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神さまからの贈りもの

 首筋から決して少なくない量の血を流しながら煙草を吸っていると、後頭部に衝撃を受けた。

 殴られた感じだったので、誰だろうと振り向こうとしたまでは良かったが、血を失ってボウッとして、窓枠から身体半分がビルの外へと傾いた。


(あっ、やべ!)


 なんて思っていたら、すでに身体は落下中で、あまちゃんが口をパクパク動かしているのがスローモーションで確認できた。

 おそらくは何らかの救済措置をしてくれたに違いない。

 さすが、あまちゃん。

 満足しながら地表へと視線を移す。


(…………)


 夥しい量の雑草の山が落下地点に設置してあった。

 おいおいマジかよ。

 確かにゲームのなかではあらゆる高所からピロロ~な音色と共に落下しましたけどね、迷いなく。それがリアルになると、無事だとは到底思えないんですが何なのでしょう、使役した神様のこの植物の山に対する圧倒的信頼感は。

 藁ではなくて、その辺の雑草を敷き詰めてみた……ってところが、また、雑じゃない?

 色合いが違うだけでこんなにも不安になるモノだとは。


 とか、いろいろ考えているあいだに雑草の山のなかへと突入していた。

 あまちゃんからどんな命令を受けているのか不明だが、山の中へと入った途端、大小さまざまな蔓や葉っぱが襲いかかるようにして密集して、あっという間に雁字がんじがらめにされた。

 今、一瞬だけスサノオの七支刀が頭の中をよぎった。便利そうだよね、アレ。

 いっぺんにたくさん、スパパパと斬れそうで。

 とまぁ、そんなことを考えていたからか、蔓たちがすぐに拘束を緩めてくれたので良しとしよう。


 ◇◆◇◆


 その後、帰り道にあまちゃんとつくちゃんと一緒に喫茶店に入った。ちなみに吸血鬼少女たちはタヂカラオに背負われて、オモイカネさんと共に神社へと先に帰っていった。

 お店に立ち寄ること自体が初めてな二人の初心な反応を眺めるのもなかなかに楽しい。

 二人が子供の姿なので、老齢のマスターも苦笑いで済ましている。

 マスターの気が変わらないうちに、俺はブレンドを注文し、二人にはカレーをご馳走した。

 至福の時間を堪能したのち、彼女たちを神社へと送り届け、俺は自宅へと戻った。


 ◇◆◇◆


 夜9時。

 神社へと足を運ぶと三姉弟の姿が見えた。

 約束通り、あまちゃんとスサノオがそれぞれのプレゼントを示し、ニンマリしている。


「まずは、ワシからじゃ」


 と、あまちゃんから金色のスーツをもらった。

 待ち合わせもあり時間が惜しいので、その場で衣服を着替える。

 着心地は中々よく、何よりもじんわりと温かい。

 顔と手足以外は真冬の寒気をモノともしなくなり、気分が上がった。


「次は、俺のな!」


 スサノオからは白くて薄い手袋と黒くてトゲトゲしい草履をもらった。

 白い手袋は装着した瞬間、手のひらからナイフ、ノコギリ、カンナ、ヤスリ、トンカチ等などさまざまな刃物が隆起し、それぞれがケンカを始めるように暴れ出した。正直なところ、カンカンうるさい。


「おい、コイツは何なんだ?」

「にーちゃんが欲しがっている刃物の種類がわかんなかったから、刃物の付喪神たちを手袋にまとめて封入してみたんだ。欲しい刃物に変化してもらいたかったら、呼びかけてみろよ」


