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血と力

翌朝、朝早く起きた美鶴は庭に向かっていた。

早く起きすぎて、たまにはと思い掃除をすると決めたのだ。


「寒い…」


十分着込んでいるのに、外の空気は冷たかった。

今日はどこまで冷え込むのか、雪は降るのか。


「雪を降らせるのは、雪神の仕事なんだよなー…」


なんとなく呟いてみた。

真白なら、なんて昨日は言ったけれど実を言うとまだあまり実感できていない。

現実味がなさすぎるから。


「真白、部屋に置いてきちゃった」


まだぼんやりとした頭で考える。

昨日みたいにまた自分を探したりしないだろうか。


「………うわ」


その時の事を思い出して美鶴は顔を赤くする。

あの時は驚きすぎて分からなかったけど、もしかして自分はものすごく恥ずかしい事をしでかしたのではないか。


「そうだよ、お母さんもお婆さんもいたし…」


自分の顔に熱が集まっていくのが分かる。

美鶴は脱力して地面に座り込んでしまう。

白猫ならば平気だ。

でもどうしても人間型には慣れない。

いや、慣れちゃいけない。


「そ、そうだよ…私、真白と結婚…」


恥ずかしくなり、その先は言えなかった。


美鶴は顔を上げる。

今までの考えを振り払うように首を振り、本来の目的である掃除をしようと立ち上がった。


庭を掃いて落ち葉を集める。

段々と気持ちが落ち着いてきた。

朝日はまだ見えないけど、そんなに苦でもない。

たまにはこんな朝もいいかもしれない。

毎日は嫌だけど。


「椿の花だ」


「わっ!」


後ろから真白の声がした。

驚いて箒を落としてしまう。

振り向いてみると、そこには眠そうに目を擦っている真白がいた。


「ま、真白」


「おはよう美鶴」


微笑んで挨拶をする。

そんな笑顔で言われたら責める気を無くしてしまう。


「起きたの?もしかして、私起こしちゃった?」


おずおずと真白に聞く。

昨日も結構遅い時間に起きていた。

実はまだ全然寝足りないんじゃないかと思ってしまう。

自分のせいで起こしてしまったなら謝らなければいけないから。


「美鶴と一緒。たまには早起きしなきゃ」


これはかなり気を使わせているのではないか。

でもそんな事、真白の笑顔を前にして言えなかった。


真白が縁側から降りてきて、美鶴のそばに寄る。

どこから見つけたのか首にマフラーを巻いていた。

神様でもやっぱり寒いのだろうか。


「真っ赤だ」


開きかけの椿の花を見て真白は呟く。


「椿、好きなの?」


美鶴がそう尋ねると真白は頷いた。

どこか、懐かしそうに。


「前は雪が嫌いだった。いつかは溶けて無くなってしまう、真っ白だからすぐに染まる。それってなんだか自分がないみたいだとずっと考えていた」


真白は美鶴に向き直り、語り始める。

寂しさなどは見えなかった。


「椿には綺麗な赤という色がある。美鶴は知ってる?椿は花びらから散るのではなくて、がくごと落ちるんだ。綺麗なまま、散る。花に憧れるなんておかしいかもしれないけど、昔は本当に羨ましかった」


「…昔、は?」


美鶴がそう聞くと真白はうん、と頷く。

今度は優しい笑顔で話す。


「でも気づいた。雪は跡を残すことができる。真っ白なのだって、綺麗だ。意味がないわけじゃない、ちゃんと自分だってある。それに雪は、人を喜ばせる事だってある」


「私は雪、好きだよ」


美鶴は空を見上げて呟く。

今日もまた、雪雲が空を覆っていた。

息を吐くと白くて宙に消えていった。


「僕も今は大好きだ」


返ってきた真白の言葉を聞いて美鶴は微笑む。





居間で朝食を摂った後、自室で猫になった真白と遊んでいた。

やはりまだ人型には慣れない。

昨日は真白に頼んで猫のまま寝てもらった。


「猫のままならいいに…」


あまり意識しないで呟く。

突然美鶴の視界が曇った。


「美鶴が望むなら、ずっと猫のままでいる!」


真白の声が聞こえたと思ったら、真白が人型に戻っていた。

距離が、近い。

美鶴は慌ててすごい勢いで真白から離れる。

その行動を見た真白が、泣きそうな顔をしていた。


「ご、ごめんなさい!その人型…慣れないだけなの。嫌とかじゃないから」


必死で真白に語りかける。

真白は消え入りそうな声でうん、と頷いた。


「それに少し感情的になったら戻るって事は、猫のままってそんなに楽じゃないんでしょう?」


諭すような口調で言う。

真白は口をつぐんでうつむいてしまった。

その姿が可愛くて、つい笑ってしまう。

美鶴は少しだけ真白のそばに寄ってみた。


「えっと…、人型は序々に慣らしていく、から」


「…分かった」


満面の笑顔

この笑顔を前にして、だいぶ時間がかかると思うけど、とはさすがに言えなかった。

何故か真白の笑顔には敵わない。


「私、男の人に免疫がないから…だから慣れないんだと思う。家族にはお父さん以外男の人なんていないし、学校でも男の子の友達なんていないし…。これからも多分、いっぱい不快な思いさせちゃうけど、ごめんね」


急に真白が美鶴の頭に手を伸ばす。

少しびっくりして目を伏せたど、美鶴は受け入れる。

優しい、割れ物を扱うように控えめで優しい手つき。

顔を上げると、おろおろとしながらも自分の頭を撫でている真白がいた。

その様子がおかしくて美鶴は笑ってしまう。


「ねえ」


再び美鶴は真白に向き直り呟く。

真白は首を傾げて疑問を表している。


「昨日の話もう一回確認したいの。私に力があるって話、詳しく聞きたい」


「僕が知っている範囲でなら、全て話す」


快く頷いた真白。

美鶴は深呼吸をして再度口を開く。


「まず、力のことを教えて。雪村家の娘が持つ力って何?」


「退魔の力だよ」


聞き慣れない言葉、先刻の真白の様に首を傾げる。


「退魔の力は美鶴が僕に与えることで、僕は雪神となり美鶴は花嫁になれる」


「え?力を覚醒させるだけじゃ駄目なの?」


昨日とは少し話が違う。

美鶴がそう聞くと真白は静かに首を振った。


「力を分け与えることで僕らは本当の花嫁や雪神になれる。千鶴はちゃんと説明してなかったね」


「力って、どうやって覚醒させたり分け与えたりするの?」


「残念だけど、僕にも分からないんだ」


真白は苦笑いしながら言う。

ため息をひとつ吐いた後、思い出したそうに声をあげた。


「余談だけど、雪神は四季を司る神の一人だっていうのは知っている?その神は他にも3人いて、それらは四季神と呼ばれている。四季神の心臓は、己が身に取り入れると強大な力を手に入れることができるから、その力を狙う奴らもいるんだ」


「つまり、私が持つその退魔の力っていうのが雪神を守る力ってことなの?」


真白は頷き、笑顔を美鶴に向ける。


「やっぱり美鶴は賢いね。でもそれだけじゃない、美鶴の力を僕が貰えたとき、その力は美鶴も守る事ができる」


「えっ、と…それはどういう意味?」


話の流れでいくと自分が持つ力は雪神を守る力だという。

でもその力は、美鶴も守るという真白の言葉の意味が分からなかった。


「いずれ分かる」


真白は微笑んでそれ以上は教えなかった。






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