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僕らのTS冒険記  作者: 灰塵
第一章
21/88

21話 リア充爆発し……ました?

「ふん♪ ふん♪ ふ~ん♪」


 鼻歌交じりに姿見の前で身だしなみを整える。


 髪は赤いリボンでツーサイドアップに結い上げた。初めてでなかなか高さが合わなかったけど、どうにか見られる形にはなったようだ。軽く体をひねるように服装もチェック。よし、問題なしっ!


 今日は初めてのパーティークエスト。それはもう、ウキウキのワクワクで、気持ちが昂ぶって仕方が無いのですっ。


 晴れの舞台となれば身だしなみにも気合いを入れたい。だから、今思いつく最高の僕を表現してみたのだ!


「いよぉ! ユウ起きてるか!?」


 相変わらずノックも無しにドアが開け放たれる。そんなシロさんもウキウキが止められないらしく、少し頬が紅潮していた。癖のある赤毛を黒いリボンで結い上げ低めの位置でポニーにしている。防具の下に着込んだ服も初めて見る物だ。今日の為に用意しておいたのだろう。


「なんだよ、お前も気合い入ってるな!」

「ニシシ――――、当たり前さ!」


 僕は笑顔とピースサインでシロさんを出迎えた。


「オハヨー……」


 少し眠そうにあくびをしながら、カナさんも部屋に入ってきた。鏡に向かう僕の姿を目にすると、ちょっぴり驚いたように目を見開いていた。


「ユウ?」

「うん? 何?」

「何か、女の子だなって思った……」


 僕はパチパチと目を瞬かせカナさんを見た。何を言っているんだろうか?


「超~~~男だよ!? だってもうワクワクが止まらないし!」

「だよな~、初ダンジョン! 燃えるよな!」

「な~!」


 僕とシロさんはガシッっと腕をくみ交わす。


 自分達にとっては浮かれまくった悪戯小僧の気分だった。だけど、端から見ればおしゃれを気にしだした、初々しい少女に見えたのかもしれない。


 荷物の確認など念入りにやり過ぎてしまったのか、少し出発までに時間をとられてしまい、ギルドに着いたのは八時を少し回った辺りだった。


 僕達に気づいた受付の人がオルシバさんを呼びに行ってくれた。どうやら、初クエストの僕らを気に掛けてくれていたらしい。


「やぁ、おはよう。みんな気合いが入っているね。何だか僕までウキウキしてくるよ」


 彼は僕らをテーブルに案内すると、三枚のクエスト発注書を並べた。


「初挑戦の君たちにお勧めなのはこの三枚だよ」


 一つはワイルドボアの狩猟依頼。これは食材だ。

 二つ目はヒーリングリリーの採集依頼。一層の水場に生える白い花で、各種ポーションの材料になるのだそうだ。

 最後は討伐依頼。レッサーベアが採集ポイント付近まで出没するようになったので個体数を減らし、活動域を押し返したいらしい。


「この三枚は同時に受けてもらっても大丈夫だよ。レッサーベアだけは好戦的だから十分に気をつける事! それから、今回のクエストは達成できなくてもデメリットは無いから安心していいよ」


 僕らにはまだ判断基準が無いので、とりあえずギルマスの勧めに従って経験を積む事にした。という訳で三種まとめての受注となる。


「ところで、冒険証の機能は一通り確認したかい?」

「あ……」


 しまった、ジョブの事に手一杯で完全に忘れていた。


「うん、まぁ一度にやる事が出来ちゃうとそうなるよね」


 オルシバさんは自分のコンソールを公開しながら説明してくれた。


「パーティー登録をすれば、メンバーの位置情報をマップに表示できるし報酬の均等割も楽になる。他にもメール機能なんかもあるから早めに覚えておくと便利だよ。それでリーダーは誰にする?」


 事前に話し合った訳では無いけど、僕らの視線は自然とシロさんに集まった。社交性とかリーダーシップを考えたら彼女しか考えられないかな。本人もまんざらでも無いみたいだし。


 クエストカードがシロさんの冒険証にかざされると、僕らのリストにもソレが反映された。コレもパーティ機能の一つなのだろう。


 他にも緊急時の対応など、幾つかの注意や説明がなされ、僕らはその一つ一つを聞き漏らさぬよう真剣に耳を傾ける。


 そして、最後に一番大切な事と銘を打って教訓を諭された。


「いいかい、冒険において一番大切な事は生き延びる事だよ。生きてさえいれば次のチャンスはある。限界を見極め、常に余裕を持つ事!」


 今まで沢山の帰らぬ冒険者達を見送ってきたと、いつもは喜楽の感情しか漏らさぬ彼が、どこか寂しそうな空気を纏ったのが印象に残った。僕らにもそうなって欲しくは無いと贈ってくれた言葉だ。


