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わたし、脱ぐとスゴいんです。

「今のは、何だったのですか?」


 一瞬のことだったのだが、手の甲に記された魔法陣について聞かれた。


「俺と似たような時代を生き抜いた古株へのメッセージかな。これは俺の物。手を出すなってな」


 そう発言すると、一瞬だけファルネーゼの表情がデレた。ただ、元聖女として過ごす時間が長かったからか、無意識のうちに澄まし顔に戻っていくのは残念だ。

 話は続く。


「どうして、カラの王座なのでしょうか?」

「国を創ったときに、旗のデザインで揉めてなぁ。(俺が)玉座に万年不在だから、カラの玉座を描けば、知っているヤツはその国の支配者が誰かを知ることが出来る。そういう経緯がある」

「国をお造りになったのですか! 是非見てみたいです」

「だったら尚のこと、力に慣れてもらう必要があるな」

「! 善神さまたちが住まわれる国ですからね。力がないと失礼にあたりますね」


 善神が聖女認定するだけあって、聡い子である。

 ひょっとしたら心の目とやらで考えを読んでいるのかも?

 だが、いちいち説明する手間が省けて助かる。


 ◆◇◆◇


 さて、力の使い方であるが……。

 俺の使徒の場合だと、『働く』ことで必要とされる力の配分が効率よく身体に馴染む。

 ん? 何でそんな仕組みなのか?

 知らん。俺に『怠惰』という罪を背負わせたヤツに聞いてくれ。

 お前の信仰心が高ければ、話くらいは聞いてくれるだろうさ。

 ああ、そうそう。全くの蛇足だが、他のヤツらも、教育は同じルールだ。

 傲慢は謙虚。嫉妬は寛大。虚飾は正直。暴食は摂食。強欲は小欲。憤怒は笑顔! ってな。


「ファルネーゼ、働いたことはあるか?」

「孤児院のお手伝いを少し、でしょうか。あとは善神さまへのお祈りです」


 んんん? 神との交信に人生を捧げる、とか、ただならぬ状況だ。

 まぁ、ダハーカ姉さんと善神との最終決戦アルマゲドンに参加していたし、事前に神のお告げみたいなのがあったんだろうな。それで、ファルネーゼが候補者になって、奇跡を起こして聖女認定されたか。

 にしても、聖女としての生活……俺には無理だな。


「善神さま?」


 彼女の過去に妄想を巡らせすぎた。この辺は、時間の空いたときにでもじっくりと聞こう。


「力の使い方だが、ファルネーゼには宿屋を経営してもらいたい」

「やどや? とは何でしょうか」

「旅先で疲れ果てたお客さんを、ふかふかのベッドに寝かせる代わりにお金を取る商売だ」

「馬小屋ではダメなんですか?」

「手持ちが少なくて、それでも休みたければ可能だ」


 馬小屋で一夜を過ごす。

 ゲーム序盤ではお世話になったなぁ。いや、まぁ、それはさておき。

 聖女って、一般常識が欠如しすぎじゃないか?

 宿屋を知らんのかい!

 宿屋といえば!

 カップルを泊めさせて、翌日に「夕べはお楽しみでしたね!」からの含み笑いじゃないか。

 いや、それだと客は来ねーけどな。

 まぁ、その辺は知能担当の神さまに経営のイロハをファルネーゼが学ぶとして、働く意思があるかどうかを確かめてみる。


「働くことで善神さまのお力が身につくことは理解しました。でもどうして宿屋なのでしょうか」

「旅先で疲れた俺が、心許せる相手ファルネーゼのいる場所でゆっくりと癒されたいから」


 心に思い浮かんだことをストレートに伝えただけだが、彼女には頬を赤らめてかぶりを振るぐらいの動揺があった。

 顔立ちの整っていないニンゲンをやっている俺が、現代の女子にこんなことを言おうモノなら『キモい→即通報』のコンボだが、約二千年以上も前の少女は純情だなぁ、と思う次第である。


「善神さまのお考えは理解しました。それで、その宿屋はどこで行うのですか?」

「姉さんの魔力で復活したこの宮殿を、その道のプロたちが宿屋に作り直す」


 へくちっ!


