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僕らのTS冒険記  作者: 灰塵
第三章
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78話 二人の帰り道

 ギルドを出た所で、ワルカスさんがボクらを引き留める。


 急ぐ用事があるわけでも無いので、彼に付き合って少し雑談を交わしていると、見覚えのある顔が二つ、ボクらの前に現れた。


 これから見舞いに行こうと思っていた二人の顔だ。

 ボクは二人の無事な姿に安堵すると共に、少しムッとしてしまった。


「コラッ! 怪我人は安静にしてなくちゃダメでしょっ!」


 二人の前で仁王立ちになり、プンスカと怒ってやったけど、どうやら迫力不足だったらしい。彼らの表情には、悪戯を軽く咎められた程度にしか、反省の色が見られなかった。


 シロさんだったら、もう少しドスの一つも利かせられたんだろうけど、ボクにはこれが限界みたい。


「いや、俺はアルフォートに比べたら全然軽傷だよ」

「ご心配をお掛けしました、姫」


 何か妙な単語が聞こえた気がするけど、まぁいいや。

 そんな事よりも、彼らの体調の方がずっと大事だ!


「それで、体の方は大丈夫? 治療所の人は何て?」


 こうして出歩いているのだから、問題は無いと思うのだけど……。


 あの時の治療を思い返すと、今でも体が震えてくる。

 正直に言えば、自信なんて全く無かったんだ。

 病院のように、先生が後ろに居るわけでもなかったし。


 それでも何とかしなくちゃって、必死に知恵を振り絞ったんだ……。

 間違っていたかもしれない、もっと良いやり方が有ったのかもしれない。

 そんな風に、今になって不安がこみ上げてくる。


「治療所の人なら絶賛してたぜ?」

「ええ、戦いの最中によく的確に処置したと、姫の手腕を褒めていました。特に、コレには大層驚いていましたよ」


 そう言って、彼は上着をめくって脇腹を晒した。

 そこには、ボクが短剣で刺した傷跡が……。

 治療の為とはいえ、この手で人を刺したという現実が、心を酷く苛んでくる。


「ごめんなさい……、こんな方法でしか治せなくて。傷痕は、病院で頼めば綺麗に治してくれるはずです。ボクにはまだ……出来ないから……」

「いえ、これは姫が私を救ってくれた証。それを消してしまうなんて、とんでもない! 感謝こそすれ、それを責めるなど道理に反していますよ」


 辛そうな顔を晒すボクを気遣ってくれたのだろう。

 アルフォートさんは、不安げなボクの言葉を毅然と否定してくれた。


「でも……」

「傷は男の勲章です。お気になさらないで下さい」

「う、うん……」


 ボク自身、戒めとして傷を残そうとした事がある。

 そう言った意味で、彼の気持ちも分からなくはない。

 でも、ヒーラーとしてはスッキリしないのだ。



 ――――まぁ、ソレはソレとして……。


「ところで、さっきから『姫』って、まさかボクの事?」

「はい!」


 聞き間違えじゃなかったらしい……。


「そのぉ……名前で呼んでもらった方が、ボクは有難いんですけど……」


 この体になって、もう大分経つ。

 慣れた訳じゃないけど、女の子扱いされる事は、ある程度割り切っていた。

 だけど、流石に『姫』はない。

 その呼称を臆面もなく享受できる人て、相当だと思うよ?


 だけど、彼はボクの要望などスルーして(ひざまず)くと、自分語りを交えながら朗々と語り出した。


「私は幼小の頃より騎士物語に憧れていました。心より尊敬する御方に忠義を尽くし、身命を賭してその方の剣となる。それこそが男の生き様であると」


 彼は目を伏せ、子供の頃に夢想した夢を思い返していた。

 そして、静かに目を開くと、ボクを真っ直ぐに見つめてくる。


「『絶対に助ける』そう言って私の手を取った貴方に、後光差す白銀の霊峰を見ました。神々しいとは、かような物かと……。そして言葉の通りに、貴方は私を救ってみせた。あの様な死地で……、己が身の危険すら顧みず……」


 彼は跪いて(かしづ)きながらも、溢れる想いが抑えきれないのか、可能な限り身を乗り出してくる。


「貴方こそ我が天恵! 銀嶺……いえ、銀麗の聖女とでも言うべき御方です! 女神にも等しい貴方に、コミュニティへ加えて欲しいなどと、おこがましい事は申しません。ですが、姫! この身を貴方の騎士として捧げる事を、どうかお許し下さい!」



 ――――何という歯の浮く美辞麗句……。


 お酒の力でも借りなければ、とても口に出来そうにない言葉の数々。

 それをよくも真顔で……。この人、ある意味凄い。


 ボクは困り顔で仲間の二人に助けを求めたけど、今回ばかりは求めた相手が悪かった。


「あら、良いですわね。ユウキ姫、私もそう呼ぼうかしら」

「ユウ君……、ユウキ姫……、ユウ姫…………。悪くないかも」

「裏切り者ぉ~~!」


 何とかして彼を説得しようと頑張ったのだけど、姫という呼称を矯正する事は叶わなかった。

 この、騎士道馬鹿さんめっ。


 渋々諦めて、先ずはお友達からという妥協案で手を打つことに。

 でも、その行く末に恋人ではなく騎士を求めるなんて話、聞いた事もない。


 なんにせよ……、話がまとまったのなら次だ次っ!

