プロローグ
その少女は泣いていた。
先刻まで一緒にいたはずの両親とはぐれてしまったから。
真っ白な子猫を見つけ、物珍しくて追いかけていたらいつのまにかはぐれてしまっていた。
一人で泣いていた。
少女の涙は雪に落ちて、小さな跡を作っていく。
小さな、とても軽い雪を踏む音がした。
「ママ!」
少女は振り替える。
だがそこには母親の姿はなく、透けるような白さの子猫がいた。
「ねこさん…」
その子猫はさっきから少女が追いかけていた猫だった。
途中で見失ってしまい、もうどこかに逃げたと思い込んでいた。
「…ねこさんも、一人なの?」
子猫は段々と少女に近づいてくる。
「みつるはね、ママとはぐれちゃった」
子猫は少女に擦り寄り小さな声で鳴く。
少女に泣かないで、と言っているようだった。
「美鶴」
ひどく落ち着いた声が聞こえた。
まわりを見渡してみても誰一人いない。
気のせいだと思い、もう一度猫の方に向き直る。
「泣かないで」
少女はぎゅっと抱きしめられていた。
さっきの声と同じ、声の持ち主が少女を抱きしめている。
いつのまにか少女は泣くのをやめていた。
その人の体温が伝わる。
少女には真っ白でふわふわな髪が見えた。
とても、心地よい。
「美鶴!」
両親の声が聞こえる。
途端にその温もりは消えてしまい、少女は寂しさに襲われる。
駆けつけてきた両親に抱きしめられ、自分は迷っていたのだと思い出した。
白猫は消えていて、あの人もいなくなっていた。