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僕らのTS冒険記  作者: 灰塵
第三章
70/88

68話 デート!?

 待ち合わせの公園。


 病院での予定を終えたボクは、軽やかな足取りで現地へと直行した。

 約束通り、これからハルちゃんと買い物なのです。

 ゆったりと街を散策するのなんて何日ぶりだろうか。


 攻略と講義に追われる日々。

 そして、お金に余裕もない。

 自然と必要最小限という考え方が身につくのも、納得してもらえるだろう。


 そんなだから、ボクらはこの街のお店をほとんど知らないのが現状だ。

 今日はどんなお店に出会えるのか、それが今から楽しみだった。


 ただでさえ娯楽の少ない世界だからね。

 ショッピングといえど、ボクにとっては十分な遊興に値する。


「それにしても、ハルちゃん遅いなぁ……」


 約束の時間はとっくに過ぎてしまっている。

 病院を出る前にも、ここに着いてからも、メールの確認と送信はしたんだけど、彼の方はメールに対応する余裕が無かったらしい。

 彼の師匠も、他の受講生達も、鍛錬に熱が入り過ぎてしまったのだとか。

 気がついた時には約束の時間で、大慌てしたそうだ。


 『ごめん、宿で汗を流してから行くね』


 そんな連絡が入ったのは、ベンチで一人寂しく影法師と戯れている時だった。

 剣士の修練は肉体を酷使するハードな物。

 晩春の季節とはいえ、汗と砂に塗れてしまったらしい。

 流石にそんな格好でお店を回るわけにも行かないもんね。


「あ~ぁ、こんな事なら宿屋で待ち合わせにすれば良かった……。」


 以前ならこんな時、携帯ゲームで暇を潰したものだけど、生憎とこの世界にそんな物はない。ボクら自身、持ち込む事はできなかったし。

 せめて小説でもあればなぁ……。


 まぁ、幸いと言って良いのか、今は暇つぶしのネタを探す必要はなくなってしまったけどね。


「わ~! お姉ちゃん、すごいっ!」

「ねぇねぇ、ウサギは~? あたしウサギさんが好き~!」

「ウサギかぁ~、どうやるんだったかな……」


 余りにも手持ち無沙汰で、太陽の光で影絵を作って遊んでいたら、子供達が釣れてしまったのだ。


「ピョン!」

「わぁ! ウサギさんに見える!」

「お手々どうやってるの~!?」

「えっとね――――」


 子供達が目を輝かせるのを見て、ボクも楽しくなっていた。

 ボクって意外と子供好きだったのかな。

 以前の世界では学校という制度の所為か、同年代以外との接点なんてほとんどなかったし。

 といっても、同年代の友達すらいなかったわけだけど……。


 そんなボクが、子供相手とはいえ初対面の子達とこうして遊んでいるなんて。

 人間て変われるもんなんだなぁ。


 そうして、どれだけの時間が過ぎたのだろう。ボクの少ないレパートリーが底を尽きかけても、肝心の誰かさんはまだ現れなかった……。


 それほど大きくはないけど、意外と人通りのある公園だ。

 芝生にシートを敷き、お弁当を食べている家族もいる。

 ボクは通り過ぎる人々を眺めては、期待と落胆を繰り返していた。


 それを何度繰り返した事か……。

 もしかしたら見逃してしまったのでは?

 なんて不安になってくる。


 だから、行き交う人々の中に彼の姿を認めた時は、心が一気に華やいだ。


「ハルちゃ~ん!」


 ピョコンとベンチから跳び上がると、体全体を使って笑顔で手を振りまくる。

 いつだったか、子犬みたいなんて言われてむくれた事もあったけど、今のボクに尻尾が付いていたなら、間違いなくブンブンと振り回していたに違いない。

 向こうもボクに気がついたらしく、褐色の少年が小走りで駆けてくる。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 中央商店街に行けば全てが揃う、それがこの街の常識だ。

 そこには大型店が軒を連ね、大河のごとく人・物・金が流れている。


 だけど、大型店は冒険をしない。

 得てして無難すぎる品揃えに陥りがちなのだ。

 それなりの物を大量に売り捌く。

 それも経営方針としては正解だろう。

 でも、買い物を楽しむのなら、それだけでは面白味に欠けてしまうのだ。


 自分だけのオンリーワンを!