 諸々の雑務を手早く済ませていこう。

 みんな疲れてるもんね。


 彼らにもギルドへ伝えた内容を報告したり、魔石の売却益や情報料の分配をしていく。だけどこの頑固者(アルフォートさん)は、ここでも頑として申し出を断るのだ。


 やれ自分は役に立てなかっただの、やれ命を救われた立場だのと。

 だけど、そこはベティさんの放った一言が決め手になった。


「彼女、こういう筋は通さないと気が済まない人よ。それに、姫からの下賜(かし)を断る騎士なんて、前代未聞ですわね。早速騎士を辞退する気かしら?」


 ――――ってね。


「はっ! 有難く頂戴いたします!」


 アルフォートさんはビシッと直立すると、胸元に右手を掲げて敬礼した。

 あぁ……、ボクってば、早速『姫』の威光を利用してしまったよ……。


 でもさ、彼が役に立っていないなんて事はないんだよね。

 実際、彼は重傷の体を押して、ボクを守ってくれたわけだし。


「いい? アルフォートさん。 貴方が守ってくれなかったら、ボクは死んでいたかもしれないんだよ? だから、助けたのはお互い様なの!」


 ボクは彼の目の前に立つと、腰に手を当てて、軽く睨むように見上げる。

 そうやって彼の間違いを正した。


ボクの(・・・)、とは言えないけどさ。あの時の貴方は間違いなく立派な騎士だったよ。ありがとね、騎士様っ」


 そう言って彼の手を取り、ボクは精一杯の感謝を笑顔で伝える。

 彼は真っ赤になって硬直し「きょ、恐縮です!」と、どもっていた。


「ユウキさんて、アレを素でやってるんですのよね?」

「ユウ君、時々天然入ってるから……。これ以上、自然体で敵を増すのは、止めて欲しいんだけどね」

「ですわね……」


 背後から聞こえてきた二つの溜息。

 それに振り返ると、何故か仲間の二人からジト目が向けられていた。


 あらかた用事が済んだところで、ボクは再度アルフォートさん達に安静を促し、後日病院で経過を診てもらうよう勧めた。


 回復魔法も万能というわけじゃない。

 傷んだ組織が癒えるには時間が掛かるし、折れた骨が本来の強度を取り戻すには何日も掛かる。それに、傷を治しても、痛みはしばらく残ってしまうのだ。

 完治したと思って無理をするのが、一番怖いんだよね。


 そうして訪れた別れの時。

 アルフォートさんは「姫のお呼びとあらば、何を置いても駆けつけます」と、これまた芝居がかるほど大仰に(かしず)き、手の甲にキスをしようとした。


 だけど、幸い? それは未遂に終わった。


 その行為はハルちゃんにとって、許容できるラインを越えていたらしい。

 彼はボクを抱き上げると、脱兎のごとく退散してしまったのだ。


「ちょっ!? ハルちゃん!?」

「みんなっ、お疲れ様ぁ――――!」


 なんだか、慌ただしい別れになってしまったけど、みんなも早く帰ってお風呂に入りたいだろうし、まぁ良いか。

 ボクはハルちゃんに抱えられながら「またね~」と笑顔で大きく手を振った。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 ギルドが見えなくなった頃、ボクはようやく地面へと帰還を果たす。


