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僕らのTS冒険記  作者: 灰塵
第一章
24/88

24話 盛り上がらない祝宴

 世界樹の入り口に併設された建物の一つ。簡易治療所に集められたヒーラーにより負傷した者達が治療されていた。


 その横で、床に手を突きオルシバさんが土下座をしていた。


「や、止めてくださいオルシバさん!」

「そうはいかないよ、個体数が増えた原因を安易に考え、上位個体の可能性を見落としたのはギルドマスターである僕の責任なんだ」


 治療を終えて目を覚ましたカナさんを含め、僕達四人はオルシバさんの謝罪に困惑していた。


「君たち自身の命も危うかった。その上、二人の冒険者の命まで救ってもらった。これに対して謝罪と感謝が出来ない人間にはなれないよ。申し訳なかった、そして本当にありがとう」

「俺達だってオルシバさんに救難信号の説明を受けてなかったら助からなかった。救助に来てくれた人とかさ、みんなの力で助かったんだと思うぜ」

「うん、持ちつ持たれつ」

「そうですよ、僕達の方こそ感謝しなくちゃいけないのに……」


 そうであったとしてもギルドとして補償を行う必要があると、オルシバさんから提案がなされた。


 クエストの報酬に加え謝礼金として合わせて金貨一〇枚、現在僕達が負っている借金をギルドが代わって全額返済する事。そして冒険者ランクの二段階昇進が決まった。


 ただ、一気に飛び越えると経験を積みづらいという事で、まずは一段階だけとし任意のタイミングで、もう一段階昇進できるという形式を取る。冒険証の色は赤色だけど、黄色相当としてギルド側も対応してくれるそうだ。また破損した装備もギルドの経費で弁済してもらえるらしい。


 そんな遣り取りをしていると、ベッド方から喜びの声が上がった。



「女の子の意識が戻りました!」


 僕達も彼女たちのベッドへ駆け寄り、静かに様子を見守る。


 牙が片肺を貫き、血が溜まってしまったらしく、咳き込む度に赤い飛沫が口元を染めていた。不安そうに目が彷徨う彼女を落ち着けようと、付き添いの術士が優しく声を掛けた。


「ここは病院です、もう大丈夫ですよ」

「か……彼……は?」


 彼女自身も重傷だというのに……。呼気が喉を通過する度に血が絡まり、雑音の混ざる声で愛しい人を求めていた。


「隣で寝ていますよ、彼も無事です。安心してね」


 隣で眠る少年の姿を目にし、少女の目から止めどなく涙が流れ出た。


 少女は無事な右手を精一杯僕らの方へと伸ばしてくる。


「あ……り……がとう……」

「うん……」


 少女の手を握り、その想いに僕も応えた。


 以前エルさんが言っていた様に、結果論で語るのは良くないのかもしれない。だけど……。あの時選択して、行動して、本当に良かったと心から思えた。


 何か一つでも掛け違えていたら、被害がさらに拡大した可能性だってあるのだ。次も上手くいくとは限らない。状況の判断、実力、運、そのどれか一つでも欠けたなら、次は誰かの死で代償を払う事になるかもしれない。


 もっと強くなって、次は危なげなく乗り切れるようになろう……。


 僕は少女の手を握り、そう決心したのだった。




 時刻はまだ昼下がり、一日を締めくくるには早すぎる。だけど僕らにとって今回の冒険はとてつもない大事件だった。


 おかげで気分がまるで落ち着かない。こんな精神状態で何かをやろうと思っても失敗するのがオチだ。


 という訳で、カナさんも日常活動程度なら問題ないとお墨付きをもらったので、気分転換も兼ねて街へぶらりと出かける事にした。


 カナさんの服や装備を新調する為にもちょうど良いだろう。


 買い食いにウィンドウショッピング。半日休暇を満喫し終えて宿に戻った時には夕飯時だった。



 食堂のテーブルを四人で囲むのも、既に僕らにとっての日常。


 最初、僕の優柔不断が原因で衝突した事など、今では信じられない。同じ目的を持ち、同じ苦労を共にする生活が、僕らの距離を縮めてくれていた。


 異世界へ旅立つ前の自分がこの光景を見たら驚くだろうか。僕は今、君よりも友達が増えたよ。



「こう言っちゃ何だけどさ、苦労分以上の見返りがもらえて美味しかったよな」

「ムフー! 二階級特進!」

「カナさん、それ死ぬ奴だからね?」

「……」


 みんな赤くなった自分の冒険証を眺めてニマニマしてた。


 さらに借金帳消しの上、ギルドからの謝礼を上乗せされて、金貨一〇枚分の報酬が支払われたのだ。おかげでみんなの預金残高はおよそ二万五千フランとなっている。借金生活まで一気に解決してしまったのだ。


