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僕らのTS冒険記  作者: 灰塵
第一章
10/88

10話 そのエルフ、無乳につき

 僕達は今日も修練場を訪れていた。


 決め打ちするよりも、広く浅く体験してからジョブを決める為だ。



 ガッ! ガガッ! バキィッ! ヒュバッ!


 鋭い風切り音と共に、リズミカルに打撃音がこだまする!


 黒髪の少年は、両の拳に装着したナックルを案山子(かかし)へと叩き込んでいた。流れるような体捌きで左右のコンビネーションを叩き込むと、即座に右へ距離をとり、フェイントを掛けるようなステップで背後へ回り込む。駆け抜ける勢いそのままに体をひねり込むと延髄へとかかとを叩き込んだ。


 そこへ小柄で恰幅の良い男の檄が飛ぶ。


「いいぞカナタ! 格闘家は足を止めて打ち合う物じゃ無い。基本は一撃離脱だ。動いて、動いて、攪乱(かくらん)する事を意識しろ!」


 その隣では褐色の少年が、ショートソードを片手に案山子の表面を浅く削っている。その動きはどことなくナイフによる戦闘を彷彿とさせる小さな動きだった。


「ハルノ! お前はもっと腰を入れろ! 小手先で剣を振り回すな! お前の体格なら案山子ぐらい両断できる筈だ!」


 そして、そのさらに隣では、少女達が自分の背丈程もある、巨大な剣を手に案山子に挑みかかっている。そう、僕とシロさんだ。



 ――――――フンヌ~~ッ!


 顔を真っ赤にして繰り出す渾身の一撃! 案山子よ、僕の必殺スキルで貴様は死ぬのだ!


 ガッ! という鈍い音を立て鍔元(つばもと)が案山子に食い込む。しかし案山子の奴もコレでなかなか芸達者な反撃を披露しやがるのだ。


 奴は剣が触れたところを支点に刀身の重量を活かし、テコの原理で僕の体を振り回す! そして僕は両手で剣を握ったまま投げ出され、潰れた蛙のように顔から地面にダイブした。


「大剣の二人! シロウの筋は良いがパワー不足だ。ユウキ! お前はさすがに論外だ! 体の方が振り回されてるぞ!」



 ――――大剣は男のロマンだろー!? ちくしょ~!


 とまぁ、僕の嘆きはさて置き。


 僕達は指導員の下で様々な武具やスタイルを試していた。


 適性は昨日チェックしたけど、実際に自分に合うかは試してみなければ分からない。ナックル、ナイフ、長剣、槍、斧、鞭などなど、近接武器を一通り試し終える頃には昼飯時となっていた。


 とりあえず、弁当でも食べながら所感を話し合っておこう。



「僕は近接武器なら双剣かな~。筋力と体重のせいで重い武器は相性が悪いし。その点ナックルは良かったけど、足技で転びまくったよ……」


 初日の転倒回数は伊達じゃ無い。この体の筋力、特に体幹が弱いのはファイター的には致命的だった。ただ、どんなジョブをやるにしても身体機能は鍛えておきたいと思ってる。


 しかし、オールラウンダーなんて言われたのに、この近接戦闘との相性の悪さは何なんだろう……。


「俺も双剣かな。他にはレイピアが割と好みだったかも。片手剣ならそこそこやれそうな気はするけど、タンクは体格的に無理だな」


 僕よりは体格に恵まれているとはいえ、そこはシロさんも女の子。小柄な体では近接職に向いているとは言えない。中距離なら持ち前の運動神経で及第点といったところだろうか。それでも一撃必殺ではなく手数勝負になりそう。


「アタシはナックル一択っぽい。ジョブは格闘家で決まりかな」


 これは見た目通りだったかも。カナさんのナックルとの相性は抜群だった。リズミカルに案山子を打ち据える姿は、格闘と言うよりも舞踏と言えるほど美しく、その上一撃一撃も非常に重い物だった。


「私は……接近戦そのものが苦手です。どうしてもって言うなら、盾で守りながら戦える片手剣が一番安心かな」


 最後はハルちゃん。僕らのパーティーでは間違いなく一番良い体格だ。元男の僕としては嫉妬すら覚えてしまう程に。


 どの武器も基本を教わっただけで扱えるようになってしまったし、センスもズバ抜けているようだ。ただ、指摘されたように小手先で武器を扱う癖がある。こればっかりは『彼女』の性格なので仕方がないのかもしれない……。


 体格やステータスも大切だけど、それ以上に性格による向き不向きが重要ってことか。


 僕らにとってのベストな形は、どんな感じになるんだろうな……。まぁ、まだレンジャーや魔法職を試してないし、結論を急ぐことも無いか。


 サンドイッチを食べ終えて一服していると、エルフの女性が僕達の輪に加わってきた。


「シロウというのはお前たちのメンバーか?」

「俺がシロウです」

「む? 男の名前かと思ったがお前か。この後、レンジャーと魔法の指導を務めるハーシャンティアだ。ハーシャと呼んでくれ」

「よろしくお願いします」


 例に漏れずというか、エルフという種族は本当に美形揃いだ。細身で長身の体に輝くような金髪。細い眉に切れ長の目。その彫像の様な造形に思わず見惚れてしまう。


 だけど、僕らを見るハーシャさんの目には、睨み付ける様な凄みがあった。物語では排他的な種族として描かれることの多いエルフだが、エルさんを知っている僕らは、エルフに対してそういう印象は持っていなかった。出来ればハーシャさんとも友好的な関係を築けると良いのだけど……。