 そんな一期一会を求める者達は、大通りから一歩中へと踏み込むのだった。


 ボクらが入ったお店も、大型店とは毛色の違う品揃え。

 一点物故にサイズが無かったり、努力の方向性が壊滅的に迷子になっていたり、宝箱と言うには余りにも玉石混淆(ぎょくせきこんこう)

 だけど、そこには間違いなく夢があった。


「ねぇ、ハルちゃんっ。凄いよコレ! 鎖帷子(くさりかたびら)みたい!」

「く……、鎖帷子って…………」


 ボクの表現がツボにはまったのか、彼は肩を震わせて笑っていた。

 このキラキラした飾りは、スパンコールというらしい。

 今日日聞かなくなった、バブリーなんて単語がよく似合いそうなワンピだ。


 でも、小さな金属片を縫い付けるって発想は、スケイルメイルと同じ。

 別に鎧カテゴリで表現しても良いんじゃないかなっ?


「ボク、女の子の服なんて全然知らないもん。だから手伝って欲しかったのにっ!」


 ボクにとって婦人服売り場なんて完全にアウェーだ。

 お店に入るのさえ勇気が要るってのに、酷いっ!


「ごめん、ごめんてばっ」


 ボクが頬を膨らませてプイッとそっぽを向くと、彼はバツが悪そうに謝ってきた。まぁ、無知を笑ったわけじゃ無いから許すけどさっ。

 彼は深呼吸をして笑いを収めると、失点を取り戻すべく手を差し伸べてきた。


「じゃぁ、今日は()がしっかりとエスコートするね。お嬢様」

「――――ッ!」


 男でもドキッとしてしまいそうな爽やかな笑顔。

 だけど、そこに悪戯っぽさも感じるのは、ボクの気のせいですか?


 あえて使った『僕』という一人称。しかもお嬢様だなんて……。

 ボクは女の子扱いされる事には、未だに慣れていない。

 だから当然、照れながら戸惑ってしまうわけです。

 そんなボクの様子を、彼は実に楽しそうに見つめてくるのだ。


「ハルちゃんて、男の子になってから絶対意地悪になったよねっ!」

「そう?」


 男心も女心も分からない人には、つれない態度でも返してやろうか。

 そんな風に、ボクがツンとデレの狭間で葛藤を続けているなんて知りもしないで、彼は手を差し出したままニコニコしているのだ。

 結局、最後にはボクが根負けして、彼の手を取ってしまうんだけどね。

 これが、惚れた弱みってやつ? 我ながらチョロいなぁ……。


「ユウ君! これ見て、これっ!」


 何やら掘り出し物を見つけたらしい。


 彼が手にしていたのは、濃紺のブレザーとチェックのプリーツスカート。

 一目見てビックリした。

 ソレはボクらの学校の制服にとてもよく似ていたから。


 ノホホンと生きてきた学生時代に比べ、ここでの生活は圧倒的に濃密だ。

 だから実際に過ごした日数よりも、ずっと長くこの街に居るような気になってくる。それ故に彼もこの服を目にした時、望郷の念を抱いたのだろう。


「よく見つけたね……」


 彼に急かされ、ハンガーに掛かったままの服を体に合わせてみる。


「フフッ、同級生って感じだね♪」

「流石にそれは無理がない?」


 今のボクの背は一四〇センチ程度しかない。

 せいぜい背伸びした中学生、ヘタしたら小学…………いや、止めよう。


 それに、見る側だった制服を、着る側にまわるというのも不思議な気分だ。

 異世界の物なら気にならなくても、元の世界を連想する女物というのは、まだまだ抵抗感があるらしい。


 だけど、彼の方は遠慮無く次々と新しい服を運んでくるのだ。

 その度に彼は背中から抱きしめるように衣装を宛がい、顔を寄せて二人で姿見を覗き込む。

 そうして、鏡越しにボクの顔を見つめては、感想を求めてくる。


「コレも似合うね。可愛くない?」

「うん……」


 耳元で聞こえる彼の声。

 鏡に映るのボクの顔が、紅くなっているのがよく分かる……。

 それは彼にもバレているはずだ。

 色白の肌は直ぐに顔に出てしまうから恨めしい。

 だけど、彼はお構いなしにグイグイと攻めてくる。


 彼も随分と積極的になったものだ……。

 以前のハルちゃんからは、とても想像もつかない。

 これも剣士として男の中で揉まれてきた所為だろうか。

 幼馴染みの新しい一面に、ボクは戸惑いを隠せなかった。


 内気だった『彼女』を、ボクが引っ張ってあげようとしていたのが嘘みたい。

 今では彼の変化に、ボクの方が置いて行かれている気になってしまう。


 ボクも変わらなくちゃいけないのかな?

