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僕らのTS冒険記  作者: 灰塵
第一章
3/88

3話 ようこそ『ユグドリア』へ

「あの……、とりあえず、あの街を目指しませんか?」


 駄弁り場の様相を呈してきた僕らを見かねて、ハルちゃんが提案してきた。


 『彼女』の指さす方向、大樹の根元には扇状に広がる街並みが在った。確かに、こんな所で賑やかしていても何も始まらない。



 僕らは街へ向かいながら、音声認識とかジェスチャーとか、ゲームや小説に出てくるようなシステムコマンドを思いつく限り試してみた。


 最初はみんな恥ずかしがっていたけど、最後の方は結構ノリノリで、こういうのも意外と楽しもんだね。


「鑑定! 識別!」

「えっと、ファイアー…… とか?」

「アイテムボックス! ステータスオー……プベッ!」


 ちなみに最後のは僕。うっかり転んだせいで、お尻が丸出しになってしまった……。ほんと、最後尾で良かったよ。そうでなかったら十八禁なアレとかコレとか色々と見られるところだった。まぁ、下着の有無の証明になったと、プラス思考で考えて忘れる事にします。


 それで、検証した結果だけど。ゲームのようなシステムは発現しなかった。この世界がそういう仕組みなのか、単純に僕らのやり方が間違っているのかは分からないけど。


 噂に聞く『ギフト』なる神憑った才能があるのかは、知りようがないので現在は不明。走ったり跳んだりもしてみたけど、元の世界の身体能力とさほど違いは無いように感じた。


 最後にアイテム。出発前に降り立った場所をぐるりと探してみたけど、初期アイテムも、お金も一切見つからなかった。


 うかがい知る限り僕らに与えられた物は、今着ているシャツと薄っぺらな履き物だけ。素っ裸で放逐されなかった事だけが、あの神様の唯一の良心と言えるかもしれない。


 ただ、言語については問題が無さそうで安心した。街の入り口にあるアーチには、僕らが旧世界で使用していた物と同じ文字で『ユグドリア』と書かれていたのだ。文字が同じなら言葉もきっと通じるだろう。



 いよいよ冒険が始まるのだと、高まる期待に胸を膨らませる……。


 しかし、そんな心の在り様とは裏腹に、僕らの姿は薄汚れた物へと変貌を遂げていた。


 ハルちゃんが五回、カナタさんが三回、シロウさんが二回、僕が十一回……。何の回数かというと、ココにたどり着くまでに転んだ回数だ。


 これは以前の体での経験と体の変化とのズレが原因のようだ。重心の変化でこんなにも動き方が変わるなんて知らなかった。


 それにしたって僕だけ二桁なんて……。カナタさんに「何か萌える」とか言われたし。冒険の前に、僕らはまず新しい体に慣れる所から頑張らなくちゃいけないようだ。




「やっぱ、まずはギルド探しだよな。ちょっと聞いてくるわ!」


 なんて言ってシロウさんが小走りに駆けていった。スッゴい楽しそうなのは分かるんだけど、お尻がチラチラと見えてる。裸シャツって、マジ危ないな……。


 そして、早速通行人を捕まえて聞き込みを始めていた。捕まった男性は、シロウさんの胸をチラチラと見ながら答えている。


「うん、僕は正常だ……」

「どうしたの、ユウ君?」


 いや、何でも無いです。ただ男の子の(さが)を再確認していただけです。


 シロウさんのもたらした情報によると、街の名前はやはり『ユグドリア』世界樹の南に位置し、奥行き五キロ、幅一〇キロほどの扇状の街だ。


 世界樹の内部は迷宮になっていて、モンスターが多数生息しているらしい。危険も多いが、この街の重要な資源供給元として共存しているのだそうだ。どうやらこの迷宮が神様の提示した攻略対象で間違いないだろう。


 そして、ギルドは中央通りの突き当たりに在ると判明した。



 そこへ向かう道すがら、僕らは観光よろしく街並みや行き交う人々をつぶさに観察していった。


「なぁユウ! あれエルフじゃね!?」

「え!? どこっ!? うわぁ……生エルフだ~!」


 大半は僕らと同じ様な容姿だったけど、耳が長く尖った者や、動物の尻尾を持つ者など、この街はファンタジー感あふれる人種で構成されているらしい。


 建築様式は漆喰の壁に赤い瓦の建物が多く、時折木造の建築物も見られた。


 南北に街を貫く中央通りは多くの商店が軒を連ね、非常に活気に溢れている。先立つ物が無く、店先を素通りせざるを得なかったのが残念だ……。


 そして、いよいよ中央通の終点。そこにはまるで宮殿のような立派な建物がそびえ立っていた。コレがこの街の政治的中心である事は間違いないだろう。まぁ、今は用がないのでスルー決定だけど。


 僕らは今一度道行く人に場所を尋ね、冒険者ギルドへとたどり着いた。それは宮殿の少し西側。かの建物に比べると数段劣るが、それでも十分に威厳を感じる重厚な造りをしていた。


