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僕らのTS冒険記  作者: 灰塵
第一章
14/88

14話 強引に入れちゃダメ!

 ぼ~っとする頭でモソモソと体を起こす……。


「痛っ!」


 学習しないなぁ、僕も……。今朝も自分で髪を引っ張ってしまった。髪の長い女の子は寝る時どうしているんだろうか。


 ベッドの縁に腰を掛け、頭が覚醒するのを待ちながら同居人の寝顔を眺めた。


 まだ見慣れていない『彼女』の新しい顔。精悍な顔立ちで格好いいと思うのだけど、僕にとっては同性の顔だ。そこに異性に対する感情は全く湧いてこない。だけど、その内側に存在する幼馴染みの心を想うと、自然と口元が緩んだ。


 さてっ! と頭と体を覚醒させるべく伸びをする。薄手のシャツが引っ張られ、胸元のポッチが浮かび上がってしまった。そういえば、と思い出して着ているシャツをつまんだ。


「昨日、お風呂で倒れたんじゃなかったっけ?」


 僕はちゃんとシャツを着てベッドで寝ていた。シャツの裾をまくると、きちんと下着も穿いている……。


 実に奇想天外、摩訶不思議、ミステリアスな事件に謎は深まるばかりだ! 僕は考察する。そう、あえて考察する!


 ケースⅠ。実は無意識に自分で着替えて無事ベッドにランディング! コレがベストだけど、さすがに希望的観測が過ぎるだろうか。


 ケースⅡ。物音に驚いたハルちゃんが救援を呼び、女将さん参上。母親のごとく、呆れながらも事務的に処置完了という流れ。さっきのよりは有り得る! でも、やっぱり可能性は低そう。


 ケースⅢ。ハルちゃん。意識を失う直前にハルちゃんの声を聞いた気がする。そのまま、救助に入って、拭いて、穿かせて、というコース。


 順当に考えて、まず間違いなくコレだろう。だけどあえて逃避したい! 全裸で鼻血を流しながら気を失うという新たに誕生した黒歴史。それを余すところなく幼馴染みに見られたという現実から!


 あぁぁぁぁっ! と心の中で叫びながら、頭を抱えてベッドの上を転がる!


「おはよう、ユウ君」


 転げ回って髪はボサボサ、シャツはめくれ上がってお腹丸出し。そんなみっともない格好で『彼女』と目が合ってしまった。


「ハル、ちゃん?」

「顔赤いよ? また鼻血出ちゃうよ?」


 僕はぴょこんとベッドの上に正座して身だしなみを整える。


「あのぅ……、ハルちゃんが僕を? その、見ました?」

「う、うん。ユウ君、他の人に見られる方が嫌かなと思って私が」


 正座したまま頭を抱えてうずくまる。

 やっぱり正解はケースⅢか――――!


「いつも自分の裸を見て鼻血出してるね。ユウ君のエッチ……」


 昨日のノリのまま、ハルちゃんはちょっぴり僕をからかってくる。だから、身悶えるような恥ずかしさを誤魔化そうと、僕もちょっぴり仕返ししてみた。


「そ、そう言うハルちゃんはどうなのさ、男の裸はもう見慣れたの?」


 僕の反撃を予想していなかったのか、ハルちゃんは目を丸くして驚くと、頬を染めてそっぽを向いてしまった。


「ユウ君のエッチ!」


 同じフレーズなのに全然意味合いが違って聞こえるから不思議だ。




 僕らは身支度を整えると、手早く朝食を取り、四人そろって宿を出た。


 ようやくジョブも決まり、それに合った武装と、不足を感じた生活用品を調達する為に商店街へと向かったのだ。


 やって来たお店は、チュートリアルに載っていた店舗の一つ。『装備を調えよう』の項目はエルさんとのトレードで終わらせたので、初心者用の装備を扱う店に来るのは今日が初めてだった。


 駆け出し装備は修練場の武具と同じ物で変に尖った仕様も無く、使用感を知っているので安心して購入できた。


 ハルちゃんはバックラーとショートソード、それに弓と矢を。シロさんは双剣と投擲用の苦無を六本。カナさんはナックルだ。


 それに加えて三人は革製のプロテクターを購入した。籠手装備は左の手首にプレートが付いていて、冒険証と連動する機能が付いている。鎧を着た時に冒険証が使えないのは不便だもんね。


