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僕らのTS冒険記  作者: 灰塵
第二章
60/88

59話 込められた想い

 ――――――!?


 頭をガツンと殴られたような衝撃を感じた。


 それなら……、全部が繋がる…………。

 九歳の幼女が過去に功績を残した事も。ダンジョンに入った経験がある事も。八〇年という年月も。


「つまりそういう事だ。この子は四度の死を経験し、転生を繰り返す事で八〇年という年月を掛け、そのメダルを作ってきた。それでも未だ完成には至っていない。どれだけの覚悟を持ってそのメダルを作ってきたか、少しは伝わったかな?」


 話を聞いていく内に、ボクの体は勝手に震え始め、腰が抜けてしまった。無様に尻餅をつくボクを気に掛ける様子もなく、マーロウの話は続いていく。


「だが、依り代となる転生体はあまり性能の良い代物ではなくてな。体が限界を迎える度に誰彼構わず体を重ね、胎児に魂を移し替えるという手段を執ってきた。しかし、魂が抜ければ肉体は死ぬ。胎児に転生しようとも、母体が死んでしまっては共倒れだ。その問題、お前ならどうやって解決する?」


 分からない……、分かるわけがない。語られているのは、ボクの想像力ではとても追いつけない世界。だから、ボクは力なく首を横に振る事しか出来なかった。

 マーロウはそれを答えと見て、話を先に進める。


「目の前に亡骸(こたえ)が在るだろうに……。ここのモンスターにわざと寄生させ、胎児が育つまでの間、魂の抜けた母体を生かし続ける……。それが、この子の出した解答だ。そして、赤子が十分に育った所で私が腹を裂いて取り上げ、転生の完了というわけだ。確か、男女の産み分けを確立したのも、その頃だったな」


 滅茶苦茶だ……。そんなの、もう狂気の世界じゃないか……。この子はそんな事を四回も繰り返したのか!?


「そこまでして叶えたい目的って一体……」


 マーロウはボクの問いを意図的に無視して続けた。


「もう一つ……。お前に期待していると言った事を覚えているか?」


 そういえば、そんな事を言っていたっけ。あの時は、ただの皮肉だろうと思って受け流してしまったけど。



「ここからはサクヤにも聞かせる話だ」


 ボクを睨み続けていた少女は、突然名前を呼ばれて、不思議そうにマーロウを見上げている。


「初めての時は三〇年近く保った転生体も、回を重ねるごとに短命化が進み、今生では声まで失ってしまった。記憶の保持も徐々に曖昧になり、欠落も顕著になってきている。まぁ、こんな無茶な転生を続けていれば、遠からず限界が訪れる事は、この子自身にも分かっていた事だが」


 事実、サクヤちゃんの方も「何を今更」と怪訝な顔をしている。


「サクヤ、その娘には『特能』が発現したんだ」

「――――ッ!?」


 彼女は弾かれるように振り向くと、驚愕に見開いた目でボクを射貫いてきた。


 当然だろう。自らが模索中の未完成ジョブだ。そのメダルで赤の他人が特能を発現させるなんてケース、想定するはずがない。


 ボクは震えが取れたばかりの体に鞭を打って立ち上がると、それが事実である事をステータスを開示して証明してみせた。


「サクヤ。君の寿命は、おそらく次の子を宿せるほど長くは望めないだろう。そして、この分野においては、この娘の方が君よりも適性がある……。ならば新しい人材に希望を託すというのも選択肢の一つだと思うが、どうするね?」


 彼女は目を伏せて悔しそうに唇を噛みしめていた。


「直ぐには決められないかい?」


 そう尋ねられたサクヤちゃんは、ブンブンと首を振った。


「そうか……」


 彼女の決意を確認すると、マーロウも表情を引き締めボクに向き直った。


「では、ジョブメダルの話に移ろう。そのメダルには単一の肉体に縛られずに経験を蓄積させる為、この子の魂と繋げる特殊な魔法が掛けられている。そこにお前の魔力回路が絡まってしまったわけだ。つまり、どちらか一方を断ち切ればメダルは外れる。その際、お前の方を断てば、二度と魔法を使えない体になる。サクヤの方を断てば、この子のメダル作成の道は断たれる事になる」


