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僕らのTS冒険記  作者: 灰塵
第二章
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55話 大捕物が始まる

「作戦行動開始を一斉通達!」


 オルシバさんの号令で、室内の空気がピリッと張り詰める。


「今回の目的は少女の魔力を削る事にある。作戦中はプレッシャーを掛けるに留める事を今一度確認して。無理な接触は怪我のもとだからね」



 いよいよだ…………。


 事の始まりは、ボクとは関係のない所で起きた出来事。感情的には不運だと嘆きたい部分もある。だけど、ボクは一連の出来事に足を突っ込んでしまった。


 それが今では、この場の三〇人を超える職員達や、町中に散った一〇〇人を超える冒険者達、金銭的にも多大なコストを費やす大事へと発展してしまった。


 残念ながらボクには見守る事しか出来ないけど、関係者の一人として事の顛末を見届けなくては。



 そして――――、最初の一手が指された。


「一番へ送信。打ち合わせ通り、初手は『魔封環(まふうかん)』で無力化を狙う。気づかれて外へ逃げられた場合は西側へ追い立てて。三一番は西側の脇道で待機。逃走した場合の接触に備えて」


 オルシバさんの指示を受け、通信スタッフが冒険者にメッセージを送信する。


 それから僅か数秒後、マップに表示されたマーカーが慌てふためくように動き始めた。初手の内容を聞く限り、一番手には隠密行動に長けた人物が選出されていたはず。それがこんな短時間でマーカーが動き始めたって事は早々にバレたのか。


 オルシバさんの指示や状況を反映させるように、盤上の赤い駒が参棒で動かされていく。


 マーカーはフラフラと動きながら西側へと向かう。どうやら、初手は外したものの、少女の誘導には成功したらしい。そして、三一番の駒に肉迫した瞬間、マーカーの光りが消え、別の場所へと移動した。


「【転移】を確認、近いね。二八番を建物前に待機。二六番から三〇番までの冒険者を建物周囲の道へ移動。配置が完了次第、二八番に突入指示を。それから、一番は最初に踏み込んだ建物へ戻しておいて。隠れ家なら戻ってくる可能性もあるからね」

「マスター、一番から連絡です。踏み込んだ瞬間、警報が鳴ったそうです。初めて見る魔道具が設置されていたと言っています」

「幼いのに、随分と用心深いね。それに、見慣れない魔道具か……。彼女に聞きたい事がまた増えたね」


 その後もオルシバさんの指示が飛ぶ度に、マーカーは追い立てられ、囲い込まれ、【転移】を繰り返していく。


 彼女は何が起きているのか、きっと理解出来ていないだろう。一方的に位置を知られ、行く先々で追い回されるというは、どんなに恐ろしい事か……。この理不尽な状況に困惑し、怯えながらも憤っている事だろう。


 彼女が感じている恐怖を想像したら、ジワリと涙がにじんできた。


 だけど、追う者達は一切の容赦も無く、淡々と指令をこなしていく。感情的になっても事態が好転しない事など、誰もが分かっている事だ。今は冷徹に作戦を遂行し、後でしっかりとケアするしかない。


 そして、彼女が【転移】した回数は、すでに二〇を超えていた……。


「見つからないって? その部屋に居る筈だよ。隠し部屋が無いか壁や天井裏をよく調べてみて…………。あぁ、いやOKだ。【転移】を確認したよ」

「マスター。一度は確保に成功したものの、【転移】されたとの報告が」

「接触対象に干渉せず【転移】できるっていうのは、本当に厄介だね……」

「ですが、少女は相当疲弊している模様、『限界が近そう』との事です」

「よし、引き続き追い込んでいくよ!」


 東奔西走。少女は転移先を街全域に広げて逃走を図っているが、動員された人員の規模が彼女に休む間を与えてくれない。


「六二番が少女を拘束、魔力欠乏症による意識の混濁が見られるとの事です」



 終着だ――――。


 たった一人の少女が一〇〇人以上の人間を振り回したこの状況、その才能がどれだけ秀でていたのかは想像に難くない。だけど、所詮は個人。組織という群体の前では抗いきる事なんて出来はしなかった。


「マーロウ君、最後は君の出番だ。現地へ向かってこの『魔封環』を彼女に()めてくれ」

「ああ、分かった」


 『魔封環』と称して手渡されたのは黒色のチョーカー。名前からして、魔法を封じる魔道具と思われる。冒険者全員に持たせておけば楽なのに、ソレをしなかったってことは相当レアな魔道具なのかもしれない。