 僕の装備はブレスレット型の魔道具と双剣、ショールの様な短いマントに決定した。


 魔法職用の装備は魔力消費を軽減したり、威力を底上げしてくれる補助道具という扱いになる。杖にしようか迷ったのだけど、そちらは火力重視でキャスター向きな事と、両手が自由になる事を優先した。ヒーラーの場合は下手に威力が上がると出力調整がし辛くなって困るのだ。なので魔法の持久力を底上げしてくれるタイプを選んだ。


 しかし、応援価格とはいえ武装となればそれなりの金額が飛んでいく。この上、宿に一ヶ月間泊まることを考えると、支援期間が終わるまでに金貨一枚分ぐらい稼ぐ必要がありそうだ……。まだお金を稼ぐ手段の無い僕らにとって、それがどの程度大変なのか判断がつかず、不安ばかりが膨らんでしまう。


 ちなみにこの世界の貨幣は銅、銀、金の順に価値が上がり、それぞれの交換レートは百対一。銀貨一枚は銅貨一〇〇枚と同額となる。


「カード破産一直線になりそうで怖ぇ~な……」


 シロさんがポツリと漏らした。僕も今日からクエストを頑張ろう……


 武具店を出た後は雑貨店や衣料品店も回り、替えの服やその他日用雑貨を揃えた。


 そうそう、忘れてはいけない必需品。僕はお団子カバーを手に入れた! これで寝起きに髪を引っ張る事もなくなるだろう。他にもシュシュとかリボンとか髪をまとめる小物を幾つか買っておいた。


 男だった時とは髪の長さが違いすぎて違和感や邪魔臭さもあるけど、コレだけ綺麗で長い銀髪を切るのは勿体ない。というか、結構気に入ってる。


 真冬にミニスカートを穿いていた姪っ子に「寒くないの?」と尋ねたら「お洒落は根性でするの」と返ってきた事を思い出した。その言葉の意味が少し分かった気がする。


 荷物を置きに宿へ戻った後は、今日もそれぞれの養成所へと向かう事になった。




 そして、今日もやって来ましたヒーラー養成所。相変わらずチラチラと見られるけど、原因さえ分かってしまえばどうという事もない。


 タイミング良くミーシェル先生の枠が空いていたので、昨日に引き続き講義をお願いすることにした。ついでに昨日のお風呂場での事も相談してみようかな。


 ミーシェル先生は今日もニコニコ顔と優しい声で僕を出迎えてくれた。先生の包容力溢れるオーラは、お姉さんというよりもお母さんという印象でとても癒やされる、まさに母性って感じ。


 講義室に入った僕はミーシェル先生に促されるまま丸椅子に座った。



 ――――ただし、座面の上に正座をする格好で……。


「ユウキちゃ~ん? 私が昨日の帰り際に何て言ったか覚えてる?」

「えっと、まだ人に回復魔法を使っちゃダメって……」

「何で使っちゃったのかな~? 言い訳があるなら一応聞くわよ~?」


 なんだかとっても圧が凄い! 僕は冷や汗を流しながら床を見つめていたけど、それでも反論せねばなるまい。


「僕ちゃんと守りましたよ? 人には使ってないです。ただ、鼻血が出たから自分で治そうと……」

他人(・・)に、では無く人間(・・)に使っちゃダメって事よ!? とんち勝負でもしたいのかしら~? ウフフ~~」


 表情はいつもの笑顔だけど、こめかみに青筋が浮いている。底冷えする表情とはこういう物を言うのだろうか。先生と生徒ではなく、まるで母親に睨まれた悪戯小僧の様な心境だった。


「でも、間違った治療を行えばどうなるか、身をもって体験できたわね」

「自己治癒力を促進すれば傷口が塞がると思って……」


 先生はできの悪い生徒に嘆息した。


「それは認識が間違っているわ。あなたが使ったのは活力を与える魔法よ。元気になった結果として治癒力が促進されるの。つまり、鼻血が出ている人をより一層興奮させた様な物なの」

「すみません……」


 出来の悪い僕でも今ので理解しました。


 先生の小言が終わると、崩した脚にじ~んとした痺れが襲ってくる。この痺れ、魔法で消してくれないかな~って、ちらっと先生を見たけど……。あ、はいダメですよね、一目で分かりました。