 ファルネーゼがくしゃみをした。そういえば、風呂上がりに味付き牛乳を飲んだっきり、ファルネーゼはバスタオルを巻いたままだった。

 俺はスサノオからもらった手袋に念じて、針の神さまを呼び出す。

 少女に相応しい衣装を望むと、俺の身体の自由は衣装が完成するまでのあいだ、針の神に乗っ取られた。

 ファルネーゼは、急に雰囲気が変わった俺に困惑しながらも採寸を受け入れ、一心不乱に衣装作りに打ち込む(俺の身体を借りた)針の神さまの所業を見守っていた。

 神さまパワーと言おうか、本来は色んな細やかな作業があったと思うのだが、千手観音が仕事をしているかのような超スピード作業で、針の神さまは依頼を達成した。

 出来映えに満足するや、俺の意識は自分の身体に戻った。

 すごーーーーく、眠い。

 ヤツめ、俺の一日の運動量を遙かに超える労働力を使ったな。

 ニンゲンとしての生活が長くなった俺は睡魔に抗えず、その場にぶっ倒れた。


 ◆◇◆◇


 目覚めたら、何故かあまちゃんと目が合った。

 俺は横になっている。あまちゃんの膝を枕代わりにして。


「前にお主と話していたとき、望んでおったのを憶えていたのでな」


 わざわざ少女形態での膝枕である。この国の最高神の御心、パネェ。

 ありがたや、ありがたや。

 とまぁ、感涙もそこそこに意識が覚醒してきたので、立ち上がることに。


「もう終わりか? 二時間ほどで疲れは取れたのか?」

「気力は漲りましたからね。って、いつの間にか服が着込まれてある!」

「ああ、ワシの衣服から連絡があって、駆けつけた結果じゃ。委細はスサノオの手袋から聞いた。ああ、そうじゃ。衣服が投げ置かれた部屋は滅菌処理しておいたでの。濃厚接触は特に危ないからのぅ」


 あまちゃんは笑顔であったが、頷くだけにとどめた。

 無言の圧に、背中から悪寒が止めどなくふきだしてくる。

 無菌室になったという、その部屋、どんな様子か気になるが、同時に命が無さそうだ。

 ま、まぁ、気を取り直して、脱衣室から外へと出た。


 ◆◇◆◇


 宮殿が取り壊されていた。

 これは手持ち無沙汰だった俺の影が、俺を見かけるや事情を説明してくれた。


 俺の意識が飛んで、間を置かずにあまちゃんを含め、いつものメンツがやってきた。

 あまちゃんは狼狽えるファルネーゼに対し、自分が何者かであるかを告げ、ファルネーゼはすぐさま理解したそうだ。

 普通は国が違うと考え方も異なるものだが、ファルネーゼには心の目がある。

 相手の発言に嘘がないことを知り、敬服した模様。


 次に、あまちゃんはスサノオの手袋から委細を聞くと、俺の影に直接命じて、宮殿の取り壊しと宿屋の建設を実行に移させた。


 蛇足だが、影について説明する。

 俺は現代の世界で一番信仰を集める神によって、ある罪を司り、安易な力を得られなくなった。

 この世界の小説によくある、死んだら神さまからもらう、超絶なパゥアーのことだ。

 ただし、努力を必要とするモノであれば己の力の一部として見なされるお情けを得た。

 そこで俺は、知識として存在を知っていた影の国の太古神スカディのもとへと向かい、他者の影を自分の影の一部として取り込み、俺が影として取り込んだ人物たちの力を必要としたときに、彼らを使役するための力を求め、幾つかのお使いクエストをこなした末に、入手した。

 よって、俺の影とは、(俺の)少ない交流関係において奇跡的に協力関係にまで至った故人たちの存在である。


 一般的に、影の主人はその影の持ち主なのだが、そこは超絶なパゥアーに満ち溢れたあまちゃんにかかれば、指揮権なんて有ってないようなモノ。しかも、太陽神としてのあまちゃんの光によって生まれた影が俺の影と混ざり合った影響か、力不足でシルエット以上の人物像が創れなかった影たちが、生前のままの姿で具現化するという始末。


「思いの外、はやく具現化できましたね、風鈴さん」

「えっ、あっ、はい。ここは喜ぶところでしょうか?」

「俺は心の中では泣いてますがね」


 努力の成果をアッサリと塗り替える超絶パゥアーに、つい愚痴が出てしまった。

 まぁ、それはさておいて、俺は具現化した仲間たちに挨拶をしに行った。


 ◆◇◆◇


 挨拶を済ませた頑固で偏屈なドワーフたちが、洋風の宮殿を和風の宿屋に作り替える様に、何かモヤッとした気分を味わうが、まぁ、考えがあってのことなのだろう。

 風鈴さんに案内されて、俺はオモイカネさんのもとへ。


 オモイカネさんの他には、つくちゃんとファルネーゼ、ガタガタと震えるダハーカ姉さんがいた。


「アマテラス様が少女から分離させました。その後、あなたの宮殿へと赴いて、出てきてからずっとあんな調子です」


 例の無菌室か。

 あまちゃんの一撃でアッサリと四散爆発する俺と違い、ヘビー級なしぶとさを誇る姉さんは、ジワリジワリと迫り来る死への恐怖に苦しんだことだろう。

 どんなに巨大で、心臓がいっぱいあろうとも、太陽そのものに勝てるだろうか。ましてやそれが擬人化してドス黒い感情の炎を燃え盛らせて、楽にはさせてくれないのである。

 こういう時、弱くて良かった! と素直に思える。

 いや、まぁ、甲斐性無しを責められると何とも言えないが、まぁ、ニンゲンの住む世界ではニンゲンのメスには相手にされないのだから、釣り合いが取れている……ということにしようか。