「うん、無理はしない!」


 真っ先に返したカナさんの言葉に、僕らも頷いて返事とした。

 少し心配そうに見送るオルシバさんに別れを告げ、僕達は世界樹の麓へと向かった。




 直径三キロを超える大樹は実に馬鹿げたスケールだった。おかげで視界の全てが地面とその幹で埋まってしまい、次第に距離感まで狂ってきてしまう。


 その入り口も幅一〇メートル高さ二〇メートルにも及ぶ巨大な(うろ)で、管理の為に周囲を壁や建物で囲っているようだけど、とても塞ぎきれていない。


 入退場用のゲートの横には詰め所が併設され、何人も守衛が待機していた。


「壁だけ見ると、まるで刑務所みたいだね」

「ヤバイ物を外に出さないって意味じゃ同じかもな」

「でも、壁の外はまるで縁日みたい」


 品揃えは違えどギルド公認の販売所や換金施設、個人による露天まで立ち並ぶ様は、そう表しても違和感は無かった。他との比較なんて出来ないけど、ダンジョンの前ってこういう物なんだろうか。


「俺達以外にも結構パーティがいるな~」

「赤、緑、黄色……みんなアタシ達より上だね」

「そりゃ、さすがにな」


 そんな冒険者達に売り込みを掛ける行商人や、掘り出し物を求めるバイヤー、何やらチラシを配る人等々。ここは商店街に負けない賑わいを見せていた。


 まぁ、さすがに灰色等級の僕らに寄ってくる物好きは居なかったけどね。


 改めて世界樹を見上げると、僕の心は沸々と沸き立ってくる。ここから僕達の冒険が始まるのだ……。僕につられたのか、三人も同じように空を覆う大樹を見上げている


 決意に満ちた顔で拳を握りしめる僕達に気がついたのか、門番を務める男が新人の初陣を察して少し顔をほころばせた。だが、それも僅かの事。


「おい、そこの新人ども! ダンジョンに入るならここで申請だっ!」


 僕とシロさんはニッと口元に笑みを浮かべると、互いの拳をぶつけて一歩踏み出した。




 世界樹の入り口をくぐると、幹の内部にも関わらず奇妙なほど明るかった。まるで天井や壁が太陽光をそのまま透過しているように感じる。


 オルシバさんの話では低層ほど広い空間になっているらしく、高さは二〇メートル、広さは二キロ以上あるのだそうだ。


 そして今日の目的地である第一層。そこは高さ七・八メートルに及ぶ木々が乱立する森林地帯だった。


「木の中に森があるって変な感じだな。川の音まで聞こえるし」

「僕、ダンジョンって迷路みたいな物だと思ってた……」


 見えない膜でもあるのか、外縁部から一歩踏み出した瞬間それまでの空気とは一変して、むわっとむせ返る様な青臭い香りで満ち満ちていた。


「んじゃ、最終確認な。まずは採集場所へ向かう、その途中で討伐対象が見つかれば排除。豚は荷物になるから帰りに探す事。OK?」

「「「オッケー!」」」


 布陣は索敵能力の高いシロさんを先頭に、カナさん、僕、ハルちゃんの順だ。戦闘能力に乏しい僕を中央に配置して、バックアタックに警戒している。


 異世界に転移してからこっち、僕らがやったのはジョブの知識をかじった程度だ。だからサバイバルの知識も乏しく、今のところ完全に手探り状態で進んでいる。熟練者に見られたら勉強してから出直せとか言われそうだけど……。


「シロさん、少し東にズレてるみたい」

「OK~」


 採集ポイントは入り口から北東方向の小高くなっている辺りだ。これもオルシバさん情報だけど、低層階ではマップが使えると聞いていたので、僕がナビゲーションを担当をしている。戦闘や索敵で役に立たない分、こういう所で頑張らなくては!


