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僕らのTS冒険記  作者: 灰塵
第三章
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77話 イレギュラー報告

 時刻は午後四時を回った辺り。


 店じまいの早い冒険者なら、一日の仕事納めに一杯やり始めている時間だ。

 これからクエストを受けて冒険に出ようなんて人も、流石に少ないだろう。

 となれば途端に、ギルドは酒場の色が濃くなっていく。

 午前中は混み合う受付カウンターも、今ならば待ち時間はゼロだ。


「いらっしゃいませ、ユウキ様。本日はどのようなご用件でございますか?」


 受付のお姉さんは、泥まみれのボク達に少しだけ驚いていたけど、直ぐに切り替えて、丁寧な対応をしてくれた。


 やっぱり着替えてきた方が良かっただろうか。

 改めて自分達の姿を見回すと、本当に酷い格好だった。

 でも、こういう報告は少しでも早いほうが良いだろうし……。


「こんな格好でごめんなさい。ダンジョンで変わったモンスターに出会ったので、報告した方が良いかなと思って……」

「お気になさらないで下さい。そういった案件でしたら、マスターに話を通して参りますので、少々お待ち下さい」


 歩き回って床を汚しても悪いので、ボクらはその場で大人しく待つ事にした。


 今回ギルドへ来たのは全部で四人。

 ボク、ハルちゃん、ベティさんの三人と、アルフォートチームから一人、魔道士のワルカスさんを加えたメンバーとなっている。

 イレギュラー報告をするにあたり、別パーティの人が居た方が、情報の信憑性が増すかなって思ったんだ。


「無理言ってごめんなさい。仲間が心配ですよね……」

「構わない……。俺で役に立つなら……少しでも、恩を返したい……」


 恩だなんて大袈裟な、とは思ったけど、彼にしてみればそれだけの一大決心だったのかもしれない。


 彼は寡黙というか、相当口下手な人だ。

 そんな人が一日レイドを組んだとはいえ、初対面の人達について来て、共に弁舌を行えと求められたのだ。

 前の世界に居た頃のボクだったら、断固として拒否している状況だよ。


 それでも彼は、震える手を賢明に握り締めて堪えている。

 それが何だか無性に応援したくなるっていうか。

 せめて緊張を解してあげようと、ボクらは彼を囲んで雑談に明け暮れた。


 そんな事をしていると、別の職員さんがおしぼりを持って現れた。

 手や顔だけでも、これでサッパリして下さいって。


 荒くれどもの巣窟とは思えない気配りの良さだ。

 真っ白なおしぼりを泥で汚してしまうのは、少し気が退けたけど、ここはありがたく頂戴しておこう。


 ボクは夏場の営業マンよろしく、顔をゴシゴシいこうとした。

 すると、それを遮るようにベティさんがボクの顔を拭ってきた。


「ほら、目を閉じて――――。あぁ、もぅっ! こんなに汚れてしまって……。湿地なんて早く抜けてしまいたいですわっ!」

「んっ……あの、ベティさ……むぐっ、自分ででき……む~~~~ッ!」


 子供扱いされているようで、なんだか気恥ずかしい。

 でも、彼女は困ったような顔をしながらも、どこか嬉しそうにボクの世話を焼いてくる。


 そうして気がつけば、ボクは雰囲気に流されて、彼女にされるがまま……。

 この子、甘え上手なくせに、甘やかせ上手でもあるのかっ!


