4話 ちゅーとりあるっ!
『宿屋を決めよう』『修練場へ行こう』『装備を調えよう』
それがチュートリアルで課されたクエストの内容だった。
詳細情報をタップしてみると、ご丁寧に地図まで記載されている。初めてのお使いっぽくて気恥ずかしいけど、右も左も分からない僕らには実に有難い。
やはり拠点の確保が最優先だろうって事で、僕達は早速宿屋へ向かっていた。
「――――学園の二年だ、カナも同じな」
「あ、先輩だったんですね、僕達は都立の一年です」
「へ~、進学校じゃん。二人は恋人? でもないか」
「あ……はい。幼馴染みです」
恋人じゃないって即バレするのも、悲しい物があるなぁ。一応幼馴染みだから余所余所しさは無いと思うんだけど、どの辺りが恋人と違うんだろうか。
「シロウさん達は恋人ですよね?」
「中二からの付き合い、違う意味でも中二からの突き合い」
カナさんはニヤリと笑ってピースサインをしてきた。意味が分からず、僕らがキョトンとしていると「さすが進学校生」と二人はカルチャーショックを受けていた。
「冒険に出るのを三年間引っ張ろうか迷ったんだけどな、カナに言い寄ってくる奴が増えてよ……」
「アタシは他の奴とは行かないって言ってたのに、シロウの独占欲が強かった」
「お前らは一年目だよな? 学校生活楽しんでから来れば良かったのによ」
「そうかもしれないけど、僕の方は余裕がなかったって言うか……、今を逃したらもう踏み出せない気がして」
一歩後ろを歩く幼馴染みをチラリと見ると『彼女』は物思いにふけるように少しボーッとしながら風景を眺めている。僕の気持ちなんてきっと届いていないんだろうな……。
そんな僕の様子を見ていたシロウさんが、ガシっと肩を組んできた。
「ま、頑張れ! 神さんも推奨してる事だしな」
「その気が無かったら一年目から冒険になんて付いて来ない、ユウ頑張れ!」
「そ、そうかな……?」
というか、僕の思惑は二人にモロバレだった。これが人生経験の差なのかな。
「あ、宿屋ってこの建物じゃないですか?」
というハルちゃんの一言で、過去バナ&恋バナは終了を迎えてしまった。
到着したその宿は、ギルドから南西方向へ徒歩五分程。外観は街の標準的な赤瓦の建物で、二階建てになっていた。漆喰の壁には一面に両開きの窓が並び、入り口の柱には吊り下げ式のプレートが掲げられ『苗木亭』と書かれていた。
「苗木か、いかにも初心者用ってネーミングだな」
飾り気の無い安宿という雰囲気ではあったけど、掃除が行き届いて清潔感を感じさせる。入り口の花壇も色彩豊かな花々で埋め尽くされ、しっかりと手入れされているようだ。
「んでも、感じは良いかも。アタシは気に入った」
「異国……異世界文化って感じでいいですね」
「んじゃ、入るぞ?」
両開きの大きなドアを開けると、吹き抜けとなったエントランスに、ガラン、ガラン、とドアベルの鈍い音が響き渡る。
シロウさんを先頭に中へ入ると、受付のふくよかな中年女性がにこやかに声をかけてきた。
「いらっしゃい、新人さんだね? チュートリアルで来たのかい?」
「はい、部屋を借りたいのですが」
しかし、この街の人たちは随分と愛想良く接してくれるんだな。お金なんて持ってない駆け出しの冒険者なのに……。
冒険の始まりはもっと大変だろうと覚悟していただけに実にありがたい。これも過去の冒険者達の実績のおかげなのだろうか。その反面、どこか拍子抜けに感じている部分もあって、自分はつくづく天の邪鬼だなと思わず苦笑してしまった。
「今空いているのは二人部屋しかないけど、それで良いかい? 朝晩の二食付きで、一泊あたり一人銀貨一枚だよ」
相場観が無いので分からないけど、ギルマスは初心者応援価格と言っていた。おそらくは、かなり安いのだろう。
「その条件で二部屋お願いします」
「じゃ、成立だね。みんなチュートリアルの項目を確認してみなさいな」
言われたとおりウインドウを確認してみると、宿屋の項目にチェックがついて文字の色が変わっていた。
「クエストにはいろいろなタイプが有るけど、今回の場合はお互いが合意すれば即達成っていう条件だね。いろいろなクエストを受けて覚えていくと良いよ」
「女将さんもギルドの職員なんですか?」
