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僕らのTS冒険記  作者: 灰塵
第二章
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42話 まさかの六人目?

「クエストの依頼?」

「ああ。極めて個人的なモノだがね」


 初対面の印象が悪すぎて、ボクとカナさんはこの男に少しばかり警戒感を持っている。そんな男の個人的なクエストなんて怪しくて仕方が無い。懐疑的な目で様子を伺っていると、彼の冒険証を見てシロさんが食いついてきた。


「お前、最高ランクの冒険者なんて、いつ知り合ったんだよ!?」

「一昨日ギルドでちょっとね……」


 彼の腕にはまった冒険証は紫色。それは冒険者にとって最高峰の証。そして彼が現在唯一の紫ランク保有者だった。


 ボクも初めは英雄の登場に心を躍らせたから、シロさんの気持ちもよく分かる。彼女はマーロウさんに憧憬を抱き、頬を紅潮させている。


「これは失礼、名乗りが遅れたね。私はマーロウという」


 彼は対外的な評価に違わぬ真摯な態度で一礼し、それに応えるようにシロさん達も名乗りを上げ、双方の自己紹介はつつがなく終わった。


「で、依頼って何?」


 カナさんはぶっきらぼうに先を促すと、マーロウからボクを隠すように立ち塞がった。


「参ったね。そんなに邪険にしないでくれると助かるのだが……」


 今のところ、彼の態度には先日の様なトゲは感じない。内心は知らないけど、少なくとも表面上は大人の振る舞いを見せている。


「依頼の内容は、君たちの攻略に私も同行させてもらいたい、という事だ」


 予想外の申し出にボクらは当惑してしまった。


「いや、意味が分からないし……」

「ボクらの到達階層はまだ二層ですよ?」


 仮にも最高ランクの冒険者が出張るような階層ではない。大熊のような極めて希有な情況を見越しているのか?


 訝しむボクらを余所に、彼はさも面倒そうに嘆息するとその意図を吐露した。


「なに、久しぶり街に戻ったら初心者支援を頼まれてな。だが生憎と私には指導員の経験など無い。それで君たちに同行し、サポートの練習をさせて貰おうというわけだ」


 一応、筋は通っていると思う。聞いている限りでは邪推を挟む余地はない。だけど……。


「申し訳ないんですが、サポートされたらボクらの修行にならないので……」

「安心したまえ。私はパーティには加わらないし、加勢も一切しない。傍で見守るだけだ」


 やんわりと断ろうとしたが、彼は怯むこと無く食らいついてくる。


 でも、なんか嫌だ……。言語化できるほど明確じゃないけど、不安を感じるのだ。だからハッキリと断ろうとしたら、彼はしれっと言葉をかぶせてきた。


「いや、他にもパーティはいますので、そちらに依頼――――」

「ふむ……、だが君たち以下のパーティなど見当たらないようだが?」



 ――――こいつ……。


 さすがに空気がピシリと張り詰めた気がする。浮かれていたシロさん達も、ボク達の間に流れる雰囲気に違和感を感じたようだ。


 マーロウはボクが言葉を挟む前に条件を提示して、勝手に話を進めていく。


「報酬は金貨一枚。私の事は気にせず、思う通りに攻略してくれればいい」


 一万フラン!? あり得ないほどの好条件だ。それだけの金額を稼ぎ出すのに、ボクらなら一体何日かかることか。


 というか、そもそもこの依頼、ボクらは何一つ仕事をする必要が無い。ただ彼が後を付いてくる事を許可するだけ。そんなクエストに金貨一枚だって? 美味しすぎて逆に怪しいとしか思えないよ。先入観のせいで、ボクが捻くれた見方をしているだけなのか?



 でも、ギルドでの出会いがどうしても頭にちらついてしまう。


 友好的な握手から始まった顔合わせ。だけど、その時ボクは既に致命的な爆弾を抱え込んでいたのだ。その事を考えれば、自分でも逆ギレかもって思ってしまう。彼には非など無かったのだから。


 でも、ボクだってわざとじゃない。本来なら何も問題の無い行為なんだから。


 興味本位で、拾ったメダルを冒険証にはめ込んだら、まるで呪いのようにボクの魔力回路と絡み合ってしまったのだ。その所為で、メダルを外すことが出来なくなり、意図せずして他人のメダルを強奪した形になってしまった。


 そして運悪く、メダルの所有者とこの英雄様には縁があったのだ。


 彼としても何とかコレを回収したかったのだろう。そして呟いた「腕を切り落とす」という言葉……。あの時、強引に腕を掴まれ、ボクは本気で腕を持って行かれるのではないかと恐怖した。


 それがボクと英雄様の出会い。そんな相手の依頼を、気分良く受けられるはずがないじゃないか。


 本当はダンジョンの中で闇討ちでも狙っているんじゃないのか!?


