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僕らのTS冒険記  作者: 灰塵
第二章
29/88

28話 ボクの中の可能性

「なんか、エロい!」


 ボクが身だしなみを整えて戻った時、カナさんが発した第一声がソレだった。


 照れ隠しに軽くボディーブローを放ってみたけど、あっさりと片手で止められてしまった。くそっ、さすが格闘家だ。


「結論から言えば、紛れもなく普通の女の子よ。貴方たちの【診察】結果を知らなければ、からかわれているとしか思えない程にね」


 とりあえず身体には異常が無いと判ってホッとした。実はクリーチャーとかエイリアンとか、そういう人外の存在でした。なんて言われたら悲しいからね。


「それで、生理は有るの?」


 その単語はボクの耳をあっさりと素通りした。だってそんなモノ、これまでの人生では無縁だったから。


 先生がボクの顔を覗き込み、もう一度同じ質問を繰り返さなければ、自分が問われたのだと気づかなかっただろう。


 ボクの認識では、この体は外見や筋肉量が変化しただけ。そんなイメージだったのだ。言ってみれば、アバターが変わっただけって感じだろうか。ボクらはいずれ元の世界に戻る。だから、なおさら一時的な外見の変化という感覚が強かった。


 そんなボクに生理だって!?


「それって女の子が毎月憂鬱になる、アレの事ですか?」

「そうよ」

「あの……ボク、元は男だし……冗談でしょう?」

「でも、今の体は女の子でしょ?」

「えっと…………」

「ちゃんとお腹に子宮は在るから、出産も可能だと思うわよ」



 ――――出……産……!? このボクが!?


 それは異世界に飛ばされた以上の衝撃だった。本来ならソレは、男の自分には起こりえない現象なのだ。今まで培ってきた常識とか価値観が、音を立てて崩れていく感じがする……。


 だけど、思考がショートしたボクを、再三の問い掛けが現実に引き戻した。


「それで、どうなの? ちゃんとあるの?」

「ない……です。でも女の子になって、まだ五日目だから……」

「そう……、初めて会った時よりもずいぶん状態が安定してるから、体が馴染んだら来るかもしれないわね」


 正直、頭が混乱していて先生の言葉が耳に入ってこない……。先生はそんなボクの手を取り、真っ直ぐに見つめてくる。


「言い辛い事を聞いてごめんなさいね。でも貴方たちの事がよく分かったわ」

「はい……」

「術士としてだけじゃなく、女の子として困った事が有れば、いつでもいらっしゃい。女の先輩として、力になれる事もあると思うわ」

「はい……」

「…………ユウちゃん、私のこと大好き? 愛してる?」

「はい……はい?」

「心ここに在らずね……」


 肩をポンと叩かれ、ボクはようやく思考のループから戻ってくる事が出来た。


「今、深刻に考える必要は無いわ。そうだ、気分転換に講義でも受けていく?」

「え? でも今日は休みじゃ……」

「構わないわよ」


 確かに、今ウダウダと考えても仕方が無いか……。


 今すぐボクの身にそういう事が起きるわけじゃない。ボクの中にそうなる可能性を秘めた器官が備わってしまったという話なのだ。


 ここは先生の申し出に甘えて、頭を切り替えた方が良いかもしれない。


 先生は休日で時間が有るからと【殺菌】と【体温調整】の二つの魔法を教えてくれた。


「それじゃ、先生。ボクらギルドに用があるので、そろそろ失礼しますね」

「ギルド? そう、あの子の話がもう伝わってるのね」

「あの子?」

「あら、違ったかしら? なら忘れてちょうだい。今日は私も助かったわ」


 微妙に歯切れの悪い別れの後、ボクらは病院を離れた。



 しかし、予定外に病院が長引いてしまった。


 今日は外れなくなったメダルの事を相談しに、ギルドへ行こうと思っていたのだ。それで、どうせ外出するならと、病院に一番馴染みのあるボクが、カナさんの診察に付き添ったわけだ。それが、講義まで受ける事になるとは予想外だった。



