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僕らのTS冒険記  作者: 灰塵
第二章
37/88

36話 これがボクの特能?

 出口へ向かう途中、ボクはすごく気になっていた。


「これって危ないよね……」


 チラリと後ろを振り返ると、殿を務めるハルちゃんがワイルドボアを肩車するように背負って歩いていた。


 一〇〇キロはありそうな肉の塊を苦も無く抱えられるのは凄いって思う。だけど、運搬の為に近接戦力が減るのはマズイんじゃないかな?


 急襲された時、咄嗟に荷物を放り出すとしても必ず初動で一歩遅れてしまう。今は良いけど、もっと上層へ行くようになったら、その僅かな時間が生死を分ける事もあるかもしれない。


 まぁ、駆け出しのボクらが知らないだけで、実は上手い解決方法があるのかもしれないけど。運搬用の魔道具なんかもあれば良いのにね。



 ――――いや、ひょっとしたら何とかなるかも?


「ねぇ、ハルちゃん。その肉、ボクが持ってみてもいい?」

「ユウ君が? この重さは辛くない?」


 ボクの筋力はパーティで一番貧弱だ。あ、今はベティさんが加わったから分からないけど、きっとどんぐりの背比べだろう。そんなボクの提案だからか、みんなは凄く訝しんでいた。


 だけど、ボクには確信めいたものがある。


 魔力で小石を操れるのなら、この肉塊だってきっと……、そう思ったのだ。みんなが見守る中、ハルちゃんが担いでいる肉塊に魔力を注ぎ込んでいく。


 果たしてボクの狙いは上手くいき、ワイルドボアの死骸はハルちゃんの手を離れてフワフワと宙に浮き始めた。


 既に意思のない肉の塊だから魔法をレジストされることもないし、筋力で持ち上げる訳でもないから重くもない。ただ、さすがにこのサイズ、この重量を持ち上げるには、それなりの魔力を消費してしまうな……。


「うぉっ! マジかよ!」

「ユウ君凄い!」

「えへへ~」


 みんなの賞賛が心地良い。


 これでまた、ボクのパーティ内ヒエラルキーが上昇したに違いない! 空間拡張バッグのおかげで、ガッツリ収集品もゲット出来たし。こんな大きな戦利品だって、魔法でチョチョイのチョイだもん!



 ――――って、あれ? これって荷物持ちって言わないか?


 いや……深く考えるのはよそう…………悲しくなってくる。


 ボクは目の前でプカプカと浮かぶワイルドボアを眺めながら、ふと昨日、錬金術師に聞いた話題を思い出していた。


「そういえば、ユグドリアって昔は肉が食べられなかったんだってさ」

「へぇ~、それまではどうしてたんだ?」

「完全菜食主義だったって」

「うぇ~、アタシ無理っ」


 ボクも無理かも。元々雑食な食文化で育ってきたから、今更動物性タンパク質を断つなんて発狂物だよ。今朝だって女将さんの肉料理は凄く美味しかったもん。


「錬金術の恩恵か……」


 いろんな人達が積み重ねてきた歴史の上に、今の生活があるんだな~。なんて柄にもなく考えてしまった。


 その後は、敵に出くわす事もなく無事に出口へと到達。


 ボクらはまだ十分に余力を残していたけど、ベティさんは目蓋が少しトロンとしていた。魔力残量の所為もあるのだろう。でもそれ以上に、彼女は今日一日で目まぐるしいほどの『初めて』を体験したのだ。コレで疲れない訳がないよな。



 入場ゲートの内側に在る換金所へと立ち寄ると、カウンターの上に魔石やクエストの収集品を並べていく。小さなポーチから物が溢れてくるので驚かれてしまったけど、一応守秘義務があるので「企業秘密」と言って誤魔化しておいた。商品化されて店頭に並んだら買って下さい、きっとお高いですけど。


 ギルドで受けたクエストの完了報告はここで出来るので、今日の冒険はこれにて終了!


 今回の収入は合計で一六〇〇フラン程となった。五人で割るので収入としてはちょっと微妙だけど、一層で受けられるクエストだから無理もないか。


 ボクは諸々の作業をみんなに任せ、ベンチで休んでいるベティさんの様子をうかがった。今日は一日中連れ回してしまったし、相当辛かったと思う。そんなベティさんを労いながら、彼女の胸元へ魔力と活力を注いでいく。


