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僕らのTS冒険記  作者: 灰塵
第一章
2/88

2話 あれ、四人いますよ?

 閉じた目蓋さえ突き抜け、強烈な光が目の奥を焼いてくる。


 視神経を針で刺す様な痛みに、僕は堪らず両手で目を覆った。必死に痛みを堪え、一歩また一歩とゆっくり歩を進めていく。


 皮膚がチリチリと焼けるようだ……。熱は体の奥底まで浸透し、お腹の底からカッカと火照ってくる。


 まさかこのまま焼け死んだりしないよな? 神様のニヤついた笑みを思い出すと不安に襲われてしまう。


 不意に光が和らぐと、目を覆った手のお陰でようやく闇が訪れた。僕は恐る恐る目を開けゆっくりと顔から手を離していく。




 ――――そこは一面緑の世界だった。


 穏やかな日差しが降り注ぎ、若草生い茂る大草原。どうやら巨大なカルデラの外縁部に降り立ったらしい。そしてその中心には、神話を彷彿とさせる大樹が雲を突き抜けそびえ立っていた。


「うわ~……、でっかい樹……」


 僕の呟きとハモる様に清澄(せいちょう)な少女の声が聞こえてきた。驚いて辺りを見渡してみてもそれらしい人影は見当たらない。まさか……。


「これ、僕の声?」


 長年慣れ親しんだ声とは全く違う音域。だけど喉に手を当ててみると、声が聞こえる度に触れた指先が振動を感じ取る。間違いなく自分の声のようだ。


 手も指も、毎日目にしていた物とはまるで違う。僕の手はこんなにも白く細長い指じゃなかった。髪の色や長さも以前の自分とは完全に別物になっている。


 どうやら性別だけでなく、容姿が別人の様に改変されてしまったらしい。



「ぬぁ~! 目が痛てぇ~!」


 誰も居なかったはずの背後から、突然声がしてビクリと背筋が伸びた。一瞬、幼馴染みの声かと思ったけど、彼女の声にこんな力強さはない。


「おぉっ! 銀髪美少女発見! って、これ俺の声か?」


 外見にそぐわない一人称と仕草。癖のあるセミロングの赤毛を携えた少女がそこにいた。彼女もまた自分自身に違和感を感じているようだった。


 正確な背丈は分からないけど、おそらく小柄な方だろう。同じ高さに立っているのに、少女の顔を見ると僕の視線が少し上向く。今の僕はそんな彼女よりも背が低いのか……。


 彼女も僕と同じ股下二〇センチ程の白いノースリーブ姿。幼さを残す容貌に反して、たわわに実った大きな胸が窮屈そうに服を押し出している。その先端が刻む皺がまるで集中線のように、僕の目を二つのポッチへと吸い寄せてしまった。


 ゴクリ……と唾を飲み込む音が頭の中に響き渡る。


 女の子に耐性の無い僕は、抗いようも無く顔が熱くなってしまった。よく分からないけど、Gカップぐらい有るんじゃないかな……。


 鼓動を落ち着かせようと視線を落とした時、自分の胸元にも彼女と同様の突起が浮き出ている事に気がついた。彼女に比べれば幾分……いや、かなり小振りだけど、自分も男の胸とは違うモノへと変化してしまったらしい。股間の凹凸もすでに反転してしまったようだ……。


 体や環境の変化にばかり気が向いていたけど、落ち着いて辺りを見回すと赤毛の少女の他にも少年が二人立っていた。一人は黒髪で格闘家の様に引き締まった体つき。もう一人は四人の中で一番の長身、白髪に褐色の肌をしていた。




「しかしよぉ……」


 少女が苛立ち紛れに声を漏らすと、みんなの視線が集まった。


 少女は一同を見渡し、内気そうな褐色の少年に狙いを定めると、彼の胸倉を掴んだ。少年を引き寄せるつもりだったのだろうが、三〇センチ近い体格差のせいで、自分の体の方が浮き上がり、爪先立ちになっている。


「お前がグダグダすっから、神さんブチキレたじゃねぇか!」


 彼女は彼我の体格差など気にする様子もなく、褐色の少年に食って掛かった。突然の事で困惑する彼に、もう一人の少年が助け船を出す。


「シロウ、そいつ違う」

「あん? あぁ、そうか今男なら元は女だな」


 少女は勘違いを指摘されると、即座に褐色の少年を放り出す。そして今度は、眉尻を吊り上げながら僕の方へと詰め寄ってくる。


 迫力に圧され本能が無意識に後ずさろうとしたけど、少女の手の方が僅かに早く僕の胸ぐらを掴んだ。そして、彼女が思いきり腕を引くと、今度は僕の方が軽いらしく、つんのめる様に引き寄せられてしまった。


「俺はどんな冒険でもクリアしてやるさ! だけど、アレはどう考えてもお前らに巻き込まれたとしか思えねぇ!」

「レバーに触れた瞬間、玉が落ちたし。同じ番号だったし」

「神さんの奴、ムカついたからもう一組同じところに送ってやる、って感じだった」


 確かにあの神様ならそんな事をしかねない……。


 そして、彼らの言う事はもっともだとも思ってしまった。


 僕が引き当てた『TS迷宮踏破』なる物は、正直今からでも辞退したい。だけど自分が引き当てた結果だと思えば、まだ諦めも付く。彼らにしてみれば、くじを引くチャンスすら奪われて、勝手に行き先を決められてしまったのだ。そんな事になったら僕だって腹が立つだろう。


