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僕らのTS冒険記  作者: 灰塵
第一章
8/88

8話 すごく小さいです……

 エルさんは僕らの武器を回収すると、駆けつけた職員に手渡し、二三言葉をかけていた。


 そして、こやかな笑みと共に僕らの所へ戻ってくると、一つ提案をした。


「ちょっとイレギュラーが起きてしまったけど、残りのチュートリアルを済ませてしまおうか」


 どうやら次のクエストまで僕らに付き合ってくれるらしい。きっと事件に巻き込まれた新人をそのまま放り出すのは抵抗があったのだろう。


 しかし、僕らの世界基準だとこんな事件が起きたら聴取とか色々とありそうなものだけど。現場には何人も職員がいるのに、一向に僕らに接触しようとしない。


 証拠品を探したりもしてないし……。犯人の自供が極端に重視されているんだろうか? いや、魔法の有る世界だし、別の方法で真実を明るみにする手段があるのかもしれないな。


 本当に行ってしまっても良いのかな? と思いながらも、特に咎められる事も無く、僕らは現場から離れる事が出来た。




 エルさんに案内されたのは、中央通りにある大きな衣料品店だった。


 店舗はエントランスが吹き抜けになった二階建て。宿やギルドに比べて照明が多いせいか、店内は非常に明るく彩りが鮮やかに目に飛び込んでくる。


 流行の衣装を着飾ったマネキンや衣紋掛(えもんか)けに吊された衣服の数々。壁には反物や小物などが展示され実に華やかだった。


「最後のチュートリアルはトレードを体験してもらう物だけど。どうせなら服を買わないかい?」


 僕らはまだジョブが決まっていないので、武装を整える事は出来ない。


 エルさんは僕らの姿……、というか主に僕を見て「その格好はちょっとマズいから」と思ったらしい。


 僕らの格好はこの世界に降り立った時のまま、つまり裸シャツだ。少し激しく動くとお尻がチラチラと見えてしまう。でもそれしか無いのだから仕方が無いと割り切っていたのだ。


 僕に至っては、狭い穴をムリヤリ通った事であちこち破れていて、その……乱暴された後だと思われても仕方の無い格好だったのだ。


「気に入った物を選んできなさい」


 と言うと、エルさんは店員さんに僕達のサポートをお願いしてくれた。


 店の大きさは伊達では無く、社交用のドレスから鎧のインナー、寝間着に至るまで幅広く取り扱っていた。


 僕はお洒落にはそれほど興味が無く、変でなければイイやというテンションだったけど、元女性陣は異世界の服飾文化に触れて興味津々のご様子。男物、女物問わず手に取りワイワイやっている。


 人の輪に入るのが苦手なハルちゃんが、あんな風に初対面の人と打ち解けられているのを見ると僕の方まで嬉しくなってくる。シロさんとカナさんが一緒にこの世界に来てくれて良かったのかもしれない。


 なんとなく僕とハルちゃんの二人旅立を想像したら、会話のないお通夜状態になっていた気がして思わず苦笑してしまった。


 そして、僕の方にももう一人のコミュ強、シロさんが話題を持ってきた。


「おい、ユウっ! これ見ろよ!」

「何それ? ハンカチ?」

「女物のパンツだってさ」



 ――――――――!?


 いや、そうか、そうだよね……。


 今は女の体なんだから下着も女性用じゃないと駄目だよね。自分が想定していなかった事を突きつけられる度にカルチャーショックを受けてしまう。


 しかし、これがこの世界の標準!? 