「それじゃ~、今日は実際の治療を想定した講義を行うわね」


 今日用意されたのは、籠に入ったラットだった。小さなその生き物は、うずくまったまま鼻先をヒクヒクさせてじっとしている。見ればその脇腹には最近負ったと思われる大きな傷跡があった。どうやらあまり元気がないようだ。


 まぁ、元気だったら教材にならないか。


「今日癒やす対象は生き物です。それを肝に銘じるように!」

「はい!」


 先生は僕と向かい合う様に椅子に座ると、身を乗り出す。


「質問よ。人を病気にする魔法と人を癒やす魔法、この違いは何かしら?」


 何だろう、質問の意図がよく分からない。違いも何も、全く別の魔法では?


「攻撃魔法と回復魔法の違い……ですか?」

「そうね、でも本質は同じ物なの」

「えっ!? 病気にする魔法と、治す魔法がですか!?」

「昨日の自分の鼻で体験したのでしょう?」

「うっ……」


 確かに僕は間違った使い方をして鼻血を悪化させてしまったけど。でも、それは単純に僕のミスであって、回復魔法と攻撃魔法が同じという結論にはならないと思うのだけど……。


 先生は乗り出した体を戻すと、質問の意図を紐解いた。


「魔法で体に干渉する行為は全て『攻撃』なの。たとえそれが良い結果をもたらす物だとしても体は無意識に拒絶してしまうわ。それが魔法抵抗力という物よ」


 魔法抵抗力。ゲームでは耳する事のある単語だけど、ソレを意識するのはこちらが攻撃する時で、ヒーラーが気にする様な物ではない印象がある。回復行為も『攻撃』だという先生の言葉の通りなら、一応当てはまるのか。


「だから回復魔法をかける時には、患者さんに魔法抵抗力を弱めてもらって、魔法を受け入れる準備をしてもらう必要があるの」


 まずは実際に自分の肌で感じてみなさい、と先生はラットの籠を僕の前に差し出した。うずくまるラットの【診察】結果は、全身が黄緑色、塞がったばかり傷は橙色だった。纏う輝きも弱々しく、色が薄い……。


「ゆっくり、優しく【活力】を注いでみなさい」


 僕は籠に手をかざし、ゆっくりと魔力を送り込んでいく。しかし、どうにもラットの体表で弾かれている感覚がある。もう少し出力を強くするべきだろうか。


「は~い、ストップ! それは間違いよ。ムリヤリ魔力を体にねじ込むなんて、まさしく『攻撃』でしょ?」

「……」

「焦らないの! 今は魔法を抵抗される感覚を知って欲しかっただけだから」


 回復も『攻撃』だと言われたばかりなのに、自分の魔力操作ばかり意識してすっかり忘れていた。


「それじゃ~、アプローチの方法を変えてみましょうか。『安心して下さい、私は味方ですよ~』って気持ちになって、ラットの体の周りに魔力を纏わせてみて」


 相変わらずそんなやり方で良いのか? と思ってしまう魔法の仕様だけど、意識やイメージが魔法の根幹なのだから、そういう物だと思うしかない。気持ちを切り替え、ラットの体表を僕の魔力で包み込み、気持ちを込めていく。


「あ……」


 活力を送ろうとした時と違い、今回は魔力を表面に纏わせただけだったのに、僕の魔力がジワリとラットの体に染みこんでいくのが分かった。


「変化を感じたかしら? それじゃ、もう一度活力魔法を使ってみなさい。 ゆっくり軽めに掛けるのよ?」


 さっきは体表で弾かれていた僕の魔力が、今度は何の抵抗もなくラットの体へと吸い込まれていく。


「はい、そこまでよ!」


 ビクリとして慌てて活力提供をストップする。


 先生が手を打ち鳴らして止めるまで、他の事に全く意識が向いていなかった。危ない……、スライムの二の舞にするところだった。


「自分の治療結果を【診察】してみなさい」


 言われるままに魔力で五感を研ぎ澄ませ【診察】を行うと、傷口は橙色のままだったが、ラットの全身は綺麗な緑色で包まれていた。運ばれてきた時はうずくまっていたラットが、今では籠に足を掛け元気に動き回っている。


 自分が受け入れられ、目の前の小さな命が元気を取り戻したことに思わず感動してしまった。


「おめでとう、これで貴方も治癒術士よ」

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