 オモイカネさんは、俺の計画にあったとおり、新人スタッフの教育に携わることになった。

 ファルネーゼは女将としてみっちりと鍛えられる模様。

 本人にやる気が漲っているので、大丈夫だろう。

 他に仲居さんとして風鈴さんとダハーカ姉さんが採用された。

 元ニンゲンだった風鈴さんは適応するだろうが、ダハーカ姉さんは……想像つかない。


「不可能を可能にするのが、教育の醍醐味なのですよ」


 と、オモイカネさん。知恵の神だからか、相手にモノを教えるのが上手い。

 プロが自信を持ってそう言うのだから、お任せする。


 ◆◇◆◇


 案内役が風鈴さんからつくちゃんにバトンタッチして、つくちゃんと手繋ぎして向かった場所は善神の施した強力な封印のエリアだった。

 そこではスサノオが、結界相手に七支刀をブンブン振り回していた。いや、力技で破壊しようとしていた。

 うん。スサノオは今後も破壊神のポジションだな。

 そばにはタヂカラオさんもいたが、結界のことなど何処吹く風。

 マッスルポーズで威風堂々としていた。マイペースともいう。


「にーちゃん、コイツ、スッゲー硬えよ」


 まぁ、封印だからな。

 物理だろうが魔法だろうが攻撃性のあるモノに対する耐性は強い。

 試しに指パッチンをしてみた。

 ああ、この指パッチン、ラノベやアニメで見かける顔立ちの整った方々が、魔法詠唱や必殺技の連呼するタイプの簡略版だ。

 顔立ちのマズさに悪評のあるおじさんに、ああいう真似はとても出来ないので、指パッチンで任意の魔法が発動するようにした。

 その結果だが、特に代わり映えしない。

 一応、封印全体を『怠惰』で包んで弱体化を図ってみたのだが……。

 これをどうにか解除しないことには向こう側で待っているアナンタたちを宿屋に連れて行けない。

 彼らはこの宿屋の従業員として採用しようと考えている。

 もちろん、彼らにも都合があるだろう。ただ、行き場がなくてブラブラするしかないのなら、格好の働き場がそこにある。

 俺としては、是が非でも従業員として迎え入れたい。

 とはいえ、埒があかなかった。


 しゃあない。

 俺は再び衣服を脱ぎ捨てて、全裸で封印の中に飛び込んだ。途中、か細い鳴き声のような音が聞こえたが、飛び出した勢いを消すことは出来なかった。


 封印は俺が飛び込んできた時こそは強烈な電撃を走らせたが、物体おれが何もせず封印の中へと潜り込むと封印自身に電撃を走らせても意味のないことを悟ってか、攻撃を止めた。

 俺は特に何をするでもなく、ジッとしておいた。

 そうすることにより、俺の司る『怠惰』は最大限の働きを得る。

 つまり、さっきの指パッチンよりも計り知れない怠惰の力が封印に作用して、封印の規模が空気が抜けて萎んでいく風船のように縮んでいき、霧散した。

 そして俺はすかさず衣服を着込んだ。

 こうする……というか、怠惰に身を委ねそうになる誘惑を振り払うことにより、危機的破滅は回避される。

 どういうわけか、この怠惰ちから、あまちゃん達から貰った神々の道具等を装備していると、本来の力を発揮できないでいる。

 他には敵対関係でなかったり、男と女の営みの時とか。

 直近の事例では前者がファルネーゼ。後者が姉さん。


 それでもまぁ、シャツを羽織るまでのあいだに、数多くの蛇たちが虫の息になった。

 スサノオは七支刀を支えにして肩で息をしていて、タヂカラオは地ペロして、何とか立ち上がろうと大粒の汗を噴き出しながら努力していた。

 衣服を着込んでいくに従い、その場に居たみんなの負担が軽くなっていく。

 素直につくちゃんに助力をお願いするべきだっただろうか。

 ただ、そのつくちゃんだが……気絶していた。俺が衣服をいきなり脱ぎ捨てた段階で「ヒッ」というような、か細い声があったが、どうやらあの時だったようだ。


「我々一同、今後は貴方様の一員となって、剣となり盾となりましょう」


 衣服を着終えたとき、アナンタたちが恭順の意を示してきた。

 説得という面倒くさいことに頭を費やす必要がなくなったのはありがたく、厚意を受け取ることにした。

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