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13話

「その前にニケの所に聞きに行こう」

「そうだな」

「あ、そっちから先ですか…」


 家具屋裏にやってきた。明かりがついている。ベルを鳴らしてから「はい」と返事があり、用件を伝えると扉が開く。ニケがいる。

「…カチコミ?」

「違う、これから山に入るんだ」

「ニケちゃん、今日は山に入っていましたよね?犬の鳴き声を聞きませんでした?」

「うーん…父さんに聞いてみる。ちょっと待ってて」

 ニケは家の奥に行ってアスモに聞きに行く。

 あれ?確かアスモさんが工房に戻ってきたら、家に帰って籠作りの続きをするんじゃなかったか?なのに、ヒュークが聞き込みしている時は家にニケがいなかったので会っていない。どうしてだ?

「歩いている途中で聞いたって。場所は塩の洞窟の辺りから」

「だとするとあの辺りの茂みの中か?今もいるか分からないけど、手がかりがあるかもしれない」

「そうだニケ、籠はできたか?」

「え…」

「アスモさんが工房に帰って来てから、家に戻って籠作りの続きじゃなかったか?」

「……」

「なあ…」

「そんなに気になるなら教えようか?」

 ニケの顔に笑みが浮かぶ。

「家に帰らずに滝に行っていた」

「滝?どうして?」

「綺麗で癒されるから」

「……え?それだけ?」

「…聞いといてその反応?」

「滝の方では犬の鳴き声は聞こえなかったんですか?」

「聞こえてこなかった。滝の音が大きいから、かき消されたのかもしれない。それがまたいいんだけど」

 へえ、滝もあるのか。そりゃ、川があるんだからあってもおかしくないよな。見てみたいな。

「今度、その場所教えて」

「別にいいけど…」

「やった!」

「ライドさん…」

「無駄話はそこまでだ。夜に尋ねて悪かったな。俺たちは山に行ってくる」

「気を付けて」

 ニケは見送って扉を閉めた。


 ランプを宙に浮かべて山に入る。静まり返った森に、低い獣の鳴き声や虫の音が小さく聞こえる。

 突如ヒュークが鎌を振り、何かを突き刺した。顔には口しかない小鬼のようなモンスターだ。切り口からは緑色の体液が漏れている。

「飛び掛かってきた。何だこれ?」

「見たこと無いですね。ライドさん、あります?」

「ありません。もしかしたら魔力で動く人形かも」

 鎌を振って地面に落とす。何か板が出て来た。

「そのようだな。それらしい盤が埋め込まれていた」

 液に浸かっているが、何か回路のようなものが見える。おそらく回路ごとに役割が振ってあり、それによって信号を作り出して動いているのだろう。

 ロアは急に立ち止まり、肘と腰を使って棒を振り回す。何かを打ち落とし、岩に何かが叩きつけられた。

「さっきと同じのですね。まだまだいます。この山、たまに変なの湧いてきますね」

「なぜ、こんな妙なのが湧いている日に限って帰ってこないんだ…」

 何か関係があるのだろうか。

 敵を払いのけつつ道を進み、洞窟前へと来た。

「この茂み辺りか…さて、どこから手を付けようか…」

「あれ…あそこ…」

「?」

 道を横切る獣がいた。ゆっくりと歩いている。

「いた!ゼズ!」

 犬は声に反応してこちらを向く。しかし立ち止まって寄ってこない。

「どうした?さあ、帰ろう」

 犬は唸り声をあげて威嚇する。

「やはり何か憑りついているのか…?」

「逃げられます」

 茂みの方へ飛び込む。

「呪法・踏刻麗印とうこくれいいん

 ゼズの体に照準マークがついた。あらゆる障害物を無視して、姿がはっきりと浮かび上がる。

「地形無視の呪いをかけた。これでどこにいようと正確に察知できる」

「やるじゃん!」

 ゼズの後を追いかけて茂みへと分け入った。

「ただし、あまりに離れすぎると呪いの影響圏外へと出る」

「探索に役立つのか役立たないのか…」

「仕方ない、本来は潜んで阻むモンスターに正確に攻撃を当てるためのもの」

「拘束系の呪いは無いのか?」

「俺が使えるのは3つあるけどどれも適さない」

 拘束系は3つ。1つ目は呪われた茨で命を削り取る、2つ目はこちらの巻物が効かなくなる、3つ目はあらゆる魔術も呪法も利かなくなる。1つ目は論外、2つ目と3つ目は悪魔祓いの巻物攻撃を当てる必要があるのなら使えない。


