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モミモミ

※重大な警告※


 今回は不快な表現が含まれています。サブタイトルにあります様に、なろう主人公がひたすら『モミモミ』します。不快感を覚えましたら、速やかなブラウザバックを推奨します。

 ファルネーゼとの挨拶もそこそこに、重傷患者である師匠の搬送を従業員の半人半蛇(ナーガ)たちに任せると、俺は知り合いのエルフに連絡を取るべく、スマホを取り出した。

 電話帳の中から『屋良内科』を選択して、しばし待つ。


「やらないか」

「ヤラーナ、急患だ。師匠の心臓に氷の霊石がグッサリ刺さっているんだ!」

「師匠? あぁ、キミの銃のね。どうして異世界(こっち)に?」

「話せば長い」

「……そうか。分かった。準備しているから」


 一瞬、準備している……と云う言い回しに疑問点を覚えたが、緊急事態である。疑問は飲み込むことにした。


「ファルネーゼ、この旅館は医務室が出来たかい?」

「ハイ、ハマー親方さんが自信作だって仰ってました」

「ほぅ、自信作と」

「魔法もゲンダイイリョーもどんと来い! だそうです」


 なるほど。流石、過去に回復魔法の使えないエリアで、うろ覚え医療知識程度の俺による麻酔なしの応急処置を受けただけあって、設備を整えることに手を抜かなかったか。

 これに今後は現代医療に精通したエルフの女医が手術を行うのだ。

 失敗のしようがない。フフフ、勝った!

 と。

 俺が邪悪な微笑みをしているのと裏腹にファルネーゼの表情が暗い。


「善神さま! 怪我人の方と耳長の方はどういったご関係ですか?」


 ファルネーゼが目に涙を浮かべつつ、質問してきた。

 ん〜、アレだな。適当な誤魔化しでこの場を乗り切ったらNice boatになりそうな雰囲気をヒシヒシと感じたので、きちんと伝えよう。


「まずは怪我人の方だな。名前はモナ。元は名前がなかったと云うから俺が名付けた。銃といって……」


 と、俺はファルネーゼの目の前でハンドガンを見せた。

 ファルネーゼは初めて見たはずの銃に対して、表情が硬い。普通は無知から来る好奇心に刺激を受けて、いろいろなアクションがあるものなのだが。


「怪我人の方が気に入ったジューの名称を縮めて、その名を贈ったのですね」

「ああ、そうだ。心を読んだか」


 ちなみに師匠が気に入った銃はモシン・ナガンと云うライフルである。更に師匠の銃の腕前をざっくり説明すると、スコープ無しで荒れ狂う吹雪の中でも的確にヘッドショットをキメてくる。

 関係者(暗殺者たち)の間では『白い死神の再来』と呼ばれていた。わかる。


「申し訳ありません」

「構わない。モナの生命を救うことを優先するからこそ、おのれが理解しやすい方策を取ったということを否定しない。それと関係性だが、モナとはまだだ。昨日までは暗殺者と守護者と云う立場で対立していたからな。耳長のヤラーナは研究者と実験対象だな。魔法を用いた治療が効かない旦那が居て、その旦那と特徴がやや似た俺が治療薬の試飲を手伝う代わりに、今回のように怪我人が出たときの治療等に応じてもらっている」

「つまり、どういうことでしょうか?」

「モナは術後の意見聴取次第ではくっ付く可能性があるが、ヤラーナは人妻なので遠慮している」

「善神さまっ! ひどいです」


 直接じっくりと話し合う機会はなかったが、モナには幾度となく生命を救われ、その都度、銃の扱い方をレクチャーしてもらっている。普段は霊石の守り神として人前に現れないと聞いていたものの、稼業でまとまったお金が入ったら会いに行くぐらいの頻度で親交を温めていた。