 レンジャースキルには自分を中心に視野外の敵を感知する技能が有るらしいのだけど、彼女の練度ではまだ五メートル程しか感知出来ず、行軍時にはほとんど役に立たないらしい。達人になると五〇メートルを超える範囲の敵を余さず感知する事もできるのだそうだ。


 なので今は魔力で五感を拡張し、基本に忠実に目や耳で索敵していた。



「止まれっ! 何か居る!」


 シロさんは姿勢を低くして身を隠すと、手で伏せるように指示を出した。視線の先には、黒い体毛に覆われた中型犬のようなフォルムが見える。


「野犬でしょうか?」

「進行方向じゃないけど、狩っとく?」

「そうだな、後で背後突かれても厄介だし」

「ハルちゃん、弓で行ける?」

「うん、やってみる……」


 撃ち漏らして接近戦になる可能性に備え、僕はシロさんとカナさんにプロテクションを掛けておく。習得したばかりでまだ慣れないが、ソフトレザーの硬度で三分程持続するようにイメージを込めてみた。



 ――――さぁ、初陣だ!


 最後尾からハルちゃんが矢を放つ!


 野犬の奴も弦音に気づいたのはいい反応だった。だがその時には既に後ろ足は射貫かれ、甲高い悲鳴を上げる事しか出来なかった。


 命中と同時にシロさんとカナさんが飛び出し、一気に間合いを詰めにかかる。


 野犬は残った後ろ足で飛び去ろうとするが、シロさんの放った苦無がそれを許さなかった。刃は残る後ろ脚に深々と突き刺さり、まともに動く事もままならない。両足を穿たれた野犬は、もはやただの的でしかなかった。


 いち早く敵の元へとたどり着くと、カナさんが右拳を野犬の頭へと打ち下ろす。魔力の籠もった一撃は野犬の頭部を激しく地面に叩き付け、そして爆ぜた。


「うへぇ~っ!? カナ、お前オーバーキル……」

「うっさい! 初戦闘で加減なんて分かる訳ないし!」


 僕とハルちゃんもその場に駆けつけ……、ソレを見た事を後悔した。少々無残な結果になったけど、僕らの初めての戦闘は無事勝利に終わった。


 もちろん矢と苦無は回収して再利用する。


「で、コレどうすんだっけ?」

「絶命して五分程すると勝手に魔石化するけど、ジュエルナイフって武器で死骸を刺せば即時魔石化するらしいよ。あと、食材にする場合はジャマーを打ち込んで魔石化をキャンセルするって言ってた」


 残念ながら僕らはそんなナイフなど持っていない。なにせ販売価格が金貨三枚に迫るお高いアイテムなのだ。ジャマーの方はクエストに必要な為、受注時に三個配給されている。もちろん使わなかったジャマーは返却する事になるけど。


「魔石は換金アイテムなんだよな」

「うん、燃料や錬金素材に使えるから買い取ってくれるらしいよ」

「でも、毎回五分待つのは面倒……」

「血の臭いで獣が集まってきたり……しませんよね?」


 シロさんを筆頭に、全員で周囲を警戒していたが、幸い他の獣が集まることも無く魔石化の時間を迎えた。死骸はうっすらと光に包まれると、ガラス質の黒い石ころへと変貌して地面に転がった。


 飛び散った血や肉片など、野犬に由来するもの全てが消え去ってくれたのは微妙にありがたい仕様かも。返り血が染みにならずに済みそうだ。


「小っさ~!」


 カナさんがつまみ上げた魔石は直径一センチにも満たないおはじきだった。


「上級モンスターになるほど大きく綺麗な色になるんでしたっけ」

「まぁ、ちっぽけな魔石でも俺達の初戦果だな」


 その後、採集場所に着くまでに、討伐対象のレッサーベアを二体発見したがコレも先制攻撃に成功したため、あっさりと片が付いた。一層ではカナさんの火力は過剰らしく、どちらの戦闘でも無残な死骸が転がる事となった。


 僕は毎回プロテクションを掛けているものの、ここまでの戦闘では効果を発揮する事は無かった。攻撃を食らわずに済むのなら、その方が何倍も良い事だけど。


 しかし、こう言ってはなんだけど、所詮は初級クエストだね。僕らは何の苦も無く目的地へとたどり着いてしまった。正直、気合いを入れてきた分ちょっと拍子抜けに感じてしまう。今日の為にジョブの鍛錬をみんな頑張った訳だし……。


 いや、いけない、いけない。『あやまちは、やすき所になりて……』なんて教訓もある。気を緩めるのは家に帰ってからにしなくちゃ。


 慎重に周囲を確認しながら木立を抜けると、そこには小さな泉があり、そのほとりには白い花が群生していた。


「わぁ! 綺麗な場所ですね」


 感嘆の言葉を発したハルちゃんだけでなく、みんなその光景に目を奪われていた。ダンジョン内でなければ、今日みたいな週末にはピクニック客であふれかえっていてもおかしくない風景だ。