 下着と称するソレを摘まんで広げて見たけど、上下に紐の付いた布切れとしか表現のしようが無い。いわゆる紐パンみたいだけど、自分が今まで穿いてきた男物と比べると、あまりにも布面積が小さい……。


 これで隠せるの!? と本気で心配になるレベルだった。ぶっちゃけ、コレが包帯の切れ端って言われても僕は信じるよ。


「でもこれ、穿き辛そうじゃない?」

「なぁカナ、これどうやって穿くの?」

「アタシ、紐パンの経験無いよ?」

「結んでから穿くんだよ――――って、友達が言ってました!」


 まさかハルちゃんから答えが返ってくるとは思わなかった。


 内気な少女だった彼女が紐パンを? と、顔を覗き込むと目が泳いでいる。どうやら本当に穿いたことがあるらしい。幼馴染みの意外な一面を垣間見てしまった……。そうか、結んでからか。腰につけながら結ぶのかと思ってた。



 ――――あれ? 何かおかしい気がするぞ?


 何で僕は女の子の下着について、みんなと語り合ってるんだろう……。


「ユウ! ストップ! 落ち着いて! ほら深呼吸!」

「ユウ君! 顔真っ赤! また鼻血出ちゃうよ!?」

「えっ? あ、ごめん!」


 危ない、こんなところで鼻血を出したら商品を汚しちゃう所だった。


「そういえば、別に男物の下着穿いてもいいよね。男物ってどんなヤツ?」

「コレ……」


 うん、布でした。Theふんどしスタイル。でも紐パンよりは穿き易そうだ。店員さんに聞いたら同じタイプで女物もあるらしい、そちらにしようかな。


 で、胸の方の下着の話もすると、キャッキャウフフな展開は無かったんだ。


 ちょっと残念……。


 胸のカップがどうとか、そういう感じの代物では無かったのだ。作りは丈の短い腹掛けという感じ。


 なので、乳房にジャストフィットさせるようなものではなく、Mサイズ、Lサイズという感じで、大まかなサイズ分けしかされていなかったのだ。


 僕のサイズなら全然問題ないのだけど、シロさんくらい大きい人はこの構造では大変かもしれない。隠すことは出来ても支える機能があまり無い気がするのだ。普段使いなら良いけど、冒険で激しく動く人はどうするんだろう。


 そして、肝心のアウターだけど、これは本当に迷った。


 体は女であっても心は男なのだ。フリフリとかヒラヒラは勘弁してほしい。


 しかし、元とはいえ女性同伴で衣料品店に来たら、それはもう着せ替え人形になってしまう訳で。二人でアレもコレもと、僕に服を着せてくるのだ。


 ここにはもう一人、女の体を持った男が居たはずなのだけど。なんで僕だけ?


 そして、鏡の中では銀髪少女のファッションショーが展開されていく。


 この店の服装のバリエーションは本当に多様だった。スーツっぽいものから、レースまみれのロリータファッション、果ては和装まで、あまりにもとりとめがなくて文化のるつぼ感が凄かった。


 色々な文化が溶け込んだとしても、大体は何らかの方向性で統一感が出てくるものだけど、各国の衣装を一同に集めましたという感じのごった煮だったのだ。


 ゴスロリ風、浴衣風、セーラ服風等々、一体何着着ただろうか。自画自賛するのも恥ずかしいけど、鏡に映る姿はどれも似合っていたと思う。



 のだけど……。視線を下ろし、自分の腰にスカートが巻かれているのを見た時は違和感が酷かった。浮かれていた気持ちが一瞬で素に戻ってしまったのだ。


 僕は郷に入りては郷に従えというか、体に合わせて立ち居振る舞いを変える事もやむ無しと思っていた。


 鏡に映る姿を見る分には問題無かった。正直他人を見ているのと変わらない感覚だったから。だけど、いざ自分が女の格好をしていると認識すると、コレは違うという拒否反応のようなものを感じたのだ。


 おかげで、体はどうあれ、自分の心は男なのだと強く再認識させられた。


 そして僕が最終的に選んだのは、白のブラウスにかぼちゃパンツという組み合わせ。


 元女性陣からはその容姿でパンツルックはあり得ないと言われたけど、ダメ出しをしてくる二人も、ホストカナタと執事ハルノだった訳で……。


 僕も十分アレだけどさ、二人もかなり酷いからね?