 今回の姐さんの特別報酬がキチンと貰えていれば、異世界同行をお願いしようと計画していた程だ。

 あっ、ファルネーゼの機嫌がまた1段階下がった。


「……モナさんのことは大体理解しました。では耳長さんの方は安心してよろしいのですね?」

「ヤラーナは大丈夫だろう。いくら俺でも歴戦の戦士だった旦那を他所に火遊びをする度胸はない」


 ちなみにヤラーナの旦那はこの転移先の勇者だった。過去形なのは前述したが、突然魔力を失うと云う謎の病気の発症が原因で旅を続けられなくなり、勇者の資格を失った。

 何せドラゴンや悪魔が出てくる世界だ。魔力による身体能力等のブーストを失うと云う事は、この世界の住人にとって抵抗出来る手段を無くすと云うことになる。

 蛇足だが、その元勇者はぽっちゃりした人間だった。ニンゲン嫌いの俺が珍しく好感度を覚えるほどで、そうでなければ俺がヤラーナの考えた治療薬の実験体に、進んでなろうとは思わなかっただろう。


 ファルネーゼの表情が優しいものへと変化した。

 なるほど、これが心を読まれたと云うことか。と云うか会話の合間の沈黙にある、語られることのない継ぎ接ぎだらけのエピソードをよく読めるなぁ〜と逆に感心してしまう。


「話し込んでいるけど、怪我人のこと忘れてないよね?」


 いつの間にか、お土産屋で自販機のコーンポタージュを飲むヤラーナの姿があった。


「おやっ? ヤラーナこそこんなところに居て手術放棄か?」

「そうね。モナさん、キミのオペでなきゃ受け入れない! と云う意思表示されちゃってね。多分、キミが来るまでは室内は猛烈な吹雪が吹き荒れているかも」

「俺は素人だぞ」

「知ってるわ。だから、コレをはめて」


 と、ヤラーナ、小型カメラが内蔵してあるヘッドライトを寄越した。


(会話のやりとりは念話で行うから。オーケー?)

(オーケー)


 俺は自分の頭を軽く叩いて意思表示を示した。

 ヤラーナからサムズアップが返ってくる。

 ファルネーゼに見送られて、手術室へと向かった。


 ◆◇◆◇


 手術室へと向かう途中、氷漬けのナーガたちを見かけた。

 モナを運んでいたナーガたちだった。

 あまちゃんのスーツの熱の力を彼等に向けて解凍しておく。そしてそのまま熱の力を維持して、猛吹雪によって形成された氷のバリケードを溶かしつつ、先へと進んだ。

 手術室出入口ではダハーカ姉さんとアナンタ君が氷結していた。

 何かを逃すような素振りで凍っている。

 ああ、ヤラーナか。

 全くもう少し手加減して欲しい。

 身を挺して猛吹雪の壁になっていた為、解凍にナーガたちの倍は時間がかかった。

 氷結解除直後の酸欠でうずくまる二人を他所に、サッサと手術室へと入ることにした。


「モナ! ばーちゃん! 来たぞ! 治療すっぞ」

「女じゃ! また別の女の臭いがするのじゃ!」


 ばーちゃんに憑依されたモナが、相変わらず心臓に石が刺さっている状態で出会って早々、俺を指差し、糾弾してきた。ファルネーゼといい、ばーちゃんも複数人交際は否定派のようだ。悲しい。

 とりま俺のことはさておき、氷の女神の怒りを汲んだように氷雪の竜巻が発生し、ヤラーナが用意していた手術道具を気流に取り込むことで武装し、襲いかかってきた。

 少し考えがあった俺は手始めに竜巻が切り刻もうと回転力を増した手術道具を夜刀神(ヤトノカミ)(スサノオがくれた手袋)で受け止め次第、吸収させた。

 自前の氷よりも頑丈な金属の道具を思わぬ方法で奪われた竜巻が、呆然とするかのように立ち尽くしていたが、ばーちゃんの威圧を感じてか自前で発生させた氷塊と鋭利なつららをありったけ飛ばすことで『殺る気』をアピールしていた。