 ――――って、カナさんの都合も聞かずに進めてしまった事を、今頃になって気がついた。


「ゴメンね、講義に付き合わせちゃって」

「気にしてない。ヒーラーの講義、興味あったし」

「ありがと……」


 ギルドへと続く石畳の道。隣を歩く彼と二人で、コツコツと靴音のデュエットを響かせる。


 普段なら矢継ぎ早に話題を振ってくる人なのに、今日のカナさんは言葉よりも思慮を優先している節がある。この人と居る時にしては珍しく静かな時間だった。


 ボクは歩きながら自分のお腹に手を添えた。


「この中に……」


 今日の先生との遣り取りで、この体が女の子だという事を少しだけ実感してしまった(・・・・・・・・)



 ――――そうか……ボクは今、女の子なのか……。


 ジワリと沸き起こる感情は、最初どこか暖かなものだった。でも直ぐにソレがとても恐ろしい物に感じられるようになってしまった。


 だって、ボクのこの状態は所詮一過性のモノだ。元の世界に帰れば、また男の体に戻る事になる。だから女の子としての意識なんて持っても……。


「そーそー、お腹って言えばさ」


 ボクの様子を見たからか、カナさんも『お腹』というテーマで話題を広げてきた。彼はボクの手を取ると、自分のお腹にギュッと押し当てる。


「コレはユウのおかげだから」

「コレ?」


 ボクの手には割れた腹筋のゴツゴツとした感触が伝わってくる。逞しく鍛えられた筋肉は、ボクじゃなく神様がくれた物なんだけど……。


「まだちゃんとお礼言ってなかったから、守ってくれてありがとね、ユウ」


 大熊の一撃をプロテクションで防いだ件か。あの時は無我夢中で、ほとんど偶然だったのだけど……。それでも結果良ければ全て良し、かな?


「うん……」

「次はアタシがユウのこと守るから」

「いや、あの時カナさんだってボクの事を守っ――――」


 ボクが言葉を言い切らない内に、カナさんはいつもの様にふざけてボクを抱きしめてきた。ホント、抱きつき癖のある人だなぁ。


「こういうの、男の台詞。でしょ?」

「うん、ありがと。ボクもみんなを守れるヒーラーになるね」


 しかし、いくら友達同士の悪ふざけとはいえ、人通りの多い往来でするのは少し恥ずかしい。行き交う人たちがチラチラとボク達を見てくるし。


 おかげで茶目っ気よりも、気恥ずかしさの方が上回ってしまう。そろそろ体を離そうと思ったのだけど、カナさんの力が強くて叶わなかった。


「あの、カナさん? ちょっと恥ずかしい……」

「ん、ごめん……」


 彼はボクの肩を押して体を離すと、一人スタスタと歩き始めてしまった。


 ボクのノリが悪くて怒っちゃったのかな?


 慌てて彼の背中を追いかけたけど、なんだかボクと顔を合わせてくれないし……。そんな風にされると、ボクは不安になるタイプなのだ。何かやらかしたかなって、ついつい自分の中にミスを探してしまう。


 彼の周りをちょこちょこと動き回っては顔を覗き込む。そんな事をしていると、いつも通りの悪戯っぽい笑みが返ってきた。


「ユウ、何だか子犬みたい」

「こ……子犬ぅ~!?」

「チョロいし」

「チョロくないしっ!」

「ちっぱい堪能されてた事に気づいてないし」

「なっ!? 策士かっ!?」


 やられた! と冗談めかして大仰に胸を隠すと、カナさんが声を上げて笑い出した。それに釣られる様に、ボクの方まで笑いがこみ上げてくる。


 きっと、沈みかけてたボクを気遣ってくれたんだろう。

 シロ・カナの二人は凄く気の回る人達だからな、見習わなくちゃ。

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