 しかし、改めて自分達の格好を見直してみると、本当に酷い……。

 泥水に浸かった脚は、膝上まで乾いた泥で真っ白になっているし、服も、髪も、汚れていない場所なんて何処にもなかった。


 そんな身なりで歩いているものだから、擦れ違う人達がみんな、奇異の眼差しを向けてくる。

 でも不思議と、恥ずかしいって感情は湧いてこなかった。


「泥だらけになっちゃったね。あ~あ、早くお風呂に入りたい」

「宿屋に寄っていく? そっちの方が近いけど」

「ん~~、ううん。サクヤの家まで我慢する」


 直ぐにでもサッパリしたいのはホント。

 でも今は、もう少し二人きりで居たい気分だった。

 だから、サクヤに迎えの連絡も入れず、長い帰り道を二人で歩いていく。


 そんな気持ちで居たはずなのに、二人とも終始無言だった……。

 きっと彼も、今日の出来事を噛みしめているのだろう。

 自分達が成し得た成果の事を……。


 ボクは少し汗の滲む手で、彼の手を握った。


「ハルちゃん……、凄く……カッコ良かった……」

「うん……。あんな風に出来たこと、私も驚いてる」


 本当に、凄かった。

 勝てるかどうかも分からない敵との戦闘。

 そんな事は初めてのはずなのに、ハルちゃんはそれを見事に凌いでみせた。

 なによりも、敵が脅威だと感じた瞬間に、誰よりも早く前に躍り出たあの姿。



   『みんなっ! 私の後ろにっ!』



 そう叫んだ彼の言葉に、ボクは戦闘中であるにもかかわらず、痺れるような感覚を覚えてしまったのだ。今思い出しても心臓が暴れ出す……。

 体中が火照って、お腹の奥がキュンキュンする。


 カッコ良かった……。

 男として憧れる姿だったのは言うまでもない。

 だけど、それだけじゃない……。

 ボクは間違いなく、女として彼に惹かれていた。


 自分の顔が赤くなっているのが分かる。

 泣きそうなくらい切なく感じている。


 見上げる彼の横顔は、誇らしげな笑顔を称え、真っ直ぐ前を見据えていた。

 その晴れやかな顔を、ずっと見続けていたい。

 なのに、見つめていると心がかき乱されて、平常心で居られなくなる。


 愛しくて堪らない。恋い焦がれ、相手を求めて止まない。

 そんな衝動が胸の奥から溢れ、体中を満たしていく。


 多分……、コレが本当の恋なんだ……。

 男の頃からずっと片想いはしていた。

 だけど、こんなに激しい感情にまで至った事はない……。


「でも、ユウ君も凄かったよ」

「うん……、ありがとう」


 それには自分でも驚いてる……。

 中級に上がり、怪我を治療する場面にも立ち会うようになった。

 でも、それは安全な場所で、指導者が付いていてくれる状況でのこと。


 今回は実戦で……、頼る人も居なかった。

 それでも怯む事なく対処できた事が、ボクも誇らしかった。


 傷を癒やせず、今まで何度悔しい想いをしてきた事か。

 だけど、今日のボクは間違いなくヒーラーだった。

 そう胸を張って言える成果を、ボクは紡ぎ出せたんだ……。


「ユウ君がみんなから感謝されてるのを見て、私も嬉しかった。大声で、自慢したくなっちゃったもん」

「自慢?」


 彼は立ち止まり、問い返すボクを真っ直ぐに見つめてきた。


「うん……。どうだ! 私の恋人は凄いだろっ……てね」

「恋――――」


 少しはにかむような彼の笑顔。

 その瞬間、世界が真っ白に染まり、全ての音が消え去ったように感じた。


 ボクらは明確にその単語を出した事は無い。

 お互いに、ずっと好きだったと告白はした。

 友人と言うには、いささか踏み込みすぎた体の接触もあった。


 だけど、決定的な一言だけは、先延ばしにするように、二人とも口にしてこなかったのだ。


 そして結局は、なあなあの関係を続けてきた。

 ともすれば、以前の世界で幼馴染みのまま停滞していた時のように。


 ハルちゃんの言葉を聞いた瞬間、ボクは瞬きも忘れて彼を見つめ、自然と涙が溢れてしまった。


「ボク達……恋人?」

「ダメだった?」


 ズルい……。

 なんでそんなにも平然と、優しげな顔で見つめてくるの?

 ボクなんて、こんなに涙でぐしゃぐしゃなのに……。

 何かズルいよっ!


 言葉が胸の奥でつっかえて、声が出てこない……。

 それでもボクは答えを返そうと、必死に首を振った。


 ボクの返事なんて、ハルちゃんにはお見通しだったのだろう。

 ボクが心の内を明かし、再び彼を見上げた時には、既に触れそうな程近くに彼の顔があった。


「キス……、していい?」


 彼の問いかけの言葉。

 でも、それはボクに答えなんて求めていなかった。


 だって、そんなこと分かりきっていたから。

 それでも、ボクは目を閉じながら「うん……」とはっきり口にする。

 流されるままの初めてなんて、嫌だったから……。


 きっと、女の子が思い描く理想のキスとは、ほど遠いものだったと思う……。

 二人とも泥で汚れた姿で、雑踏ひしめく大通り。


 だけど、ボクにはもうハルちゃん以外、何も見えなくて……。

 彼の声以外、何も聞こえなくて…………。


 そして、ボクらはお互いだけを感じながら、初めてのキスを交わした。

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