 ボクが警戒感を露わにして彼を睨み付けていると、シロさんがその場の空気を取りなす様に提案した。


「ま、まぁ、俺達にとってはデメリットも無いしさ、受けても良いんじゃね?」

「私も高ランクの人が居てくれた方が安心できます」

(わたくし)は皆さんにお任せしますわ」


 ボクとカナさんを除く三人の意見は、肯定寄りの様だ。何も言わずに流されるのは良くないけど、残念ながら固辞するほどの明確な材料も確信も無いのだ……。


 だから渋々ながら、ボクらが折れる形となってしまった。でも、警戒だけは忘れないようにしなくちゃ。



 マーロウを加えた六人は、入り口の転送ゲートを使い二層へと移動した。


 今日の目標は可能な限り先へ進む事。戦闘経験を積む為にも、自分たちの実力に見合った狩り場を見つけたいのだ。


 好む好まざるを度外視すれば、最高位の冒険者がサポートに付いている情況は使える。精々利用させてもらって、強気に攻めるのも有りだろう。



 ――――そんな風に思っていたのだけど……。


「あれ、マーロウさん何処行った?」


 シロさんの言葉に慌てて振り返ると、そこに居たはずのマーロウの姿が消えていた。


 二層へ踏み込むと同時に気配を断ち、森と同化してしまったらしい。シロさんが索敵スキルを駆使しても、彼の存在を感知することはできなかった。


「放っとけばいいし、アタシ達を見失っても、アイツの責任」

「まぁ、そうか。気にせず攻略しろって言ってたもんな」


 ボクらに気取られず、秘密裏にサポートするつもりなのだろう。


 だけど裏を返せば『気づかれる事無く抹殺する事など容易い』と言われているようにも思えた。そう考えたら途端に背筋が寒くなり、鳥肌が止まらなくなってしまった。


 彼だって一応は最高位の冒険者。性根や素行の悪い人物ならば、ギルドだってその地位を認めてはいないだろう。悪い方にばかり考えても仕方がない。


 それに……、彼が本気で害意を持っていたのなら、ボクらには抵抗する術なんて無いのだから。



 ボクらはマーロウの事を一旦忘れ、攻略に専念し始めた。


 一層と二層ではモンスターの強さにほとんど差は無い。なので、階層を跨いだ時の難易度上昇率はそれほど激しいモノではないと判断し、五層までは一直線にゲートを目指す事にした。


 いつも通りボクがナビを担当し、シロさんが索敵しながら歩を進めてゆく。だけど、あまりにも温すぎて特筆すべき事が何もない道程となってしまった。


 途中行われた戦闘は、相手に先制される事もなく一方的に攻撃して終了。


 ならばと、何度かわざと敵の前に姿を現し、近接主体での戦闘も行ってみた。それでもやはり、近づく敵はカナさんに一撃で粉砕され、ハルちゃんもあえて盾で受ける練習に利用するなど、戦力差が有りすぎた。


 気を抜いちゃいけないって分かってるんだけど、これじゃぁね……。



 あぁ、忘れていた。今回は一つだけ前回と変わった所がある。それは何かというと、みんなでお金を出し合って買ったジュエルナイフだ。


「やっぱ便利だなソレ」

「高かったけど、良い買い物だったね」


 ぶっちゃけ相場の三万フラン(ボクは一割引で買えたけど)って、駆け出し冒険者にはとても払える金額じゃない。ボクらは運良くギルドから報奨金を貰えたから捻出できたけど。


 ちなみに、コレの使い方は凄く簡単。絶命したモンスターの死骸にこうやって「えいっ!」と突き刺すだけで即座に魔石に変わってくれるのだ。


 そんな訳で【診察】で死亡確認が出来るボクに、めでたく仕事がもう一つ追加されました。パーティの雑務担当という立場が、更に加速している気がする……。


 しかし、これで戦闘の度に五分待つ必要も無くなり、攻略スピードが格段に上がったのは本当に有難い。


 低層の魔石なんて一〇フラン程度だから、魔石だけで元を取ろうと思ったらいつになるか分からない。でも利便性を考えれば十分に安い買い物だったと思える。



 そうそう、フロアに入った途端に姿を消したマーロウだけど。


 フロアボスを撃破した後にはフラリと現れ、ボクらと一緒に転送ゲートで階層を移動し、再び姿を消すという事を繰り返していた。


 完全に空気状態である。

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