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僕らのTS冒険記  作者: 灰塵
第二章
33/88

32話 五人

「そ、それほど頼まれては、(わたくし)も無下には出来ませんわ」


 彼女は胸元で両手の指先を合わせ、モジモジと照れながら、実に捻くれた了承を返してくる。それはいつも通りの病院で、いつも通りベティさんとクエストをこなす一幕での会話だった。


 どんなに思い返してみても、それほど(・・・・)は言っていない気がするんだけど……。だって、ボクはただ一言「フレンド登録しませんか?」って言っただけなのだから。



 朝食を摂りながらクエストの打ち合わせをしていたら、思いのほか長引いてしまって、ボクが養成所に着いたのは九時近く。


 実に一時間ほど彼女は待ちぼうけをしていたのだそうだ。そして、涙目になりながら頬を膨らませた顔がボクを出迎えたってわけ。


 しかも何故か受付のお姉さんにまで責め立てられたんだよ? ボクがなかなか来ないから、ソワソワし出したベティさんをお姉さんが慰めていたんだって。理不尽だ……。


 ボクの名誉の為に言っておくけど、別に約束をしていた訳じゃないからね。

 まぁ、ひょっとしたら今日も待っているかもとは思ったけどさ……。


 そんな訳で、さすがにこんな事が続くと申し訳がないから、連絡を取れるようにしておこうと思ったんだ。


 登録を終えたベティさんは、フレンドリストを眺めながら目を輝かせている……。こんなに喜ばれるなら、もっと早く話を切り出せば良かったな。



 あぁ、そうそう本日ボクが受けた講義は【消炎】。炎症を抑える魔法でした。正常な修復活動や免疫による生体反応でもあるので、きちんと怪我の手当が終わった後で使う事と念を押された。この辺りが生理学を学んでおきなさいって理由なんだろうな。


「ベティさんてさ、毎日通ってるけど病院勤務が希望なの?」

「違いますわよ?」

「それじゃぁ……」


 ボクが次の予想を考えていると、彼女は少し宙を見つめて過去を振り返り、適切な解答を掘り起こしてきた。


「一番の目的は種族特性への対処ですわね」

「特性?」

「私にはエルフの様な不死性はありませんの。そんな体で長寿という事は、病気や後遺症のリスクが高くなってしまいますわ」


 エルフの不死性――――高い免疫力と、変質に強く分裂回数に制限の無いDNA。それにより、自然治癒する範囲において原状回復能力が異常に高いらしい。なので癌とは無縁で、極端な欠損でなければ傷跡も残さず完治する……。つまり、寿命イコール健康寿命というほど、他種族に比べて病気や後遺症のリスクが低いのだそうだ。だけど、ハーフエルフはその不死性を完全には受け継いでいないと彼女は言う。


 それに、と少し悲しそうな表情を覗かせて言葉を続けた。


「私の寿命で病院頼りにすると、主治医が何度も代替わりしてしまいますわ。それなら自分でも知識を修めておいたほうが、何かと都合が良いと思った訳ですの」

「そんな風に考えてたんだ……。なんか、凄い……。大人って感じ」


 そんな人生設計みたいな事、ボクは考えたこともなかった。大人になって、普通に働いて、いずれは家庭を持つのかなって。そんな漠然とした想像しかした事がない。


「ま、まぁ……それだけじゃ……ありませんけどね……」

「え、何々?」


 彼女の堅実な人生設計に感心しきりだったせいか、別の答えがボクの期待を裏切りかねないと彼女は危惧し、恥ずかしそうに答えを誤魔化そうとしていた。だけど、彼女との根比べはボクが勝利する方が多いんだよね。


「……わ……笑いません?」

「うん!」


 彼女は恥ずかしそうに俯き、ボクに白状した。


「ここに来れば……幼馴染みと一緒に居られるかなって……」

「ミーシェル先生と?」


 そうか、ボクと知り合う前は、ミーシェル先生だけが彼女に残された唯一の友人だったのだ。彼女にとって先生の存在は計り知れない程大きな物だろう。


「えっ!? 知ってましたの?」

「うん、先生から少しね。ベティちゃんのことお願いって頼まれたし」


 彼女の顔が赤く染まっていく……。きっと知られたくはなかったのだろう。明かしちゃったのはマズかったかな?


「ボク達、似たもの同士だね。ボクもずっと友達少なかったから……。ベティさんと友達になれて嬉しいよ」


 ボクはごまかし半分、照れ半分で、ベティさんに手を差し出した。そんなボクの態度が癪に障ったのか、手を取りながらも彼女は頬を膨らませていた。


「違いますわっ!」

「えぇ~~? もう、素直じゃないなぁ……」

「親友! ですわよっ!」

「あ……うんっ」


 ボクらは手を繋いだまま肩を寄せ合い、クスクスと笑い合った。


 元の世界に居た頃のボクじゃ、きっと想像もできないだろうな。ここへ来てからボクには友達が増えた。親身になってくれた先生や大人達も居る。そんな人達に出会えただけでも、この世界に来て本当に良かったと思えた。