 尖頭型の入り口をくぐるや否や、シロウさんの第一声が室内のざわめきを一掃する。


「ちわっすー! 冒険者登録おなしゃーっす!」


 張り紙を眺める人達や、カウンターで手続きをしている人達まで、一斉に僕らに視線を寄越した。


 僕は「ちわ」という発音が聞こえた瞬間、最速でシロさんの背中に回り込み視線を回避した。自分で言うのもなんだけど、なかなか良い反応と回避スピードだったと思う。


「ごめん、僕こういう注目のされ方って苦手……」

「ユウ君、一人だけずるい!」

「なにコレ? 三連星?」


 そして、シロウさんを盾にして三人、いや四人が連結した。


 こういう部分で僕とハルちゃんはよく似てるんだよな。でもさすがに体格の良いハルちゃんでは、シロウさんのシルエットから色々とはみ出していた。


 わざわざ僕と同じ行動をしなくても、カナタさんの背中に隠れれば良かったのに……。ってか、何故かカナタさんまで面白がって最後尾に並んでるし。



 しかし、沈黙は早々に破られ、再び室内は元のざわつきを取り戻していた。「目立ちたがり屋の新人か」という程度にしか思われていなかったみたい。


 その中でたった一人、カウンターにいた小さな子供だけが手を振ってシロウさんの声に応えてきた。


「やぁ、いらっしゃい! 受付はこっちだよっ」


 ピョンと椅子から飛び降りたその子は、僕の腰骨辺りの背丈だった。こんな子供が働いているのかって思ったけど、どうも僕らとは違う種族らしい。


 頭には犬のような耳が付いており、お尻からはくるりと丸まったモフモフの尻尾が生えていた。


「君達は身一つでやって来た冒険者だね?」

「むむっ!? 話が早くて助かる」


 犬耳少年の問いにカナタさんが肯定した。しかし、彼が的確に僕らの状況を把握するので驚いてしまった。


「毎年この時期にそんな格好で現れるからね、ピピッときたよっ」

「ここに来るの僕達が初めてじゃないんだ……」

「そういう人向けの支援制度が有るんだけど、説明してもいいかな?」

「お願いします」


 受付君の説明を要約するとこんな感じだった。宿代、駆け出し装備などの各種費用は初心者応援価格で安価に提供されている事。冒険者登録から一ヶ月間はツケが利く事。その間にギルドの依頼をこなして報酬で返済する事。貢献する姿勢次第で返済の猶予期間が延長される事もある……だそうだ。


「真面目にクエストをこなせば、一ヵ月後には独り立ちできると思うよ」


 犬耳少年は説明しながらも手を休める事無く準備を進め、僕たちに腕輪サイズの白いリングを手渡してきた。


「はいっ、これが冒険者の身分証だよ。決済機能とか色々と便利な機能が使える専用の端末って所かな。ちなみに登録料は銀貨五枚ね」

「あの、僕らまだお金持ってないです……」

「紐付けされた口座に記録されるから大丈夫だよ。あぁ、支援期間中は無利息だから安心してね」


 彼が僕の左手を取って腕輪を通すと、手首に合わせてリングが変形した。


「お~、コレって魔法なの?」

「魔道具……、まぁ魔法ではあるね」


 他のみんなもボクと同じように、左手首にリングを装着した。


「そうしたらリングを心臓に近い位置に密着させてね。リングの色が変わったら登録完了だよ」


 トクン……トクン……と、鼓動に合わせるようにリングが脈動する。そして白かった腕輪は、徐々に鈍色へと変色していった。


「それじゃ『情報を読み取ろう』と意識して、その腕輪を指で擦ってみてくれるかな」


 言われた通りにすると、腕輪からウインドウが投影された。


「おっ、コレコレ。やっぱ有るんじゃん、こういう機能」

「ステータス、ジョブ、クエスト……この『フラン』ていうのは何ですか?」

「この街の通貨単位だよ、銅貨一枚が一フラン、銀貨が一〇〇フラン、金貨が一万フラン。つまり君たちは今、五〇〇フランの借金がある事になるね」


 なるほど、数値の上に金、銀、銅のマークが描かれていて、貨幣と金額が対応するようになっているようだ。残高表記は赤い文字で-五〇〇と表示されている。


「基本的にウインドウは自分にしか見えないけど、人に見せる方法も有るからね。ウインドウは拭い去るようにスワイプすれば消す事が出来るよ」


 みんな僕と同じように腕時計を見るような仕草をしているけど、誰の手元にもウインドウは見えなかった。まぁ確かに、個人情報バリバリの画面を簡単に公開しちゃマズイよね。


「他にも沢山説明が有るんだけど、クエストの項目に解説が載せてあるから時間のあるときにでも読んでおいてね。項目をタップすれば詳細が見られるから」


 そこまで説明すると、犬耳少年は腰に手を当てて僕らを見回す。


「あんまり説明ばかりでも退屈だよね? という事でここからはチュートリアルクエストを受けてもらおうかな」


 そう言うと彼は四枚のカードを取り出した。小さな指をくるりと回すと、指先から星屑のような(きら)めきが軌跡を描いてこぼれ落ちる。その(きら)めく指先でカードを順番にタッチしていくと、カードの方も仄かに輝き始めた。


「詳しい事は追々知っていけば良いから、今は流れだけ体験してね。このカードをリングにかざしてくれるかな」


 指示に従いリングにかざすと、ポッと燃え上がる様にカードが消え、リングが微かに発光した。


「これでクエストの受注は完了。ウインドウを確認すればチュートリアルの項目が追加されているはずだよ」


 フンスと満足げに鼻息を漏らすと、彼の説明が終了した。


「それじゃあ、ユウキちゃん、ハルノ君、シロウちゃん、カナタ君。ユグドリア冒険者ギルドへようこそ! 君たちを歓迎するよ!」


 犬耳少年はしたり顔で僕らの名前を並べ立て、歓迎の意を伝えてきた。僕たちは誰も名乗っていなかったはずなのにだ。驚愕の表情を見せる僕らに、彼は種明かしをしてみせた。


「僕はオルシバ。ギルマス権限でこういう事もわかるのさ♪」


 ギルドマスター!? こんな幼子の様な彼がここの最高責任者なのか!?


「こう見えて僕は三八歳だよ」

「「「「嘘ぉぉぉぉ!?」」」」


 オルシバさんは悪戯が大成功したと言わんばかりにカラカラと笑った。

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