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僕らのTS冒険記  作者: 灰塵
第二章
46/88

45話 ボクは貴方の事が……

 ボクらが勝利と成長を喜び合っていると、パチパチパチと手を打ち鳴らす音が木霊した。


「一〇層攻略おめでとう」


 まさか、マーロウから祝辞を贈られるとは……。それに、向こうから姿を現すなんて、いったいどういう風の吹き回しだ?


「ダンジョンに入って、かれこれ五時間ほどになる。皆、集中力の低下もあるようだ。なにより……」


 マーロウはみなまで言わず、ボクに視線を寄越すと顎でベティさんを指し示した。ボクらの事をずっと放任していた彼だが、一応サポートの件は忘れていなかったらしい。


「ここらが潮時と思うが、どうだ?」


 確かに、コレだけ長くダンジョンに潜ったのは初めての経験だ。テンションが高かったせいで疲労感は少ないけど、疲れを感じていない訳じゃない。


 特に顕著だったのがベティさんだ。顔はのぼせたように赤く染まり、目が虚ろで焦点も合っていない。声を掛けても壊れたレコードのように「大丈夫ですわ」と返してくるばかり。どう見ても、大丈夫じゃなかった。


 いつの間にかボクも攻略に夢中になり、周りが見えなくなっていたらしい。


「ごめん。みんなの状態に気づいてなかった……」

「ユウ君だけのせいじゃないよ」

「ハル的にも良い終わり方になったし、今日はここまでにするか」


 ボクらは転移ゲートを起動し、次の層を覗いて戻ることになった。

 そして降り立った第十一層……。



 ――――日差しが眩しい……。


 いや、それはおかしい。だって、ここはダンジョンの中なんだから。


 なのに、何で青空があるんだ? なんで太陽が昇っているんだ!?


 辺りは一面、空と砂のツートンカラー。一〇層までとは打って変わって、砂漠のステージとなっていた。


「何コレ……、外?」

「壁も天井も見えないね……」


 マーロウは迷っていたようだが、ボクらが困惑する様子を見て、少し助言を出すことに決めたようだ。


「ここは十一層から二〇層までの吹き抜けステージだ」


 何それ、『吹き抜け』の概念が崩壊していないか?


 まぁ、要するに一〇層分の空間が一つにまとまったステージって認識でいいのだろう。そうなると、転送ゲートやフロアボスってどういう扱いになるんだろう。ただ広いだけの階層って事なのかな?


 チラッとマーロウの顔を見たけど「冒険者なら自分で確かめろ」とにべもなく切り捨てられた。


 もう助言をするつもりはないらしい。


「砂丘もあるし、完全に平坦ってわけでもないから多少は身を隠せるけど、今までみたいな奇襲は通用しないかもな……」


 試しに一戦だけしようか迷ったけど、未知に挑むなら万全の状態で臨む方が良いという結論に落ち着いた。


 結局、ボクらは入り口の魔方陣を一歩も出る事無く、ゲートを再起動。これにて帰還と相成った。




「今日は進んだね。一気に十一層!」

「フッフッフー、コレなら一〇〇層越えるのも時間の問題!」


 明らかに格下の敵だったとはいえ、たった一日で踏破状況を大きく更新できた事に、ボクらは満足していた。


 後は冒険の締めくくりとして、買取所でクエストの報告と、魔石の売却をすればお終いだ。ボクは集めた魔石を全てカウンターに乗せると、今回も諸々の手続きをシロさんに任せ、親友ちゃんの下へと向かう。疎かにしてしまった分、魔力と活力をしっかりサービスしなくちゃ。


 そうして振り返った時、けたたましい音が建物に響き渡った。



 ガラガラッガシャーン! 


 そんな音を立て、部屋の隅に(うずたか)く積まれた荷物が崩れ落ちたのだ。金髪の小柄な少女を巻き込んで……。


 ボクはそれに気がついたのに、スローモーションで映像を見るような感覚に襲われ、ただ呆然と眺める事しか出来なかった……。


 ギリギリの所で張り続けていたベティさんが、とうとう限界を迎えてしまったのだ。彼女の鼻からツーっと血が伝ったと思ったら、そのまま意識を失い、まるで落下する様に膝から崩れ落ちてしまった。


 ボクは慌てて彼女に駆け寄り、体にのし掛かった荷物をどかしていく。


「ベティさん!」

「……ぁ……ぅ……」


 ダメだ完全に意識が無い。か細い呻き声を上げる事しか出来ないでいる……。



 攻略中、彼女が辛くないようにと小まめに魔力を提供してきた。おかげで彼女は一度も魔力切れを起こす事はなかったけど、それが裏目に出てしまったらしい。


 頑張り屋の彼女は魔力の続く限り魔法を使い続け、結果的に経験した事の無い無茶な回数の魔法行使を、彼女に強いる事になってしまったのだ。


 車だって、燃料を注ぎ続ければいつまでも走り続けられるという訳ではない。無理をすればオーバーヒートしてエンジンが焼き付いてしまう……。今の彼女がまさにそれだった……。