「今日はお祝いだっ! 豪華に美味いもん食おうぜ!」

「おや? 普段は豪華でも美味くもない様に聞こえるねぇ?」


 椅子に座る僕らの頭上から、女将さんの言葉が降り注いだ。


「おわっ!? コレは言葉の綾で、女将さんの飯はいつも美味いっす!」

「冗談だよっ。ギルドの人から話は聞いてるからね。あたしも腕を振るわせてもらったよ!」


 抱える様に運んできた大皿には、コンガリときつね色になった鳥の姿焼きが乗っかっていた。その周りにもポテトや唐揚げが、皿からこぼれそうな程盛られている。他にも、ボールごと運ばれてきたサラダやスパゲティ。いつもの長いバゲットも籠に山盛りの状態で置かれていた。


 とても四人では食べきれない量だが、こんな時だからと大盤振る舞いだった。


「おおっ! すげぇ、ローストチキン!?」

「エールも飲めりゃ良いんだがね、あんた達にはまだ早いからシャンパンだ」

「アタシは、エールでもやぶさかでは無い気分!」

「……」

「まぁ、たんと食べておくれよ。今晩のお代はギルドから出てるからね」

「「「やったー!!」」」


 女将さんが祝ってくれているので、他の冒険者達の間でも「何があったのか」と僕らの事が話題に登っていた。


 一層に場違いなユニークモンスターが出現して、それを討伐したという話が広まると周りの客達も、一緒に乾杯してくれた。


「やるなー、駆け出しなのにもう二つ名がある冒険者なんだって?」

「鮮血の魔女だったか?」

「いや俺は不毛の魔女って聞いたな」

「何それ、血みどろにすんの? それとも焼け野原にすんの?」


 などなど、外野からひそひそと噂する声が聞こえてくる。


 ソレどっちも僕の痴話由来なんで忘れて欲しいです!


「ユウ、そっちの皿取って」

「ん、はいっ」


 僕らが食事を進めている横で、一人静かにしていたハルちゃんが、重い口を開いた。


「みんな……、ごめんなさい」

「ん? 何が? ハルもどんどん食べよ」


 カナさんが、チキンを切り分け、ハルちゃんのお皿に盛っていく。だけど、ハルちゃんは視線を落とし、ズボンをぎゅっと握りしめていた。


「私だけ怯えて何もしなかった……」


 僕ら三人は顔を見合わせた、言いたい事は分かるけどソレはソレ。役割分担であったのも確かなのだ。


「やってたじゃん、俺らが離れてる間あいつの護衛任せたし」

「そーそー、パーティで役割分担は大事」

「それに後になって考えたら、アレって結構危なかったかも。僕達がいなくなった後で、別の敵に襲撃される可能性を全然考えてなかった。ゴメン」


 僕らはなんとかフォローをしようしたのだけど、ソレが余計とハルちゃんを心を抉ってしまった……。


「そう言う話じゃ無いでしょっ!」


 バンッ! と、ハルちゃんはテーブルに両手をたたきつけて立ち上がった。

 怒声で食堂が静まりかえってしまう……。


「コレだって私の成果じゃ無い!」


 赤く染まった自分の冒険証を僕らの前に突き出してきた。功績はパーティ単位で認められた為、僕らのランクは皆同じだ。『彼女』にとってはこの色が屈辱の証として自分を苛んでくるのだろう。


 その表情が悲痛にゆがみ、幼馴染みの目から涙がこぼれた……。


「止めてよ! 責められるよりよっぽど辛いよ!」


 そう言い残し、ハルちゃんは食堂を飛び出してしまった。


 僕は直ぐに追いかけようと席を立ったが、シロさんに腕を掴まれて止められた。こんな時に俺達が何かを言っても逆効果だろうと。


 その通りだと思う。だけど心の中はモヤモヤとしてスッキリしなかった。それでも追いかけたいと思ってしまうこの気持ちは、僕のエゴなんだろうか……。


 僕らは重苦しい空気が漂う中、宿の好意を無駄にせぬ様、夕食を胃袋に詰め込んで部屋へ戻った。



 ―――― 一人きりの二人部屋……。


 結局、食事が終わった後も、僕はハルちゃんを追わなかった。


 何故かって……僕らはまだパーティモードを解除していなかったのだ。そのせいで、ハルちゃんが今どこに居るのか分かってしまったのだ。


 『彼女』が今居るのは修練場。


 ここは僕らにとっては異世界だ。帰る家も無ければ、思い出の場所も無い。そんな『彼女』が選んだ場所……。


 何を思いそこへ向かったのか。僕には想像しか出来ないけど、きっと『彼女』も変わりたいと思ったんだと思う。


 なら申し訳ないけど、ここはエルさんに頼らせてもらおう。僕らでは出来ない事も、彼ならきっと上手くやってくれる。


 僕は身に着けていた装備をテーブルに置き、肌着姿になって人心地ついた。


 膝を抱えて目をつぶると、耳の奥に残った言葉がもう一度聞こえた気がした。


『あ……り……がとう……』


 赤く染まった自分の冒険証と、そこにはまった治療術士のジョブメダル。ソレを眺めていると、少女がくれた感謝の言葉が心の奥にジワリと染みこんでいった。


「ヒーラーになって良かった……」



 ガシャン――――!


