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僕らのTS冒険記  作者: 灰塵
第二章
53/88

52話 特訓の成果

 ――――翌朝。


 今日はオルシバさんに頼まれた日だ。


 だけど、約束の時間は一〇時、まだまだ余裕がある。


 時間を無駄にしないように、ボクはヒーラー養成所へと来ていた。オルシバさんにはメールで居場所と状況を報告しておいたし、何かあれば連絡が来るだろう。


 しかし、パタパタとなかなか慌ただしいものだな。


 研究棟の職員達が時間に追われるように走り回っている。受付開始まであと一〇分ほど。ボクは普段と違う受付の様子を新鮮な気分で眺めていた。


 そう、ボクはコレまでの重役出勤を改めたのだ! やる気MAXなのですよ!



 目を閉じると沸々と蘇る昨日の負け戦&マーロウの小言。


 夜ベッドに潜り込んだ後、アイツの言葉が頭の中をぐるぐると駆け巡って全然寝付けなかったのだ。幾度となく再生される小言の記憶、そこに睡眠不足が混ざり合い、ボクの中でマーロウへのヘイトが自然と醸成されていった。


 いつかきっと見返してやる! そう「ギャフン」てヤツを言わせてやるんだ!


 ボクは自由になる右手を小さく握り込み、改めて決意を固めた。



 それにしても、始業時間はまだかなぁ。この状況は非常に落ち着かない。


 受付に着いてからずっと、ボクの左腕は愛の肉食獣(ベティさん)に捕捉され、その自由を奪われていた。幸せそうに頬を染めた彼女は、リリースという概念を意図的に辞書から削除したに違いない。


 おかげで、視線を集めて非常に困ってます。TPOを(わきま)えないバカップルを見る視線が飛んでくるんですよっ。


「あのぅ……ベティさん?」

「もうっ! 結局、呼び捨てでは呼んでんでくれませんのねっ!」

「ごめん、さん付けの方が呼び心地が良くて……」


 思い通りにならないボクに、プゥーと頬を膨らませて抗議してくる。


 昨日の【同調】訓練のせいで、彼女の中では桶の底をぶち抜く勢いでタガが外れてしまったのだ。彼女もあんな風に人に触れたり、触れられたりしたのは初めてだったらしい。その初めてでお互いの絶頂を共有するっていう、とんでもない事をしてしまった訳だ。


 そして、夜は夜で【沈静化】が切れて発情モードに突入。ハルちゃんを交えた三人で…………。


 あ、ボクはまだ処女ですからねっ! したのは触りっこまでです。


 まぁでも、覚醒から三日目という事で、ボクらの発情状態はかなり落ち着いてきた。男性陣はうっかり元気(・・)になるとマズイので、一応【沈静化】を掛けてきたけど、ボクとシロさんはもう素の状態で生活している。おかげでちょっと股がムズムズするけど、耐えられない程じゃない。


 とはいえ、日常生活を送る分には問題が無いってレベルなので、ちょっとした刺激を受けるだけで途端に体がほてり出すから困ってしまう。


 それを知ってか知らずか、ベティさんはボクの肩に頭を乗せてきた。彼女の髪がボクの首筋を撫でつけて……。うぅ、お股がキュンキュンする……。


 そんな時、ボクらを無言で見つめる人影に気がついた。


「うわぉっ! お、おはようございます! ミーシェル先生!」

「あら、ごきげんよう、ミーシェル先生」

「色々と聞きたいけど……、そうね、先ずはおはよう……かしらね」


 たまたま通りかかったら、幼馴染みがいわゆるメスの顔でイチャついている現場に出くわし、衝撃を受けたらしい。


「今日も講義を受けに来たの?」

「はい、予定が空いていればお願いします」

「それじゃ、先に講義室に行っててくれるかしら?」


 受付のお姉さんが先生の発言に驚いて何やら話し掛けていたけど、先生は「スケジュールの調整は宜しくね」と笑顔の圧力で押し切っていた。どうやら予定が埋まっていたみたいだけど、ボクらを優先してくれたらしい。


 とはいえ、おそらく今日の先生は好奇心の塊。あのニコニコ顔から、どんな言葉責め……いや、追求が飛んでくるのかを想像したら、フルリと体が震えた。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「参ったわね……。まさか一日でこれほど精度を上げてくるなんて。聞いた時はただの(ただ)れた情事かと思ったのだけど、革新的な訓練方法のようね」



 ――――よし、何とか乗り切った!


 講義室へ入った途端にドアの鍵を掛けられた時は、ボクは思わず以前のように丸椅子の上で正座してしまった。


 気分はアレです……。清い交際を前提に娘を託されたけど、うっかり欲に負けて手を出してしまった彼氏的ポジション。ついには家族会議にまで招待されてしまった、そんな感じの心境でした、はい。


 そして、ベティさんをここまで籠絡せしめた手管を、根掘り葉掘り暴露させられてしまったのです。


 シロさんの思惑は別にして、あの時のボクらは真剣に特訓に取り組んだのだ。まぁ、途中からは完全に暴走して、自分と相手の区別が付かなくなるほどドロドロに【同調】してしまったけど。


 先生もボクにベティさんを託した時、こんな状況になるなんて予想していなかっただろうな。ボクだってこんな風に好かれる事になるなんて思ってもみなかったけど……。


「学会に論文でも出してみる? 『ユウキ式鍛錬法』って名前でいいかしら?」

「や、止めて下さいっ。コレの発案者は別の人(シロさん)なんですから!」


 アレは一歩間違えば夜の営み。そんな一テクニックに自分の名前が付くだなんて勘弁して欲しい。


「まぁ、鍛錬の結果がコレ(・・)じゃ、あまり人には勧められないわね……」


 コレとはもちろんベティさんの事。先生の前に座るボクらは体が密着するほど身を寄せ合っている。といっても、主にベティさんの方からグイグイと力のベクトルが伸びてる訳だけど。


 今まで交友関係をこじらせてきた反動なのか、一気に恋する乙女の状態まで振り切ってしまったのだ。彼女は元々依存欲が強かったのかもしれない。


「でも、ベティさんは女の子同士って気にならないの?」

「男とか女とか関係ありませんわ、貴方が良いんですの。それに同性同士が気になるのでしたら、元の世界に戻る時に私も連れて行ってくだされば解決しますわ。元は男の子ですのよね?」



 ――――――そういう選択肢もあるのか!?


 全く考えた事も無かった……。


 ボクもベティさんの事は好きだ。もちろん、友達以上として。ダンジョンをクリアした後もボク達の関係が途切れず、元の世界でも続けられるのなら素直に嬉しいって思う。


 でも、ボクの一番は…………。



「でも、ボクにはハルちゃんが……」


 あれ? 想いは告白したけど、ボク達って付き合ってる事になるんだっけ? 恋人っぽいこと全くしていない気がする……。


 いや、色々と過程をすっ飛ばした行為はしちゃったけど。でも、それは発情っていう特殊な状況下での話だし。肉体的な部分じゃ無くて、精神的な部分でボクらの関係って進展しているのだろうか……。


「ええ、知ってますわよ。ですから、三人でのお付き合い、ですわね」

「へっ!? それでいいの?」

「え? 私、何かおかしな事言いまして?」


 あ、そうか。この世界は重婚も同性婚もOKなんだっけ。


 誰かと付き合っているからって、身を引く必要なんかない。それが常識の世界だった。好きな者同士なら皆がくっついてもOKなんだ……。

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