「いんや、あたしはただの宿屋の主人だよ。長い事この仕事をしてるからね、老婆心みたいなもんさ。それじゃ、案内するよ、付いておいで」
女将さんはカードキーを二枚手に取ると、受付横の階段から僕らを二階へと案内した。
「支援期間が過ぎたら部屋代は銀貨二枚になるから注意しな。それと、独り立ち出来るようになったら一般用の宿へ移ってもらう事になってるからね」
「具体的な条件とかあるんですか?」
「ギルドのランクや収入次第だね。あぁ、もう一つあったね。冒険者として失格なら、その時は直ぐに退去して貰うことになるよ」
「マジかっ! OK、頑張るぜっ!」
銀貨一枚から二枚に増えるのか。ってことは、応援価格は半額って事? 凄い値引率だな。
二階の最初の部屋で立ち止まると、女将さんは人差し指をくるっと回してカードをタッチした。
ギルマスと同じ仕草だ……。どうやらこの仕草がカードを起動する行為なのだろう。女将さんは二枚のカードを、四人全員のリングにかざしていく。その度に僕らの冒険証は微かに発光した。
女将さんが水滴でも払いのける様にカードを振ると、カードを覆っていた仄かな光が消え去った。チュートリアルの時は使用したカードが消失したけど、こういう部分でもいろいろなタイプが有るんだな。
「両方の部屋の鍵を付与したから、部屋分けは好きに決めとくれ」
「へぇ~、冒険証が部屋の鍵になるんですか」
意外とハイテクな世界なんだな……。いや、魔法か。
女将さんは階段を下りながら、言い忘れていたと付け加えてきた。
「夕食は一八時から二二時までの間だよ。頃合いを見て食べに来とくれ」
「分かりましたー」
女将さんを見送ると、僕らは互いに顔を見合わせた。どうしよう、部屋分けとか何も考えてなかったよ。
「普通に考えて、男女別か元々のペア。どーする?」
カナタさんの提案はもっともなのだけど、女の子と一緒の部屋なんて、僕は落ち着いて寝られる自信なんか無い。
そう考えると男の子と一緒の方が僕は落ち着くけど、中身の事を考えると元女のハルちゃんやカナタさんと一緒の部屋になる訳で……。
でも、客観的には男女が一緒の部屋で寝るわけだからアウトっぽいかな? あれ、なんだか混乱してきた……。
「あ、俺はカナと同室希望」
「アタシもそれで問題ない」
――――あれ? 決まってしまった?
僕が優柔不断を遺憾なく発揮していると、シロウさんがさっさと意見を表明してしまった。ホント、無駄に悩む性格を何とかしたいよ。
「え、えっと、ハルちゃんは僕と一緒で大丈夫?」
「うん……ユウ君が良いなら」
「僕は良いけど……」
そう答えながらも顔が赤くなってしまう。
目の前にいるのは褐色の男の子だ。僕の心理的には同性の相手だけど、その中に好きな人の心が宿っていると思うと、不思議な感覚になってしまう。
しかし、こういうとき褐色の肌って得だな。赤くなってるのが分かり辛い。
二人で照れていると、シロウさんが「おほん」と咳払いをした。なんだか彼女の頬が少し赤い。照れとは無縁な人なのに珍しいな……。
「で、だな……。次のクエストの前に、一人一〇分ぐらいで良いかな?」
えっと、何の時間だろう? 僕ら三人は提案の意図が分からず、続きの言葉を待った。
「いやさ……、みんな体のチェックとか色々としたいだろ?」
沈黙――――――
飄々としているカナタさんでさえ顔が少し赤い。僕やハルちゃんに至っては言わずもがなだろう。
そ、そういう事は、お風呂で一人の時にコッソリとする事じゃないかな!? そこはほら、曖昧なままにしておくのがお互いの為っていうか……。
なんか、今から一人エッチします、みたいな流れじゃんコレ!
「じゃっ! 俺、先行くな!」
「ちょっ、まっ……シロウさん!?」
あぁぁ……、またしてもパニクってる間にシロウさんが行動を起こしてしまった。なんだろう、あの人のアクティブエロっぷりは。女の体になっても男子学生のノリを平然とやってのけている。
「えっと、ユウ君。お先にどうぞ……」
ハルちゃんは顔をそらし、僕に先に行けという……。
――――えっ!? マジで!? この流れに乗るの!?
そして、なし崩し的に体の確認大会が開催されてしまったのだった。




