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僕らのTS冒険記  作者: 灰塵
第二章
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48話 中級最初の魔法

 中級の受講料は【プロテクション】の時と同じ五千フラン。ぶっちゃけ、お高いですっ。


 なにせ、ボクらの収入は一日四〇〇フラン程度なのだ。そこから宿代や生活費を引くと、大体二五〇フランまで減ってしまう。支援期間が終わってしまったらもはや雀の涙だ。魔法習得の一番のネックは、金銭的な部分なのかもしれないな。



「初級の最初に【診察】を覚えたでしょう? 中級も最初にこれぞ極意という魔法があるの」


 先生は姿勢を正して咳払をすると、いつものアレが始まった。


「それじゃ、ユウちゃんに質問ね~」


 ボクも膝の上で拳を握りしめ、先生の問いかけに備える。


「今ユウちゃんの前には瀕死の重傷患者がいます。どんな治療をしますか?」


 そう言われても、ボクには選択肢なんて無い。


「えっと、ボクはまだ【止血】しか怪我に対応できる魔法を使えません……」

「出来なくてもいいわ。こういう治療がしたいって言ってくれれば大丈夫よ」

「じゃぁ、症状はどんな感じですか?」


 先生は「そうね~」と思案すると、症例を挙げてきた。


「心肺停止から一分。右前腕切断、腹部裂傷、腎臓、肝臓、膵臓の破裂。頭蓋、脊柱骨折。腓骨、脛骨粉砕骨折。あとは脳内出血って所でどうかしら」

「どうかしらって…………それって、即死してませんか?」


 状態をイメージしただけで、吐きそう。


「ほら考えて」


 え~っと……。心臓が止まると、酸欠で脳にダメージが残って後遺症の原因になるんだっけ、心肺停止から一分ならまだ余裕はあるかな? 体中怪我だらけだけど、現状で一番生死に関わるのはやっぱり出血だろう。そして失った血液の補充。


「まずは出血箇所を全て【止血】します。それから輸血しながら【沈静化】で痛覚を遮断して、心肺を蘇生……かな」

「うん、いいわね。何はなくとも先ずは血流だから。輸血は情況によっては出来ないけど、その場合は患者の体力を見て【増血】で対応する事になるわね」


 よし、合っていたみたいだ。それじゃ、次はやっぱり脳が優先かな、出血箇所を修復して……。あ【体温調整】忘れてた、コレも必要だよな……。


「それで、血はどれぐらい輸血するの?」

「えっ? さ、さぁ……五〇〇ミリリットルぐらい?」

「それじゃ全然足りないわね」


 人間の血液の量ってどれぐらいだっけ? 分かんないけど、半分ぐらい血を失うと失血死するって聞いた記憶が……。


「じゃあ、一リットル?」


 先生は無言のままニコニコしている。


「なら……一.五リットル……。一.八……二.〇?」


 少しずつ輸血量を増やしてみたけど、先生はまだ無言のままニコニコしている。表情や返答から正解を悟らせない作戦かな? ボク、専門知識なんて無いんだから、分かんないってばっ!


「二.三……二.五……三.〇……三.…………まだ、足りませんか?」

「もしその量を無理矢理注ぎ込んだら、脆くなった血管が破裂してしまうわ。それに循環血液量が増えすぎると心臓が負荷に負けてしまうの。それで血圧が低下して肺水腫なんかも起きちゃうわ。心不全まっしぐらね」

「えぇ~~~!?」


 あぁ、やっぱり。っていうか、破裂って……、この世界の輸血の仕組みってどうなってるんだろう。


「さぁ、適切な輸血量はどれぐらい?」


 なんだろうコレ。何時何分何秒に言ったのか証明しろ、なんていう子供じみた理不尽な問答に似てる気がする。


「そんなの分かる訳無いですよ……」

「はい、正解!」

「はぁ?」


 ボクがポカーンとした顔になると、先生のニコニコ顔が更に一段輝いた。っていうか、正解って何が正解したの?


