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僕らのTS冒険記  作者: 灰塵
第三章
65/88

63話 サクヤのおもてなし

 ユグドリア――――。


 世界樹の南に位置する、幅一〇キロ、奥行き五キロに及ぶ扇状の街。

 それは、ダンジョンの恩恵を一身に受けて発展を続けてきた。

 主要な施設が北側に偏っているのもその名残だろう。

 人が増え、手狭になる度に南へ南へと居住地を広げていったのだ。

 その為か、南へ行くほど区画は歪になり、建物も奔放さを増していく。



 英雄様(マーロウ)に新たな仲間を紹介された翌日。

 ボクらは南東地区の一角へと案内されていた。


「うわぁ――――……」


 自然と感嘆が零れてしまう。

 ボクは遠くを見るように目の上に手をかざし、その建物に驚愕していた。

 隣に立つ褐色の少年(ハルちゃん)も、ボクと全く同じリアクション。

 咄嗟の仕草が似てしまうのは、幼馴染みだからなのかな。


「マジでここ? 実は隣の家ってオチじゃねぇの?」


 赤毛の少女(シロさん)が勘違いやドッキリを警戒していた。

 勘ぐってしまうその気持ちは、ボクもよく分かる。

 だって、ウサ耳少女(サクヤちゃん)に案内された物件は、庭付きのお屋敷。

 周囲の家はみんな小ぶりなのに、一軒だけ場違いな物が紛れ込んでいるのだ。


「シロウ、ベタ過ぎ。今時あり得ないし……」


 そう苦笑する黒髪の少年(カナさん)も、半信半疑な様子を隠せずにいる。


 余りの現実感の無さ……。

 ボクら四人は、ポカーンと間抜け面を晒す事しかできなかった。


 サクヤちゃんはボクらの前に歩み出ると、慇懃(いんぎん)にお辞儀をする。

 そして、小さな指先を使って、宙に魔力で文字を書き出していく。


『改めまして。本日よりお世話仕ります、サクヤと申します。ご自分の家だと思って、存分におくつろぎ下さい』


 ボクらがその文字を読み終えると、彼女は再び一礼した。

 九歳の幼女にしては随分しっかりとした言動……。

 ギャップが凄いけど、精神年齢を考えればそれほど不思議でもないか。


 さて、このまま間抜け面を晒していても仕方が無い。

 ボクは心と顔を引き締めなおし、今朝の出来事を振り返った。



 事の起こりは宿の食堂――――。


 ボクらが朝食を摂っていると、給仕姿のサクヤちゃんが現れたのだ。

 どうやら、今日は保護者同伴ではないらしい。

 彼女は一人きりでも臆すること無く、立派にお使いを果たしている。


『お試しで、二泊三日のサポートを受けていただけませんか?』


 昨日聞いた通り、彼女の目的はボクらを生活面からサポートする事。

 みんなもその事は承諾してくれていた。


 だけど、内心ではスッキリしない気持ちも燻っている。

 サクヤちゃんの事情を知らないのだから、当然といえば当然だろう。


 だって、いくら英雄様の紹介とはいえ、相手は年端もいかない幼女だ。

 そんな子供に召使いをさせるのは、どうしたって抵抗を感じてしまう。

 そもそも能力的に可能なのかも不明だし。

 