 着せ替えの最中、ピンクでフリフリなシロさんが現れた時には、みんなして大爆笑してしまった。シロさん可愛いし、すごく似合ってたんだけど、口調や仕草からは想像も付かない少女趣味のコーデだったのだ。


 シロさんも別にそれが好きと言う訳ではなく、女の姿ならこういうのを着るべきなのかと思ったって言ってた。


 色々と冒険気味な衣装も試着したけど、最終的にはみんな普段着らしい落ち着いた組み合わせの物でまとまった。


 それに加えて、靴や鞄といった小物に、替えのシャツや下着一式、その他日用品を選び終えると、エルさんから最後のチュートリアル説明が始まった。


 彼は鞄から赤い液体の入った小瓶を取り出すと、コンソールを操作し僕達へ取引を持ちかけてきた。


「コレは擦り傷程度に使う初級のポーションだ、店では銅貨一〇枚で売られている。表示された値段を確認して取引を成立させてほしい」


 だけど、ウインドウには五フラン、つまり銅貨五枚と表示されている。金額を見てエルさんの顔を伺ったが、彼は笑顔のまま頷くだけだった。これも応援価格なのだろうと納得し、確定ボタンをタップした。


「おめでとう! これでチュートリアルはコンプリートだ」


 エルさんはにこやかに拍手を送ってくれた。


 店員さんもつられたのか、エルさんの後ろに並んで拍手している。サプライズというかフラッシュモブというか、これは嬉しいよりも、恥ずかしさが先に立ってしまうかも。


「最後に依頼者の元へ報告に行けばクエスト完了だよ。今回の場合はギルドだね、この足で行ってくると良いよ」

「はい!」


 付き添いの件など、エルさんにお礼を言うと、僕達は店を後にし――――ようとして慌てて戻ったっ!


「って、服の代金払ってないです!」

「やっべ俺も流れで、ギルド行きそうになったわ!」


 服を買ってチュートリアルを消化する予定が、エルさんとの個人取引で終わらせてしまったのだ。うっかりしていた。


「その服は今日頑張った君たちへ、先輩からのプレゼントだ」

「お代は既に頂いていますので、そのままお持ちください」


 店員さんも既に会計が済んでいることを告げ、軽くお辞儀をしてくる。


「小言は言ったけどね、頑張る子達を応援するのが私は好きなんだよ。私を喜ばせると思って受け取ってほしい」


 エルさんの顔は本当に晴れやかな笑顔だった。修練場の責任者をやっているのも、きっと面倒見の良い人柄故なのだろう。


 ここに来たばかりの僕達にはまだ余裕なんてものは全く無い。互いに目で相談した結果、ここは好意に甘えようという事になった。僕らは改めてエルさんに感謝を伝えると店を後にする。



 エルさん達はしばらく店の前で僕らを見送っていた。


 楽しそうに去って行く僕らを眺め、店員さんがエルさんに話しかける。


「若旦那、今年の子達は初々しくて可愛らしいですね」

「全くだね、私の指導者魂を実に揺さぶってくるよ」


 僕らを見送る二人はすごくホッコリとしていた。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 ギルドに戻り、受付に並ぼうとしていた僕らをオルシバさんが目聡く見つけた。