 置き方が悪かったのか、テーブルに乗せたポーチが転げ落ちてしまった。


 中身なんてほとんど入っていないけど、それでもこの世界で生まれた思い出の品々だ。まだ短いここでの生活を思い出し、一つ一つテーブルに並べていく。


 記念にと換金せずに持ち帰った大熊の魔石。思い返してみても身震いがしてくる。よく生き残れたものだ……。でも、ハルちゃんの気持ちを考えるなら、さっさと換金した方が良かったのかもしれない。


 魔石の他はチュートリアルの報酬とベティさんから貰った銀貨の計三枚。

あの日はベティさんと喧嘩っぽくなったり、おっぱい揉まれたり変な一日だったけど、アレが切っ掛けで仲良くなれたんだよな。


 そういえば、エルさんの初級ポーションも入れっぱなしだったな。残りは、ダミーメダルと、ウサ耳少女の物と思われる白地のジョブメダル……。落下の衝撃で留め具が外れ、鎖とメダルが分離してしまっていた。


「このメダル、目が覚めたら渡してあげなくちゃ」


 メダルを手に取り、病院のベッドで眠る少女が早く元気になる事を祈った。


「そういえば、コレって何のジョブなんだろう。ジョブメダルは誰のを使っても問題ないって言ってたよな」


 軽い好奇心から、治療術士のメダルを取り外し、白いメダルを冒険証にはめ込んでみだ。


 バチンッ! と通常の装着音よりも重い音が響いた。


「痛っ!?」


 手首を貫き、脳髄まで冷たい氷柱を押し込まれたような感覚。残響の様に目の奥で響く痛みを堪え、収まるのをジッと待った。


 左腕を見ると白いメダルにはブロックノイズのような模様が浮き出ている。ステータス画面を確認しても同じだった。ジョブ名はノイズだらけで読み取れない。


「結局何のジョブか分からな…………あっ!?」


 ステータスの下の方、特能を示す項目にもノイズが表示されている。


「ジョブ適正の特殊能力が……発現した?」


 内容は全く分からないが、このジョブに対して僕は適性があるらしい。ウサ耳少女が目を覚ましたら聞いてみよう。


 冒険証のイジェクト機能を作動させ、治療術士のメダルに戻そうとしたが、何故かメダルが外れなかった。機構を見るとロックは確かに外れている。焦って力任せに引き抜こうとしてもビクともしない……。



「嘘っ!? 人のメダル盗っちゃった!?」




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「――――――ッ!」


 月明かりの差し込む薄暗い病室。突如として少女の体が跳ね上がり、ギシリとベッドをきしませた!


 焦点の定まらぬ目は大きく見開かれ、顎が外れそうなほど開いた口は何かを叫んでいるようだが、その声帯が空気を震わせる事は無かった。


「ムッ!? 目覚めたか?」


 入り口で護衛を務めていた男が、少女に駆け寄る。彼は胸を掻き毟るように苦しむ少女を見て、即座に緊急用の呼び鈴を鳴らした。


 静まりかえった廊下に慌ただしく走る音が響き渡る。


「どうしました!?」

「ミーシェル先生! 少女が意識を……、いや何やら苦悶している様子」


 ミーシェルが【診察】を行うと、頭に激痛が走った。


「ッ!? これってユウちゃんのと似て……」


 少女の苦しみは収まりを見せないが、何かを探すように辺りを見渡している。


「安心して、ここは病院よ!」


 ミーシェルが落ち着かせようと少女の体に触れようとした時、少女の体が霞のようにかき消えてしまった。


 流石は手練れの冒険者と表すべきか、護衛の男は混乱に陥った頭を瞬時に切り替え病室を飛び出していた。


「ギルドへ向かう! 何かあればそちらへ伝令を!」


 耳鳴りするほど静まりかえった病室。


 一人残されたミーシェルは無言でベッドを見つめていた。


 乱雑にかき乱されたシーツ、直前までつながれていた点滴やカテーテル。それらを残し、少女の体だけが忽然と消えていた。

 本24話で一章が終了となります。


 現在一章での執筆経験をフィードバックさせつつ二章の執筆をしておりますが、十分な量のストックが無い状態です。二章のストックが溜まり次第更新を再開させて頂きますので、ここで一旦お時間をいただけましたら幸いです。


スローペースな展開や描写不足、筆力不足でご満足頂ける内容にはほど遠いかもしれませんが、ブックマークやご感想などいただけましたら幸いです。


それでは、『僕らのTS冒険記』第一章をお読み頂き誠にありがとうございました。

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