 休息は十分にとれていたので、早速彼女の指導を仰ぐことにした。


 僕らが受け取った弓は練習用という事で、弦はかなり弱めに張ってある。まずは矢を番えずに射の姿勢を教わることになった。


「弓は腕で引く物では無い。背中を意識して使え。射線を覗き込みすぎるなよ、長弓なら耳が飛ぶぞ!」


 弓を引き絞った姿勢のまま、彼女に腕や頭の位置を修正されていく。弱く張られた弓とはいえ、慣れない僕らが引くには十分に重い。僕らは姿勢を維持したまま、全員の射形が整うのを待った。


 そこへ、事務仕事に追われていたエルさんがフラリとやって来た。昨日、目を掛けた新人達が気になったのだろう。


「おや、ハーシャが彼らの指導を担当をしていたのかい? ……って、ちょっと待っ――――!」

「構わん! 放てぇ――――っ!」


 エルさんが慌てて声を上げたが、ソレを遮るようにハーシャさんの鋭い発令が耳に刺さった。正直もう二の腕がプルプルしていたから、解放の合図にホッとした。


 ビシュッ! っと空を切る鋭い弦の音が響き渡る。


 そして、声も無く地面を転げて悶える少女が二人……。

 エルさんは額を押さえながら「またやったのか」と嘆いている。


「何を言うエル! 身をもって体験してこその修練では無いか!」

「嫉妬から来る物で無ければ格好いい台詞なのだけどね。ちゃんと二人に謝りなさいよ?」


 ハーシャさんは悪びれもせず、鼻で「フンッ」と返事をしていた。


「~~~っあ゛ぁぁ! もげるかと思ったぁ!」

「んくぅ~~~っ! 弦が……表面をザリッて……!」


 女の子生活二日目の僕らは、まだ自分たちの体の変化に慣れていない。これが生粋の女の子なら違ったかもしれないけど、僕らには弦が胸を打つなどという発想が全く無かったのだ。


 僕達は涙目でハーシャさんを見上げるが、彼女はニヘラッと口元をゆがませている。くぬぅ! 僕たちが一体何をしたって言うんだ!


「おや済まない。私は弓を引いてこの方、一度もそんな風になったことが無いのでね、気づかなかったよ」


 自虐的に逸らした彼女の胸は、まるで少年のように平坦な物だった。


 彼女の睨む様な視線は……、そうか、シロさんの胸に向いていたのか。


 僕はどちらかというと貧相な方に入ると思うのだけど、弦が当たった事を考えればハーシャさんよりは大きいらしい。


「安心したまえ! 私のメインはヒーラーだ。責任を持って手当てをしようじゃないか」


 言葉を違えず右手でシロさんの、左手で僕の左胸を鷲掴みにして回復魔法を施していく。メインジョブと言うだけあって、あっという間に痛みは消えてしまった。コレが出来る故の悪戯なのだろうけど、勘弁してほしい。


 その上、念仏の様に「巨乳爆発しろ」とブツブツ唱えながら胸を揉んでくるし。駄目だこの人、貧乳をこじらせ過ぎてる……。


 その後はエルさんに言われ、胸当てを着用しての練習となった。ハーシャさんはエルさんのゲンコツを食らってコブが出来ていたけど、自前の回復魔法であっさり治療してしまっていた。なんだかヒーラーに対する認識が変わりそう。


「シロ君はレンジャー適正だったよね、さすがに射の上達が早い」

「どもっす。でも胸当てがちょっと窮屈かも。遠距離やるなら弓じゃ無くて投擲系の方が良いかな~」


 練習を終え、押さえ付けられていた胸をほぐすシロさんを見て、ハーシャさんが舌打ちをしていた。



 ――――ふふっ、見ましたよ?


 あんな悪戯をする人には仕返しするしかありませんね! 僕も大げさに胸を揉んでハーシャさんに見せつけてやる事にした。女の子がおっぱいのサイズでマウントをとる気持ちが少し分かった気がするよ。


「ほほう? そんなに胸が辛かったのなら私が解してやろう。なぁに、メインはヒーラーと言っただろう? 人を癒やすのが私の仕事だ」


 どうやら、藪を突きすぎたようです……。


 ハーシャさんは蛇のように背後から僕の体を絡めとると、残像を目で追うことすら不可能なほどの指技で、僕の胸をマッサージし始めた。


 まな板な彼女がどうしてそんなテクニックを!? と疑問は尽きなかったけど、絶妙な指捌きで胸がふわっふわに解されていく。


「んにゃ~~!? ちょっ、ごめんなさいっ、調子に乗りすぎましたぁぁぁ」

「遠慮するな、私は乳腺炎マッサージの指名ダントツの一位だ。スペシャリストの技をタダで味わえることを光栄に思うがいい!」


 たしかに凄い技術だけど、彼女にそんなマッサージを頼むだなんて、なんという鬼畜の所業! そりゃ貧乳をこじらせますよ。


 再びエルさんの拳がハーシャさんを捉えるまで、僕は散々胸を揉みほぐされてしまった……。

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