 そんな風にボクらがじゃれ合っていると、受付のお姉さんが戻ってきた。

 一緒に現れたのはオルシバさんではなく、眼鏡を掛けた黒髪の女性。

 この人は確か…………。


「恐れ入ります。マスターは少々立て込んでおりまして、私がお話を伺わせていただきます」

「えっと、オルシバさんの秘書の――――セリーヌさん、でしたっけ」

「はい、お見知りおき下さり、誠にありがとうございます」


 ボクらはテーブルに場所を移すと、汚れを気にして立ったまま説明を始めた。

 そんなボクらを見かねて、彼女は優しげに微笑む。


「冒険でお疲れにございましょう? お気になさらずお掛け下さい」


 と着席を促してきた。あまり遠慮しても逆に失礼か。

 ここはお言葉に甘えさせてもらおう。


「えっと、ではまずコレを……」


 ボクは鞄から二つの魔石を取り出し、テーブルに並べた。

 一つは、二六層で倒した通常のモンスターの物。

 もう一つが、イレギュラーで登場したあの大ガマの物だ。

 前者は一センチ程の黒い鉱石、後者は三センチ程の赤紫色をした鉱石だった。


「両方とも、二六層で戦ったモンスターです」


 セリーヌさんは、驚くと同時に訝しんでもいた。


「魔石を鑑定をさせて頂いてもよろしいですか?」

「はい」


 ボクらに確認を取ると、セリーヌさんは別の職員に鑑定を依頼した。


 魔石は強いモンスター程大きく、明るい色に染まっていく。

 同じ階層のモンスターなら、フロアボスを含めてもその強さに大差はない。

 その為、ボクが取り出した魔石のように、極端な差がつくなんて事は、本来ならあり得ないのだ。


 また、魔石にはドロップしたモンスターの情報が刻み込まれているらしい。

 先程セリーヌさんが鑑定すると言ったのは、真贋を見極めるだけでなく、その情報を読み取ると宣言したということ。

 きっと、その言葉で揺さぶって、ボクらの反応を試したんだろう。


 一度市場に流れた魔石には、売買履歴が記録されているのだとか。

 だから買った魔石を見せて、自分が倒したと(うそぶ)いたとしても、鑑定すればあっさりバレてしまうらしい。


「それでは、遭遇したモンスターについてお願い致します」


 あの時、ハルちゃんは最前衛、ボクは治療に専念していた。

 最も戦場を俯瞰(ふかん)できる立場に居たのはワルカスさんだけど、口下手な彼に任せるのは酷というもの。

 そういうわけで、報告はもっぱらベティさん主導で行われていった。


 二六層には存在しないはずの蛙型モンスター。

 舌が三本も有り、適正レベルのタンクを易々と戦闘不能にする攻撃力。

 モンスターの特徴をはじめ、交戦時の情況を一つ一つ思い起こしながら話していった。


 セリーヌさんは、ボクらの話に相槌を打ちながら、気になる点には逐一質問し、内容を用紙にまとめていく。

 報告が一区切りついた頃、職員さんが魔石の鑑定結果を携えて戻ってきた。


「如何でしたか?」

「それが、その……。種族はジャイアントトードなのですが、魔力含有量が七〇層クラスに相当していまして……。あ、売買履歴は記録されていませんでした」


 鑑定結果を聞き、セリーヌさんが驚いていた。


「失礼を承知でお伺いしますが、本当にあなた方だけで討伐を?」


 それまで沈黙を続けていたワルカスさんが、その質問に答えた。


「ま、間違い……ありません! お、俺は、ワルカスっていいます……。今日は、彼女達と……レイドを組んで……だけど、俺達はみんな……やられて……。彼女達が、俺達を守って……、戦ってくれたんです!」


