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僕らのTS冒険記  作者: 灰塵
第二章
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53話 癒やす魔法

「話が脇に逸れてしまったわね。講義の話に戻るけど……」


 その言葉でボクらは気を引き締め直した。


 今日受けている講義は【解毒】。他でもない、昨日会得していなかった事を酷く後悔した魔法だ。キャスターに転向したベティさんが、今になって受講しに来ているのもそれが理由。彼女も悔しかったのだ。


「二人の【解毒】はよく出来ているわ。体内に入り込んだ毒や細菌を分解するのだけど。正確な位置や量を把握する為に【同調】が必要だった訳。傷口に近い毒素は【整形】の要領で傷口から直接抜き出すと良いわ」

「「はいっ」」

「あと、ユウちゃんの【同調】は深く潜り過ぎよ。重傷患者に【同調】して同じ痛みを味わってしまったら、治療どころじゃ無いでしょう? だから、感覚の取捨選択が上手く出来るように練習なさい」


 『同調の練習』という言葉に反応してベティさんが、ボクを見つめてきた。


「……今日も特訓しますの?」

「えっと…………よ、夜で良ければ……」


 ベティさんは顔を真っ赤にして頷くと、スカートの裾をキュッと握って切なそうにしていた。


 これも特訓の副産物なのかな。仕草を見ただけで彼女がどんな状態なのか察する事が出来るようになってしまった。彼女に釣られるように、ボクの方までお腹の奥がキュ~ッてなってくる。下着の予備を持ってきて良かった……。


「はいはい、ノロケ話は余所でしてね。今日は予定が押してるからココまで!」


 先生はパンパンと手を叩いて講義の終了を告げた。


 ボクらの為に無理して講義をねじ込んだ為、急いでスケジュールの調整に入らなくてはいけないらしい。そんな無理までしてボクらを優先してくれたのも、幼馴染みを想っての事。


 先生とベティさん、二人の視線が無言で絡み合っていた。


「ねぇ、ベティ……。ユウちゃんの事、好き?」

「もちろんですわ。私にこんなにも入り込んでくれたのは、貴方とユウキさんだけですもの」

「そうね、貴方のそんな顔が見られて私も嬉しいわ」


 二人は無言で微笑みつつも、表情や空気の機微を感じ取り、言外の遣り取りを交わしているように見えた。


「それでは、ミーシェル先生。またよろしくお願いしますわね」

「ええ、いつでもいらっしゃい。ベティちゃん」




 【解毒】を習得した後、ボクとベティさんは別行動となった。


 だけど、ボクの手を名残惜しそうに握って離そうそうとしなかったり、泣きそうな目で見つめてきたり。彼女の愛らしい仕草がボクの『男の子の部分』を鷲掴みにしてくる。



 ――――出来る事なら男の頃にこんな風に好かれてみたかったなぁ。


 ベティさんを見送って気持ちを引き締めなおすと、ボクは続けて講義を申し込んだ。


 中級の受講料は五千フラン。さっきの【解毒】と合わせると、金貨一枚分が飛んでしまった事になる。お金の使い方が荒いかなって気もするけど、これも必要な先行投資だ。


 預金残高は六,〇〇〇フランを少し切っている……。そろそろ、実入りのいいクエスト受けないとマズいな……。



 二コマ目の講師は、以前【止血】を教わった先生だった。また慌ただしい講義になりそうな予感。


 果たしてその予想は的中し、ボクは沢山のラットを相手に【癒合】の習得を果たした。


 読んで字のごとく傷口を接合して癒やす魔法だ。ただ、基本的には刃物傷のような鋭利な切り口に対して有効で、欠損や傷口が荒らされているタイプの負傷には不向きな魔法だった。


 実践の際は【整形】で傷口をズレ無く合わせたり、骨を正しい形に並べた上で使用する事になる。


 ……と、そんな手順を思い返している間にも、病巣を移植されたラットが次々とやってくる。



 ――――集中しろっ! いよいよ本格的な治療行為だ!


 【沈静化】で痛みを緩和すると、ラットに【同調】し【整形】で開いた傷口を整えながら【癒合】で傷口を癒やしていく。出血が多い場合には平行して【止血】を行う事になるが、今回は研究用の移植の為、開腹から治療までのタイムラグが無いので省略していた。


 ラットへの【同調】は凄く不思議な感じだった……。完全に別種の生物である為、自分の体に置き換えたらココって、感じの位置に刺激が来るのだ。でも、【同調】の深度を浅く調整しているので、特訓の時と違いきちんと別個体として識別出来ていた。


 ラットが引きつれを感じないように切断面を合わせ、傷口を癒やしていく。


「出血は……止まってる。接合箇所にズレは……なし。あとは【活力】を注いで終了っと。終わりました!」


 何匹か傷を癒やした所で、先生から「前に受講した時と雰囲気が違う」と言われた。自分ではそんな自覚は無かったけど、それも昨日の敗走の影響なんだろう。


 あの時の悔しさが、少しだけボクの中に覚悟ってものを芽生えさせたんだと思う。泣き言なんて言っている暇があったら、少しでも自分を磨かなくちゃって。


 それが気に入られたのか、先生に研究室のクエストも受けに来いと誘われてしまった。スキルを磨くならラットが最適だと。効率を追い求める先生だし、きっとその通りなんだろう。いつか受けに来ても良いかもしれない。


「よしっ……と。次――――」



 ポ――――ン……。


 次のラットに魔法を掛けようとした時、電子音の様な音が室内に響き渡った。何の音だろうと周りの様子をうかがっていると、館内アナウンスが聞こえてきた。


『受講生のユウキさん、至急受付カウンターまでお越し下さい。繰り返します――――』


「ボク? 一体何だろう……」



 って、いけないっ!


 うっかりアナウンスに気をとられてしまった。慌てて手元を見ると、先生がボクに代わってラットの治療を完了していた。


「減点一だな、患者の命が最優先だ。聞きながらでも手を止めるんじゃない」

「す、すみません……」

「だが、講義自体は既に終わっている、練習はココまでにしよう。受付に向かいなさい」

「はい、ありがとうございましたっ」


 先生にお辞儀し研究室を飛び出すと、ボクは小走りに受付へと駆け戻る。


 一体何事だろう……。時刻はまだ九時前だし、ここからギルドへは二〇分も掛からない。約束の時間には余裕で間に合うしなぁ。


 なんて考えていたら、見覚えのある人物がそこに居た。



「うげっ……!」


 いけない、乙女にあるまじき声が漏れてしまった。この世界でボクにそんな声を出させる人物なんて一人しかいない。


「マーロウ……」


 昨日の今日だ。この男を前にするとどうしても身構えてしまう。今日は一体何しに現れたんだ!?


「ギルマスから話は聞かせてもらった。今日はよろしく頼む」


 そう言ってマーロウは深々と頭を下げた。昨日の皮肉めいた物とは全然違う。とても真摯で真剣な物だった。

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