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僕らのTS冒険記  作者: 灰塵
第二章
32/88

31話 結論とお得な対価

 出会ったばかりの二人に導かれるまま、彼らの研究室へとやって来た。


 着いてから気がついたけど、知らないおじさんに付いて行った事がバレたら、また女の子の自覚がないって怒られるんだろうな……。


 研究室は他の建物に比べるといくらか豪華な建物だった。ただし『外観だけは』という注釈を入れた方がいいかもしれない。中に入ったら酷い有様だったのだ。


 研究一筋の男所帯って言えば伝わるだろうか?


 広い屋内はガラクタのような成果物があちこちに散乱し、丸めて捨てられた何かの設計図とか、返品されたと思しき商品の山とか、ゴミ屋敷とまでは言わないけど汚部屋っぷりはなかなかの物だった。


 あと、エッチな本も何冊か目についてしまった。この世界にもこういう物が有るのか……。


 表紙は、エルフにしては妙に発育のいい胸を、極小の布切れで隠したビジュアル。思わず手を伸ばしてしまったけど、ボクが触れる直前にジョーシュ君がサッと懐に隠してしまった。どやら彼の物だったらしい。ボクも心は男、普通に見たかったんだけどな……。というか見れないと余計に気になる。今度本屋を探してみようかな。


 余談だけど、エルフ本の下には小柄な獣人のマイクロ水着本も鎮座していた。果たして隠す意味があるのかと言う程の平らな胸。ジョーシュ君が片付けなかったところをみると、こちらは師匠の本という事だろう。


 まぁ、そんなお宅訪問の一幕が有り、ボクは比較的まともな応接室へと案内された。そこでトラブルの内容を話し、今に至るのである。




「――――でな、魔石に呪印を刻み込み、魔力回路を内包した結晶体を作ってやったわけだ。魔力供給源を何処にするか、当時は随分と意見が割れたものよ。使用者の魔力に依存するシステムは、重量軽減の機能が頻繁に停止してな。骨折する者が続出したのも、今となっては良い思い出だ」

「ギルド総出で賠償して回った事件を、美談のように語らないで下さい、師匠」


 サワサワ……サワサワ……


「そうそう、君らの歳では知ぬであろうが、昔この街では野菜や果物しか食べられなかったのだぞ。ソレを覆したのも錬金術だ。まさに食革命! 君らが肉を食べられるのも錬金術の恩恵なのだよ。その素晴らしさ、まさにマーベラスだ!」

「人の功績を自分の物のように言うのは悪い癖です、師匠」

「ジョーシュよ……開発者のサクヤ師は敬愛する我の師だ。『ジャマー』の研究には我も手を貸し、その後は研究を託された。故に我が手柄も同じよ」

「偉大な人なのは存じてますが、敬愛しすぎて少女愛に走られると弟子としては肩身が狭いのです。自重して下さい、師匠」

「彼女はハーフエルフだ。合法ロリならば問題なかろう?」

「では、その手つきは何です? 師匠」


 スリスリ……スリスリ……


「あの……、そろそろボクの手を撫でるの、止めてもらえませんか?」


 黙って彼の蘊蓄(うんちく)や自慢話を聞きながらジッと堪えていたのだけど、触れるか触れないかの絶妙なフェザータッチで、さっきから左腕の鳥肌が止まらないのだ。


 ミーシェル先生にあちこち触られるのは平気だったけど、同性(・・)にこういう触られ方をするのは拒否反応がでてしまうらしい。間違いなくボクの中身は男だと実感したね。


「師匠の名誉は今更どうでも良いですが、錬金術師の一人として言わせてもらいます。冒険証は左腕の魔力回路と密接に関係しているので、こうして刺激する事は間違いでは無いんですよ」

「ガッハッハ。その通りだ、ユウキ少女よ!」

「師匠のはただのセクハラですけどね」

「ちゃんと検査もしとるわい……」

「『も』って言っちゃう辺り、詰めが甘いです、師匠……」


 ボクは錬金術に関しては全くの無知だけど、彼らの言葉には一応信憑性を感じていた。ボクの冒険証にはよく分からない機材やケーブルが接続されており、ケーブルのもう一端は、アナログチックなメーターの並ぶ機械を介して、彼らの装着する奇妙な眼鏡まで接続されている。