 もっと、女の子みたいに……。

 そんな風に思ってしまったのは、きっと方々から聞こえる囁き声の所為だ。


「あの人カッコいいよね……」

「うん。キリッとしてるのに、表情が優しい感じがヤバイ」

「だよねー。でも、アレって彼女かな?」

「妹でしょ。小さいし、髪の色似てるし」

「声かけちゃう? あんた行っちゃいなよ、ホラッ」


 ボクには女の子の感覚なんて正直分からない。

 だけど、こうして聞こえてくる声を聞けば、ハルちゃんが女の子の目にどう映っているのかは理解できた。

 だからほら……。ボクから離れた途端に、肉食獣達(・・・・)が彼に声を掛けている。


 こんな時、自分がどんな態度を取れば良いのかが分からない。

 彼女面して間に割り込めば良いのだろうか、それとも余裕の態度で見守る?

 「この服どうかな」なんて話し掛けたら自然に邪魔が出来るかも……。


 頭の中では、幾つもの選択肢が浮かんでは消えていく。

 ボクにとってはこんな事は初めての経験だ。

 最適解どころか、及第点の選択肢さえ判断が付かない。


 結局ボクが選べたのは『服を選ぶフリ』という逃げの選択肢。

 おもむろに服を手に取っては、それを眺める。

 だけど、ボクの目には服なんて映っていなかった……。


 好きな人に異性が近づく。

 それがこんなにも怖い事だったなんて……。

 ボクは微かに聞こえてくる声に、全神経を尖らせる。

 そして、彼の「ごめんね」という声が耳に届いた時、安堵の余りその場に崩れ落ちそうになってしまった。


「ねぇ、お店出よっか……」

「あれ? このお店の服、気にいらなかった?」

「ううん、ハルちゃんが持ってきてくれる服は、どれも可愛かったよ」


 そういう問題じゃ無くて、すごく落ち着かないんだ……。


 ここは婦人服店。当然、周りはみんな女の人ばっかり。

 男の人もたまに入ってくるけど、カップルで来る人だけ。

 そんな数少ない男性達も、連れの子がハルちゃんに視線を向けるのを見て、直ぐに店から出て行ってしまうのだ。

 そんな環境に彼を置いておくのが、不安で仕方がない。


「なら、もう少し居よ? このお店、ユウ君に似合う服多いし」

「そうじゃなくてっ……」


 本心を晒そうとして……、ボクはそれを躊躇った。


 ボクの今の姿は、女の子として十分に可愛いと思う。

 少なくとも男受けはするはずだ。

 ボクの中に有る男の感性がそう言っている。


 だけど、『女』として魅力的かと問われたら、間違いなくノーだ。

 ボクに与えられた魅力とは、明らかに方向性が違うから。


 ハルちゃんに声を掛けた人達は、ボクなんかよりもずっと『女の香』を漂わせていた。これ見よがしに胸を強調する姿、誘惑する視線、甘ったるい声音。

 不快? 嫉妬? そんなんじゃない。

 ボクが彼女たちに感じたのは、恐怖だった。


 男っていうのは理性や感情とは別に、本能で雌を求めてしまう部分がある。

 ハルちゃんは、男の子になってまだ間がない。

 自分を制御する術を身に付けるには、余りにも時間が短か過ぎるのだ。


 発情騒ぎの時は、まだ女の意識が強く、戸惑いの方が大きかったのだろう。

 だけど、男でいる事に慣れ始めた今、ヘタに藪を突っつけば、彼の中の雄を自覚させてしまうかもしれない。


 男は刹那的な恋だって出来てしまうものだ。

 些細な衝動から溺れ、気持ちまで全て持って行かれてしまうかもしれない。

 もしそうなった時、『女の子』のボクでは彼を繋ぎ止める自信がなかった。