「ユウちゃんはいつも期待以上の顔を返してくれるわね、先生嬉しいわ」


 そりゃ先生はそうでしょうけど、ボクは狐につままれた気分だよ。


「『分からない』が正解って事よ。【診察】は怪我や不調を素早く知る為の魔法であって、どの程度の治療が必要なのか、正確な症状を知るのには向かないの。初級の範囲ならそれでもいいけど、中級ではそんな曖昧な物ではダメって事。輸血量以外にも、粉々に砕けた骨の正常な位置とか、感染の有無とか、体内の異物の有無とか、そういう物がユウちゃんは【診察】で分かる?」


 言われてみればボクがやってきた治療は、目分量で大丈夫な程度だったように思う……。


 【診察】の問題点も指摘されたとおりだ。仮にお腹の内側に赤色が見えたとして、ボクにはそれが怪我に由来するのか、それとも病気に由来するのかまでは分からないのだ。


 この世界には魔法って便利な技術があるけど、患者の状態をモニターするセンサーや内視鏡、レントゲンやCTなど、医療をサポートしてくれる機器は無い。経験頼りの職人技の世界なのだ。その環境で正確な答えを知る方法なんて有るのだろうか。


 ボクが答えられずにいると、先生はニコリと笑ってもう一問追加してきた。


「でもね、一人だけソレが分かる人がいるの。それは誰だ?」


 世界最高のヒーラー、なんてしょうも無いオチはないだろう。先生との問答にも何度となく付き合ってきたし、こういう時の答えを予想すると……。


「……患者本人、とか?」

「まぁっ! 正解よ!」


 えぇ~……。自分自身でそんな事が分かったらそもそも【診察】なんてする必要が無い、自己申告でいいって話になるじゃないか……。


「正確には『患者さんの体』だけどね。体の修復や闘病に勤しむ細胞の声とか、無意識下での情報の遣り取りに耳を傾けて、二人三脚で回復魔法を掛けていくの。その為に必要なのが【同調魔法】よ」

「同調……」

「【同調】は対象を一人に限定した【診察】の上位魔法と言えるわね。より深く正確に状態が分かるの」


 先生は実演を前に、ボクの両手に指を絡めてきた。慣れないうちは相手との接触面積が広い程良いのだそうだ。


「実は、ユウちゃんも以前に一度【同調】を体験しているのよ? 掛けられる側だったけどね」

「え? いつ?」

「ユウちゃんの体を調べた時よ」

「あ、あの時全身に魔力を注がれたのって【同調】だったんですね」


 先生は肯定と共に、額をコツンとくっつけてきた。


「基本はコレまで覚えてきた事の複合魔法よ。自分の中の魔力を活性化させ、同時に相手を魔力で包んでいく。一つの魔力の塊になるようなイメージね。そして相手の感じている感覚を自分も感じようとしてみて。相手の体が自分の体の一部であるように……」


 ボクたちは恋人のように指を絡め合い、お互いのことを深く知ろうと意識を滑り込ませていった。端から見れば、二人で神に祈りを捧げている姿に見えたかもしれない。


 トクン……トクン…… と、先生の鼓動がまるで自分の鼓動のように感じる。合わさった手や額から伝わる感触、二人分の感覚が混ざり合って変な感じだ……。


「あら……、昨日は大変だったみたいね、少し腫れているわよ」

「大変って、何がですか?」


 ボクが先生に【同調】を仕掛けているように、先生も同時にボクの事を読み取っているらしい。


「興奮しちゃうと痛みに鈍感になるから、加減を見失ってしまうわよね。女の子の体にまだ慣れてないんだから、もう少し優しく触ってあげなさい。でも、ちゃんと純潔は守ってるわね、偉いわよ」


 え? えぇ――――――!? ちょっ、【同調魔法】ってプライバシーだだ漏れじゃないか!


「やだっ! ユウちゃん気持ちを抑えて。私の方まで恥ずかしくなってくるわ」

「先生、この魔法ヤバいですって! み、診ないで下さぁぁぁい!」

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