 このセクハラ師弟がボクの手を撫でつける度に、機材のメーターは確かに反応していたのだ。眼鏡の方は何が見えているのかは分からないけど。


「まぁよい。さて結論だがな、ユウキ少女よ」

「はい」


 パストール師はソレまでの飄々とした顔つきを引き締め、鋭い眼光を向けてくる。ただし、ボクの手は今も離してくれないが。


「冒険証に異常は無い、メダルの固定装置も間違いなく解除されておる」

「それじゃ、どうして」

「メダルが一種の呪いとして作用しておる。それがお前さんの魔力回路に食い込むように根を張ってしまったようだ」

「呪いっ!?」


 予想外の単語だった。ボクは精々規格外のメダルをはめたせいで、噛んでしまったのだろうと高をくくっていたから。


「無理に外せば、深刻な後遺症を負う可能性もある」

「となると解呪ですか、師匠」

「うむ…………」


 英雄様には手首を切り落とすなんて物騒なこと言われ、今度は呪いときた。思った以上に厄介な状態っぽいな。だけど、解決の目処が立って良かった。


「…………いや、ダメだな」

「え?」


 パストール師はボクの手を弄ぶ事も忘れて難しい顔をしている。


「おそらくこれを解呪出来る人間など()るまい。現状で差し障りが無いのであれば受け入れた方が安全だろう。下手に突いて拗れんとも限らんのでな」

「そんなぁ……それじゃボク困るよ!」

「それに、下手にあちこち見せびらかすのもな……。まかり間違えば検体として扱われるやもしれん。それ位突飛な物だということだ」

「検体って……モルモットって事?」


 呟いてからゾッとした……。だって、他でもないボク自身がソレを扱った事があるのだから。これまで実験の為に傷つけられたラットを、何度となく癒やしてきた。今度はボク自身が実験の為に(なぶ)られる可能性がある……と?


「あくまでも可能性の話だがな。何らかの行動を起こすにしても、元の所有者とやらに話を聞いてからでも遅くはないのではないか?」

「そう……ですね……」


 結局そこに戻っちゃうのか……。ボクもソレが一番だとは思うけど、彼女はまだ病院のベッドで眠り続けているわけで。だから、その前に出来る限りの事はしておこうと思ったのだ。でも、現状で手詰まりなら、先送りするしかないか……。


 場に沈黙が下りた事で、本日は閉幕の流れとなった。


「どうやら結論が出た様ですね」

「あ、はい。ありがとうございました」


 ジョーシュ君は満面の笑みを浮かべると、残る議題を口にした。


「それでは今回の相談料の話になりますが……」


 しまった……。悩み事の相談にばかり気が向いていて、先に聞き忘れてた。吹っ掛けられたりしないよね……。


「新商品のモニターをやって貰えませんか?」

「モニター?」


 って、新商品のテストとか、使用感を報告するアレだよね?


「師匠は悪戯癖が過ぎて、受けてくれる人がめっきり減ってしまったんですよ。もちろん安全性や耐久性の試験はクリアしている製品ですので安心して下さい。時々使用感を教えて貰えれば結構ですので」


 う~ん、ズルズルとノルマが続くような物は正直億劫かも。やっぱり、普通に金銭で終わらせてしまった方が後腐れ無くて楽かな。


「具体的には、この空間拡張バッグです」


 そう言いながら、彼はウェストポーチを取り出した。ぱっと見、二リットル程度の容量だろうか。


「このサイズで約八〇リットル程入ります。その上、重量軽減に慣性制御の機能付。冒険の役に立つ品だと思いますよ。モニター期間は一ヶ月間です」



 普通に便利アイテムじゃないか! 八〇リットルっていったら、確か登山用の大きなリュックがそれ位だった気がする。


 この間お店で見かけた劣化版が、確か三万フランしたっけ……。性能は容量30リットルで重量軽減機能のみ。大きさも六リットルぐらいのリュックだった。それでも皆で買おうかって話してたのに。


 冒険において荷物から解放されるってのは、もの凄く重要な要素だ。実際、荷物持ちの依頼が、ボードに張り出されない日なんてないからね。


 チラリとジョーシュ君の顔を見ると、口の端が少し上がっていた。食いついたのが絶対バレてる……。


「わ、分かりました。ただ、仲間に反対されたら、相談料はお金で払う形にしてもらっても良いですか?」


 美味しい話には裏があるかもしれない。念のために予防線は張っておこう。


「はい、それで構いません。では使い方を説明しますね――――」



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「何コレ、面白い!」


 宿へ持ち帰ったモニター商品は、早速みんなのオモチャになっていた。


 鞄の中に小物を入れると、手を離した場所で空間に吸い付くように固定されてしまうのだ。だから、鞄を振り回しても中身が全く動かない。無重力状態で慣性制御されてる様な感じだろうか。


「すげぇ! これをタダで使えるのか!?」

「うん。ただし燃料に魔石が必要になるけどいいかな? 一層の魔石でも四八時間ぐらい保つって言ってた。エネルギー残量は冒険証に表示できるって」


 冒険証をみんなに見せると、そこには『3-22h』と表示されていた。つまり三日と二二時間分の魔力残量があるということになる。


「一層の魔石って一〇フランでしたね。一ヶ月で一五〇、宿代一日半ですか」

「それぐらいの費用なら誤差の範囲だな」

「じゃあ、モニター続けてみても大丈夫そうかな?」


 良かった、騙されたりしてないか心配したけど、みんなに聞いてみても特に反対意見は出てこなかった。


「いいんじゃね?」

「むしろコレに慣れちゃうと、モニター期間終わった後が大変かも」



 ――――ハッ!? それが目的っ!?


 便利さを体験させてから取り上げて、商品を買わせようって魂胆か。あのジョーシュという少年、錬金術師と言うより商売人だな。


 まぁ、でも便利なことには違いないし。使ってみて具合が良ければ買っても良いんじゃないかな。法外な値段でなければだけど。


「んじゃ、明日は採集クエスト増やしてみるか」

「「「OK~」」」


 新しい何かが手に入るとワクワクするね。明日が楽しみだ。

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