「魔力の少ない体が恨めしいですわ……」

「でも、ベティさんの魔法凄かったね。これで魔力まで多かったらチートだよ」

「『チート』って何ですの?」

「え~っと……。天才、ってことかな」

「ほ、褒めても何も出ませんわよ」


 このツンデレさんめっ。照れながらもプイッと膨れる様は凄く可愛かった。


 だけど、「あ、でも……」と、少し思い直す言葉を呟いて、ベティさんはチラリと回りをうかがった。そして、ボクに顔を寄せると、小声で耳打ちしてきた。


「胸なら……約束ですものね……」


 そう言うと赤くなって俯いてしまった。


 耳元に寄せられた彼女の顔から空気を介して体温が伝わってくる。紅潮している所為だろう、それはいつもよりも少しだけ熱い……。


 ボクは思わずゴクリと生唾を飲み込んでしまった。この距離だし、きっと聞こえてしまっだろうな……。


 男のままだったなら今の囁きでだけで、大きく(・・・)なってしまっただろう。ハルちゃんという心に決めた人がいる身で有りながら、ボクの男としての心はベティさんに異性を感じてしまっている。それを否定する事は出来なかった。


「こ、今度戴きます……」

「約束……ですわよっ」


 他の人たちに聞かれない様に、ボクらは声を潜めて密約を交わしてしまった。


「はい、ベティさん終わったよ」


 そして、ボクは誤魔化すように努めて平静を装い、治療の完了を伝えた。


「いつも助かりますわ……」


 彼女はボクが触れていた胸元に、自分の手を重ねて頬を染めていた。それは何処か艶っぽくて……その仕草にボクはどうしようもなくドキドキしてしまう。


 だけど、彼女は何かに気がついた様に自分の体をあちこち見回し始めた。


「どこか調子がおかしい?」

「いえ……むしろ……」


 体の調子を確かめながら、ベティさんは手の中に小さな魔力球を作り出した。彼女はそれを不思議そうに見つめながら、ポツリと呟く。


「貴方……以前と何か変わりまして?」


 漠然とした質問。彼女と前に会った時から変わった事っていうと……。


「う~ん、冒険証がランクアップした……かな」

「いえ、そういう変化ではなく。戴いた魔力の質が以前と違いますの。違和感が無い……と言いますか、まるで(わたくし)自身の魔力を注がれた様な……」



 ――――魔力の質が変わった?


 体質の変化って事かな? とすると、新しい体に少しずつ馴染んできた所為だろうか……。いや、もしかして…………。


「コレの所為かも」


 ボクは冒険証を掲げてみせた。


「それは何のジョブですの?」

「それが、作成中のオリジナルジョブらしくて、よく分からないんだ。ただ、コレをはめた時に特能が発現したから、もしかしたらその影響かもって」


 例えば、カナさんの『魔纏』という特能。アレは魔法の待機・継続効果が付与される性質がある。ボクがプロテクションを使う時、幾つかの手順を踏んで継続効果を得ているけど、彼の場合は普通に魔法を使うだけでそれが出来てしまうのだ。魔力の性質が変わったという点ではコレと同様の現象かもしれない。


 ボクが説明をしている間も、ベティさんはシルフを呼び出したり、他にも幾つか魔法を発現させて自分の状態を確認していた。


 そんな様子を眺めていると、突然プルプルと震え始めてしまった。



「運 命 で す わ ぁ――――!」


 大音響が室内にこだまする。


「は、はい?」


 彼女は興奮気味に身を乗り出して説明を続けてくる。


「人から魔力を戴いたら魔法を使ってはダメと、以前に話しましたわよね?」

「えっ!? えっと、確か二つの魔力が干渉して危険だから、だったかな?」

「ですわっ! それがほらっ! 戴いた魔力を自分の魔力として使えますの! コレがどういう事か分かりますわよね?」


 ボクが返答できずに困っていると、彼女は堪えきれずに答えを口にした。


「貴方が言ったではありませんの。『天才』って! ですから、私たちは運命の相手なのですわ!」


 つまり、凄腕だけど魔力が足りない彼女にボクが魔力を提供できる。イコール天才の完成って事?


「えっ……それ、凄いかも……」

「あは――――っ♪」


 感極まった彼女は周りの目も気にせず、ボクに抱きついてきた。


 彼女がコレまで思い悩んできた欠点が、ボクという存在により解消される。それは彼女にとって、まさしく運命と感じるに十分な物だったのかもしれない。


 その後はもう、しっちゃかめっちゃかだった。


 ベティさんはボクの事を離してくれないし。積極的になった彼女に張り合って、ハルちゃんまでボクを奪い返そうと抱きしめてくるし。


 これは来てる! 間違いなく人生初のモテ期が! 



「シロさん……ボク、今なら言える気がするよ!」

「何をだよ」


 彼女はどうせろくでもない事だろうと、ジト目を返してきた。

 ボクはオホンと咳払いをすると、胸の前で乙女チックに手を握り締める。



「ボクの為に争わないでっ!」


 ただ、その台詞を言うには、いささかボクの顔はニヤけ過ぎていた。


 そんな下らない事を言ったボクには、いつぞやの様にシロさんのデコピンがプレゼントされる事になったのだった。

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