 どちらにとっても、それは大事(おおごと)だ……。


「そっちの魔法を一度解いた後、もう一度繋ぎ直したらダメなの?」


 至極当然な疑問だと思うのだけど、マーロウはコレに首を振った。


「既に仕様の隙間を突いて経験を詰め込んできた物だ。その上で、さらに自分達に都合の良い結果を得られる程甘くはない」


 何でも出来そうなマーロウだが、魔道具の分野は専門外らしく、思案に時間を掛けて的確な言葉を探しながら仕様を説明してくれた。


「メダルへは肉体に蓄積された経験を魂とを紐付けて蓄積していく。つまり、一つの魂につき一つの記録しか残せないわけだ。コレが普通の人生を歩むケースであるならば、継続も可能だろう。だが、この子の今の肉体には九年分の経験しか詰まっていない。その状態で改めて経験を書き込もうとした場合、どうなるかは想像が付くだろう?」

「…………上書きされて転生前のデータが全部消えちゃう?」

「そういう事だ」


 九年分の経験っていうけど、こんな幼児期の経験なんてほとんどゼロに等しいだろう。実質、完全に振り出しに戻るというわけだ。そんな選択肢を彼女が受け入れられるはずがない。


 ボクは他に解決策がないか、必死に頭を巡らせる。


「じゃ、じゃぁ、現状の維持って選択肢は?」

「二人同時にメダルと繋がる現状ではメダルに経験を蓄積出来ない。今後の改善が見込めない状態を維持しても、それはただの時間の浪費だ。それに、今の状態はサクヤの体に負担が掛かっている。この子に苦しみながら生きろと?」

「――――ッ!」


 【同調】した時に感じた正体不明の痛みはそれか……。



 ――――くそっ、他に何か策は無いか!?


 マーロウはサクヤちゃんを下ろすと、指を立てて選択肢を提示した。


「お前に選ばせてやろう。一つは自分の魔力回路を断ち切る道。二度と魔法が使えない上に、肉体にも様々な後遺症が残るだろう。場合によってはそれが原因で死に至る可能性もある。もう一つはこの子の繋がりを断ち切る道。その場合、お前は晴れて自由の身だ。後には、全てを失った幼女が一人残るだけ」


 損得のバランスが著しく偏った二択……。


 ボクにとっては後者の方が圧倒的に得だ。他人の事など知らぬと、身勝手な考え方をするならば、ボクには何のデメリットも無い。


 でも、ボクには彼女をこんな状況に追い込んでしまった罪悪感がある。彼女のこれまでの努力を聞いてしまった今、心情的には彼女にメダルを返したいとさえ思っている。


 だけど、その対価が余りにも重い……。


 仮に肉体への悪影響が出なかったとしても、魔法の使えない貧相な体では、パーティで全く役に立てなくなるだろう。その後はみんなの足手まといとして、おこぼれに預かるだけの人生。もちろん、それをみんなが許してくれればの話だけど。最悪、見捨てられる可能性だってある。


 優柔不断――――そんな物を意識したのは久しぶりだ。だけど、ボクにはこの二択を軽々しく選ぶ事が出来ない……。


 まるで先生に叱られた生徒のように、ボクは視線を落とし、唇を噛みしめて黙する事しか出来なかった……。なにか……、なにか抜け道はないのか!?


 そんな風に苦悩するボクを見て、マーロウが微かに笑った。


「フッ、お前はこんな二択を、わざわざ天秤に掛けて悩むのか……」


 悪いかっ! ボクに取っちゃ人生を左右する重い選択なんだよっ!


 ボクが答えを出せないでいると、サクヤちゃんはチラリとマーロウを見上げ、再び睨むような目でボクの前に歩み出でてくる。一瞬、また噛みつかれるのではと警戒してしまった。


「残念ながら時間切れだな……。サクヤの方がよほど覚悟も決断も早いらしい」



 ――――えっ? 時間切れ!?


「答えはこちらで選ばせてもらう」


 そんな、制限時間なんて聞いてないっ!

