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僕らのTS冒険記  作者: 灰塵
第二章
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58話 遺されたモノ

 少女はマーロウの腕を押し退けようと、もがき続けている。


 もはや彼女に逃げるという意思はない。唯ひたすらに、仇敵を噛み殺したいという願望に支配されていた。幼子とは思えぬ般若の形相。

 口元に伝う血は、ボクの物かそれとも悔しさで噛みしめた自らの物か……。


「サクヤ、落ち着きなさい……」


 手がつけられないほど暴れていた少女だが、ようやく自分の名を呼ぶ存在に気がついたらしい。


 彼女は背中から抱き留める人物を見上げると、途端に表情をくしゃくしゃにして(すが)り付いた。


 激情に体を震わせ、涙を流す姿……。彼女は間違いなく号泣しているはずなのに、聞こえるはずの声がボクの耳まで届いてこない。

 初めて会った時もそうだった。やっぱり、この子は声を出せないんだ……。


 でも……、泣き声が聞こえない事が余計に悲痛さをかき立て、ボクの胸を締め付けてくる。


 マーロウは彼女の頭を優しく撫でながら、ゆっくりと口を開く。


「以前に言ったな、私はお前が嫌いだと」


 ボクは血が滴る左腕を押さえながら、マーロウの言葉に頷いた。


「コレがその理由だ。その時、お前には悪意など無かったのだろう。だが、例え故意でなかろうと、コレがお前の行動が招いた事態だ」


 まさしく、ボクにしてみれば不慮の事故としか言い様がない。それを責められても、理不尽だって思ってしまう。だけど、結果的にボクは彼女のメダルを強奪してしまった。不慮だろうが故意だろうが、彼女にしてみれば『犯人はボク』という事に変わりがない。


 マーロウの話では、彼女とこのメダルは魔力で繋がっているらしい。その所為だろう、このメダルが自分の物である事を彼女は確信している節がある。


「ごめん……なさい……」


 ボクの謝罪が耳に届くや否や、サクヤちゃんは全身の毛を逆立てるように、再びボクを威嚇してきた。


「しかし、最後に跳んだ(・・・)場所がこことはな……」


 破壊の限りを尽くされ全く原状を留めていないが、マーロウは感慨深そうに周囲を見渡している。でも、サクヤちゃんの方は少し不快そうだ……。


 【転移魔法】は場所のイメージが重要らしく、朦朧(もうろう)としながらも飛ぶ事が出来たという事は、それだけここが彼女にとって印象深い場所という事なのだろう。


「ちょうど良い。しゃべれないこの子に代わって少し話をしよう」


 マーロウはサクヤちゃんを抱え直すと、彼女が積み重ねてきた努力をボクに語り聞かせてきた。


「そのメダルはオリジナルジョブだと話した事があるな? この子はある目的を持って、これまでに無いジョブを作ろうとしてきた。ジョブという括りに収まるのか分からない目的だったがね」


 ボクにその重さを理解させるように、マーロウは言葉の合間に少し溜めを作って言葉を続けた。


「それに費やした年月が……、およそ八〇年だ」

「――――――!?」


 思わず口を開けて絶句してしまった……。


 ボクが歩んできた人生の五倍以上。そんな途方もない年月を掛けて頑張ってきた物を、ボクは奪った……のか!?


「年月だけでも中々の努力だろう? だが、この子は時間だけでなく本当に全てを捧げていたよ。毎日ダンジョンに入り浸り、鍛練を積み、研究を重ね、その結果メダル以外にも、いくつもの成果を世に残してきた。まぁ、成果自体は知られていても、それを成した人物の名前まで覚えている物好きは少ないだろうがね」


 ボクは多分、余りの重責に耐えきれず、自分の心を守ろうとしたんだと思う。

 気がついたらマーロウの解説に無自覚に反論していたんだ。


「ダンジョンに……って。その子、冒険者じゃないよね? それに80年て……。他の種族の事はよく分からないけど、そんな歳にはとても見えないよ?」


 サクヤちゃんが左腕に付けているのは市民証だ。それではダンジョンへの入場許可は下りない。とはいえ、現実にこんな所まで入り込んでしまったのだ、反論の材料としては弱いだろう。


