぺがしてしまった。


「本当に油断も隙もありませんわねっ! ユウキさんを独り占めしようだなん……て…………!?」


 露わになってしまった、ハルちゃんの現状を目の当たりにして、ベティさんの顔がみるみる赤く染まっていく。

 そんでもって、上擦った声でハルちゃんを非難し始めた。


「あ……、あなっ、貴方ねッ! いくら何でも、時と場所を弁えて下さいなっ!」

「だから、待ってって言ったのにっ!」


 慌てて二人でハルちゃんを隠そうとしたけど、ガンドルフさんはそんなボクらをニヤニヤと見守っていた。

 暴れん棒過ぎだよ、ハルちゃんっ!

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