 サクヤちゃんも、そう思われる事は危惧していたのだろう。

 そこで、二泊三日のお泊まり会だ。

 仕事ぶりをアピールして、みんなに認めさせようって腹積もりらしい。

 だから、ボクも彼女の味方に回って、みんなをほだしていく。


「ほら、子供の遊びに付き合うつもりで良いんじゃない? 三日だけなんだし」


 なんて感じで……。

 それでみんなも少しは気持ちがほぐれたらしい。

 ささっとお泊まり会の準備を整えると、サクヤちゃんの下へ集合した。


『それでは、参りますね』


 ……と彼女が文字を書き終えた直後、目の前の景色が一変する。


 前に一度体験したけど、【転移】ってホントに凄いな……。

 ボクらは一瞬にして、宿から目的地へと移動してしまったのだ。


「「「は?」」」


 初体験のみんなは、狐につままれたような顔をしている……。

 なんだかサプライズが成功したみたいで、その反応が可笑しかった。


「この子、【転移魔法】が使えるんだ。今のがそうだよ」


 ボクの成果じゃないのに、ちょっぴり自慢げにみんなに解説してしまった。

 彼女も説明不足だったと反省したのか、ボクの捕捉に頷いている。

 次いで彼女がしたのは、ボクらがお世話になるお家の紹介。


『そして、こちらが皆様にお泊まりいただく、拙宅となります』


 そう書き出すと、彼女はあり得ない程の豪邸を指し示した。


「「「「えっ?」」」」


 驚愕で零れた声……。それが今度は四つ。

 サプライズ成功とほくそ笑んだボクも加え、間抜け面が四つに増えていた。



 ――――それが今までに起きた出来事。


 回想にふけっていた頭を切り替え、改めてその豪邸を見渡してみた。

 敷地面積はおよそバスケコート四面分ぐらい。

 庭は一面芝生で覆われ、外縁部はぐるりと生け垣で囲われている。

 入り口の門柱から玄関までは、石畳の道で繋がっていた。


 建物の方はといえば、これまた二階建ての立派な(たたず)まい。

 成金趣味のような嫌らしさは無く、落ち着きと気品を感じさせる。

 赤瓦に白壁というこの街の標準を踏襲しつつ、ドアや窓枠に使われたシックな色合いが、アクセントとして全体の印象を引き締めていた。

 玄関には(ひさし)兼用のバルコニー。

 これでプールも有れば、間違いなくセレブの高級リゾートだ。


 豪邸である事は勿論凄い……。

 だけど、手入れが完璧に行き届いている事が、より一層ボクを驚かせた。

 芝生や生け垣は綺麗に刈り込まれ、建物の壁にもくすみが無い。

 これだけの豪邸を維持するには、とんでもなく労力が掛かるだろうに……。


 一頻(ひとしき)り感心した後、サクヤちゃんはボク達を屋敷へと先導していく。

 ボクらが玄関の前に立つと、両開きのドアが独りでに内側へと開いていった。

 錬金術師ギルドで見たような自動ドアを連想したけど、そうではないらしい。

 開いてゆくドアの影から、子供達の姿が現れたのだ。

 ドアマンだろうか。


 顔立ちのよく似た少年と少女。おそらくは双子だろう。

 白と黒の衣装はいかにも執事・メイドといった風体だ。

 彼らはドアを開き終えると、そのまま脇へと下がり、軽くお辞儀をする。

 そして、時間が止まったかのように、そのままの姿勢でピタリと停止した。


「えっと、こんにちは」


 挨拶をしてみたけど返事がない……。

 う~、ボク上流階級の作法なんて知らないし。

 こういう場合って、使用人に挨拶するのはタブーなのかな?