 僕らの感覚では年齢一桁の少年にしか見えないギルドマスター、犬の様な耳と尻尾を生やした犬耳少年ならぬ犬耳壮年だ。


 少年と壮年、似た響きで語呂は意外と違和感が無いな。


「やぁ、お帰り! 可愛らしい格好になって帰ってきたね。基本はマスターできたかな?」

「はい! 項目に全部チェックがつきました」

「おめでとうっ! これでチュートリアルクエストは完了だよ!」


 オルシバさん以外にもギルドにいた冒険者達から拍手と賛辞が送られてきた。嬉しいけど、やっぱり照れてしまう。


「これはチュートリアルの報酬だよ」


 オルシバさんが僕達に差し出したのは銀色の硬貨四枚。それを一人一人に一枚ずつ手渡していく。


「これがこの国で使われている銀貨。冒険証で精算できてしまうから流通の機会は減ってるんだけどね、それでも最初は現金で渡すのが通例になっているんだ」


 チュートリアルだから仕事の対価とはとても言えないだろう。でも、僕達がこの世界で初めて何かをした記念。データでは得られない実感が心の中にじわっとにじみ出てくる。


「ありがとうございます!」

「現金は窓口で預金すればデータに出来るからね、手に入ったときはそうすると良いよ」


 オルシバさんはカウンターからピョンと飛び降りると、掲示板の前で手招きをした。


「みんなには今後、通常のクエストを受けてもらうことになる。クエストはここに貼り出されているから自分たちのランクにあった物を選んでね」


 ざっと眺めると、討伐、採集、護衛などから日常サポートまで、様々な依頼が並んでいた。表題の所が色分けされており、それがランク指定になるらしい。


「君たちは駆け出しの灰色。貢献度や技量によって、赤、黄、緑、青、紫の順にランクが上がっていくんだ。自分たちの色以上のものは受けられないから注意してね」


 ジョブ選択も終わっていない僕らでは、戦闘の有る依頼はまだ無理だろう。


 そうなると日常サポートしかないのだけど、攻略を目指している僕らにとっては受ける意味が薄い。クエストは戦闘が出来る様になってからで十分かな。


 明日からの予定について思案しているとオルシバさんに手を引かれた。彼は僕らを隅の方へ連れて行くと、声を潜めて話題を切り出す。


「小兎族の少女の件、こちらにも報告が上がってきているよ。まさかチュートリアルの最中に事件に巻き込まれてるとはね……」


 その話題が出るとは全く予想していなかったので、ちょっと驚いた。だが、事件が起きればギルマスである彼の耳に入るのも当然の事だろう。


 僕らは彼の背丈に合わせ、腰をかがめて顔を寄せる。


「被害者、加害者共に命に別状は無いけどまだ意識は戻っていない。どういった経緯か分からないから全部は話せないと思うけど、いずれ事の顛末について話せる事もあると思う。それまでこの件はこちらに預けてくれるかな? 少女には護衛をつけてあるから安心してね」


 僕らは黙ってうなずいた。知り合いという訳では無いけど、やはり関わった以上は気になってしまう。無事に保護され安全が確保されているなら一安心だろう。


「それじゃ、今日はみんなお疲れ様。またねっ」


 僕らを労うと、彼は奥のマスタールームへと入っていった。


 外はもう赤く染まっている。今からでは何かを始める時間も無いだろう。それに今日は色々あって正直クタクタだった。僕達は明日以降の話し合いを軽く済ませ宿への帰路についた。


 ドアベルを響かせて宿の扉を開けると、良い香りが鼻腔をくすぐってくる。


 自室へ向かうつもりだった僕らの足は容易く魅了され、勝手に食堂へとたどり着いてしまった。夕飯は堅く焼いたバゲットに大盛りのクリームシチュー、青野菜のサラダには削ったチーズが散らされている。


 よほど物欲しそうな顔をしていたらしく、僕らの顔を見た女将さんに声を上げて笑われてしまった。


 夕食は魅惑の香りに負けず劣らず、味もまた逸品。高級料理とはいえないが、毎日食べたくなる家庭料理の味付けだった。いずれこの宿を出ることになっても、この料理は食べに戻って来たいかも。



 夕食後はそれぞれの部屋へ戻り、僕は着の身着のままベッドへと倒れ込んだ。


 考えてみたら今日この世界に来たばかりなんだよな……。一日の密度が高すぎて、旅立った日が何日も前の様に思えてくる。


 神様に女に変えられて、異世界に飛ばされて、ギルドに加入して、初めてのクエストを受けて……、初めての魔法に……、初めての戦闘…………。


 あの子、助けられて良かった………………。


 白くモヤがかかってゆく思考。僕は瞬く間に眠りの世界へと飲み込まれていった。

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