表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕らのTS冒険記  作者: 灰塵
第三章
74/88

72話 ケロケロタイム

 水音を響かせ、八人が行く。


 砂漠ステージの時は、肌を焼く太陽や、乾ききった空気が体を容赦なく苛み、生命の危機を感じる環境だった。


 対してこの湿地ステージでは、湿りきった空気や泥水が、肌を容赦なく濡らし、汚してゆく。気温は高くないはずなのに、ジワリと汗が滲み、そのくせ気化できない汗は肌を伝うばかりで、蒸し暑さを一向に和らげてくれない。

 背丈を超える葦で視界が塞がれているのも、圧迫感を感じてしまう。



 ――――そう、これはストレスだ。


 このステージは不快さこそが最大の敵だった。



 アルフォートさんが先頭に立ち、葦原を掻き分けて進んで行く。

 その後に続いて、シロさんが周囲を警戒していた。


 森林ステージなんかよりもずっと視界が悪い……。

 この環境はレンジャークラスのライエルさんでさえ手を焼くらしく、索敵をシロさんに丸投げしていた。だからって、「君もレンジャーなら働きなよっ」なんて、安易に責めるのも酷な話なんだよね。


 特能が発現して以来、シロさんは同レベル帯のレンジャーより、頭一つ抜けてしまった。索敵技能だけなら、熟練冒険者と勝負できる程の腕前なのだ。


 今では半径二〇メートル程なら、視力に頼らずとも敵の位置を正確に把握してしまう。もっと大まかな数や方角で良いなら、聴覚や嗅覚でずっと遠くの方まで状況を探ることができる。


 そんなシロさんの知覚領域の中で、より狭い範囲を、より精度の低い索敵スキルで警戒したって意味は薄い。それなら、ヘタに出しゃばって神経をすり減らすよりも、その分戦闘で頑張ってもらった方が良いもんね。


 それに彼は、シロさんの習得していないスキルで、ボクらを支援してくれているし。それは、悪路を歩き易くする移動補助のスキルなんだけど……。

 今、ボクの脚は(くるぶし)まで泥に埋まっていた。


「うぅ~……、靴の中に泥が入ってきて気持ち悪い……」


 足を引き抜く度に、靴が泥に持っていかれそうになる。

 これ……。バフの効果って、ちゃんと出てるんだよね?


「思い出したくもねぇけどよ……。俺達が二一層を攻略した時は、膝まで泥に埋まったぜ。場所によっちゃ腰までズブリってな……」


 うへぇ…………。

 ライエルさんの身長で腰までなら、ボクは胸元まで埋まってしまう。

 全身を泥に包まれる感触を想像して、背筋がブルッと震えてしまった。


「二一層だけは無理矢理クリアしたけどよ、流石に対策を考えねぇと洒落にならねぇって思ってな。最優先で【フェザーストライド】を覚えてきたって訳だ」

「マジ助かる……。俺も次までに覚えておくわ」


 疑ってゴメンナサイ、超~神スキルでした。


 しかし……、環境の悪さが想像以上に辛い。

 今までのステージに比べて、移動速度がガタ落ちだもん。


 敵の数が少ない事だけが、唯一の救いなんだけど……。

 それでも、戦闘回数をゼロに抑えられるわけでもないからね。

 ほら、早速シロさんが敵の存在を感知してる。


「進行方向に二匹居るな……。このまま交戦するか?」

「ええ、モンスターはそれ程強くありませんし、最短距離で向かいましょう」


 ここは経験者(アルフォートさん)の意見に従っておくべきだろう。


「私も前に出ますね」


 殿(しんがり)を務めていたハルちゃんが前衛に加わり、二列縦隊で進んでいく。


 この層にいるのは九割方ジャイアントトードだ。

 勢いよく伸ばされる舌が、棒術のように鋭いのが特徴で、射程はおよそ七メートル。身体能力が低く、湿地という環境補正がなければ、一層よりも弱いと酷評されているモンスターだ。


 逆に言えば、足場の悪さとミドルレンジの射程が相まって、近接職だと一方的に攻撃され続ける事もあるらしい。

 機動力を売りにするカナさんにとって、最悪の相性だった。


 回避行動が大幅に制限される現状では、防御をタンク任せにするしかない。

 タンクの影に隠れながら、遠距離攻撃で討ち取るのが湿地のセオリーだろう。


「あと九メートル。そろそろ敵の射程に入るぞ」

「うんっ!」

「はいっ!」


 弓を持つ二人は矢を番え、ワルカスさんは周囲の水で水弾を作りだし、宙に浮かべている。敵を視認でき次第、遠距離火力により一気に殲滅を狙う作戦だ。


「敵は正面方向ですの?」

「あぁ、このまま真っ直ぐだ」


 ベティさんが確認を取ると、ボクらの先頭に黄緑色に輝く精霊が舞い降りる。


「では、一番手は戴きますわね」


 彼女が前方に手をかざすと、鋭い風切り音が鳴り響いた。

 地を這うような鎌鼬の一閃。

 葦は根元から刈り飛ばされて宙を舞っていた。

 次いで巻き起こった突風が、それらを一斉に吹き散らしていく。


「居たっ!」


 風が吹き抜けたその先に、青緑色の大きな蛙が一匹。

 体高は七〇センチ程、伸び上がれば体長一五〇センチはあるだろう。


 そうして、視界がクリアになった事で、戦端は開かれた。


 最初に動いたのはワルカスさんだ。

 放たれた水弾は、前衛を避けるように弧を描いて飛翔し、蛙の柔らかい皮膚に穴を穿つ!