 彼は激高するように興奮して、辿々しいながらも強い口調で語っていた。

 自分達を命がけで守ったヒーローが疑われて、癇に触ったらしい。


 ボクらは先程、交戦の内容も報告したし、彼女自身その事を記録していた。

 それでもセリーヌさんは、二六層を攻略中の冒険者が、七〇層クラスの敵を倒した事が信じられなかったらしい。


「治療所で仲間が……。アルフォート……と、ライエルが……治療中で……。酷い怪我だったから……、術士に聞いて……もらえれば、証拠に……なるかも」


 セリーヌさんが目配せすると、早速職員さんがカウンターまで駆けていった。


「これも証明になりますか?」


 そう言って、ハルちゃんは亀裂の入った盾をテーブルの上に置いた。

 アルフォートさんから借り受けた物だ。

 そして、自分の盾も腕から取り外し、横に並べてみせる。


 ハルちゃんの方は砕けこそしなかったが、強打を受け続けた事で、原型がなくなる程変形していた。


 彼らの盾は初級装備。つまり、一番グレードの低い代物だ。

 だけど、無茶しがちな新人を守る為、初心者支援の一環として、赤字価格で良質な装備が提供されている事は、周知の事実だった。

 冒険者でなくとも、元締めの上役として、セリーヌさんもその事は承知しているのだろう。

 盾の惨状を目にして、酷く驚いていた。


 そこへ、治療所と連絡を取っていた職員さんが戻ってくる。


「確認が取れました、確かに彼のパーティメンバーが、治療を受けているとの事です。治療所の職員に、後ほどカルテを提出するよう伝えておきました」


 そこまで聞き、セリーヌさんは完全に確証が取れたと判断したらしい。

 彼女はテーブルに額が付きそうなほど、深々と頭を下げた。


「数々の疑うような言動、大変失礼いたしました」

「いえ、それがお仕事って分かってますから、気にしないで下さい」


 あれだけ疑い深く情報を精査していたんだ、きっと普段から虚偽や勘違いによる申告も、それなりの数が上がってくるのだろう。


 しかし……、これでようやく、今日のお勤めが全部終わった。

 ボクは心底ホッとして、背もたれに身を預ける。

 思い返すと、随分大変な一日になってしまったなぁ……。


「君たちは、本当に数奇な巡り合わせをしているね」


 聞き覚えのある愛らしい声が、ボクらに掛けられた。

 犬耳壮年のギルドマスター、オルシバさんだ。


「やぁ、ユウキちゃん。今日はまた凄い格好だね」


 四人とも泥だらけだからね。

 彼の言葉に苦笑で返すしかなかった。

 オルシバさんは、セリーヌさんから報告を受け、可愛らしく唸っている。


「こういう事例はね、非常に希なんだ。前回君達が遭遇した大熊で、およそ二年ぶりかな。母数が少ないデータだから、確率を論じても仕方がないんだけど……。たったの一〇日で、再びイレギュラーが発生するなんて、ちょっと異常だね。とりあえず、冒険者には注意を促す事にするよ。君らも十分に気をつけてね」


 そんな希有な状況に二回も遭遇するなんて、ボクらの運も相当な物らしい。

 純粋な冒険者なら、幸運だって喜ぶかもしれない。

 波瀾万丈を是とする生き物だからね、冒険者ってヤツは。


 ダンジョンをクリアする為に、必要に迫られて冒険者をやっている身としては、もう少し平穏に攻略できると有難いんだけどなぁ……。


「セリーヌ君、ユウキちゃん達に情報料を。そうだねぇ……、今回も被害を抑えてくれた事を加味して、情報のランクは二等級扱いにしておいて」

「かしこまりました。代表してユウキ様にお支払いする形で宜しいですか?」

「え? は、はい……。情報料なんて物があるんですか?」


 そんなシステム知らなかった。

 事前情報にない危険なモンスターが現れたから、他の人達にも注意してもらおうって思っただけなのだ……。


 受け取った報酬は一万フラン。

 降って湧いた臨時ボーナスに、ちょっぴりウキウキしてしまう。

 八人で分けても、一人あたり一,二五〇フラン。美味しいな。


 その後、少しだけ雑談程度にオルシバさんと話していたけど、ダンジョン帰りで疲れているだろうからって、早めに切り上げてくれた。


 用事も全部片付いたし、治療所に寄ってアルフォートさん達の様子を見てから帰ろうかな。報酬も渡さないといけないし。

 まぁ、ワルカスさんに三人分預けて、後は任せるって事でも良いんだけど。


「ところで、君たちはまだランクアップする気は無いのかい?」


 帰り支度をしていると、オルシバさんが思い出したように話題を振ってきた。


 ボク達は大熊戦の功績で、黄色等級へのランクアップが認められている。

 だけど、たった一回の幸運で過程をすっ飛ばしてしまうと、不都合も有るだろうという事で、現在は赤色ランクに留まっているのだ。


 この間なんて、ダンジョンに突入して最初の戦闘で敗退するっていう、大ポカもやらかしたからね。見合わないランクの冒険証を付けるのは、気が引けるのだ。

 そうして、ボクらが話し合って決めたランクアップの条件は――――。


「三〇層を突破したら、申請しに来ます。みんなでそう決めたので」


 その答えをどう受け取ったのかは知らないけど、オルシバさんはニコッと笑っていた。イケイケドンドンで突き進まなかったから、己を律する事を覚えたんだと、成長を喜んでくれた……とか?

 まぁ、ボクの想像だけどね。


「その日を楽しみにしているよ」


 と言葉を残し、彼は秘書さんを連れてマスタールームへと戻っていった。

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