 落ち着いて彼女の様子を窺うと、目の下にはクマが浮き、うっ血するように顔が赤くなっている。彼女がどれ程自分を酷使していたのか一目瞭然だった。


 ボクは彼女が弱音を漏らす所を見た事がない。それどころか、魔力が枯渇してなお無理を通そうとした事もあった。そんな頑な人だって知っていたはずなのに。


 彼女の精神も魔力回路も、とっくに悲鳴を上げていたのだ。そんな友達の状態を、マーロウに指摘されるまで気づきもしないなんて……。


「これじゃ、ヒーラー失格だ……」



 ――――いや違う……、友達失格だっ!



 悔しさで唇を噛みしめながら、彼女をベンチに寝かせると、胸元にソッと手を添える。


「回復魔法は使うな!」


 魔力を注ぎかけた瞬間、マーロウに叱責の声をぶつけられ、怯えるように手を引っ込めた。


「魔力酔いに、回路の酷使、脳神経への負荷も大きい。こんな状態で下手に魔法を掛ければ余計に悪化するだけだ」

「すみません……」

「手ぬぐいを濡らして頭を冷やせ。とにかく休ませろ」

「はい……」


 どうして良いのか分からず途方に暮れたボクは、マーロウに言われるまま彼女を介抱していった。


 だけど、乾いた手ぬぐいを手に「水は何処で……」なんて右往左往するボクを見て、マーロウはあからさまに嘆息すると「桶ごと職員に借りてこい」と指示を出した。その後も事あるごとにトゲのある言葉で指摘され続け、一通りの処置が終わった時に「お前はヒーラーとして何を教わったってきたんだ?」という言葉で締めくくられた。ボクは返す言葉も無く、悔しさを飲み込むしかなかった


 ベティさんの胸元を緩め、借りた扇で風を送っていく。手ぬぐいは冷水ですすいで小まめに取り替える……。


 倒壊した荷物が当たった額には血がにじんでいた。それが彼女の現状をより痛々しい物へと飾り立てていた。


 ベティさんが辛そうな吐息を漏らす度に、ボクは自責の念で押し潰されてしまいそうになる。


 そんなボクの様子を眺めながら、マーロウが問い掛けてきた。


「何故その娘をパーティに加えた?」


 自分の至らなさを責められる事は堪えられたけど、ボクはその言葉にカチンと来て、扇ぐ手が止まってしまった。


「は? それはどういう意味ですか?」


 自分でも驚くぐらい冷めた声だった。


 憔悴した彼女を見下したのか? 虚弱さを理由に切り捨てろとでも言いたいのか? 倒れるまで無理したのは愚策かもしれない、だけどその頑張りをあざ笑う事だけは、ボクには許せなかった。


「何が気に障ったのかは知らんが、言葉通りの意味だ。その娘を参加させた理由を聞いただけだが、答えたくないなら別に黙秘でも構わんよ」

「友達だからです。いけませんか?」


 マーロウがの口元が微かにつり上がった様に見えた。


「そうか……。珍しいパターンだな」

「ベティさんをパーティに加えた事の、何が気になるんですか?」

「さしたる意味はないさ。お前と同じ、ただの興味本位だ」



 初対面の時からそうだ……。この男はいかにも訳知り顔ですって感じで引っかき回すくせに、自分だけが納得してろくに説明しやしない。


 言っている事はおそらく正論なんだと思う。ボク自身、逆ギレしているなって思う部分だってあるさ。だけど、いちいち癇にさわる物言いが気に入らない!


「色々と助言ありがとうございました。指摘されなければ気づけない事ばかりでしたから。だけど……」


 ボクは一度言葉を句切り、涙を浮かべた目でマーロウを睨み付けた。


「ボクは貴方の事が嫌いです!」


 自分の口からこんな言葉が出たことに驚いたけど、それでも後悔は全くしていなかった。


 ボクの言葉を受けて、マーロウはどこか満足そうに笑っていた。


「ハッハッハ、奇遇だな。私もお前が嫌いだよ」


 今回のクエストも、初めからボクへの嫌がらせのつもりだったのだろうか?


「だが、少し期待してやる事にした」

「何故?」


 問いはしたものの、ボクは答えが返ってくる事には期待していなかった。案の定、マーロウは無言のまま口角を少し上げるだけ。


 そして、シロさん相手にクエスト完了の処理を済ませると、背中を向けたまま手を上げて去っていった。

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