 だけど、そいつは身じろぎひとつしない。

 まるで痛みを感じていないとでも言わんばかりだった。


 あれ――――、違う!?


「アイツ、もう死んでる!」


 【診察】で敵のステータスを確認すると、既に生命の光が失われていた。


 視界確保の為に放ったベティさんの魔法。

 どうやら、アレに巻き込まれ、二枚に下ろされていたらしい。

 姿が確認できた時には、既に方が付いていたってわけね……。

 しかし、シロさんが感知した敵は二匹だったはず!


「おいっ! もう一匹居るぞっ! 上だ!」


 敏感に危機を察知したのか、もう一匹は、宙を舞う葦に紛れて跳び上がっていた。人間は上下の動きに弱いって聞いた事がある。

 その所為なのか、跳び上がった蛙の挙動に戸惑い、弓を持つ二人は狙いがもたついてしまった。


 焦って放ったライエルさんの矢は、狙いを外して遙か彼方へ……。

 その点、シロさんは確実さを優先し、着地の瞬間を冷静に待ち構えていた。


 選択としては、それで正解だったのだと思う。

 だけど、待ちの姿勢は蛙に先制を許してしまった。


 跳躍により、蛙との間合いは五メートル程に縮まっていたのだ。

 それは完全に敵の射程圏内。

 落下中に射出された舌先が、投槍のようにボクらへと迫ってきた!


「うわっ!?」


 ボクは咄嗟に身構えようとしたのだけど、足が泥から抜けず、逆に体勢を崩してしまった。


 泥のような流体は、急激な変化を阻害する力が働くんだっけ。

 確かダイラタンシーとか何とか……。

 って、今そんな科学の蘊蓄(うんちく)なんて思い出してる場合じゃないっ!


 幸い、蛙の攻撃はハルちゃんの守備範囲に収まっていたらしい。

 唾液でぬめった舌先は、盾に弾かれて軌道を逸らされていた。


 しかし、今回の戦闘において、機先を制していたのは一貫して蛙の方。

 意外と頭が回るらしく、舌先で狙ったのはシロさんだったのだ。

 タイミングを計っていた彼女は、虚を突かれて姿勢を崩し、更に一手遅れる羽目に。

 これで次もまた蛙の手番――――、ボクはそう思っていた。


 だけど、貪欲にチャンスを窺っていた男が一人居た。

 舌が引き戻されるよりも早く、カナさんがその舌を絡め取ってしまったのだ。


 彼が掴んだ舌に、白く霜が降りている。

 氷結魔法を手に纏わせて、唾液で滑らないようにしたらしい。


「捕まえ……たっ!」


 かけ声と共に、彼が渾身の力で舌を引っ張ると、蛙は踏ん張る事も叶わず、水風船のようにすっ飛んできた。


 牙も無い、爪も無い、身を守る鱗も無い。

 唯一の攻撃手段を封じられて、哀れに釣り上げられた蛙は、ハルちゃんが擦れ違い様に剣を振り抜くと、為す術も無く真っ二つに両断されてしまった。


 遠距離火力で仕留めるしかないと思っていたのに、蓋を開けてみれば近接の二人であっさりと駆除が完了……。

 近接ジョブでは辛いだろう、なんて思ってゴメンナサイ。




 ボクらは湿地での初戦を乗り切り、勝利に沸いていた。


 結果的に、ボクらのパーティだけで殲滅してしまった形だけど、アルフォートさん達も我が事のように喜んでくれている。


「精霊……、凄い……、初めて見ました…………」


 ワルカスさんが精霊を見て驚いている。

 彼らは精霊を見るのが初めてだったらしく、ベティさんを持て(はや)していた。


 未だに人付き合いの苦手な彼女は、彼らの賞賛がこそばゆいらしく、最後にはボクの背に隠れて照れていた。

 こういう可愛い子なんですよ。


 それを見て、ライエルさんが頬を染めていたけど……、あげませんからねっ!


「しかし、新しい環境や敵というのは、やはり戸惑うものですね」


 全くもってその通りだと思う。

 十一層に上がった時もそうだったけど、環境が変わるとソレまでに培ってきたセオリーが、一度リセットされてしまうのだ。

 まぁ、今回は数の暴力で攻めているから、気分的には余裕があるけど。


 移動制限のある環境での立ち回りか……。

 しっかり練っておかないと、強い敵が出てきたら大変そうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