 だから、何も言えなくなってしまった。


 ボクの葛藤を知ってか知らずか、彼は背中からギュッと抱きしめてくる。

 不安に揺れるボクを落ち着かせようとしたのかもしれない……。

 そうやって、いとも容易く彼の思惑通りになってしまう自分の心。

 それがちょっと悔しい。反則だよ……。


 だけど、彼は何故だか笑うんだ。

 クックックと堪える様に。


「今のユウ君……、凄くいい顔」


 なんて言って、ボクの頬を突っついてくる。

 それが悔しいやら腹立たしいやら……。

 おかげで顔は真っ赤に紅潮するし、目尻に涙までにじんできた。


「酷いよっ、ボクの気持ちも知らないで……」


 彼を責める言葉。

 だけど、ソレに少し怒気を含んだ返事が返ってきた。


「私の気持ち、少しは分かった? この鈍感娘……」


 なんでこの状況で、ボクの方が責められなくちゃいけないの!?

 ――って、抗議の声を上げそうになってしまった。


「ユウ君て酷いよね……。突然ベティちゃんを連れてくるし、カナちゃんとだって仲良くしてたし……。私がどんな気持ちでいたか知りもしないで……」


 それは、ボクがついさっき感じていた想い。

 彼は自分も同じだったと言うのだ。

 ボクの周りに好意を寄せる人が居る事が怖かったと。


 いや、ハルちゃんの方がずっと怖かったに違いない。

 だって、この店の人達なんて所詮は一過性のもの。

 だけどベティさん達はボクらの仲間で、ずっと傍に居る人達だ。


「それにね……。外を歩いてた時、男の人がみんなユウ君を見ていくの。だからお店に逃げ込んだんだよ? ユウ君がどんな風に男の人から見られてるかよく分かったから」


 思い返せば、このお店に入る時のハルちゃんは少し強引だった気がする。

 そんな裏があったなんて、ボクはちっとも気づいていなかった。


「でも、ボクって男の人には興味ないし、心配しなくても……」


 その言葉を聞いた途端、彼の顔が険しさを増した気がした。

 ハルちゃんはボクの肩を掴むと、強引に体の向きを半回転させてしまう。

 そして、ボクの顎をクイッと上向かせ、顔を近づけてくる。


「ちょっ……、ハルちゃん? うそ……、キ……ス……?」


 唐突な行為に戸惑い、真意を問おうとするが、彼は止まってくれなかった。

 既に彼の顔は、鼻先が触れそうな距離。


 頭の中ではスパークしたように、猛烈な勢いで思考が加速している。

 受け入れた方が良いのか、冗談めかして躱した方が良いのか……。

 またしても不得意分野の選択を迫られ、ボクは完全にフリーズしてしまった。

 だからボクは、目蓋をキツく閉じ、服の裾を握って成り行きに身を任せる。


 なのに、一向に予期した感触が伝わってこない……。

 恐る恐る目を開くと、間近で彼がボクを見つめていた。


「ほら……ユウ君はこんなにも押しに弱い。きっと、気心の知れた人ならユウ君は絶対に流されちゃう。いい加減、それを自覚してよ」


 ボクに苦言を呈すと、彼の顔がスッと離れた。

 その途端、心臓がバクバクと暴れ始め、顔がほてり始める。

 不測の事態に反応できなかった心と体が、ようやく状況を理解したらしい。


「あのね、ユウ君。私、これ以上ライバルなんて要らないの」

「う、うん……」

「だから、コレは無自覚な誰かさんへのお仕置き」


 そう言って、彼はボクの前髪を掻き上げると、おでこにキスをした。


「ふぇっ!?」


 ボクは額を両手で押さえ、顔がゆでだこのように真っ赤になってしまった。

 うわわわっ、何てキザなっ! 