 ゼズが立ち止まったため、追いついた。

「これは…」

 そこには羽を怪我したカラスの姿があった。ゼズはその鳥を守っているようだ。

「ロア、こいつを治してやれないか?」

「本当は人に頼ってしまうのはあまり良くないのですが…」

 ロアは回復術を用いて傷を癒した。カラスはぴょんぴょんと跳ねた後にバサバサと飛び上がり、ふわっと降りた。

「良かったですね」

 ゼズは尻尾を振り、カラスの前で跳ねている。

「憑りついたわけじゃなかったのか。呪いを消しておこう。魔術・解呪術」

 ゼズから模様が消え、姿も辺りと溶け込んだ。

「友人だったのかな。よし、帰るぞ。おいでゼズ」

 ヒュークに呼ばれてゼズはついて行く。その後について行って村への帰路に就く。

「これで一見落着ですね。しかし、あの変なのは何だったんでしょう?」

 ガァーと鳴き声が聞こえて後ろを振り返る。カラスはバサバサと飛び上がって、木の枝に止まり、向こう側を向く。

「あら、何でしょう…?」

「分かりません。遊ぼうということでしょうか?悪いけど、もう帰るんだごめんね」

 ガァーガァーと鳴き続ける。

「無視しましょうロアさん」

「…ええ、そうですね」

 犬の遠吠えが聞こえた。急いで駆けつけると、草原の中心に頭を動物の血で真っ赤に染めた鬼がいた。周囲にはさっきの顔なしの小鬼たちがいる。

「ロア、ライド、下がれ!こいつは危険だ!」

 鬼は腕を組んで振り下ろす。地面が抉れ、衝撃波で後ろへと弾き飛ばされる。

 ヒューク、ゼズと合流し、全員で物陰に潜んだ。

「あのカラス、そっちに行くと危ないと伝えようとしていたのか。悪いことをしたな」

「通してくれそうに無いですね。それに、あの邪念は放置すると村も危ない…」

「この辺りに漂う魔力の流れ…各地から集めているようだ」

「あの手下が土地の魔力を取り出して送っているわけか…」

「手下を増やせば増やすほど、力が強くなっていく。だがこの様子だと手遅れ…。既に手下たちが駆逐できないほどに広がってしまった」

「呪法で無力化してしまおう」

 相手の姿をはっきりと認識できるように草原に出る。

「呪法・純力真界じゅんりょくしんかい

 鬼の辺りに黒い霧が立ち込め、剣を掲げた騎士の模様が浮かんだ。虚無渦の呪いをかけた。特殊な戦闘能力は消え、純粋な力のみで戦闘を行うこととなる。

 使い魔たちが呪文を唱え、黒い霧は吹き払われた。模様は溶けて消えた。

「消された…。逃げろライド!」

 鬼は魔力のこもった黒球を飛ばす。石壁を呼び出すが、一撃で粉々に砕け散った。

 ヒュークが物陰から飛び出して、前に立ちはだかる。

「お前らは逃げろ。俺が巻きこんだんだ、俺が死ぬならともかく、お前たちが死ぬのは違う」

「魔術・障壁術」

 光の壁が出現し、次の黒球を防ぐ。壁はバリバリと崩れていく。

「駄目ですよ、死の順という大事なものをそんな風に感情だけで決めては。それに、まだ死ぬと決まったわけでもありません」

「その通り。諦めるのもまだ早い!俺にはこいつに対抗できる者を呼び出す術がある、そしてその者の戦闘を指揮できる!来い、フレイムナイト!」

 宙に炎が浮かび、中から甲冑に身を包んだ騎士が姿を表す。剣や甲冑は炎を纏い、揺らめいている。

 鬼は再び黒球を飛ばす。黒球は炎の盾に阻まれ、溶けて消える。

「これは…」

「世界のバランスを保つために遣わされた騎士。このままでも高い戦闘力を持つが、相手が強くなれば強くなるほど、それに応じて強くなる。相手の攻撃が高まれば攻撃の炎が勢いを増し、相手の防御が高まれば防御の炎が勢いを増す。相手の力が青天井に伸びようと、仲間が援護に駆け付けられようと、彼はそれに応じて強くなる」

 炎の騎士は剣を構え、重心を上げて前に傾けた。炎の勢いが強まって来る。小鬼たちは呪文の詠唱を始める。

「させるか!呪法・混離雷電まじりらいでん

 小鬼に電流を走らせて混乱させた。呪文の詠唱は中断され、制御に失敗した魔力が暴発する。

「邪魔をするんじゃあない。行け、フレイムナイト!」

 炎の騎士は前へと強く踏み込む。身を纏う炎が敵の瘴気を払いのけ、肉薄して剣で叩き斬った。強烈な光と熱を放つ火柱が立ち上り、雲を突き、月が姿を表した。

 残火は消え、手下たちは倒れて体が崩れていった。月明かりを受けて輝く甲冑に身を包んだ騎士が立っていた。

「お疲れ、助かった」

 騎士は姿を消していった。

「助かった…」

「やりましたね。帰りましょう、皆にワンちゃんは無事見つかったと言わないと。みんな心配してますよ」

 改めて帰路に就いた。月明かりが道を示していた。

優しいの書きすぎて悪や毒が欲しくなってきました。滲み出す前に別の作品で書いてみます。どんな舞台にしようかな。

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