 何ともスサノオらしい乱暴な物作りだな、と思いながら手袋に念を込めてみる。

 各指の腹からノコギリ刃を出すイメージをして、手袋の内側がイメージ通りに再現される。

 指と指のあいだから千枚通しが生えてくるイメージも問題なかった。

 鉤爪のイメージも手袋から行えた。

 拳を握りしめ、ミートスマッシャーをイメージする。問題ない。

 手のひら全体を大根おろしみたいな形状にしてみる。

 次に「鉤爪」+「千枚通し」といった複合型をイメージする。問題ない。

 なるほど。

 想像力がしっかりしていれば、手袋は期待に応えてくれるようだ。

 スサノオと視線が合い、サムズアップで応えておいた。


 さて、草履だが。

 草履だと背中がトゲトゲしい怪物だとかマグマでの移動の時に足裏以外の部位が心配で仕方がない。

 なので、こればかりは改良するしかなかった。


「ハマー親方、頼みます」


 俺は月明かりに照らされた影に向かって声をかける。

 俺の影が動いたかと思うと明らかに俺の影ではない体格の影が動き始めた。

 影は脱ぎ捨てた草履を拾い、瞬く間にその場で鍛冶場を形成し、作業に移った。


「お主の影に宿っていたのは、ドワーフかの?」

「そうだ。数百年前に別の世界で滅亡した名匠の影さ」

「何で影なんだよ、兄ちゃん」

「そうだな。俺にもっと魔力的素養があれば、親方の全盛期の似姿を再現できるんだが、無いものなりに工夫した結果、親方の影を俺の影と同化させるので精一杯だったのさ」

「グスッ。苦労されているのですね、ベルフェゴールさま」

「そうじゃのぅ。そうじゃ! ワシからのもう一つの贈り物として膨大な魔力を」

「あ、そういうのは断っとく」

「何でじゃ! ニンゲンどもなら泣いて喜ぶようなシロモノじゃぞ!」

「スゴいギフトなのはわかっているし、気持ちは嬉しいよ。俺が原罪『怠惰』の悪魔じゃなかったら貰っていた。本当だぞ」

「兄ちゃん、ここでの生活が長いからすっかり忘れそうになるんだけど、西側の悪魔だったんだよな」

「このバカ弟! ベルフェゴールをその辺の悪魔と一緒にするな」

「そうですよ、ベルフェゴールさまは私たちと同じ神族。堕とされた神なのです」

「堕とされたというより、貶められたの方が正しいな、つくちゃん」

「おとしてめられた……って、誰に?」

「今、この世界を席巻しているあの宗教だな。信者を根こそぎ奪われて、記録を徹底的に破壊されたから、もう、俺のことを覚えているのは、ほんの僅かさ。だから、あまちゃん、つくちゃん、スサノオ、俺のようになりたくなかったら、信者たちを護れるようなしっかりとした国造りに励めよ」


 俺の自嘲気味の微笑みに、真顔で返す三姉弟が眩しかった。


「それで、兄ちゃんの『怠惰』ってどんな呪いなんだよ」

「まず、他人から貰う類いの力のお裾分けが一切受けられない。さっきも言ったように力の容れ物がすごく小さいからな。すぐに溢れて消失していく」

「それはおかしくないか? ベルフェゴール、お主は自分を卑下するのはよせ」

「そうですよ。私たちと普通に生活できるって、無力じゃ出来ないことですよ」

「そこは昔取った杵柄というか、発見と発明の魔神という別の顔で、どうしようもないマイナスをプラスに変えていく努力をした成果だな。幸い、古い神さまってのは、ほぼ無限に近い時間と付き合えるからな。無駄に過ごすか、仮想敵神をチョメチョメする想像しながらおのれを鍛えるかの差は大きいぞ」

「お主、ときおり下品な言葉を使うのは、どうにかならんのか?」

「うぬー。じゃあ、あまちゃんと〇〇から始めてして〇〇に〇〇」

「断固許しませんわ!」


 どこからともなくオモイカネさんが飛んでやって来ての、水流魔法。

 ダムが決壊したかのような圧倒的水量で、あまちゃんたちと引き離され、結界の壁に叩きつけられた。

 なおも襲いかかる物理的水量を目の前に、どう処理すべきか考えていたら、スーツが輝く。

 その輝きは一瞬であったが、圧倒的水量をたちどころに蒸発させた。

 それって、物凄い熱量をこのスーツが発したと云うことになる。

 着用している本人には何の影響もなく、周囲がどえらいことになるという暴挙。

 このスーツ、間違いなくあまちゃん本人が創ったんだなぁ、と感心する次第。

 ビバ、太陽。ウム、命名は「太陽のスーツ」だな。第三者が聞いたらスィーツか何かと間違えそうだが、気にしないことにする。俺にネーミングセンスを求めてはいけない。

 また、この一連の出来事には、あまちゃん以外の周囲がお口あんぐりしていた。

 わかる。


「イメージ通りの靴が仕上がったぞ。それでも、仕立て直しは必要だ。履いてみろ」


 一連の出来事に関心が無かったのか、真顔のハマー親方がスーツに映える靴を持ってきた。

 確か火鼠カソだったか、マグマの上でも燃え上がることなく動き回れるネズミの、そんな皮から作られた草履が、まるでブランド物の靴として生まれ変わり、仕立て直しを必要としないほどによく馴染んでいた。


「それにしても親方、ネズミの皮だけでよく草履から靴へと仕立て直しが出来ましたね」

「バッカ野郎! ネズミの皮なんかで足りるか! サラマンダーやレッドドラゴンの皮で継ぎ接ぎしとるわい。それでも上手く上品に仕立てるのがワシらプロの仕事じゃ!」


 親方の影が、生前の親方そっくりの動作で真似る。懐かしくて涙が出て来た。

 この辺の魔力的な力の使い方にもう少し工夫が出来れば、他の親方たちも復活とは云わないまでも、もう少し生前の似姿に戻れるだが、なかなか上手くいかない。


 ままならないものだ。


 ◇◆◇◆


 仕事を終えて霧散した親方の影が俺の影と一つになる。

 俺は新調したスーツに靴、サングラス、手袋をしっかりと装備した。

 何もない空間に手を伸ばすと、それが合図となって空間が裂け、幾つかのホルスターとガンケースがお目見えされる。

 これから向かう先が未知の領域であることを踏まえ、思わぬアクシデントに遭遇しても、自分の力が万遍なく行き届きやすいハンドガンを二挺、懐のホルスターに仕舞う。


 サァ、出発と思いきや、オモイカネさんとタヂカラオが立ち塞がった。

 こちらが伺うより早く、オモイカネさんが竹筒を手渡してきた。


「中には、どんな傷もたちどころに治る水が入っています。一回限りです」

「力不足を感じたら飲むと良いだろう。力が湧き上がるが、お主の特性を考慮するなら効き目は10秒もないはずだ」


 それぞれから竹筒1本と丸薬を1包貰った。

 大事な局面での使用になるだろう。


 俺は振り返らず、軽く手を振って、お節介だが心優しき神々と別れた。

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