 彼らは最初の姿勢のまま微動だにしない。


「いや、コイツら、違う(・・)ぞ!」


 シロさんの言う『違う』の意味が、即座に飲み込めなかった。


「あ……、ドール?」


 よく見れば、彼らの関節の構造は、明らかに人体とは異なっていた。

 ソレは錬金術と機械工学の粋を集めた『ドール』と呼ばれる自動人形。

 錬金術師ギルドへ行った時、稼働している所を見かけた事がある。


 でも、あちらで見た物よりも随分と精巧な出来映えだ。

 動きも凄く自然だったし。

 体を完全に衣服で包み隠したら、人間と見分けが付かないかも……。


 彼らには生態部品や人工魂魄といった物が使われているらしい。

 なので完全な人形とは少し違うのだとか。

 だけど、知性体と言える程の自我は無いそうだ。



 チリン、チリーン…………。


 ドール達に目を奪われていると 風鈴のような澄んだ音色が響き渡る。

 音の出所はサクヤちゃんだ。

 彼女は小さなハンドベルを片手に、ボクらを見上げていた。

 声を出せない彼女なりの、呼びかけの合図という事らしい。


『この子達はハウスキーパーです。受け答えは出来ませんので、御用向きは私の方へお願いいたします』


 これ程の屋敷だ、一人では手が回らないだろうと思っていたけど……。

 彼らが維持管理を担っていたというわけか。

 サクヤちゃんはドール達を下がらせると、屋敷を案内していった。


 はじめは当然、広々とした吹き抜けのエントランス。

 床にはピカピカの黒い御影石が敷き詰められていた。

 右手前から伸びる階段は、壁に沿って弧を描くように二階へと続いている。


 エントランスを正面に抜ければ、左手方向にリビングが広がっていた。

 庭が一望できる開放的な空間。

 高級そうなソファーが幾つも並び、歓談の場にはもってこいだろう。


 リビング右手の扉を開ければ、そこは食堂だった。

 エントランスからも入れる間取りで、長大なテーブルと椅子が一二脚……。

 食堂のさらに奥はキッチンになっているらしい。


 一度エントランスへ戻ると、残りの部屋の説明だ。

 入り口を背に左手側には応接室があり、その奥には客室が準備されていた。

 反対に、エントランスの右手側、階段をくぐった先がサクヤちゃんの私室。

 そのさらに奥には、ドール達の待機部屋があるらしい。


 二階へ上がると、一階とは異なりワインレッドの絨毯が敷かれていた。

 エントランス正面方向には、裏側のバルコニーへと繋がる広めの通路。

 その通路を中心に、ほぼシンメトリーの構造となっている。

 右側に個室が四部屋、左側には三部屋。

 左右で部屋数が違うのは、左側の最奥が浴場になっている為だ。


 以上で一通りの案内が終了した…………。

 正直な感想を言えば、どこの王侯貴族の邸宅だよって感じです。


『至らぬ点があれば、遠慮無く仰って下さい。まずは本日より三日間、よろしくお願いいたします』


 そう綴るサクヤちゃんだが、ハッキリ言って粗を探す方が難しい。

 強いてあげるなら、過剰な歓待で逆に落ち着かないという贅沢な不満?