「咲いた状態の花を三〇本だっけ?」

「そうそう、取り過ぎてもリポップが悪くなるから、一回の発注数を絞ってるんだって」


 僕らがそんな話をしながら花畑へと踏み出すと、どうやら先客がいたらしく、小柄な少年と少女の二人組が声を掛けてきた。


「こんにちはー、貴方たちも採集クエストですか?」

「はい、同じクエストを受けたみたいですね」


 彼らも駆け出しのようで冒険証は灰色をしていた。男の子の方はショートソードとバックラー、女の子は短杖、どちらも僕らと同じ駆け出し装備だ。だけど防具の方は普段着のまま……。


 少し心配だけどこれまで戦闘から判断すると、一層なら防具無しでもさほど危険は無いかもしれない。僕らはジョブの鍛錬を優先したけど、一層ならいきなりダンジョンに突入していても問題なかったと思えるレベルだった。


 周囲の警戒はシロさんに任せ、彼らに混ざって僕らも採集を進めていった。


「二人は恋人同士?」

「え? そんな関係じゃ……」


 同年代の男女が二人きりでパーティを組んでいれば、カナさんでなくてもそう思ってしまうだろう。問い掛けに慌てて否定しかけた少年だったが、少女が膨れて少年の裾引っ張るので答えを肯定に切り替えていた。


「えっと、はい……」


 カナさんはヒューヒューと口元に手を当てはやし立てている。なんて初々しい。幸せオーラ出しまくりで正直羨ましいぞ!


 彼らの方にも僕らが同類と映ったのか、照れながらも聞き返してきた。


「皆さんもそんな感じですよね? 男女二人ずつですし」

「どうだろ? 合ってる様な、微妙に違う様な? もうちょい複雑な関係?」

「君たち程じゃないけど、僕達も仲は良いと思うよ」


 僕がそう言うと、二人とも照れてしまった。


 既に採集を終えていた二人は、僕らとの会話に付き合っていたけど、早く二人だけの時間に戻りたいらしくソワソワする気持ちが僕の方まで伝わってきた。


 あまり野暮をしても悪いか……。


「それでは、僕らはそろそろ戻りますね」

「はい、お気をつけて」


「では」と会釈する彼の陰に隠れ、少女もぺこりとお辞儀した。内気な彼女さんだなぁ。それでもしっかりと手はつないでいる辺り、その内側には強い気持ちもあるのだろう。


 話しながら採集を続けていた僕らも、三人で分担したおかげで早々に指定数分の花を回収する事が出来た。


「三〇本っと。荷袋はユウに任せて良い?」

「分かった。僕が一番戦闘しないしね、荷物は持つよ」


 麻袋の紐を鞄のベルトに括り付けようとした時だった。重量感のある足音が近づいてくるのをシロさんの耳が捉えた。


「おい、お前ら! 何か来るぞ! 気をつけろ!」


 そう叫び、藪の中へと踏み入ろうとしていた先の少年達に警戒を促した。



 彼らのパーティにレンジャーが居たなら、結果は違っていたのかもしれない。藪の中に何を見たのか、少年達はきびすを返し、慌ててこちらへと戻ろうとした。


 だが、まるでつられるように大きく黒い塊が藪から飛び出す!


 ソレは四足で走る姿ですら体高一メートルを超える大熊だった。姿形はレッサーベアのソレだがサイズが通常の何倍もある。


 彼我の速力差に逃げ切れぬと判断したのか、少年は少女を脇へ突き飛ばすと振り返り様に剣を引き抜いた。


 バックラーで攻撃をいなし、一太刀浴びせようとしたようだが、掬い上げるように振り上げられた大熊の豪腕により、少年の体は宙を舞い血しぶきが散った。


「嫌ぁぁぁ――――――!」


 二本脚で立ち上がったそいつの体高は、実に二五〇センチを超えていた。


 血まみれで動かなくなった少年に興味を無くしたのか、そいつはそばで騒ぐ少女へとにじり寄る。


 少女は腰を抜かしたのか、大熊が眼前に迫っても身じろぎ一つ出来ずにいる。だがそんな事などお構いなしに、大熊は少女の肩口に噛みつくと、そのまま藪の中へと引きずっていった。


 耳をつんざくような絶叫だけが、悲痛に木霊していた……。

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