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15話

「ああ、これ?蓮の葉みたいなコーティングがしてあるから弾くんですよ」

「蓮の葉…?」

「ご存知ありませんか?とにかく、水や泥を弾く葉を持っているのです。それと似た構造を表面に施した靴と布なので汚れにくいのです。摩耗するのである程度使ったら張り替えないといけません」

「へえ、面白いですね…。それはどこで手に入ります?」

「麓の町で、アウトドア用品店にあります。貼り付けは店員さんがやります」

「そうですか。今度町に出たら寄ってみます」

「それで、買い物をしたいのですが…」

「あらごめんなさい、長々と話してしまって。どうぞ、よく見て行ってください。すみませんが、その大荷物は当たるといけないので…」

「じゃあ俺が外で荷物番しているから、2人は買い物してくれ」

「悪いな」

「頼む」

 2人は荷物を下ろして店に入り、1人は店の外で待つ。

「…どうしましたライドさん?」

「あ…、何ともなくて良かったです」

「そういえばお姉さん、祠らしきものを知ってますか?この村から町に行く途中にあるものです。斜面の岩肌に穴が開いていて、そこにある石造りの祠です」

「ええ、竜神様の祠ですね。村として修繕や掃除をしてますよ」

「邪神の類ではないですか?」

「荒神ではあるとは聞いてますけど…。何かあったんですか?」

「それが、通ってきた時に落石で崩れてしまっていて…。下手に弄るのも怖いのでそのままにしてきたのですが…」

「……。直しに行かないといけませんね。でも私には店があるから…」

「じゃあ自分が行きましょうか?」

「ライドさん、元の形分かります?」

「この村に来る際に1度見たので大丈夫だと思います」

「1度だけだとちょっと怖いですね…、誰かを…」

「すみません、これください」

「あ、はい。この4点ですね」

 旅人の1人は商品をカウンターの前に置いて購入する。

「ありがとうございます」

「お前…まあ、いいか。ありがとうございます。我々はこれで」

「ご来店ありがとうございました」

 旅人2人は店から出て行き、もう1人の見張っている荷物を持ち上げて、どこかへと行った。

「覚えているので大丈夫ですよ。立ち止まって、よく見ましたから」

「そうですか…。それほど難しい造りでもないし…。ではお願いします。大規模な修理や細かい作業が必要なようでしたら、戻ってきてください。高度な技術が必要なものはアスモさんにお願いすることになっていますから。その場合は村長にも報告してください」

「分かりました。初心者が塗って酷いことになる、なんてことありますからね。無理だと判断したら戻ってきます」

「また落石があるかもしれないので気をつけてください。あっ、そうだ!ちょっと待っていてくださいね」

「…?はい」

 ロアは階段を上って上の階へ行った。階段横の扉の開閉する音が聞こえる。待つ間にニケが店にやってきた。右手には薄い鞄を持っている。周囲を一通り見回してから「あれ?」と首をかしげ、こちらへと歩み寄る。