「ハ、ハルちゃん、何処でこんなテクニックを仕入れてくるのさ……」

「ん~? 少女漫画かな?」


 彼は悪戯っぽくウインクすると、再び服を選びに行ってしまった。

 恐るべし乙女のバイブル……。

 でもその行為が抑止力になったのか、彼に近づく人は数を減らしていた。

 まぁ、ボクを見て舌打ちする人は増えたけどね。


 っていうか、ハルちゃんはその後もずっと、少女漫画由来と思われる手練手管を駆使して、ボクを籠絡しようとしてくるんだ。


 新しい服を試す度に耳元で可愛いって囁いてきたり、周りから注目されてるって気づくと、少し多めのスキンシップで牽制したり。

 他の子なんて目もくれず、ボクだけを構ってくれる。

 そうやってボクの独占欲や顕示欲を満たしながら、心の疼きを巧みに刺激してくるんだ。

 ハッキリ言って、周りから見ればバカップルうぜー、って状態だったと思う。


 ボクはもう、ただただ翻弄されるばかりで。

 仕舞いには恥ずかしいんだか、嬉しいんだかよく分からなくなる程、頭が完全に(とろ)けてしまっていた。


 もう、彼の選ぶ服に「かわいいね」って相槌を打つのが精一杯。

 それでも、彼の好みだけは必死に心のメモリーに記録するのを忘れなかった。

 次は自分で彼好みの服を選べるように。喜んでもらえるようにって……。


 しかし、ハルちゃん……。

 貴方ひょっとして、ジゴロの才能(ギフト)とか持ってませんか?


 最終的に彼の見立てたコーデを二揃えと、キュロットスカートを購入。

 スカートとズボンの中間って感じで、ボクでも穿きやすいからね。

 冒険中に大きく動いても中が見え辛いし。


 結局、三時間位あちこち店を見て回ったのかな。

 ボクは休憩と今日のお礼を兼ねて、ハルちゃんを喫茶店に招待した。

 そこは、ダンジョン前に在った休憩所の本店。

 見知ったロゴを見かけたので、買い物が終わったら入ろうと決めていたのだ。


「やっぱりココのお菓子、美味しいね」

「うん、いくらでも食べられそう」


 ガラス椀に入ったアイス三種盛りに、二人で舌鼓を打つ。

 バニラベースのアイスにそれぞれ白桃、リンゴ、マンゴーを荒く摺り下ろして練り込んであった。リンゴは固さで食感を損なわないように、一度煮詰められていて、口にするとアイスと一緒に溶けてしまう。


 カップの隅には白と焦げ茶のウエハが二個。

 冷えた口を休ませるお菓子だけど、ボクはそれにアイスを乗せて食べていた。

 ちょっと子供っぽいかな? でも好きなんだもん。


「良い服が見つかって良かったね」

「うん。でも、着るのは少し勇気が要るかも……」


 というのも、今日買った服はどちらもミニスカートなのだ。

 だけど……、今なら穿ける気がする。


 この世界へとやって来たあの日、ボクはスカートに拒否反応を起こした。

 男であるという自意識が強すぎて、これは違うという強い意識が働いたのだ。

 でも、今日はそれが無かった……。

 ハルちゃんに告白した事で、ボクの在り方が少し変わったのかもしれない。


 『ボク達の関係を、男とか女で決めなくても良いんじゃないかな』


 ボクは彼にそう言った。

 性別の曖昧なボクらだからこそ、あるがままの自分でいれば良いと。

 それが自分自身の心にも、沁み込んでしまったのだと思う。


 だから、例えスカートを穿いたとしても、ボク自身は何も変わらない。

 今の自分に似合う物を素直に着れば良いのだと、心が納得したのだろう。

 まぁ、ハルちゃんが似合うと言ってくれた事が、一番の決め手だけどね。


「でも……この服、ホントにプレゼントで良いの? 嬉しいけどなんか悪いよ」

「気にしないで。実習クエストが良いお金になったから。それに……」


 と、彼は少し頬を染めて、嬉しそうに笑顔を弾けさせた。


「ユウ君からデートに誘って貰えるなんて、思ってなかったからね」




 ――――えっ? デート?


 意外な言葉に面を喰らってしまった。

 ボクは洗い替えの服が心許ないからと、新しい服を見に来たはず。

 だけど、ボク一人じゃ自信がないから、彼にアドバイスを頼んだんだ。


 二人で街を散策して、買い物して、甘味に舌鼓を打つ……。

 あれ? これってデートなんじゃない?


 あわわわわわわわわわわ…………。

 今になって気がついたよ。


「顔真っ赤だけど、大丈夫!?」

「だだだ、大丈夫ゅっ! そっか、デートだもんね。そっか~。えへへ」


 その後どんな会話をしたのか、正直覚えていない。

 きっと蕩けまくった頭で、要領を得ない受け答えを繰り返したんだろう。


 どうやらボクは、気づかない内に人生で初めてのデートを体験していたらしい。

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