 思わず一歩後ずさったボクの左腕を、マーロウがすかさず捕まえた。


 魔力回路を断ち切るって、やっぱり痛いんだろうか。どんな苦痛に襲われるのか想像も付かず、恐怖で体がすくんでしまった。



「答えは――――」


 目をつぶって首をすくめるボク。

 マーロウは意地悪く笑うと、不安をあおるように間を空けた。



「二番だ」

「…………へっ?」


 意外な答えに目を開くと、目尻に滲んだ涙が弾け、裏返ったような間抜けな声が漏れてしまった。

 足下の少女に目を向けると、彼女は悔しそうに、だけど強い目でボクを真っ直ぐ見据えてくる、


 ボクは終ぞ決断を下せず、二人がボクに有利な選択をしてくれた事に安堵してしまった。怯える気持ちが霧散していく。それと共に体からも力が抜けてしまって、ボクは再びへたり込んでしまった。

 そして同時に、決断を人任せにした自分のズルさに、身を裂かれるような想いも感じていた。


「さっきも言ったが、この子のメダル作成の道はコレで終わる。大幅に後退する事を受け入れたとしても、時間切れは確実だ。だから――――」


 マーロウはボクの手を握ったまま片膝を突いた。そうする事で、身長の大きく異なる三人の視点の高さが揃った。



「この子の……、いや、私達の願いを継いでくれないか?」


 ボクらのパーティは、既にボクの特能ありきで動いている。このメダルが手に入る事自体は凄くありがたい。だけど……。


「…………サクヤちゃんの目的って何なの?」


 ソコが分からなければ後を継ぐにしても、何をすればいいのかが分からない。


「残念だが、今は教えられない。たとえその事が原因で失敗したとしても、私達は運命と割り切る覚悟をしている」


 そう言うとマーロウは、ボクとサクヤちゃんの左手を繋がせ、二人が握手する手を両手で覆った。そして、瞑想するように目を閉じると、マーロウの体から形容し難い力が立ちのぼる。

 次の瞬間、左腕に高圧電流を流されたように、バチッと強烈な痛みを感じた。どうやらサクヤちゃんも同じ体験をしたらしい。ボクらは握手を解き、腕を押さえて蹲る。


 痛みが治まり目を見開くと、ボクの冒険証には三分の一程が黒く染まったメダルがはまっていた。これで正式にボクへ譲渡されたって事?


 これまで幾度となくイジェクトを試した所為だろう、留め金の外れていた冒険証からメダルが転がり落ちてしまった。


「あ……、ホントに外れた……」


 サクヤちゃんは反射的にメダルへと飛びつき、手を伸ばす。


 だけど、有らん限りの精神力を動員し、すんでの所で手を止める事に成功した。誰の管理下にもないメダルに触れてしまえば、上書きが起こる可能性がある。そうなれば全てが水の泡……。


 彼女は大切な物を前にしながらも触れられない境遇に唇を噛みしめ、涙を流していた。


 ボクがメダルを拾い上げると、悲しげに見つめる彼女の目が、自然とそれを追いかけてくる。


 ボクは彼女に対して罪悪感を感じていた。でも、彼女の努力を知った今では、彼女の力になりたいという想いの方が遙かに大きい。だけど、ボクにはボクの目標がある。それをかなぐり捨てる訳にもいかない。


 ボクの目的……。改めて思い返すと、それはハルちゃんとの恋の成就だった。互いの気持ちを確かめ合い、関係が前進した今、ボクらが次に目指すのはダンジョンをクリアする事。そして、元の世界へと帰還し、元の性別に戻る事だ。


 自分の中に芽生える二つの願い。ボクはソレを噛みしめながら譲渡されたジョブメダルを、再び冒険証にはめ込んだ。


「ボクに出来る限りの協力をするって約束するよ。でも、いつかメダルを手放さなくちゃいけなくなる時が来るかもしれない。その後はまた次の人に繋いで欲しい……。それでもいいかな?」


 どこか煮え切らない言葉にも聞こえる。サクヤちゃんの心情もきっと複雑なものだろう。それでも、彼女はキッとボクに向き合うと、深々と頭をさげた。


「彼女の願いはお前の幸せにも繋がっていると信じている、よろしく頼む」


 そして、マーロウもまたボクに頭を下げた。


「うん……」


 分からない事だらけの二人の願い。絶対に叶えるとは約束できないけど、それでも彼らがこれほどの想いで向き合う願いなのだ。頑張ってみよう……。


 ボクは冒険証を握り締め、想いを受け継ぐ事を決意した。

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