「おはよう、ライド」

「おはよう」

「ロアいないの?どこにいるか知らない?」

「今2階にいて、すぐ戻って来るはず」

「そう、なら待っていよう」

「何かあるのか?」

「ウチの仕事の話だから秘密。客が自分から話す分にはいいけど、私は話せない」

「喋れないなら別にいいけど…」

 上から扉が開閉する音がして、階段を下りてくる姿が見えた。

「お待たせしました。ニケちゃん、いらっしゃい。ちょっと待っててください」

「いいよ」

「ライドさん、手を出してください」

「?」

 右手を開いてロアの前へと差し出す。ロアは手のひらの上に鈴の付いた紐を乗せる。亜麻色の紐が通っている2つの金色の鈴。

「何ですかこれ?」

「あの祠を弄る時はそれを身に着ける決まりです。竜神様の敵ではなく、味方ですよという表示になると言われています」

「へえ…どうして鈴なんですか?」

「どうしてだったかな…?昔話には関する話は無かったですし…ニケちゃん、知ってます?」

「何でだったかな…。よく聞こえるからじゃない?」

「…よくわかってないんですね」

「何かあったと思います。とりあえず、作業前に身についておいて下さい」

「分かりました」

 ポケットに鈴をしまう。始める前に魔導書のホルダーに結んでおこう。

「では行ってきます」

「はい、行ってらっしゃい」

 店を出て、村を出て、麓の町への道に就く。村の出入口は開けた岩場となっており、そこから下ると草木に囲まれた林に入り、頭上の天空を種々の花が彩る。無骨な茶の混じった黒い幹からは、可憐で繊細な白い花が咲いている。その下で広く平らに整備された道を下る。舗装こそされていないが、人や車輪、ラマなどが通る道で、草は剥げ踏み固められた黒土を覗かせている。白や黄、桃色などの淡い花びらがポツポツと落ちている。所々に褐色の枯れ葉が落ちている。左には上へと続く斜面、右には下へと続く斜面、枯れ葉色に染まり切らず、草がひょこと姿を現している。村があることを示す看板が左に立っている。来た時とは左右逆だ。そうか、登ってきたことはあるが、下ったことは無いんだな。当たり前だな。

 途中で折り返し地点があり、右側に上向きの斜面が見えるようになる。石で土を留められてできた階段にさしかかり、そこを下りていくと右に岩肌が見えてくる。そのまま曲がった道を歩き続けると祠が見えて来た。


 祠に近づいて様子を見る。岩肌の窪みに7割ほど入っている祠で、落石により石の屋根が割れて落ちていた。囲いの中には破片が幾つか入っている。取り出そうと手を伸ばす。

「おっといけない。鈴をつけなければ」

 ポケットから鈴を出し、魔導書のホルダーに結びつける。その際にシャンシャンと鈴の音が鳴った。

 気を取り直して屋根をそっとどけて脇へ置く。内部の金属でできた小箱を取り出そうと掴むが外れない。回すのか?左に回すと途中で止まり、上へと持ち上げると外れた。内部には絡み合う男女の像があった。足元が固定されているので外せないようだ。どけて破片をまとめて掃きとろうと思ったが、当たらないように避けてやるしかないようだ。小箱と思っていたのは箱というより、カバーだったわけだ。

 軽く筆で払った後、再びカバーをかけて右回りで閉めた。石の破片を地道に取って集め、細かいクズは筆で払い落とす。角度を変えてみると凹みが出て来た。

 これはどうしようか。この程度ならそのままでもいい気もするが…。まあ、聞いてから決めるか。屋根の方は直せるな。

 魔導書を開きページをめくる。竜か…。その途中で手が止まる。


 ホワイトナイト

 白騎士。気高き心と崇高な魂を持つ。強大な敵に対し心を奮わせ、振るう剣は勢いを増す。かつては討竜の力を持ち、その力は形を変え今に引き継がれている。


 いやいや、敵対するつもりはない。一応、呼べるように栞を挿しておくが。用があるのはこっち。


 ロックスピリット

 石の精。石に宿り、生き物のように動き出す。石の時間ではなく、生き物の時間になり、人と過ごすことを可能とする。


 栞を挿しこみ、召喚の準備ができるのを待つ。後は、宿ってもらったところで再生の呪いをかけて、元通りに戻せば屋根は修理完了だ。

 うん…待てよ?勝手に宿ったり、呪いによる歪みは大丈夫か?人間の物を修理するならともかく、竜神が本当にいて、気に入らないと思われたら不味いんじゃないか?そもそもこの近くで精霊の類を召喚して大丈夫か?気に入らないと思われたら危なくないか?…とはいえ、工事の際には音が出るものだし、外科手術の際には身を切るものだ。少しの間だけでも受け入れてくれなきゃ、祠が直らないままで向こうも困るだろう。だから大丈夫…だと思う。直接宣言できたらいいけど、この鈴くらいしか主張方法が無いからな。そうだ、巻物を読める奴を呼んで…それも最大限の力を発揮できる奴なら高等言語も扱えるはず。それなら竜とコンタクト取れるか?しかしどこにいるのか分からないからどうしようもないな。さて、どうしたものか…。

 後ろを向いて伸びをしつつ林を眺めて考えることにした。姿勢を変えたり、一旦引いて見たりすれば解決策が見つかるかもしれない。


 祠の後ろに異空間が開き、青い鱗が光を受けて輝く。鱗はバッと動き、そこには見開いた金色の目。ライドの背後からその大きな目でジロリと見ていた。

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