 だから、少女と顔見知りであり、最速で移動出来るマーロウに大取りを任せたのだろう。


 そうして、最後の一手が放たれようとしたその時。




     地図上からマーカーが消失した。



「消えた!? みんな、マーカーを探して! 錬金班は機材のチェックを! それから、六二番に状況を確認して!」


 突然の事態に室内がどよめき始める。オルシバさんも顎に手を当てて、この状況を読み解こうと必死に思考を巡らせていた。


「クエストをキャンセルされた? いや、そんな操作をする余裕は無いはず。なら、市民証が破損したか……。まさか、衰弱死? ……には早すぎるな」


 ボクも出来る事を探して、クエストを確認してみた。


 無題のクエストは、間違いなくボクのリストに存在している。改めてクエストの詳細を開いてみると、そこに表示された地図には今もマーカーが点灯していた。


「クエストはまだ生きてます。ボクの方には今もマーカーが表示されてます」


 確認の為、オルシバさんとマーロウがボクのウインドウを覗き込んできた。


「これは……まさか、ダンジョン?」


 言われてみれば、マーカーの周囲の地形が区画整理された街並みとはまるで違う。


「いや、そんなはずは無い! 市民階級の彼女ではダンジョンへの入場許可は下りない。行った事の無い場所への【転移】なんて不可能だ」


 ダンジョンの入り口にはゲートが設置され、出入りが厳しく管理されている。


 それは、リスクを負う冒険者の権利保護だったり、市民が不慮の事故に巻き込まれない為の配慮だったりする訳だけど。色々と緩いこの街の制度の中では、珍しく厳しく守られているルールだ。だから、市民章を付けたあの子が願ったとしても、門前払いが関の山。


「いや、アイツはダンジョンに入った経験なら有る」


 だけど、オルシバさんの断定を、マーロウが否定した。


 でも、『何故経験があるのか』という説明までは出てこない。相変わらず言葉足らずな男だ。その所為で、オルシバさんはますます混迷の度を深めていく。


「ありえないよ、市民階級は冒険者同伴であろうと入場を許可していない。ゲート職員が何らかの不正に手を染めていたって事かい?」

「ギルドの落ち度では無いさ」

「なら、どんな抜け道が有るって言うのさ!」

「悪いが議論は後にしてくれ。今は救助を優先させてもらえるかな?」

「――――ッ、そうだね……、申し訳ない」


 マーロウはオルシバさんとの討論をバッサリと切り捨てた。


 言っている事は正しくとも、言い方を間違う。コイツも十分にコミュ障の素質があるよな……。


 ボクとは違うタイプの話術落伍者を、冷めた視線で眺めていると、ソイツの親指がクイッとボクに向けられた。


「悪いがこの娘を連れて行く。問題ないな?」


 なんか知らないけど、ボクを要求している……。即座に彼の意図が把握できず、目をパチクリさせてしまった。


「それは……二人だけでダンジョンに潜る、と言う事かい?」

「ダンジョンならば、私以上の適任は居ないだろう?」


 マーロウはダンジョンの上層でもソロを張れる実力者。間違いなくユグドリア最強の戦力だ。単独で活動可能と言う事は、極めて即応性も高い。コレに異を唱えられる者など居ないだろう。



 ――――ただ一人、彼に付き添う事になるボクを除いては。


 だからこそ、マーロウはボクを睨み付けてくる。


「覚悟は良いか?」


 聞くまでもない。というか、ボクは既に宣言している事を忘れたのか?


 ボクは左腕に取り付けられた機材を取り外すと、負けじとマーロウを真正面からにらみ返す。


「言っただろっ、何でもするって!」


 そもそも、ボクだって全部人任せなんて嫌だった。役に立てる事が有るって言うのなら、望むところだ!


 そう、ボクらの中ではもう意思は固まっていた。仮に誰かに反対されたとしても、マーロウはボクを連れ出すだろう。たとえ、ギルドに逆らったとしても。


 そんな意思を感じ取ったからだろう。ボクらの立場が悪くならないよう、オルシバさんがその場を取りまとめた。


「わかった。ギルマス権限において、以降の判断は二人に一任するよ」

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