 程なくして実習クエストが終わり、ボクらは一度受付に戻る事になった。歩きながら彼女の様子をうかがってみたけど、今日の彼女はいつにも増して元気なようだ。


 魔力容量の少なさに苦労していたけど、鍛錬が少しずつ実を結んできているのかも。一日二回の実習クエストも、安心して見ていられるようになってきた。


「ユウキさんは冒険者ですのよね?」

「うん、ダンジョンを踏破するのが目的なんだ」


 この間受けたクエストの事や、踏破に向けてみんなで頑張っている事。危ない目にも遭ったけどボクがいかに冒険に胸を踊らせているか、話していく内にそれが彼女にも伝わったらしい。


「羨ましいですわ。私なんて家と病院を往復する毎日でしたもの」


 本心からそう感じているのが彼女の表情から読み取れた。ボクの一言一句に目を輝かせ、時にハラハラし、時に安堵の表情を浮かばせた。そんな風に表情がコロコロと変わるものだから、話しているボクの方も楽しかった。


「ベティさんも冒険者やってみたら? きっとどこも歓迎してくれるよ」

「でも私まだ、中級の途中ですわよ?」

「そうなの?」

「急ぐ目的でもありませんでしたから、ゆっくりと進めてましたの」

「そっか、先生と一緒に居る時間が大切だし、長く通える方がいいもんね」

「むぅ~~っ!」


 照れ隠しにペシペシと叩かれてしまった。


 中級の途中っていうのがどの程度の実力なのか分からないけど、少なくとも彼女はボクよりもずっと優秀なヒーラーって事は間違いない。


「まぁ、初級のボクがパーティ組んでるんだし、問題ないんじゃない?」

「そ、そう? では、不束者ですがよろしくお願いしますわ」


 他者との時間のズレに怯え、自ら停滞することを選んでしまった彼女。


 だけど、ボクと出会ってからの彼女は少しずつ変化を続け、再び前に歩み始めようとしていた。ほんの些細な会話が切っ掛けだったけど、彼女はまた一歩新しい世界へと踏み出したのだった。



「――――えっ? それってボクらのパーティってこと?」

「えっ? 違いますの!?」


 認識の相違が有ったらしく、ボクらは思わず顔を見合わせてしまった。というか、深く考えてなかった。そういう道を選ぶのもありだよね、としか。


「まさか、私を一人で放り出すつもりでしたのっ!?」

「いや、そんな事は。でもジョブが被るしなぁ、ボクらとは別の友達――――」


 って言いかけたら彼女の目に涙が滲んできた。『友達』は禁句だった……。


「えっと……、みんなに聞いてみますね」



 一斉にメールを送ると、この後一緒に昼食を摂ろうという話になった。


 一応、病院を出る前にミーシェル先生にもこの事を伝えておこう。心配するといけないし。


 だけど、ボクの憂慮なんて全くの杞憂だった。ボクが話題を切り出すと、先生はベティさんが新しい世界に飛び込むことを喜んでいた。親が娘を見るようにベティさんの事を心配してたもんな……。


 それほど長居はしなかったはずだけど、ボクらが宿に戻った時にはみんな食堂に揃っていた。既に五人分の昼食を注文してくれいていたらしく、ボクらが到着すると直ぐにテーブルに料理が並べられた。



「そうだよね! 何も私たち四人だけでクリアする必要はないんだよね!」

「俺も五人目って発想はなかったよ」

「……ユウがロリッ子お持ち帰りしてきたし……」


 渦中の少女はボクの背に隠れてモジモジとしていた。


 長い間他人を拒絶してきた所為だろう、彼女はどうやって輪に入ったらいいのか、まるで見当が付かない様子だった。


 きっとコレが本来の性格に近いんだろうな。それがよくもまぁ、あんなに拗れていたものだ……。初めて会った時のことを思い出すとちょっと感慨深い。


 そんな気分に浸っていると、ベティさんが何度も脇腹を突っついてきた。分かってますって、ちゃんと紹介しますから……。っていうか、そこ弱いのであまりツンツンしないで下さいっ。


「ハルちゃんには話した事があるけど、ヒーラー仲間のベティさんです」

「わ、ワタクシは、ベルベッティー。ユ、ユウキさんとは……親友、ですわっ」

「「「親友!?」」」


 緊張のせいか、ベティさんは顔を真っ赤にしてテンパっている。


 勝手知ったる病院と違い、ここは彼女にとって完全にアウェーだ。それでもボクの袖を掴んだまま、少し裏返った声で自己紹介をやり通した。震えながら腰がちょっと退けてしまっているけど……。


「俺も養成所で話す奴はいるけど……、ここまでの奴はまだ……」

「ユウ、どんなテク使ったし!」

「どうしよう……可愛い……」


 ハルちゃんだけ何故かちょっと悔しそうな顔をしてる。


 別にボクは特別な事なんてしてないんだよな。張り合ってたらいつの間にか友達になってたって感じで。


「普通に同じクエストをやってたら、自然とこうなってたよね?」

「え? えぇと……確か、初めて会った日に胸を揉まれましたわね……」


 きっとアレだ……。ボクには恥ずかしいエピソードがばれる呪いが掛かっているに違いない。隠しステータスでそんなギフトが有るんだろ!? そうなんだろ~~っ!?


「いや、待て待て、今考える! 『鮮血』『不毛』の次は……そうだなぁ……」

「もう二つ名なんて要らないからっ!」

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