 まぁ、残念なことに着用者の危機を察した太陽のスーツが輝きを強めただけで、ハジキも竜巻自身もアッサリと蒸発していった。


「ぐぬぬ」

「ばーちゃん、悔しがるよりもモナを手術させてくれ。心臓、ヤバいから」


 憑依している方に痛みは伝わらないのだろう。無理して動いたせいでモナの心臓から新たな出血が確認出来た。


「頼むから、モナを返してくれ!」


 咄嗟の一言で、モナに電気ショックのような痙攣が起きて、モナの顔色がますます悪くなった。

 あぁ、こりゃ時間が無いな。

 幸いなことにばーちゃんの気配が消えて、モナが氷の様に固まったので、急いで手術台の上に乗せた。

 すかさずヤラーナから指示が念話を通して送られて、行動に移す。

 まず服を剥がし、患部を観察し、切開する。

 本来ならばメスを握るところだが、モナの患部から超極寒温度が垂れ流れ続けると云う異常事態の為、握ることに難しさを覚えたので、夜刀神に指先をメスの形状に変化させ、指先でなぞる様に切開した。事前にメスそのものを吸収しておいてよかった。想像上のメスではどんな切れ味になるか想像つかないので思わぬ事故を招いたであろう。


(ヤラーナ、どんな感じだ?)

(かなり不味いわね。霊石が心臓と癒着し過ぎて無理に剥がしたら助からないわ)

(癒着ってことは、モナの心臓と霊石は相性が良いって意味にならないか?)

(前向きに考えればね)

(じゃあ、霊石を素早く石綿のように変化させて、穴の空いた心臓の部分に霊石でフタをするやり方はアリか?)

(面白い発想だけど、ざっと2つ問題があるわ。

 ①フタをするだけだと接着力が弱い。

 ②穴をあけた瞬間、失われてゆく血の補充方法よ)


 なるほど。接着力は今思いついた方法で大丈夫だろう。問題は血の相性か。


「ばーちゃん、これから俺の血をモナに注入したいが受け入れてくれるか」

「ペオル、お前は豊穣神、ワシは地母神じゃ。大地に縁を持つ者同士、問題ない」


 あー、そういえば、ばーちゃん、地母神だったな。

 と云うか、俺よりも古い時代の大地の女神だ。なら、心配ないか。

 俺はモナの血管と自分の血管をチューブで繋いだのを確認したあと、集中した。


 まず、夜刀神に命じて指先のメスを両手に具現化させて、メスの刃先に俺の魔力を行き渡らせたのち霊石を切り裂いた。イメージとしては剣に魔法をエンチャントして巨石を切り裂く様に、か。

 そして細切れの石を更に素早く切り裂いて石綿のように変化させ、心臓の空いた穴に上手く塞ぐ様に形を整えたら、丁度よいタイミングで俺の魔力を含んだ血が心臓の付近に流れ込んできたので、縫合針に魔力を糸のように繋げて、霊石を心臓と同化させるイメージで魔力糸を縫い付けた。

 ばーちゃんが言った通り、大地に縁を持つ者同士の親和性は良好で、俺の魔力の糸が霊石と心臓に吸収され、もとの心臓の、あるべき形へと戻っていった。

 念の為、僅かな穴が空いたままか確認してみる。

 ヤラーナから念話を通してのゴーサインが出た。


(最後に心臓マッサージね。今回は開胸しているから直接揉んで。動き出すまでよ)


 漫画なんかでは、軽く揉んだら心臓が動き出す展開になっていたが、ヤラーナが『動き出すまで』と云うだけあって、なかなか骨が折れた。

 今思い返せば、モナの心臓にばーちゃんの霊石を組み合わせた段階で『ニンゲンではなくなった』ことを失念していた。

 手応えを得るまで、絶望と隣り合わせだった。

 それでもへこたれずに揉み続けられたのは、俺にとっての『モナ』と云う存在がいつの間にか『師匠と弟子』以上の思い入れとなっていた。

 ファルネーゼには悪いと思ったが、モナが復活した暁にはパートナーとして迎え入れよう。


 そう思い込むと、不思議と絶望感が払拭された。

 希望にすがるのは、何もニンゲンだけではないな……と自嘲しつつ。

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