 それはみんなも同じらしく、予想外の豪邸に戸惑っているようだった。


「なぁ、本当にいいのか? 俺達のサポートなんてさ……」

「こんな家借りるお金、アタシ達持ってないよ?」

「それに、こんな小さな子を宛がうなんて、マーロウさんは何を考えてるんでしょうか……」


 サクヤちゃんは、みんなの懸念を否定するように首を振った。


『コレは私の方からお願いした事です。マーロウは関係ありません』

「ソレはソレ、コレはコレ。責任は大人が被るものだし」


 カナさんは、この場にいないマーロウへと苦言を呈していた。

 半分は私怨かもしれないけど……。


 でも確かに、小さな子供が無茶を言ったら(たしな)めるのが大人の役目。

 そういった意味では、マーロウが責められるのも仕方がない。

 だけど、彼女の場合は少し特殊な事情がある。


 そもそも、獣人種は基本的に早熟だ。

 年齢的には幼女でも、体格的には成人と遜色がない。


 それに、九歳というのはあくまでも肉体年齢の話。

 彼女はコレまでの人生で、四回も転生を繰り返してきたのだ。

 その人生を合算すると、八〇年以上は生きている計算になる。

 精神的には大人と言っても語弊はないだろう。


 また、彼女が自発的にサポートを申し出たというのも本当の事だ。

 理由は、ボクが彼女のジョブメダルを引き継いだ事にある。


 不運にも、彼女は自らの目標を断念せざるを得なかった。

 だけど、彼女にとってソレは、簡単に諦められる物ではない。

 苦渋の末、彼女は後継者をサポートする道を、新たな目標に据えたのだ。

 例え間接的にであっても、目的の完遂に関わり続けようと。

 だから、これは大人の女性(・・・・・)が、自分の意思で選んだ選択に他ならない。


『お代の方も結構ですのでご安心下さい。今回のサポートは、そちらのユウキ様との互助契約による物です。私の方にも十分に利が御座いますので』


 その言葉を受け、みんなの視線がボクに集まってしまった。

 困った……、秘密にしろって言われてるのに……。

 何処まで話していいのか分からないし、ソレっぽく話を濁すしか……。


「えっと……、この子の研究を手伝う事になったんだ。だからサポートはその報酬なんだって」

『左様で御座います』


 タダよりも高い物は無い。そういう警戒心もあったのだろう。

 サポートが完全な無償では無い事が、逆に安心感に繋がったらしい。


「そっか。それならまぁ……いいのかな?」

「いいんじゃない?」

「ユウ君、私にも手伝える事が有ったら言ってね」

「え? う、うん」


 話がまとまり、みんなは改めて「宜しく」と挨拶を交わしていた。



 その後はジャンケンによるマイルーム争奪戦です。

 結果はエントランスを囲む四部屋が埋まり、南西がボク、北西がハルちゃん、北東がシロさん、南東がカナさん、という部屋割りになった。


 三〇分後にリビングで集合と決め、しばしの自由時間。

 各自、荷解きや私室のチェックの為、それぞれの部屋へと消えていった。


 ボクも宛がわれた部屋の扉を開いて、中を覗き込む。


「…………」


 うん……、スイートルーム?


 広いです……。宿の二人部屋よりも明らかに……。

 バルコニー側の壁は全てがガラス戸だ。

 今はレースのカーテンで覆われているけど、自然光だけで室内が十分明るい。

 もちろん、遮光カーテンも端の方にタッセルで留められている。

 天井では、百合の花をモチーフにしたシャンデリアが室内を照らし、床には豪奢(ごうしゃ)な赤い絨毯が敷かれていた。


 ベッドは……、キングサイズってやつ? 三人並んでも余裕で寝られそう。

 他にも、アンティーク調のナイトテーブルと卓上照明、小さな丸テーブルと椅子、それにドレッサーまで完備されていた。

 そのどれもが一目で高級品と分かる意匠が施されている……。


 そんな光景に圧倒され、ボクは扉を開いたまま固まっていた。

 だってさ……、これって土足で入って良いの?


 まぁ、ユグドリアって西洋風の文化圏だしなぁ……。

 絨毯を汚す事に躊躇いを感じながらも、覚悟を決めて足を踏み入れた。

 一歩踏みしめるごとに心の中で「ごめんなさい」という言葉が沸き起こる。

 あぁ……、キリキリと苛まれるボクの庶民感覚。


 鞄をベッドに置いて荷解きし、替えの服をクローゼットにしまった。


「これ……二〇〇着は余裕で入るよね……」


 そんな長大なスペースに、ボクの服がポツンと一着だけ。

 意味も無くど真ん中に吊してみたけど、虚しくなって止めた。

 なんだろう、この敗北感……。


 ろくに荷物も無かった所為で、アッと言う間にやる事が無くなってしまった。

 ボクは所在なく、ふかふかのベッドに腰を下ろす。

 場違いって感覚が強くて落ち着かないな……。


「でも、向こうから言ってきた事だし、遠慮する必要はないよね……」


 だけど、ボクを落ち着かなくさせるのは、不安感だけでは無かった。

 その正体は高揚感。

 ボクは今、どうしようもなく心がワクワクするのを感じている。

 新しい環境――――、ここから新しい何かが始まる。

 そんな予感めいた期待に、ボクは心を躍らせていた。

 すると、来訪を告げる音が扉から響いてきた。


 コン、コン、コン。



 ――――ハルちゃんかな?


「はいっ?」


 誰何と共にドアを開くと、そこにはサクヤちゃんが立っていた。

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