「では、この子は何歳に見えるね?」

「……ヒト族を基準に考えるなら、一〇才未満……かな」

「大体合っているな、この子は九才と少しになる」


 矛盾。ボクはソイツを指摘してやる事で、軽い愉悦のような物を感じていた。そのおかげで、心を圧迫する重圧が少し和らいだ気がする。


 いくつもの成果を世に残してきた九歳の幼女? ジョブメダルを作る為に八〇年費やしたって? 全然計算が合わないじゃないか。


「まさか、ボクに嫌がらせする為に適当な嘘を――――」

「言っていると思うか? この子のこの表情を見ても、そう思えるのか?」


 被せるように浴びせられたマーロウの台詞。その言葉にボクは黙るしかなかった……。

 マーロウは「付いてこい」と短く吐き捨てると、少女を抱えたまま広場の端へとボクを案内していく。


「確か、最初はこの辺りだったな……」


 ボクはマーロウの視線を追い、その場所を覗き込んだ。そこには土に埋もれるようにモンスターの骨が大量に堆積していた。



 ――――あれ……? でも、それっておかしくないか?


「何で骨が? モンスターは死んだら魔石になるはずなのに……」

「その例外を活用したクエストを、お前も受けた事があるはずだ」


 マーロウから投げかけられた問いに、必死で頭を巡らせる。

 魔石にならない例外って何だ? そんなのやった事あったかな?


「あっ……、狩猟クエスト?」


 正解していたらしく、マーロウは「そうだ」と頷いた。


「この子を襲ったモンスターがいただろう。あれは寄生種でな、捕らえた獲物の延髄から根を打ち込み、生きた苗床にする能力を持っている。そうして苗床になった獲物は、何故か魔石化せずに遺骸を晒し続けた。それを発見し、解明し、『ジャマー』の仕組みを作ったのがこの子だ」


 ジャマーの話なら聞いた事がある。だからこそ、やっぱり違和感が拭えない。


「でも、アレはパストールさんがずっと昔に師匠と作ったって……」


 ボクは記憶の糸をたぐり寄せ、研究所で聞いた話を思い起こす。

 あの時、彼は確か――――


「……開発者は……敬愛する……サクヤ師?」



 …………この子と……同じ名前?


「いや、違う! パストールさんは確かにハーフエルフって言ってた。でも、この子は獣人じゃないかっ!」


 新旧の情報が入り交じり、頭の中で起こる不整合。

 混乱するボクの事など無視して、マーロウは何かを探し続けている。

 彼は骨の山に魔力を注ぐと、念力のように地面を掘り返していった。


「あぁ、有った。コレだ……」


 コレが……ボクに見せたかった物?


 彼の視線の先に有ったのは、薄汚れた人骨だった。

 衣服は朽ち果て、金属類も腐食して穴だらけ。だけど、左腕に嵌められた紫色の冒険証だけは、年月を感じさせないほど綺麗な状態を保っていた。


「これって、冒険者の……」

「それがサクヤだ」


 ボクは狐につままれたように、マーロウの顔を覗き込んでしまった。


「また『サクヤ』? この街じゃそんなにメジャーな名前なの?」

「紛れもなく、この子本人の亡骸(・・・・・・・・)だ」


 だんだん腹が立ってきた……。

 何を言っているのかさっぱりだ。煙に巻くだけのナゾナゾほどつまらない物は無い!


「いい加減にしてよっ! 一体何が言いたいのさっ!」


 コイツにはコイツなりの会話の筋道が有るのかもしれない。だけど一向にゴールの見えない不毛な問答に、ボクは嫌気が差していた。

 一通り材料が出そろったのか、マーロウは僕を振り返ると、最後のキーワードを口にした。



「『転生』……という言葉に聞き覚えは?」

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