「ごめん……僕、そんなつもりじゃ……」


 元から我慢強い方じゃないけど、この体はそれに輪をかけて涙もろいらしい。二人に責め立てられ、僕の目尻から勝手に涙がこぼれてしまった。


「~~~~っ! くそっ! 一発殴ってチャラにしようと思ってたが、お前、反則だろ!」


 彼女もまた元男という意識が有るせいか、僕の泣き顔に狼狽えているようだ。


「なぁ、お前カナだよな? 俺どうしたらいいと思う?」

「デコピンで良いんじゃない?」

「あぁ~、それだっ!」


 少女はペロリと舌を出して自分の唇を湿らせると、中指を親指に引っ掛けて力を溜め、僕の額へと一気に解放した。


「い、ギャッ……!」


 容赦の無い一撃に、僕は目から火花が飛び散ったかと思った……。


 彼女は大きく深呼吸すると、自分の両頬をパンパンと叩き「よし!」と気合いを込めている。


「グダグダすんのは好きじゃねぇし、コレで終いだ! 俺はシロウ、お前は?」


 額を押さえてうずくまる僕に、少女が手を差し出してきた。


「ユウキ……」


 彼女の手を取り、僕も名を明かした。


 僕が起き上がると、シロウさんの表情からは既に怒りの様相が抜け落ち、歯を出して笑っていた。切り替えの早い人だ……。


「アタシはカナタ、シロウのペア。よろしく」


 赤毛の少女に続き、黒髪の少年も名を告げてきた。身長はシロウさんより二〇センチ近く高い。服から覗く手足は細身だけど筋が浮き出ていて、格闘家の様な脂肪の少ない体つきをしていた。



 ――――そうすると、残った褐色の少年が……?


 僕はその少年の顔を見上げると、幼馴染みの名前を呼んでみた。


「えっと、ハルちゃん?」

「うん……、ハルノです。よろしくお願いします」


 ハルノと名乗った少年が僕の幼馴染みの新しい姿だった。


 四人の中で一番の長身。やや細身だけどしっかりと筋肉の付いた体付をしている。カナタさんが格闘家なら、ハルちゃんはスポーツ選手といった印象で、瞬発力と持久力のバランスが良さそうだ。


 精悍(せいかん)で凛々しい顔立ちなのだけど、その表情は怯える様に眉尻が下がり、外見に似合わない弱々しい返事が返ってきた。面影は全く無いのだけど、その仕草や口調は間違いなく長年見てきた幼馴染みの物だった。


 しかし、以前は僕の方が少し背が高かったのだけど。今の僕は彼の腋の下に余裕で潜り込めるくらい背が低い……。四〇センチは身長差が有るんじゃないか?



「でも、普通は二人なのに四人で攻略できるって、得したかもしれないですね」

「「「あ……」」」


 ハルちゃんの指摘に、あちらの二人組がバツの悪そうな顔になってる……。


 確かに、攻略を目指すなら、同じ目的の人間が多い方が良いに決まってる。ここはウィットに富んだ話術で場を和ませるしかない……。


「フッ……、計画通り!」

「嘘つけッ!」


 食い気味に否定されたよ……。それでも、多少の切っ掛けにはなったようだ。


「その、悪かったな……」

「こっちこそゴメン」

「デコピンの仕返しでもしとくか?」


 なんて言って、彼女は前髪を掻き揚げ、ズイッとおでこを差し出してきた。同害復讐なんて意味ないし、そもそも僕が悪かったのは事実なんだから。


 僕は胸元に挙げた両手を振って丁重にお断りしておいた。


「いいよ、有利な条件になったのは、ただの怪我の功名だしさ」

「つっても俺の方もスッキリしないしなぁ。んじゃ、お礼代わりって事で……」

「いや、お礼も別にぃぃ――――!?」


 彼女は僕の両手を掴むと、何の躊躇もなく自分の胸に押し付けた!

 僕の指先が彼女の膨らみにモニュッと沈み込む。


「中身男だけどよ、触り心地は本物と変わらないだろ」

「うわっ! 嘘!? こんなに柔らか……えぇぇっ!?」


 だけど、そんな柔らかさの中に、手のひらをツンと突っついてくる先端を感じる。ソレが何なのか理解した時、もうそんな必要なんてないのに、つい前屈みになってしまった。


 シャツ越しとはいえ、初めて触った女の子の胸の感触……。それなのに嬉しいとか、触り心地を楽しむとか、僕にはそんな余裕なんて全然なかった。


 やばい……、頭の処理が追いつかない。頭に血が上り、顔が紅潮していくのが自分でもよく分かる。



 ポタッ……ポタッ……


「おまっ、鼻血出てるぞ!? まさか揉んだの初めてか!?」


 慌てて鼻を押さえて反論する!


「う、うるさいなっ! 君はどうなのさっ!」

「カナのならよく揉んでたぞ?」


 そう言いながらカナタさんの逞しくなってしまった胸板をペチペチと叩いている。元女の彼も特に照れた様子もなく「いやん」とか言って、悪戯っぽく胸を庇う仕草をしている……。


 ――――くそっ、何だか男としてすごく負けた気がする。

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